積極派と消極派に二分
トーマツ、先行企業が気付き始めたIFRS導入の課題
2010/11/29
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有限責任監査法人トーマツは11月24日に説明会を開催し、企業のIFRS適用のプロジェクトで課題として挙がっている点を説明した。デロイト トーマツコンサルティングのIFRSサービスチーム シニアマネジャーの中村明子氏は、IFRS適用プロジェクトを進めている企業について「積極派と消極派が半数ずつだろう」と話した。
トーマツは企業のIFRS対応目標として3つを定義している。
- スコープ3:グループ経営管理・意思決定の変革を実現
- スコープ2:本社・グループ会社の業務プロセス・情報システム効率化を目指す
- スコープ1:制度対応
スコープ2と3が積極派で、スコープ1が消極派。中村氏は「日本でのIFRSの取り組みはまだ始まったばかりだが、先行するプロジェクトではスコープ2、3の取り組みも多い」と話した。仮に2015年、2016年にIFRSが強制適用される場合、ほとんどの企業は消極派のスコープ1になるだろう。しかし、いまの段階ではIFRSをきっかけに社内の経営管理の刷新やITシステムの改修も視野に入れて対応を進める積極派が多いようだ。確かに先日紹介したNECのIFRS適用プロジェクトでもSAPをベースにした新しい経営管理システム導入とIFRS適用とを、歩調を合わせて進めている。
中村氏はIFRS適用を準備している積極派の複数の企業の事例を紹介した。ある製造業の企業はIFRS適用を機に業績測定の均一化を図り、中央集権的なグループ運営を探っているという。会計システムもグループで統一し、シェアードサービスセンターの利用もグローバルに広げるなど経営の高度化を目指す。IFRSの任意適用ではなく、将来の強制適用を見込んでいるため、余裕を持って準備ができているという。
また、ある流通業の企業は1000社近くの子会社を持っているが、経営管理のレベルが各社によって異なるのが課題だった。IFRSによって会計基準の統一、経営管理の統一を図り、グループ全体の経営戦略を策定しやすくする。「IFRSを早期導入することによる、業界標準の先導」という狙いもある。「積極派の企業はいずれもIFRS適用で、単純な財務会計以上のメリットを得たいと考えている」(中村氏)
川上対応と川下対応
スコープ2、3を目指している積極派の企業は「システムの川上対応を指向することが必要」と中村氏は話した。川上対応とは、グループの子会社レベルでIFRS対応を行うことを指す。子会社は日本基準で記帳し、IFRSの帳簿に組み替える、または最初からIFRSで記帳することが想定されている。IFRSベースの決算情報を本社に報告し、本社で連結処理を行う。対して、川下対応は、子会社が日本基準で本社に報告し、本社が連結処理でIFRSに組み替える。川上対応では子会社でIFRSと日本基準の2つの処理を行う必要があり、ITシステムの対応が必須。一方で、本社での組み替え負荷が減るため、連結決算のスピードアップや業績管理の精度向上などが期待できる。
川下対応は基本的に本社側だけのシステム対応となるため、「コストを抑えることができる」(中村氏)。ただ、決算プロセスの長期化や、連結ベースと単体ペースの業績管理が難しくなるなどの問題がある。中村氏は川上対応、川下対応の判断について「コストとベネフィットのバランスに尽きる」として、「プロジェクトの短期的なキャッシュアウトを重視か、長期的なコスト負担を重視するかで判断する」と話した。
先行企業が気付き始めたIFRS導入の課題
また、トーマツの東京事務所 IFRSアドバイザリーグループ 北潟将和氏は、IFRSの原則主義、連単分離、予算管理・業績管理、報告日(決算日)統一への対応が企業のIFRS適用のプロジェクトで課題として挙がっていると説明した。この4点について「トップランナー企業もほかの会社の対応を気にしている。また第2集団の企業も実際にどう解決されるか注目している」という。
北潟氏は原則主義について「企業自身が取引実態を見極めたうえでIFRSの枠内でルールを設定する必要があることに気付き始めた」と指摘。IFRSベースの連結財務諸表と日本基準ベースの単体財務諸表の併存については「経済界では管理コストの増大を懸念している」と話した。同様に予算管理・業績管理についても、「対外的にはIFRSの連結財務諸表を出すので、内部の予算管理・業績管理もIFRSベースで行いたいというのが企業のマネジメントの自然な考えだろう。しかし、それが各子会社でできるのか、という問題がある」と指摘した。
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