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IFRS最前線(15)

日本企業に迫られた“会計の国際化”という発想

林恭子
ダイヤモンド・オンライン
2011/2/24

2015年または2016年といわれるIFRSの適用に向けて、日本基準のコンバージェンスが進んでいる。そのなかでも早期からコンバージェンスが行われてきたものの1つが、「棚卸資産」をめぐる会計方針だ(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年6月24日)。

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 そんななかで、1点だけ残っているIFRSとの違いは、現状では日本基準が「洗替法」と「切放法」の選択適用を認めているのに対して、IFRSは「洗替法」に一本化しているということだ。

 洗替法とは、取得時の原価と期末の時価を比較して評価額を決める方法で、切放法とは前期の評価額を原価として期末の時価と比較する方法を指す。日本企業で切放法を採用している企業は、IFRS適用時にこの見直しが必要となりそうだ。

利益操作の可能性もあった?
「後入先出法」が廃止に

 次に、もう1つ行なわれた会計方針の変更というのが、2010年4月から棚卸資産の原価配分方法の1つである「後入先出法」が廃止されたということである。

 「後入先出法」とは、最後に取得したものから先に出荷したことにする評価方法。採用していたのは、主に石油業界などごく限られた業界で、ほとんどの企業には影響がない。

 では、なぜ石油業界などのごく限られた業界はこの方法を採用していたのか。それは、「最新の価格を品物に転嫁でき、実際の取引きに近い損益計算ができる」(山田和延・アクセンチュア・シニアマネジャー)というメリットがあるからだ。

 石油は、原油相場や為替レートの影響を受ける資産。仕入単価が上昇すれば、売価も上昇させたいというのが経営側の心理として当然だろう。しかし法律によって、ある一定期間分の石油を備蓄しなければならないと定められているため、企業は以前仕入れた、現在とは単価の異なる在庫を持ち合わせている。

 もし先入先出法を採用し、売り上げが相場を反映して上昇局面にあるときに、過去に仕入れた安価な在庫を払い出せば、利幅が異常に大きくなってしまう恐れがあるのだ。

 一方で、後入先出法を適用すれば、売価と仕入価額の相場感が対応することになり、「相場にあった利益が得られる」(野村直秀アクセンチュア・エグゼクティ ブパートナー)。すると、利益に関して「株主や顧客といった外部の利害関係者に説明がつきやすい上、内部的には自分たちの成果がわかりやすくなる」(野村氏)のである。

 ただし、その反面でデメリットもある。それは、相場にあった利益を得られる一方で、棚卸資産として古い単価の在庫が残ってしまい、期末時点での棚卸資産の価値が時価から乖離し、実態に即さないものとなってしまう可能性が高いことだ。

 前出の牛山氏は「石油価格の上昇局面において、単価が安いときに買った昔の在庫が残っていれば、棚卸資産に含み益が残ってしまうことになる。一方で価格が下落局面にあれば、棚卸資産に含み損が生じることになってしまう」と問題点を指摘する。

 さらに、デメリットはこれだけではない。それは、利益操作に使われる可能性があるという点だ。石油価格の上昇局面において、利益をより吐き出したい場合、前期からの安価な棚卸資産まで販売すれば、含み益を実現し、より多くの利益を実現できることになる。

 つまり、直近の仕入れを少なくするなど調整をすることで、前期の在庫を販売すれば、利益操作も可能になるというのである。

 こうした理由などから、IFRSでは後入先出法が認められておらず、今回のコンバージェンスでも廃止に至った。もともと石油業界のなかでも、総平均法を採用していた企業もあったが、後入先出法を採用していた出光興産や東燃ゼネラル石油も今後は総平均法などを採用していくことになるだろう。したがって今後は、同業他社との比較も容易になりそうだ。

 とはいえ、(1)相場を持っており(2)長いスパンでも劣化せず(3)大量に使うものを扱っている石油業界にとっては、「実態に近い決算」をするためにも後入先出法のメリットが大きかったのは確かだ。したがって、今後も最新の価格によって利益計算をすることで、自分たちが今期どれくらい儲かったのかを知ることは非常に重要だ。何か代替となる方法はないのだろうか。

 「半導体業界は、管理のために帳簿外で最新の価格によって利益計算を行ない、自分たちの成果を把握している」(山田氏)という。今後は、石油業界も同様に 「財務諸表以外のアニュアルレポートなど、外部公開用の資料のなかで、実力を把握できるような追加的な説明をしていく」(野村氏)ことで、外部の利害関係者への説明や自社の成果を計っていくことになるかもしれない。

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