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当面の合格者数は2000人の方針、金融庁

会議は踊る――会計士試験見直しで議論百出

2009/12/10

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 日本の公認会計士試験の見直しを検討する金融庁の「公認会計士制度に関する懇談会」の第1回が12月10日に金融庁で開かれた。監査、会計に関係するさまざまな人が参加する懇談会で、第1回では今後の議論に向けてさまざまな論点が示された。懇談会から見えてきた論点をまとめてみよう。

 懇談会の冒頭、懇談会の座長代理を務める内閣府大臣政務官の田村謙治氏は「専門家の皆さんのお話を聞きながら政策を決定していきたい。公認会計士制度についても、日本の経済のため、国民のためにどういう制度がもっともふさわしいかという観点から考えていきたい。最終的にはわれわれ金融庁政務三役でしっかりとみなさまに納得をいただけるような案を作っていきたい」とあいさつした。

jicpa02.jpg 内閣府大臣政務官の田村謙治氏

 議論の冒頭では2009年12月9日付けの日本経済新聞記事「会計の専門家に新資格 金融庁検討、企業の採用後押し」(リンク)について、8日に会見した内閣府副大臣の大塚耕平氏、記者向けにブリーフィングした金融庁の総務企画局開示業務参事官室 参事官の土本一郎氏らが、その内容をいずれも否定した。「私ども政治サイドが知らない情報が新聞に出て驚いた」(大塚氏)、「新しい資格制度の話は一切していない」(土本氏)。

 ただ、議論を聞いていると、位置付けは詰まっていないながらも、何らかの新資格が創設される可能性を記者は感じた。

 今回、公認会計士試験の見直しが議論される背景には2006年から実施されている新しい公認会計士試験制度で出た大量の合格者を、監査法人が受け入れ切れていないという問題がある。一般的に試験合格者は監査法人に就職し、業務補助を行いながら実務補習を受け、最終的な修了考査に備える。修了考査に合格すると公認会計士として登録できる。監査法人以外の一般事業会社に勤めている場合でも、その実務経験が認められて公認会計士資格を取得できるケースもあるが、一般事業会社に就職する試験合格者はまだ少数にとどまっている。

jicpa01.jpg 懇談会のメンバー

年間合格者数は当面2000人に

 懇談会では、2010年以降の合格者数について、懇談会でのとりまとめを受けた対策が実施されるまでの間は、「合格者等の活動領域の拡大が進んでいない状況にかんがみ」(金融庁)、2000人程度を目安にするとの考えが金融庁から示された。この2000人に対して、日本公認会計士協会の会長 増田宏一氏は「実務的な経験がないと役に立つ会計士にはなれない。その中で、現状、実務経験を積む場として監査業界、会計事務所業界があるがそのキャパシティには限界がある。企業内で実務経験を積む場所も限られる。その中で2000人は多い。私見だが1500〜1800人が適当ではないか」と、よりいっそうの抑制を求めた。

監査証明を出さない会計士

 2003年の公認会計士法改正の狙いの1つは企業内会計士を増やすことだった。野村総合研究所の研究創発センター 主席研究員の大崎貞和氏は企業内会計士が増えない現状について、「従来の試験制度は全員が必ず監査証明を出せるような能力を持つことが前提。しかし、普通の企業では監査ができる人を求めていない。そこにギャップがある」と分析した。

 試験合格者の大半は監査法人への就職を目指すが、そこには監査を経験したいという思いがある。だが、一般企業では監査証明を出すような能力は求められないというのが大崎氏の考え。ここにミスマッチが生まれるというのだ。結果的に企業と試験合格者の間で需給のバランスが崩れることになる。大崎氏は「企業側が会計士に対して何を期待するかを白紙で考えるべきだ。その期待する能力をチェックするような試験制度にすべき」と提言した。

 住友商事 特別顧問の島崎憲明氏は、公認会計士試験について「公認会計士が監査証明のために取る試験と、企業がある一定レベル以上の資格を持った会計専門家を雇う場合のメルクマールとしての試験がある」と2つの側面を指摘。後者については「必ずしもその人は公認会計士試験に合格していても監査証明をする必要はない」と話し、「新聞に出ていた記事については、こういう考えがあるのかと思った」と述べた。

