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IFRS最前線(3)

「売上」「利益」で企業の実力は図れない!
IFRS適用で問われる投資家の目利き力

林恭子
ダイヤモンド・オンライン
2010/5/20

伝統的に日本企業や日本の投資家は「売上高の絶対額」や「当期純利益」などに一喜一憂する傾向が強い。しかし、IFRS(国際財務報告基準)の適用によって投資情報としての重要性が低下する可能性がある(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年12月24日)

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「包括利益」の表示で問われる
企業の“総合的な実力”

 なぜ、このように日本基準とIFRSでは求める『利益の概念』が異なるのだろうか。

 これまで日本企業の多くは、伝統的に「売上高」や「利益」を重視する傾向にあった。そのため日本基準では、収益から費用を差し引いて利益を導く「収益費用アプローチ」によって期間損益を計算していた。そして、損益計算書で求められた利益を貸借対照表の純資産の部に利益剰余金として貯め込むという発想の下で、財務諸表は表記されてきた。

 一方のIFRSでは、発想が全く異なり、資産から負債を引いた純資産が期首から期末までにどれだけ増えたか(資産負債アプローチ)を重視している。

 そのため包括利益には、当期損益の他に「その他包括利益」という項目で損益としては未だ実現していない項目(未実現損益)も含まれてしまう。主な未実現損益は、未実現有価証券損益、為替換算調整勘定、年金債務調整額などだ。つまり、企業が実現するであろう「将来の損益」に関わる要素も、わかる限り財務諸表に反映しなければならない。

 このようにIFRSでは、本業による利益も、その他の理由によって生じる損益も、一緒くたに計算されて「包括利益」として表記されてしまう。そのため、これまで「より多くのコストを節約しながらより多くの売上を出して、より多くの利益を実現しよう」という基本理念の下、「期間利益」としての当期純利益などを重視してきた日本企業は、ヘタをすると「本業と全く関係のない要素」に大きく足をすくわれて、財政状態が悪化しかねない。これは、企業関係者にとって相当なアレルギーになるはずだ。

 さらに、企業の収益状況を判断する材料として重視されてきた「経常利益」や「特別利益(損失)」という項目も姿を消してしまった。このことからも、「本業に関わる利益だけで企業の実力を判断しない」というIFRSの理念が垣間見えるというものだ。これには、投資家も違和感を覚えざるを得ないだろう。

 包括利益を表示することによって、企業には「期間の実力」から未来を見据えた「総合的な実力」が問われることになる。確かに、企業の多くはこのような変更に困惑し、とまどうことになるだろう。しかし「真に経営の将来性を考えるならば、利益も中長期的に捉えられて然るべき。日本人が重視してきた期間損益は、実はそれほど重要ではない」(山崎氏)と言えるはずだ。

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 以上のことから、IFRS適用によって日本企業の財務諸表が大きく変わってしまうことがお解りいただけただろう。だが、日本企業や投資家が違和感を覚えるのは「利益」の問題だけではない。企業や投資家に重要視されてきた項目である「売上高」についてもまた、大きく認識を変える必要がある。

 前回も触れたように、IFRSにおける売上計上の方法は、日本企業で一般的だった「出荷主義」ではなく、経済価値とリスクが移転したときに収益計上される「検基準」や「着荷基準」へと主流が移っていくかもしれない。これによって、仕入れ・営業・販売部門は取引先との契約内容などを見直す必要が出てくる可能性もある。

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