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早期適用検討は56社

東証アンケートから浮かび上がるIFRS適用の温度差

2009/11/13

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 東京証券取引所が10月30日付で発表したIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)についての調査結果が興味深い。調査した1416社のうち、強制適用前の早期適用を行う予定の企業は約4%の56社。2009年度の適用はさらに少ない1社だった。アンケート結果からはIFRSに対する企業の温度差が垣間見える(資料は東証 ディスクロージャー部会のページでダウンロード可能)。

 調査は東証1部、2部、マザーズ上場の企業に対して実施。東証全上場会社(外国会社をのぞく)2332社のうち、1416社が答えた。回答率は60.7%。1部上場企業、2部上場企業とも回答率は62%だが、マザーズ上場企業の回答率は46%だった。全回答企業のうち、90%が連結財務諸表を作成している。米国会計基準適用会社は1.8%に当たる25社だった。

早期適用検討は56社

 金融庁が公表したIFRS適用のロードマップによると、IFRSは2009年度に当たる2010年3月期から適用が可能、2012年に強制適用を行うかどうかの判断を行い、強制適用を行う場合は2015年、または2016年からとしている。アンケート結果によると強制適用前の早期適用を考えている企業は上記のように56社にとどまる。2009年度の適用を予定しているのは1社。44%に当たる627社は「早期適用はしない方向で検討している」などと強制適用を待つ姿勢だ。また早期適用時期を「特に検討していない」という企業は半数以上の721社(50.9%)だった。

tse01.jpg 早期適用の予定時期(調査対象:1416社)※東証資料を基に編集部が作成、以下同じ

 IFRSの検討を開始している企業もまだ全体の61.8%(875社)にとどまる。38.0%(538社)は検討していない。検討開始状況は企業の時価総額ときれいな相関関係を見せていて、時価総額が10億円未満の企業ではIFRSについて検討開始している企業は23.1%だが、100億〜200億円未満の企業では55.6%が検討開始。1000億〜5000億円未満では84.1%が検討、5000億円以上の企業では90%以上となっている。

 ただ、全体を見ると企業のIFRS検討状況はまだ初期段階のようだ。IFRS適用の検討を開始したという875社のうち、93.3%に当たる816社は初期段階の「事前調査・勉強段階」と答えている。「対応計画段階」は3.9%、「分析評価段階」は1.4%、「対応準備段階」は0.9%、「対応実行段階」は0.5%だ。

2012年以降に検討開始が多数

 一方、IFRS適用の検討を開始していないという538社はいつ検討を始めるだろうか。彼らの55.2%(297社)は検討開始時期を2012年ごろと答えている。つまり、金融庁が強制適用の是非を判断した後に具体的な検討を行うということだろう。ただ、IFRS適用には初年度に3年分の貸借対照表(バランスシート、IFRSでは財政状態計算書)を用意する必要があるとされ、2015年または2016年の強制適用開始を見込むと準備作業が慌ただしくなる可能性がある(参考記事:IFRS対応、いつから準備するのがベストなのか)。

tse02.jpg IFRSの検討を開始する予定時期(調査対象:538社)

 アンケートの自由回答には「業種や規模を問わず上場企業へIFRSを一斉適用することには疑問」「海外市場での資金調達を行う予定がない会社はIFRS適用対象外としてはどうか」などの意見も寄せられていて、一部の企業はIFRS自体に不信感を持っている。

 IFRS適用の準備に温度差がある背景には、IFRS自体の今後が不透明なことと、日本のロードマップが不透明なことがあるだろう。IFRS自体は、IASBがFASBとMoUと呼ばれる作業を行っていて(参考記事:米国会計基準の影響で変化を遂げるIFRS)、現在のIFRSが米国会計基準の影響を受けて大きく変わることが予想されている。MoUは2011年6月をターゲットに作業が続けられているが、それ以前にIFRS適用の準備を開始しても、IFRS自体が変更され、手戻りが発生する可能がある。効率的に作業を行いたいと考えている企業にとっては動きづらい状況だ。

 日本のIFRSロードマップも企業の準備に大きな影響を与える。上記のように2012年の金融庁の判断を待ってから検討を開始する企業は多い。また、現在進行中の会計コンバージェンスによる基準変更に追われ、IFRSの検討まで余裕がないという企業も多いだろう。企業の財務、経理部門はここ数年、会計基準の変更だけでなく、決算開示の早期化や四半期決算開示の義務化、内部統制整備と重い作業が続いている。リソースが限られる中で、特に中堅・中小企業は準備したくても手が回らないというのが実際だろう。

導入後の決算負担を懸念

 それを裏付けるように、IFRS導入に伴う懸念としてアンケートで最も多く挙げられていたのは「導入後の決算実務負担」(77.7%)。これまでの日本の会計基準と異なり、原則主義を採るIFRSは企業が自ら判断し、会計処理を行う必要がある。また、単体決算は日本基準が残るため、多くの企業で日本基準とIFRSの2つの基準で決算を行う必要があるとみられる。これらの作業への負担感が企業の懸念を広げているようだ。その他の懸念としては「システム対応」(75.6%)、「IFRSに対応する社内人材の不足」(67.1%)、「IFRSに対する理解不足」(63.8%)などがあった。

 アンケートの自由回答では「社内のIFRS対応体制を整えるために、IFRSの導入時期・導入要件などを早期に明確化していただきたい」といった声が上がっている。

グローバル指向の企業が先導

 ただ、その中でも早期適用を検討している企業は56社ある。うち、1社は2009年度の適用を予定。2010年度は3社、2011年度は2社、2012年度は2社、2013年度は7社。39社は適用時期を「具体的には決定していない」。

tse03.jpg 早期適用の想定時期(調査対象:55社)

 アンケートでは早期適用を検討している企業に対してIFRS早期適用の目的を聞いている。答えから浮かび上がるのは早期適用企業のグローバル指向だ。56社の回答のうち、IFRS早期適用の目的として一番多かったのは「グローバルベースでの比較可能性を確保するため」(37.5%)。2番目に多かった理由は同率で「グローバルベースでの決算集計等効率化のため」「国際的信用の向上のため」(35.7%)だった。

 25%を占めた「その他」という答えでは「ニューヨーク証券取引所にも重複上場しているため早期適用する見込み」「親会社が早期適用する見込み」などの理由が挙げられた。自由回答では「IFRS導入による開示水準の向上、国際的な比較可能性の向上などは上場会社にとって有益なものであると考えている」などがあった。

関連リンク

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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