企業価値向上を支援する財務戦略メディア

IFRS関連書籍ブックガイド(1)

『IFRSと包括利益の考え方』『IFRS導入の実務』

2010/9/27

書店に数多く並ぶIFRS関連の書籍。IFRSフォーラムでは、その中から注目の書籍を紹介するブックガイドコーナーを連載として始めます。読者の皆さまの書籍選び、IFRS学習の助けになればと思います。第1回は現役・経理パーソンの高野裕郎氏が評者です。

1

PR

IFRS対応の素地を身に付ける

『導入前に知っておくべき IFRSと包括利益の考え方』(高田橋範充=著)

 IFRSを知らない人にIFRSと日本基準との違いを説明するときに、よく採り上げられる特徴として、(1)原則主義、(2)資産・負債重視、(3)包括利益の3つが挙げられることが多いのではないかと思います。

 ここで、皆さまに質問です。この3つの項目はIFRSの本質的な特徴なのでしょうか?

●高田橋範充=著
●日本実業出版社 2010年6月
●1700円+税
●出版社のWebサイト

  本書は「IFRS=包括利益」という考えがIFRSを説明するうえで適切なのかという点から議論をスタートさせます。IFRSが包括利益を採用した根拠を例にIFRSの本質的な特徴を解説し、さらに日本におけるIFRSへの関心の多くが、日本基準とIFRSを各論で比較するだけにとどまるなど、表層的なものに過ぎないことを指摘しています。

 さらに、本書で筆者が繰り返し主張しているのは、IFRSには「アメリカ的な考え方」と「イギリス的な考え方」の2つが存在し、両者は基礎となる考え方が違うということです。それが原則主義、資産・負債重視といったIFRSの特徴を生み出しました。さらに、近年においてはアメリカ的な考え方がIFRSに対して影響を与えるとともに、さまざまな概念的な問題を引き起こしていると述べています。本書ではこのIFRSを、かつてIAS(国際会計基準)と呼ばれたころからの歴史も含めて説明します。

 このように、IFRSの本質的な特徴について理論的な説明をしているのが本書の特徴です。

 著者は中央大学大学院の高田橋範充教授です。本サイトにも寄稿されており(こちら)、IFRSを学ぶ中で必ず名前を見る1人だと思います。大学の先生が書いたという点からも、本書はアカデミックな本といえるでしょう。ただし、アカデミック=実務から離れた存在だというのは早計です。それは、IFRS自体が現在もなお変わり続ける、ムービングターゲットだからです。このような状況においては、IFRSの情報を網羅的に追い続けるのは、実務で日々忙しい読者には難しいのではないでしょうか。そこで重要になるのが、IFRSの理論的な背景を理解し、IFRS対応の素地を身につけることです。

 本書は、固定資産や金融商品などの各論が知りたいという人には、あまり有用ではないでしょう。それはほかの専門書を読むのが適切です。しかし、IFRSの原則主義という難敵と戦うためには、ビジネスを会計処理に落とし込む力が必須です。本書はその力を付けるための良い1冊です。

 また、公認会計士試験・税理士試験の受験生にとっても、IFRSを理論的に理解するという意味で受験対策の1冊として役立つのではないでしょうか。

(評=高野裕郎)

「何をすればいい?」に答える「2冊目の本」

『現場で使える IFRS導入の実務』(野口由美子、石井昭紀=著)

●野口由美子、石井昭紀=著
●日本実業出版社 2010年8月
●2500円+税
●出版社のWebサイト

 私が職場で初めてIFRSについて説明会を行ったときの、印象に残った質問を順に並べてみます。

「IFRSは何て読むの?」
「IFRSと日本基準の違いは?」
「IFRSを導入するのに何をすればいいの?」

 読者の皆さんもこれらの質問に回答する、もしくは疑問に思う機会が1度はあるのはないでしょうか。

 私自身は最初の2つの質問に対しては「イファースでもアイファースでも何でもいいです」「例えば固定資産では……」など、予想の範囲だったこともあり、すぐに回答できました。しかし、最後の質問が曲者。自分自身にIFRSを導入した経験がないことはもちろん、日本における先行事例でさえほとんどないからです。しかし、日本の大手企業はIFRSを理解するというフェイズから、導入プロジェクトの立ち上げというフェイズに移行しつつあります。

 本書はIFRS導入の際の「何をすればいいの?」に焦点を当てた本です。文章はプロジェクトの立ち上げ、IFRSと自社の会計差異の把握、IFRSでの会計方針の設定、業務プロセス対応、トライアル、開示、その後の対応と時系列で進んでいきます。

 各論でも実際に何をすればいいのかという視点は変わりません。文章の多くは「〜する」という見出しで始まります。実務でのチェックポイントについては網羅性が高く、チェックリストや質問票の参考例が多く掲載され(実務を行っている私自身も参考にしました)、プロジェクトの立ち上げではコンサルタントの依頼方法まで書かれています(筆者がコンサルタントなのに!)。また、文章中では、実務で意識したいポイントが太字となっており、非常に見やすい構成です。

 また、実務上非常に重要なシステム対応についても触れられています。IFRSでは大規模なシステム変更が予想されるだけに、情報部門との早期の連携は必須ですが、経理部門が苦手な点でもあり、役立ちます。

 一方で、本書ではIFRSと日本基準との細かな差異はあまり触れられていません。筆者が「はじめに」で書いているように、本書はプロジェクトを進めるために必要な「関係者が理解を深めること」を優先したということもありますし、2010年9月現在でもIFRSの改訂プロジェクトがいくつも進行しており、それを現時点で網羅するのは現実的には不可能だということもあります。そのため、細かい論点についてはほかの専門書で補う必要があります。

 しかし、それを差し引いても、冒頭の3つの質問のうち「何をすればいいの?」に対する回答が詰まった良書です。日本基準とIFRSを比較する専門書の次に読みたい「2冊目の本」です。

(評=高野裕郎)

紹介書籍をプレゼントします

今回のブックガイドで紹介した2冊の書籍『IFRSと包括利益の考え方』『IFRS導入の実務』をセットにして5名の方にプレゼントします。アイティメディアの会員制メディア「TechTargetジャパン」のプレゼントページからお申し込み下さい。

プレゼント申し込みは締め切りました。
ご応募、ありがとうございました。

応募締切:10月7日
応募条件:お1人さま1回限り(複数回応募の場合は無効)
当選発表:当選された方へのメールをもって、発表にかえさせていただきます

●TechTargetジャパンとは……
http://techtarget.itmedia.co.jp/

TechTargetジャパンは、企業内の情報システムに関与するキーパーソンを対象に、IT製品/サービスの導入・購買に役立つ情報を提供する無料の会員制メディアです。10万人を超える方々が会員登録しており、製品資料や技術資料がそろったホワイトペーパーサービス、ユーザー企業を取材した導入事例リポートなど、会員向けサービスやコンテンツが充実しています。

▼TechTargetジャパン会員登録はこちら
http://techtarget.itmedia.co.jp/tt/membership/

 

1

@IT Sepcial

IFRSフォーラム メールマガジン

RSSフィード

イベントカレンダーランキング

@IT イベントカレンダーへ

利用規約 | プライバシーポリシー | 広告案内 | サイトマップ | お問い合わせ
運営会社 | 採用情報 | IR情報

ITmediaITmedia NewsプロモバITmedia エンタープライズITmedia エグゼクティブTechTargetジャパン
LifeStylePC USERMobileShopping
@IT@IT MONOist@IT自分戦略研究所
Business Media 誠誠 Biz.ID