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「2015年3月期の強制適用は、ない」の大臣発言受け

2年前に逆戻りしたIFRS議論――大幅増員した審議会で結論は?

2011/06/30

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 日本がIFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の適用へと大きく舵を切った「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」が正式に決まったのは2009年6月30日だった(参考記事:国際会計基準のロードマップが本決まり、企業会計審議会総会が開催)。この中間報告では2010年3月期からのIFRS任意適用を認めると共に、2012年に強制適用するかどうかの判断を行い、強制適用する場合は3年程度の準備期間を置くという内容だった。まさに、その2年後に当たる2011年6月30日、この中間報告を根本から見直す議論が始まった。

米国に変化が生じている

 6月30日に開催された企業会計審議会総会・企画調整部会の合同会議では冒頭に金融庁の自見庄三郎担当大臣があいさつし、21日に述べた「2015年3月期のIFRS強制適用開始はない」との発言を繰り返した(参考記事:IFRS強制適用が延期、金融相が「2015年3月期の強制適用は考えていない」)。金融相はあいさつの中で、国内外の情勢が2009年当時と変わっていることを中間報告見直しの理由に挙げた。特に日本が後を追っていた米国のIFRSへの態度の変化について、5月26日にSECが公表したスタッフペーパーを引き合いに言及した。

画像 金融庁の自見庄三郎担当大臣

 「スタッフペーパーの中身にはいろいろな見方があるが、私は、米国基準の存続を前提、IFRSを丸飲みするのではなくコンバージェンスの方法による、例えば5〜7年の時間をかけて移行する、SECは報告権限を保持する、という方針を示されており、IFRSの全面採用から変化が生じていると思っている」

 ただ、金融相は自身の発言が国際的な資本市場にネガティブな印象を与えることを心配してか、声を一層大きくして「補足するとそもそも会計基準の国際化は否定しない。金融庁でも会計基準の国際的調和に向けて最大限の努力をする」と強調した。

 金融相は今後の議論ポイントとして以下を挙げ、「これまで以上に幅広い議論を期待する」と話した。

  • 国内の任意適用の状況など中間報告で示された事項の検証
  • 今後のコンバージェンスの方向性
  • 連結先行の是非
  • 税制とのかかわり
  • 単体財務諸表の取り扱い

 金融相はまた、IFRS適用への筋道を示す「ワークプラン」を作成して実行している米国の対応を評価し、日本でも「米国と同様の対応が必要である」と指摘した。

強制適用は国益に反する

 合同会議ではその後、IFRS推進派と反対派がそれぞれ主張を繰り出した。2009年に中間報告を決めた企画調整部会の委員は、委員が9人で臨時委員が16人の25人という陣容だった。2011年の今回は委員が8人で、臨時委員が26人の34人となった。

 三菱電機 常任顧問の佐藤行弘氏は産業界の意見を取りまとめた「我が国のIFRS対応に関する要望」について説明した。三菱電機の他に新日本製鐵やJFEホールディングス、トヨタ自動車、パナソニック、日立製作所、東芝などの21社、1団体(日本商工会議所)が集まって作成したという要望書の趣旨は以下。佐藤氏は「冒頭の大臣の内容と軌を一にすると思った」と話した。

  • IFRSの適用の是非を含めた制度設計の全体像について、国際情勢の分析・共有を踏まえて、早急に議論を開始すること
  • 結論を出すのに時間を要する場合には、産業界に不要な準備コストが発生しないよう、十分な準備期間(例えば5年)を置く、猶予期間を設ける(米国基準による開示の引き続きの容認)ことが必要

 佐藤氏は要望書について「極めてリーズナブルな内容」として「コンバージェンスを今後どこまでやるのか。また、税制・会社法との関係、証券市場との関係など課題は山積していると私は思っている」と話した。

