日本IBM 松尾氏が「標準化」を提言
IFRSが照らし出す財務経理部門の未来
2010/06/22
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決算前の徹夜は当たり前、四半期開示や内部統制で業務は激増しているのに人は増えない、しかし間違いは許されない――日本企業の財務経理部門の疲弊が深刻だ。このような状況でさらにIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)が適用されたらどうなるのか。現場からは不安の声が多く聞こえてくる。日本IBMの戦略コンサルティンググループ オペレーションズ&ファイナンス 経理財務変革コンサルティング・リーダー 松尾美枝氏は、日本企業の財務経理部門再生の鍵を「標準化だ」と説明する。
日本IBMは2010年3月に国内外の企業1900社以上のCFO、経理部長を対象にした調査結果を公表した(参考記事:財務経理部と経営企画部は一緒になる運命か)。そこから浮かび上がったのは日本企業の財務経理部門が抱える業務の非効率さだ。松尾氏は説明会で「財務経理部門は自動化や標準化に関する構造的な複雑さをいまもなお抱えている」と指摘した。
業務を標準化することで、作業効率が向上し、属人的な作業も少なくなる。システムによる作業の自動化も行いやすくなる。このようなメリットは過去から言われてきたことだ。しかし、先進的な企業をのぞいてなかなか標準化を達成できていない。それはなぜなのか。松尾氏は「日本の企業はエンドユーザーに対するサービスがとてもいい。それがバックオフィスへのしわ寄せとなっている」と背景を説明する。事業部制やカンパニー制を導入する企業では、経理処理や業務プロセスがバラバラになるケースが多い。このような状況では標準化が難しいのは明白だ。
CFOによるガバナンスが重要に
しかし、事業部制などでさまざまな業務プロセスが混在するのは、経理業務を効率的に行っている欧米企業でも同じだ。むしろ世界各国に展開するなど、日本企業と比較して大規模な経理処理を行っている欧米企業は多い。松尾氏が指摘するのは「CFOによるガバナンスの有無」だ。ビジネスの不透明感が増すにつれ、現在の業績、そして将来の業績に責任を持つCFOの社内での地位が高まっている。そのようなCFOには正確な情報を基に、将来のキャッシュフローについても正確に予測することが求められる。予測のためには高精度な経営管理のシステムが必要で、経理処理の標準化も不可欠だ。標準化のメリットを理解したCFOが強力に経理処理の標準化を進めているのが、欧米のグローバル企業だ。
日本企業でもCFOや経理、財務部長の重要性が今後増す可能性がある。きっかけはIFRSの適用だ。IFRSは経理処理だけにかかわるテーマではない。生産や販売、営業の現場を巻き込み、ITシステムについても対応をグループ全体で考えなければ、効率的なIFRS適用は難しい。このような多くの部門や地域を巻き込むプロジェクトを統括するのは誰か。それはCFOしかいない。実際、日本企業が取り組んでいるIFRS適用プロジェクトの多くはCFOが中心的な役割を演じている。ITシステムを含めて企業内の業務プロセスに一番詳しいのはCFOという企業が今後、増えるだろう。そして企業グループ全体での対応が求められるIFRSは「標準化に取り組む絶好のチャンス」(松尾氏)なのだ。「CFOはこれまで子会社にお願いできなかった経理処理の標準化をIFRSに乗じて言うことができる」。
優秀な人材の獲得にも
標準化は効率化とともに経理人材の底上げも実現するだろう。属人的な経理処理が標準化された業務プロセスに置き換わることで、「他社から優秀な人をとってもすんなりと仕事をしてもらえる」(松尾氏)。業務の定義が明確になり、企業としても安心して人を採用できる。人材の流動化にもつながるだろう。財務経理部門のスタッフがビジネス全体について検討することも可能になり、企業への貢献も増える。ただ、日本企業は余った人材の調整が難しい。「企業の努力だけではどうしてもうまくいかない問題もある」(松尾氏)のだが、運用で改善できる問題も多いだろう。
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