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携帯電話の新標準となるか「WAP 2.0」 嶋 是一 2001/12/15
2001年12月1日、KDDIが新しいEZwebサービスを開始した。この新サービスの目玉は「WAP 2.0規格の採用」である。WAP 2.0対応の端末としては、「C5001T」(東芝)、「C3001H」(日立)が発売されて、すでに店頭に並んでおり、この後続々と各社からWAP 2.0対応端末の発売が予定されている。 本連載では、WAP 2.0の技術的な内容を解説していく。ただし、コンテンツ記述言語として採用されているXHTML Basicについては、すでに「XHTMLで変わるモバイルコンテンツの世界」で詳しく解説することになっているので、ここではネットワークの技術にフォーカスしていく予定だ。
このWAPとは「Wireless Application Protocol」の略で、無線を使ったサーバの文字情報などにアクセスするための世界共通規格である。規格そのものは「WAP Forum」で策定しており、今年の6月にWAP 1.2からWAP 2.0へメジャーバージョンアップを行い、内容が大幅に変更された。
6月にWAP 2.0のパブリックプレビュー版を公開してから、わずか6カ月で、世界に先駆けてWAP 2.0に対応したサービスが開始されたことになる。このあたりから、日本の携帯電話市場の激しさを察することができるだろう。 WAP 2.0のアップデートの一番の目的は、古い技術を基に策定されたWAP 1.xを、新しい技術上で展開することである。WAP 1.0が発行されたときに想定していたWAPデバイスの特徴は、
であった。つまり、この大きな制約の中で、使いやすくなるようなサービスを実現できるように、WAP 1.xを練り上げたといってもよい。 ところが、現在の携帯電話市場は、
と技術進歩が著しく、WAP 1.xは時代遅れになっている感があった。つまり、携帯電話のCPUは高機能になったのに、WAP 1.xの仕様が低機能なので高機能なサービスが提供できない、将来像を描けない、という状況に陥り始めていた。 逆にいえば、WAP 1.xでは、ハイエンドへのスケーラビリティを考慮していなかったともいえる。特に、ネットワークの転送を少なくする技術について、WAP 1.xではかなり考えられて作られてきていた(拙稿「携帯電話ダウンロードサービスの違いと通信プロトコル」を参照)。しかし、3Gサービス(IMT-2000)を目の前にして高速データ転送が実現できてしまい、こだわる必要があまりなくなってきた。むしろ、転送量を下げることで電話会社の通信機器のコストを落として利益を出すよりも、ユーザーを多く獲得できるような仕組みが必要になってきたのだ。 このような背景があり、新しいWAPの登場が待ち望まれていたが、ようやく今年の6月にWAP 2.0が発表され、ドキュメントが公開されたという次第だ。 EZwebサービスがWAP 2.0を採用したことにより、EZweb向けコンテンツの作り方も変更された。KDDIでは、詳細な情報を「EZweb on the street」で公開している。
WAP 1.0からWAP 2.0へのバージョンアップで変更・追加された点は非常に多い。すべてを紹介することはできないが、主にコンテンツを作成する側で関係あるものは次のとおりである。
これらは、現在提供しているコンテンツに直接メリットをもたらす内容である。特に記述言語については、従来のEZwebではHDMLとWML 1.xを利用してきた。これはモバイルに特化した書き方を行う記述言語であり、普通のWebページで使われているHTMLとは異なっていた(リスト1)。そのため、あまりコンテンツが増えなかったという事情がある。WAP 2.0では、HTMLベースであるXHTML Basicが採用された(リスト2)。また、従来のWML 1.xが使われなくなったかというと、そうではなくこれまでどおりWML 1.xも利用できる。さらに、XMLのネームスペースを利用することで、XHTML Basicの内部(同一ファイル!)で、WML 1.xを利用することもできる。
WAP 2.0は、このようなコンテンツ作成者側の環境とは別に、携帯電話事業社のシステム側で用いるプロトコルなども規定している。 WAP 2.0でのサービス環境は、一般的に2つの網に分かれる(図1)。携帯電話事業者の中の網「携帯電話事業者網」と、その外側の網「インターネット網」だ。この間にはWAPプロキシ(WAP 1.0までは、WAPゲートウェイと呼ばれていた)というサーバが存在する。
