IFRS最前線(17)
IFRSの「初度適用」という落とし穴
小尾拓也
ダイヤモンド・オンライン
2011/4/21
「IFRS適用までにはまだ時間があるから……」。そう考えて準備を怠っている企業は、要注意。実は企業がIFRSを適用する際には、「初度適用」という思わぬ落とし穴があるからだ(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年7月22日)。
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初度適用では、3年分のB/Sと
2年分のP/Lを見直すことに?
では、いったいどこまで遡って修正を行なえばよいのか? ここでは、ある企業が2012年3月31日にIFRSを任意適用するケースを考えてみよう。
IFRSで新たに作成が義務付けられる「財政状態計算書」と「包括利益計算書」は、大まかに言えば、それぞれ日本基準における貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)に当たる。
仮に、これらを過去に遡って作ることになった場合、IFRSに準拠した財務諸表として初年度に開示しなくてはいけないのは、3年分の財政状態計算書と2年分の包括利益計算書だ。
したがって、B/Sについては2012年3月31日、2011年3月31日、2010年4月1日の3つを、P/Lについては2011年4月1日〜2012年3月31日、2010年4月1日〜2011年3月31日の2つをIFRSに準拠して見直すことになる。
IFRS対応が特に大変なのはB/SとP/Lだが、C/F(キャッシュフロー計算書)とS/S(株主持分変動計算書)も、IFRSに準拠して2年分を開示することが必要となる。
忘れてはならないのが、IFRSへ移行する2012年3月31日までの1年間(2011年度)については、まだ日本基準で会計が行なわれることだ。
つまり2011年度については、IFRS対応の財務諸表と共に、これまで通り日本基準での財務諸表も作成し、「並行開示」しなければならない。
この現実を見れば、「強制適用まではまだ余裕がある」などと、うかうかしてはいられないことがおわかりだろう。逆に言えば、少なくともIFRSへ移行する2年前には、IFRSに対応したノウハウやシステムを社内で整えておく必要がある。
ただでさえ、IFRSへの移行には手間やコストがかかる。加えて遡及適用も必要となれば、企業の負担は想像以上だろう。将来強制適用が始まれば、混乱する企業が続出する不安はないのだろうか?
IFRS先進国である欧州のケースを見ると、適用時に大きな混乱が生じたという声はあまり聞こえてこない。しかしこれは、もともと現地企業の会計基準とIFRSとの間に大きな乖離がなかったためとも考えられる。