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IFRS最前線(20)

韓国勢に負ける? 会計グローバル化に遅れた日本企業

林恭子
ダイヤモンド・オンライン
2011/7/21

2005年にEUが適用を義務付けて以来、「世界標準」ともなりつつある国際会計基準(IFRS)。日本は2015年または2016年ともいわれる強制適用に向けて動き始めているが、韓国は2011年に強制適用と一歩先へ進んでいる(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年11月18日)。

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アジア危機をきっかけに日韓に差
世界で資金調達を進める韓国

 今でこそ会計の国際化が進む韓国だが、実は1990年代初頭までの会計基準は日本と類似していた。それが、1990年代後半になると様相が大きく変わってくる。あらた監査法人のディレクター、スティーブン・チョン氏は、その変遷について以下のように語る。

 「1990年代前半までは、日本も韓国も税法をベースにした会計基準を採用しており、非常に似ている面があった。しかし、“ある出来事”をきっかけに韓国は収益性を重視する米国会計基準に似た基準を採用し始め、海外からの資本調達を意識するようになる。その分岐点となった“ある出来事”というのが、1997年に起きた『アジア通貨危機』だ」

 その当時の韓国の人口は、日本の3分の1程度の約4600万人と小さく、韓国経済は日本以上に「輸出主導型」だった。さらにアジア通貨危機という経済危機に直面したことで、自国からの資金調達は見込めなくなった。そこで危機をきっかけに、「海外資本を自国に取り入れることが生き残るカギ」いう意識が高まった。海外から資本を呼び込むグローバルな会計を浸透させようという考えが強まったのである。

 そうした意識を反映してか、最近の韓国ではそこかしこでグローバル化の動きが進んでいる。PwC Japan IFRSプロジェクト室の鹿島章 リーダーによると、「韓国では海外志向が非常に強まっており、この十数年の間に海外で教育を受ける人が増えている」という。

 さらに、「韓国では実際にグローバル化を促進するような国内キャンペーンが行なわれており、海外に出て行くことが『かっこいい』というトレンドさえ生まれている」(チョン氏)というのだ。

 そうした影響からか、韓国企業の社員の間では英語に対するハードルが相対的に低くなっており、IFRS適用についてもあまり違和感を覚えなくなっている可能性が高いという。

 一方の日本はどうだろうか。韓国と同様にアジア通貨危機を体験しても、海外資本を調達するという意識は強まらなかったようだ。チョン氏は、「日本は島国であり、歴史的にも経済が“自己完結”する文化が根付いている。また、人口も非常に多く、ストックマーケットは大きい。そのため、経済危機を経てもなお、日本人投資家を対象にした『わかりやすい財務諸表』が求められ続けてきたのではないか」と分析する。

 アジア通貨危機は10年以上も前の話であり、その後の日本はもはや国内マーケットだけに頼って生き残れる状況ではなくなったはずなのだが、状況は今もあまり変わっていない。

 2008年のリーマンショックに端を発する世界的な経済危機は、日本の大企業にも大打撃を与えた。しかし企業の関心は、「収益の回復、生き延びることに向いており、会計方針の変更には興味が向かっていない」(チョン氏)のが現状だ。

 それに引き換え韓国は、「2008年の危機で打撃を受けたものの、日本より影響は小さかった」(鹿島氏)という側面があるという。この背景には、アジア危機による国際化の教訓が生きている。それどころか、この危機をチャンスと捉えて、会計基準の変更さえも飛躍の機会にしようとしている側面が強そうだ。

適用準備期間は韓国2年、日本3年?
経営のトップダウンの違いで生まれる差

 では実際、韓国企業はどのようなスケジュールでIFRSの適用準備を行なっているのか。企業によってそのスケジュールはまちまちだが、適用までの平均期間2年。チョン氏によると、以下のようなケースが1つのモデルになるという。

「IFRSの適用準備は、フェーズ1〜フェーズ3に分けることができる。まず、自国の会計基準とIFRSとの差異分析を行なうフェーズ1に5〜6カ月。会計方針マニュアルなどを作成するフェーズ2に7、8カ月。そして、会計マニュアルをグループ全体へ実際に展開させていくフェーズ3に9カ月 から1年を要する。また、それと並行して、他社の調査やシステムの構築も行なっていく必要がある」

 ただし、これは韓国企業の場合であって、日本企業はもっと長い適用準備期間を想定する必要がある。というのも、「日本は組織が複雑化しており、経営のトップダウンが効きづらい」(鹿島氏)からだ。

 韓国の場合は、財閥系、オーナー系企業が多く、オーナーのトップダウンが効きやすい。そのため、IFRS導入に関してもオーナーの意思が反映されやすく、スピード感を持って行なわれる可能性が高い。

 一方の日本は、オーナー系企業よりもサラリーマン型経営者が多く、その意思決定には様々な部署や関連会社との調整を必要とする。そのため、「会計方針の決定やグループマニュアルの作成には韓国より長い、3年ほどの時間を要するかもしれない」(鹿島氏)のだ。

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