 その他の委員の意見ではIFRSについて「IFRSについて幾つか懸念がある。資産負債アプローチは固定資産や金融資産の資産価格の増減で利益が大きく変動する。そうすると労働者の働きと利益の相関が大きく損なわれる」(日本労働組合総連合会 副事務局長 逢見直人氏)や、「時価で会社を売買するために経営者は会社をやっている訳ではない」(TKC全国会会長 大武健一郎氏)、「確定決算主義はわが国の文化として優れている。連結先行よりも、税務を尊重した会計基準作りが必要」(甲南大学会計大学院長 河崎照行氏)、「IFRSはある意味では企業の金融商品化であり、それが日本のものづくりにとっていいのか。このままいくと大変危険。ましてや強制適用は国益に反する」(テルモ 取締役名誉会長 和地孝氏)などが挙がった。

日本は二度と今の地位に戻れない

 一方で、IFRS推進派は、2015年3月期に強制適用をしないという金融相の判断には一応の納得を示しながらも、IFRS適用で上昇した日本の国際的地位の維持を求める声が上がった。

 「2015年3月期の強制適用がないというのは分かるが、2012年に将来の方針を決めるということを撤回しないでほしい。日本は2012年に(IFRS適用方針を)決定すると国際公約をした。その公約を破るのであれば論拠がいる。日本の意見が通らないから、IFRS適用を先延ばしするというのは、将来、日本の独特の経営慣行をIFRSに反映させる道が閉ざされてしまうことを意味する。近隣の国は日本の地位に取って代わりたいと思っている。(2012年の適用判断を撤回すれば)日本は二度と今の地位に戻ることはない」(日本公認会計士協会会長 山崎彰三氏)

 その他の委員では「金融庁には過去から3年では準備に足りないとの意見があった。2012年に決めて5〜7年置くのは結構だが、適切かどうかの検証が必要。また、IFRSをカーブアウト(一部不採用)した中国、インドもIFRSには背を向けていない」(住友商事 特別顧問、IFRS財団 評議員 島崎憲明氏)、「IFRSに実際にコミットをしていないと、IFRSのここを直したいと思っても、日本としての意見発信ができなくなることを懸念している」(公認会計士 関根愛子氏)、「内向きの議論をするのではなく、開かれた議論が必要。目先の利益を得ようとすると、将来のマーケットの関係者に多大な不幸を先送りすることになる。私はIFRSは了とは思っていない。何度も何度も見直していかないといけない。そのためには日本はIFRSにコミットしていく必要がある」(青山学院大学大学院教授 八田進二氏)。

全てごちゃごちゃになって議論

 推進派にとっては、IFRSが日本企業に適用するに値する会計基準かどうかの議論は、中間報告までで終わっているという認識だ。IFRSがまだ発展途上であることも認めながら、日本企業にとって適切な内容に改訂していくためにも、IFRSを受け入れて国際的な影響力を高めようとしてきた。IFRS財団に理事を送り込み、IASBのサテライトオフィスの東京への誘致に成功したのも国際的な影響力を高めた結果だ。IFRSを日本企業にどう適用するかという運用の話なら議論にもなるが、「IFRSの資産負債アプローチの是非は」というような議論は2009年に終わっているという考えだろう。「2009年のロードマップは1年弱の議論をした。それを見直すには見直すなりのデュープロセスが必要。今回の議論は私には唐突感がある」(島崎氏)。終盤に発言した八田氏は「今までの議論を聞いて、あ然とした。全てごちゃごちゃになって議論されている」と話した。

 今回の合同会議ではIFRS反対派、推進派のかみ合わない議論が続いた。実は中間派もいて、「IFRSにコミットするのか、日本のスタンスをまずは明確にすべし」「産業界が具体的にIFRSの何に困るのか、セクター別に議論してまとめる」「日本だけのローカルな話ではない。国際的な対話をもっとすべき」などの意見が出た。次回以降、どのような形で議論を進めていくかは不明だが、今回と同じような会議体では時間を浪費するだけだろう。

【2011年7月1日追記】

 合同会議での配付資料が金融庁から公表された。以下の関連リンクを参考。配付資料の「自見庄三郎大臣 提案 検討事項」では、4つの検討事項を挙げている。

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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