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公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(22)

ソニー・富士通・NECの「健全なる赤字決算」

高田直芳
公認会計士
2011/11/11

今回はエレクトロニクス業界のソニー・富士通・NECの、2009年9月期決算を検証する。この3社は、経営分析対象となりにくい「健全なる赤字決算」を続ける「難攻不落トリオ」である。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2009年12月18日)

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 〔図表5〕に掲げた条件は、いずれも経済学で理論的に証明されているものである。参考として『マンキュー経済学Tミクロ編』450ページ〔表15-2〕を挙げておく。

 マンキュー経済学は非常に優れた入門書なのだが、残念なことにこうした書籍を含め、具体的な企業の決算データ用いて〔図表5〕に掲げた条件を実証した経済学書は皆無である。企業実務へ踏み込まないために、経済学は現実離れした机上の空論と揶揄(やゆ)されてしまうのだ。

 そこで〔図表4〕で示した富士通の「実務解」を利用して、〔図表5〕にある経済学理論に助け船を出してみよう。その道具として、次の〔図表6〕を描く。

 

 〔図表6〕では、左下の原点Oから右上へ直線形の売上高線と、総コスト曲線A、B、Cを描いている。3本の総コスト曲線は、第20回コラムで紹介した指数関数


に基づいて描いたものだ。

 〔図表6〕では、赤い丸(A1とC1)が最大操業度売上高を示し、青い丸(A2とC2)が予算操業度売上高を示している。各点における接線を描くと、最大操業度売上高と予算操業度売上高の条件を満たすように作図してある。ただし、〔図表6〕に接線まで描くと、図が見づらくなるので省略している。

 接線の描きかたについて興味のある読者は、拙著『会計&ファイナンスのための数学入門』185ページ〔図表29-1〕を参照していただきたい。また、拙著『ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』297ページ〔図表11-7〕では、総コスト曲線を固定して、売上高線のほうをシフトさせるモデルを紹介している。

損益分岐点が存在しない富士通は
市場から退出すべき?

 企業経営が「健全なる黒字決算」を維持しているときは、総コスト曲線Aを描く。〔図表4〕でいえばAの範囲を指す。〔図表5〕(1)の条件(MR=MC)を満たしている範囲でもある。

 総コスト曲線は「指数曲線」の性質を保ちながらも、基本的には左下から右上への比例関係を示すのが正しい姿だ。第20回コラムで紹介したニッサンの散布図が、左上から右下へと反比例の関係を示していて、同社の決算に何かしら意図的な操作があったことを理解していただけるであろう。

 さて、業績が悪化すると、〔図表6〕の総コスト曲線Aは左上方へシフトする。右上がりの売上高線上にある損益デッドクロス(赤く塗った部分)を超えて総コスト曲線Bに至ると、総コスト曲線は点B1のところで売上高線と接するようになる。これは〔図表4〕の点Bと同じである。〔図表5〕(2)の条件(p=MC)を満たしている点でもある。

 さらに業績が悪化すると、〔図表6〕の総コスト曲線Cにシフトする。もはや、総コスト曲線Cと売上高線は交わらない。〔図表4〕でいえばCの範囲を指す。〔図表5〕(3)の条件(p<AC)を満たしている範囲である。

 〔図表6〕では、総コスト曲線A上のA1(最大操業度売上高)は、A2(予算操業度売上高)よりも上に位置していた。ところが、総コスト曲線Cでは、C1(最大操業度売上高)はC2(予算操業度売上高)よりも下に位置している。これが〔図表4〕のCの範囲で、最大操業度売上高と予算操業度売上高が逆転する理由である。

 話を〔図表6〕にある総コスト曲線Bに戻す。その曲線上にある接点Bを「損益限界点」と呼ぶ。これは損益分岐点の上限である。〔図表4〕でいえば、点Bが損益限界点であった。

 業績がさらに悪化して総コスト曲線Cにシフトしたときは、売上高線との交点がなくなるので、損益分岐点は存在しないことになる。すなわち、〔図表4〕によれば、驚くことに2009年4月以降、富士通には損益分岐点が存在していないのだ。

 ただし、〔図表4〕に示したCの範囲を見ればわかるように、損益分岐点売上高と最大操業度売上高は重なり合うので、最大操業度売上高を求めればそれが損益分岐点売上高になる。参考として、09/9(2009年9)月期であれば、4兆8329億円が富士通の損益分岐点売上高(=最大操業度売上高)になる。

 それともう1つ、現在の富士通は〔図表5〕(3)の条件に該当するため、経済学理論を形式的に適用すると、市場から退出しなければならない企業なのである。損益分岐点が存在しない話といい、何とも息が詰まりそうな結論だ。

赤字のNECを支える
潤沢なキャッシュフロー

 ソニーと富士通で予備知識を蓄えたところで、NECを検証する。3番目に登場するのだから、それなりに厳しい結論になることを覚悟しておこう。

 

 〔図表7〕の特徴は3つある。1つは、NECの場合、ソニーや富士通よりも早い時期に、損益デッドクロスが出現していることだ。

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