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金融庁 公認会計士制度に関する懇談会

「准会計士」が誕生へ、しかし議論は混迷

2010/05/17

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 公認会計士資格を二段階として、一段階目の合格者に何らかの「名刺に刷れる資格」を与える。この案には概ね賛成が相次ぐが、各論には異論が――。5月17日に金融庁で開催された「公認会計士制度に関する懇談会」の第6回。6月末までの最終報告に向けて、そろそろ議論が集約されていく時期だが、各論では反対意見が相次いでいる。

第1回:会議は踊る――会計士試験見直しで議論百出

第2回:注目集める公認会計士制度の新試験案、議論の収れんは

第3回:産業界が望む公認会計士資格の二段階化、その実現性は

第4回:公認会計士資格の二段階化に筋道、大手監査法人が支持表明

第5回:新公認会計士資格制度は旧制度のよみがえりか

 一段階目の合格者に「准会計士」などの資格を付与して就職活動をしやすくする。これが今回の議論で委員の多くが合意できている内容だ。

 金融庁の事務局は上記の内容を含めた「検討資料」を5月17日に公表した。そこには企業などで行う実務経験の条件を緩和する案や、米国公認会計士の資格制度と同様に試験合格者に公認会計士資格を与えて(資格登録)、そのあとに実務補習を行い業務登録(監査登録)する案などが列挙されている。また、一段階目と二段階目、そして修了考査の各段階で想定される合格率の設定についても検討されている。例えば一段階目の試験の難易度を上げると合格者の年齢が上がり、企業などでの実務経験が積めない(就職が難しくなる)可能性がある。一方、二段階目の試験の難易度を上げると、やさしい一段階目の試験合格者を企業や監査法人が採用しない可能性がある。そのため金融庁では「一段階目の合格者に順位を通知すること」も考えられるとしている。上位で一段階目の試験をパスしていれば企業などへの就職に有利との考えからだ。

jicpa01.jpg 公認会計士制度に関する懇談会

監査しない会計士

 このような大筋の流れは委員が共有しているが、各論では隔たりが大きい。ポイントは「公認会計士資格をどの段階で与えるか」だ。住友商事の特別顧問 島崎憲明氏、新日本製鐵の執行役員 太田克彦氏らが説明した産業界からの要望では、一段階目の試験、二段階目の試験に合格した段階で公認会計士資格を付与することを提言している。現在の制度であれば、短答式と論文式の試験に合格したあとで、業務補助や実務補習を行い、修了考査に合格すると公認会計士となれるが、産業界の案では業務補助や実務補習を行う前に公認会計士の資格登録をできるようにするとしている。つまり、監査法人で監査業務を経験しない会計士が生まれることになる。監査業務を行いたい合格者は、資格登録したあとに監査法人で実務補習を行い、業務登録をする。

 島崎氏は「公認会計士試験は必ずしも監査業務を担うことのみを目的とした資格ではないという明確に位置付けが必要」と発言。「監査業務を行わない公認会計士というオプションがあってもよい」とした。これによって企業で活動を望む会計プロフェッショナルの底辺人口の拡大が可能という。この産業界の案は資格登録と開業登録という米国公認会計士の資格試験と似通っている。

最終目的は監査を担う公認会計士の輩出

 この産業界の案に真っ向から反対するのが日本公認会計士協会の案だ。副会長の山崎彰三氏は「公認会計士試験は、資格独占業務である監査証明業務を担う公認会計士を継続的に輩出することを最終目的とするものでなければならない」と断言し、「監査業務を行わない、監査実務の経験がない公認会計士の存在は否定しないが、会計士の半分が監査実務の経験がないとか、そういうわけにはいかない。資格登録、開業登録も、ない議論だと思っている」と産業界の案を切り捨てた。そのうえで、3年間の業務補助または実務従事と、1年間の実務補習を行った後に公認会計士試験をパスすると公認会計士の資格を得られる案を提案した。一段階目の試験合格者(年間1500〜2000人を想定)には准会計士の資格を与えるものの、「この段階の試験と公認会計士試験の最終目的が異なることを、受験者に十分周知する必要がある」と指摘した。また、公認会計士登録には学士の学位を習得することを条件としている。

 会計士協会の案については、野村総合研究所の主席研究員 大崎貞和氏が「従来の会計士補を准会計士に呼び変えただけになる」と指摘し、「会計プロフェッショナルの裾野を広げるという基本的な方向性と矛盾する」と批判した。そのうえで「資格試験のハードルを高くすれば質が高まるというわけではない。特殊な試験となり、受験する人に偏りがでる。結果的に人材の多様性や競争力に問題を生む」として、より早い段階での公認会計士資格の付与を支持した。

 ただ、このような産業界の意見については会計士協会 会長の増田宏一氏が「日本は60年かかって会計士の資格が社会的な認知を得てきたが、会計士に対する評価はまだ定まっていない。その中で会計士資格を資格登録と開業登録に分けると日本の会計士についての評価が下がる。会計士資格の資格登録には反対したい」と反論した。

会計士受験生のTwitterでの声

 議論はこのあたりから会計士の就職浪人問題の押し付け合いとなった。増田氏は「きちんと経済界で採用してくれるというのであれば受験生も評価する。それがないと一段階目の試験の魅力がなくなる。われわれも現状、実務経験を提供できる場がない」と説明。産業界の案では一段階目の試験合格者を年間4000人以上と想定していることについて「(一段階目の資格の合格者が増えるのであれば)経済界でも(受け入れについて)責任を感じてほしい」と話した。

 一方で、住友商事の島崎氏は「企業も監査法人も(会計士試験の合格者の採用を増やすことができないことについては)同じ状態だと思う。前回の改正時から状況が変わってきた。従業員の雇用について未来永劫、保証することはできない。またいまの試験制度自体が企業の採用とマッチしていない」と話した。

 混迷する議論に対してシンクタンク・ソフィアバンクの副代表 藤沢久美氏(@kumifujisawa)はTwitterでの議論を紹介した。会計士試験の受験者からは「監査ができない会計士になるつもりはない」との声が多く聞かれたという。一方で、すでに会計士となっている人からは賛同する声もあったという。共通するのは「監査しない会計士を設けるのであればその地位を明確にすべき」との意見だったという。

試験を受ける人の立場で制度を作るべき

 懇談会の座長である金融庁 副大臣の大塚耕平氏は「エンドレスに議論するわけではないので、ゴールに行かないといけない。反対点だけでなく、合意できる点を徐々に増やしていきたい」と指摘。「いまよりもよい制度にする」「就職浪人を作らない」「フルスペックの会計士は監査ができる会計士」「フルスペックではないがプロフェッショナルを目指す会計士」など「私なりにコンセンサスと思っている」ことを挙げた。そのうえで「これから試験を受ける人の立場で制度を作るべき」と話した。

 次回の懇談会は6月上旬の予定だが、根本の部分を含めて各委員が譲歩をしないとまとまりのある報告書の提出は難しいといえるだろう。

関連リンク

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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