 この「監査証明を行わない公認会計士」の案については賛意が相次いだ。全国銀行協会の企画委員長 小山田隆氏は「監査が目的だと、われわれが考えるニーズとは異なる。最初から監査しかないという狭いキャリアではなく、広い土俵を用意する試験制度であってほしい」と発言。シンクタンク・ソフィアバンクの副代表 藤沢久美氏も「2段階の資格はあり得る」と話した。

上位概念の「監査プロフェッション資格」

 これらの意見について、青山学院大学大学院 教授の八田進二氏は、「公認会計士法の第1条には使命規定として『公認会計士は、監査及び会計の専門家として』とあり、先に監査が来ている。これが監査制度の根幹にある。このコンセプトをどうとらえるかによって大きな流れが変わると思う」としながらも「私はこの考えに反対。最初に会計ありき、そしてそのあとに税務や監査、会計をベースにしたコンサルティングがあっていいと思う」と話した。

 そのうえで、「わが国の国家試験としての公認会計士のあるべき姿を考えるべきだ。監査人は要らない、監査の知識が要らないのなら、会計という大きな枠組みのさらに上位の概念として監査プロフェッションを置くことに大いに賛成だ」と話した。だが、現行の公認会計士資格の下位に位置付けられるような資格の創設については「ほかにも簿記検定などがある。国家がかかわる必要はない」とした。

 八田氏の「監査プロフェッション資格」の提案について、企業側の意見を代理すると見られる日本経済団体連合会の経済基盤本部長 阿部泰久氏は「監査を前提としたいまの公認会計士試験はやはり無理がある。公認会計士制度や試験全体を、監査ではなく、企業会計・財務に対する資格認定試験、能力認定試験に変えていく必要があると思う。八田先生と同様に、将来、監査を行うための資格を、いまの公認会計士試験制度の上に作る必要があるかと考えている」と提言した。

新試験制度は「失敗だった」

 八田氏はまた、2003年の公認会計士法改正について「試験制度については失敗だった」と述べた。特に受験要件を撤廃したことについては「今年度の最少年合格者は18歳。3大国家試験といわれる医師、弁護士、会計士の中で、18歳で合格する国はない。18歳ではプロフェッションとしての要件を満たしていない。企業側も18歳、19歳を受け入れるかというとあり得ない」と指摘。「受験資格要件を明確にすべき」と強調した。受験要件については野村総合研究所の大崎氏も「大学卒業を要件として質を底上げすべき」と話した。

レジェンド問題再燃の可能性

 公認会計士制度はIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)など会計や監査の国際化とも密接に関係する。会計基準以外の会計関係の基準を決めている国際会計士連盟は「国際教育基準」を作成しているが、その中で公認会計士資格の取得要件として「大学への進学要件またはそれと同等の能力」を求めている。対して、日本の現行制度では要件はない。八田氏はこの点を指摘し、「私は10年以内に会計士の(国際的な)資格相互承認が現実になると思う。英語圏ではすでに一部で相互承認を行っている。そのときにいまの日本の試験制度の合格者は要件を満たしていないとして(相互承認を)認めてもらえないかもしれない」と指摘する。

 日本公認会計士協会の増田氏も「公認会計士試験を受ける前の教育、受かった後の教育、開業登録後の一貫した教育は世界標準となっている」として「ほかには大学の教養課程を取らずに公認会計士試験を受験できる国はない。日本は非常にまれな制度だ」と話し、日本の公認会計士業界全体の質が問題視される可能性に言及した。監査証明を行わない公認会計士についても「監査を知らない会計士は世界にはいない」として、日本の会計基準の質が欧米から問題視された「レジェンド問題」(参考記事)が再燃する可能性を指摘した。

予定調和の出来レースは要らない

 第1回懇談会はさまざまな論点が吹き出し、現状では2010年6月にも公表する予定の報告書の姿は不透明だ。座長の大塚氏は「いま金融庁の金融審議会が中断しているが、その心は予定調和の結論を導き出すための出来レースの議論は要らないということだ。今日は皆さんのご意見を聞き、この懇談会は予定調和が想定されていない場だと感じた。ぜひ、いい方向を導き出したい」と感想を述べた。

jicpa03.jpg 内閣府副大臣の大塚耕平氏

 そのうえで「さまざまな論点を調和させる案、全員が納得できる案を導き出すのは難しい。どれだけステークホルダーとしての利害を乗り越えて結論を出せるかどうか。そういうことをこの分野だけでなく、わが国はきちんとやっていかないと劣化していく」と話した。

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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