IFRSで経営改革に取り組む企業を応援します

公認会計士・高田直芳 大不況に克つサバイバル経営戦略(28)

医薬品業界を襲う「2010年問題」とIFRS

高田直芳
公認会計士
2012/3/8

ディフェンシブ銘柄とは、現在のようなデフレ状況下においても「不況に耐性のある企業」の株価を指す。今回はその中でも代表格である医薬品業界などを取り上げ、IFRSによる影響を探っていきたい。(ダイヤモンド・オンライン記事を転載、初出2010年3月19日)

前のページ1 2 3次のページ

PR

リスクの差が資金調達に
違いを生じさせる

 同じディフェンシブ銘柄の評価を受けながらも、有利子負債に関してこうした彼我の差があるのは、それぞれの業界が背負うリスクに違いがあるからだ。

 新薬開発は、成功するかどうかは(失礼な表現を許してもらうならば)バクチのようなもの。たとえ新薬開発に成功したとしても、そこから特許を得るまでにさらに長い道のりを要する。

 こうしたリスクの大きい研究開発に係る資金は、銀行借入金や社債で調達してはならない。自己資金で対応する必要があるのだ。

 それに対し、鉄道や電力は、確実な需要を予測することができる。リスクの小さいビジネスであることから、むしろ借金を重ねて規模の最大化を追求するのが望ましいのだ。

 例えば、話を株式投資やFX投資に置き換えてみよう。銀行から借金をして、株式を買ったりドルを買ったりしたとする。

 もし、目論見が外れて含み損を抱えた場合、銀行借入金の元金も棒引きしてくれるだろうか。あいにく銀行はそこまでの便宜を図ってくれず、自己破産の道しか残されていない。

 つまり、株式投資やFX投資のようなリスクある運用には、自己資金を用いるのが鉄則なのだ。含み損を抱えても、ポケットマネーを失う程度なら諦めがつく。

リスクの小さい投資ならば、
借りまくれ

 国債のようにリスクの小さい債券運用はどうだろうか。これは銀行から借りまくるのが望ましい。ただし、借入金の利率は国債の利回りを上回るのが通常であるから、こうした調達と運用の組み合わせは非現実的ではある。

 リスクの大きい株式投資であっても、インサイダー情報などを不正に入手し、確実に値上がりが見込まれるのであれば、借金を重ねて株を買う手もある。

 また、前世紀に沸騰した不動産バブルのときのように、まわりが行け行けドンドン状態であるときは、借金を重ねて土地やマンションを買い漁るビジネス-モデルが有効だ。ただし、これもバブルが弾けたときに、自己破産に陥った投資家が多かったのはいうまでもない。

 以上の例を考えると、「医薬品」と「食品・鉄道・電力」は、同じディフェンシブ銘柄といっても、資金の調達と運用方法に大きな差があることを知っておくべきだろう。

 また、武田とアステラスについては無借金経営ではあるが、それ以外の医薬品メーカーは、有利子負債残高が意外と多い点にも注意する必要がある。

 例えば、医薬品業界の3位と4位に位置する第一三共とエーザイの有利子負債はそれぞれ、2880億円と4434億円もある。これは後発医薬品(いわゆるジェネリック薬)などリスクの小さい製品を扱う比率が高いと推定される。

 もし、多額の有利子負債を調達して、それをリスクの高い新薬開発に投入しているのだとしたら、それはディフェンシブ銘柄どころの話ではない。

 ちなみに、外部から資金を調達して、いまだに性懲りもなく自らリスクを取りに行くビジネス-モデルは存在するだろうか。

 答えは、「存在する」。それがヘッジファンドだ。

特許切れの2010年問題と
ジェネリック薬による逆風

 医薬品業界固有の問題としては、「2010年問題」と「IFRS」が指摘される。

 2010年問題のほうは、マスメディアで医薬品業界の記事が掲載される際、必ず言及される。要するに、武田やアステラスなどの新薬メーカーが有する特許が、2010年以降、次々と特許切れを迎えるのである。

 いまから20年ほど前、医療研究や化学物質の合成技術が進歩したことにより、その時期、新薬が次々と開発されていった。

 医薬品の特許は他の特許と同様、20年〜25年で失効する。それが2010年以降に現われる、というわけだ。

 例えば、武田では2012年までに、売上高の過半を占める製品が特許切れになるとされる。そうなれば他社によるジェネリック薬が、市場にどっと投入される。政府によるジェネリック普及促進策も、新薬メーカーにとっては逆風だ。

前のページ1 2 3次のページ

DIAMONDonline
@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID