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IFRS最前線(10)

IFRSの導入で何が分かるのか、
白日の下にさらされる本業の実力

ダイヤモンド・オンライン
2010/9/30

IFRS導入で決算書の姿も大きく変わる。「包括利益」とセクション別の表示によって、実質的な純資産の増減や本業の実力が明らかになるという。IFRSに詳しい公認会計士の小澤善哉氏に解説してもらった(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年4月1日)。

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  例えば、日本企業は多くの持ち合い株式などを保有しているので、価格変動リスクが大きいといわれているが、包括利益は価格変動リスクの大きい資産を持ちすぎているかどうかについて、判断材料を与えてくれるわけだ。

 当期の「その他の包括利益」は、過去に計上された「その他の包括利益」の累積額に足し合わされて、財政状態計算書の純資産の部に「その他の包括利益累計額」として計上されることになる。

 「その他包括利益」の対象になっている資産を売却したときには、当期純利益に振り替わることになるので、将来の当期純利益に与える影響を予想することにも役立つ。例えば、純資産の部の「その他の包括利益累計額」に、10億円の「その他有価証券評価差額金」が計上されていて、翌期に計上した時と同じ価格で売ることができれば、特別利益に10億円の「その他有価証券売却益」が計上され、その分だけ当期純利益が増える。このような仕組みなので、前もって当期利益に対する影響が予想できるということだ。

非継続事業損益の区分表示で
どんな事業をやめたかが明らかに

 非継続事業損益の区分表示は、すでに米国では導入されており、日本では包括利益の次に審議されることになっている。これまでの損益計算書では、これからも続けていく事業も、やめる事業も、それが生み出す収益や費用が、同じ売上や原価の中に一緒に含まれて表示されていた。決算書を利用する立場から見ると、両方が混在して分離できないので、将来の損益を予想する場合の障害になっていた。それが区分表示されると、将来の予想がしやすくなるというメリットがある。

 逆に、企業から見ると、やめたことを知られたくない事業、あるいは不採算でも、やめられない事業を抱えていたりする。非継続事業が区分表示されると、何をやめたかがあからさまに分かるし、不採算事業が継続事業にドッキングされたままだと、競合企業と比較した際に、当該企業の収益性が低いととらえられてしまう。

 だから、企業側としては、不採算事業を続けるかどうか決断を迫られるし、不採算事業を続ける場合は、なぜ続けるのか説明責任が重くなる。そういう点で、非継続事業損益の区分表示は、企業経営にはそれなりの影響があると思っている。

 売却予定の固定資産の区分表示については、資産の中にそれが含まれていると、投下した資本と将来の利益を比較してROI(投下資本利益率)などを予想するときに、正しい結果が出ない。そのために、区分表示が求められているということだ。これが区分表示されることで、投資に対する将来のパフォーマンスを、より正しく予想することができる。

セクション別表示で
明らかになる本業の実力

 第2段階のセクション別の表示とは、次のようなものだ。

  IFRSでは財政状態計算書、包括利益計算書、キャッシュフロー計算書の3表には、大分類として共通に「事業」「財務」「法人所得税」「非継続事業」「所有者持分」の5つのセクションを設けることになっている。セクション分けは、企業活動を大きく、資金を調達する活動と、その資金を元手に利益を生み出す活動に分けて、セクションごとに表示しようという考え方に立っている。

 事業セクションは、さらに「営業」と「投資」という2つのカテゴリーに区分される。特に、重要なのは営業カテゴリーだ。これまで本業に関わるいろいろなパフォーマンスを分析しようと思うと、本業に関わると思われる部分を抜き出して分析しなければならなかった。IFRSが導入されると、区分表示されているので、その数字がそのまま使えるし、企業間の比較もしやすくなる。

 つまり、営業=本業に使われている資産、本業から生み出される利益やキャッシュフローが、区分されて表示されるので、本業の収益性、効率性など明確に分析できる。逆に企業からみると、全体の中に隠れていた本業の実力が明らかになるので、「本業を必死に頑張らなければいけない」ということになる。

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