サービスを提供するサーバ(Webサーバだが、それをオリジンサーバと呼ぶ)はインターネット側にあり、これが私たちがよく目にする環境で、WAE(Wireless Application Environment)というWAPの規格で決められている。このレイヤに、XHTML Basicのような記述言語などが決められている。 一方、事業者側のネットワークでは、内部で利用するプロトコル、そしてAir(電波のこと)のプロトコル(この場合はCDMA)とネットワークプロトコルのやりとり、端末とWAPプロキシとの情報交換(電話番号などの端末情報)の仕組み、プッシュを行う仕組みなどが決められている。 WAP 1.xまでは、事業者の中の網で「UDP/IP」プロトコルが用いられてきた。これは、データの転送量やパケットの移動を極力小さくするために採用されていた。なぜならば、無線では電波がつながらなくなって切断されるという状況が当たり前に起こるので、簡単なプロトコル(再送がないプロトコル)にしないと、ネットワークが混雑してしまうという背景があったためだ。しかし、再送がないが故に一度に1.5〜8Kbytesしかデータ転送ができないなどのデメリットがあった。データ転送速度の向上とともにこの問題が大きくなり、WAP 2.0からは、インターネット標準の「TCP/IP」「HTTP」に基づいた形式「WP-TCP/IP(Wireless Profiled TCP/IP)」「WP-HTTP(Wireless Profiled HTTP)」が採用されている。これにより、通信プロトコルとしてはデータ転送量の上限がなくなる。しかも、無線で使いやすいように変更しているポイントもいくつかある。デフォルトから変更されている値の例として、次のようなものが挙げられる(具体的には、次回以降で詳しく解説する)。
また、WAP 1.xでのセキュリティ(暗号化など)は、インターネット網と、事業者網とで別々に行っていた。しかし、WAP 2.0では、これに付け加えて、2つの網の間をバイパスして、携帯電話とオリジンサーバの間で暗号化できるEnd to End SSLが採用されている。これで、途中のサーバを気にすることなく、暗号化を行えるようになり、PCと同レベルのセキュリティを保持することができるようになった。
WAP 2.0の仕様には、新EZwebサービスでは実装されていない仕様もある。タグで電話機の機能を操作できる「WTA(Wireless Telephony Application)」、動画や音声を携帯電話同士でやりとりするためのフレームワーク「MMS(Multimedia Messaging Service)」、携帯電話端末のアドレス帳などのデータを同期させる「Sync」などがそれである。 このように、WAP 2.0で決められていることがすべて、新EZwebサービスで実現されているわけではない。WAP 2.0の中から、必要な技術を選んで、新EZwebサービスが行われているのだ。もともとWAP 2.0の中には、必須項目と推奨項目がある。必須項目を実装しないとWAP 2.0ではなくなってしまうが、推奨項目についてはサービスに合わせ取捨選択することができる。 また、新EZwebのサービスでは、WAP 2.0以外の独自仕様部分も多くある(図2)。今回のWAP 2.0対応携帯電話では、iモード対応のWebページを見ることができるようになっていることは知っているだろうか? 驚くべきことに、なんとiモード独自の絵文字すら表示することができるのだ。まさにこれは、新EZwebの独自仕様であり、WAP 2.0とはまったく関係ない部分だ。WAPとは関係ない仕様の部分も作り込んだブラウザが、携帯電話に搭載されていることになる。今回のWAP 2.0対応サービスでも、Openwave Systems社のWAPサーバと端末ブラウザを採用している。ブラウザの名前は、以前は「UP.Browser」であったが、WAP 2.0対応ブラウザは「Openwave Systems Mobile Browser Universal Edition」と変わっている。
このように、実際のサービスでは、WAPのような規格それだけではなくて、いろいろな技術や決まり事を取捨選択して、取ったり、切ったり、くっ付けたりして出来上がるものである。WAP 2.0に対応した新EZwebサービスも例外ではない。
今回は、WAP 2.0におけるネットワークや記述言語の概要を紹介した。インターネットとその最新技術、そしてW3Cの仕様策定と、WAP FORUMのスタンス、iモードとWAPの関係など、今回触れられなかった内容は、次回から解説していく予定だ。
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