アクセンチュアがセミナー開催
国際会計基準、競争力向上に結びつく早期適用とは
2009/04/21
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「義務付けまでに対応すればいい、と安易に考えないでいただきたい」。アクセンチュアが4月16日に主催した国際会計基準(国際財務報告基準:IFRS)のセミナーで講演した同社 経営コンサルティング本部 財務・経営管理 グループ統括のエグゼクティブ・パートナー 野村直秀氏(公認会計士)は、こう述べて、IFRS早期適用の意味を参加者に訴えた。
IFRSは世界100カ国以上が適用する見込み。世界の経済規模が大きい10カ国のうちで、受け入れを明確に打ち出していないのは日本と米国のみといわれる。その日本も2010年3月期からの任意適用を認める方針を金融庁が1月末に示し、受け入れの筋道が付いてきた(参考記事)。金融庁は2012年に強制適用するかどうかの判断をするとしていて、強制適用する場合は2015年からが最短になると見られる。
任意適用する会社はグローバルで資金調達を行っていたり、海外市場に上場しているなどの大企業になるとみられる。多くの上場企業がターゲットにするのは2015年以降の強制適用だ。IFRS適用時には過去2年間の財務諸表を比較のためにIFRSで提出する必要があると見られるが、それでも「2013年、14年までに準備すればよい」(野村氏)ということになる。
しかし、企業の競争環境を考えるとそうは言っていられない。IFRSは2005年に欧州で強制適用され、拡大。韓国やインドは2011年に強制適用する計画だ。米国は2014年には一部企業に対して義務付けられると見られる。つまり、「日本以外の国は2011年、12年にはIFRSに対応するインフラが整ってしまう」(野村氏)のだ。
会計基準は企業の業績を評価するモノサシといわれる。IFRSは世界中で利用できるモノサシであり、野村氏の言葉では「グローバル・ビジネス・インフラ」。IFRSを導入している企業は世界中で業績が比較可能で、そのため資金調達やM&Aの活発化、スピードアップが進むと見られる。その中で日本企業だけがそのモノサシを採用しないと、世界のビジネスから閉め出される危険がある。野村氏は「外国企業との競争力維持のためにも、グローバル企業は早期適用に対応できる準備が必要だ」と強調した。
早期適用を検討している日本企業もある。アクセンチュアが過去のセミナーで行ったアンケート調査によると、35%の企業は2015年までにIFRSに対応すると回答。65%の企業は「対応予定は分からない」としているものの、企業のIFRS対応は現実味を帯びつつある。同じアンケート結果では、IFRS対応のチームをすでに立ち上げているのは10%の企業、立ち上げ予定も同じ10%だった。
世界標準モノサシのメリット
IFRSの最大の特徴は原則主義だろう。日本や米国の会計基準は、細かな規則を積み上げるルール主義。IFRSの原則主義は「原則を自社の経済実態に応じて解釈し、経理処理して下さいということになる」(野村氏)。企業の判断する余地が大きく、それだけに最初の対応が難しい。「IFRSの考えを正しく理解し、正しく翻訳しないと正しい開示書類は出せない。財務・経理だけでなく、体系的にIFRSを理解する人を育成する必要がある」(同氏)。
もう1つの特徴は貸借対照表の重視だ。日本企業はこれまで一定期間における損益、特に経常損益を重視してきた。しかし、貸借対照表を第1に考えるIFRSでは「主従が大きく変換する」(野村氏)。あくまでも貸借対照表に重きが置かれ、「資産と負債の差額が利益であり、損益計算書は2期間の貸借対照表の連結環であるともいわれる」(同氏)という。IFRSにおける貸借対照表が意味するのは「事業の推移だけでなく、企業そのものの価値変動も損益に織り込む」という考えだ。「貸借対照表はその時点で、会社が将来にわたってキャッシュインフローを生み出す力があるのかを表現するものとして捉えられている」(同氏)
ただ、IFRSを適用を迫られる脅威ととらえるのは間違っているだろう。世界標準のモノサシを導入することで「業務の標準化、効率化、高度化というメリットを享受できる」と野村氏は強調する。世界各地に拠点を持つ企業であれば、企業内やグループ内で業務プロセスを標準化、効率化できる。また、IFRS導入に合わせて経営管理体制を刷新すれば、業務の高度化を果たせるだろう。野村氏はIFRS適用が決算だけでなく、業務全般に広く影響を与えると説明し、特に業務プロセス、ITシステム、人材・組織の3つを挙げた。
ERP活用が現実的
同セミナーで講演したアクセンチュアのシステムインテグレーション&テクノロジー本部 SAPビジネスインテグレーショングループ パートナーの鈴木大仁氏は、「全体を通してファクトの話だ」と前置きして、システム面でのIFRS適用のポイントを説明した。
鈴木氏は「IFRSは業務プロセスを横断して関係してくるので、ERPを活用するのが現実的」と指摘する。日本のIFRS対応は連結開示のみが対象となり、単体開示と税務対応は日本の会計基準が残ると見られている(単体はIFRS対応可能か)。そのため、企業内に複数の基準が運用され、その対応が問題となるのだ。鈴木氏はその元帳の持ち方として3つのモデルを説明する。1つは、「過渡期モデル」とするタイプで、すべての仕訳を日本基準で行って、連結決算時など必要な場合にだけIFRSに組み替える考えだ。この考えは業務プロセスの大規模な変更は不要だが、経営管理の標準化というIFRSのメリットを享受できない。
もう1つは「単一元帳モデル」。すべての仕訳をIFRS準拠で転記し、連結・単体開示を処理する。ただ、税務対応時にだけ日本基準に組み替える必要がある。社内の情報のほとんどはIFRSで統一できるが、鈴木氏は「IFRSでの日々の取引明細とローカル(日本基準)組替仕訳のトレーサビリティ確保が大変」と話す。
鈴木氏が「最適」というのは「複数元帳モデル」だ。すべての仕訳をIFRS、日本基準の2つの元帳に転記する処理で、社内の経営管理や連結決算にはIFRSの元帳を利用。税務対応には日本基準の元帳を使う。このように複数の元帳を同時に使うにはERPが必須だろう。鈴木氏は、世界市場に進出していてIFRSの影響を強く受ける企業は、複数元帳モデルを検討すべきと説明した。