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欧州、米州、アジアで調査

“IFRS先進国”の知恵をどう生かすか、金融庁審議会が開催

2012/02/17

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 IFRS(国際財務報告基準、国際会計基準)の適用を議論する金融庁の企業会計審議会総会・企画調整部会合同会議が2月17日に開催された。今回は2011年末に行われた欧州、米州、アジア各国のIFRS適用についての調査報告が行われた。“IFRS先進国”ともいえる各国の状況はまさにバラバラで、日本も柔軟な判断が求められるだろう。


これまでの合同会議の記事


 EU規制に従って規制市場に上場する企業の連結財務諸表にIFRSを適用しているフランス、ドイツでは、「市場全体で見た場合、(IFRS適用の)トータルのベネフィットはコストを上回ったという意見が聞かれた」(調査報告書概要)という。具体的なベネフィットとしては、資本コストの低下や他国企業との比較可能性の向上、子会社の管理効率がアップしたなどの声が聞かれた。一方、IFRS導入時にはシステムコストが発生。また、米国会計基準(US-GAAP)とIFRSとのコンバージェンスが進む中で、基準が複雑化し、注記が増えたという声があった。

 日本で心配されているIFRSの原則主義については欧州でも導入当初は心配され、ラウンドテーブルの開催やガイダンスの公開などもされた。しかし今では「原則主義に対する否定的な意見は限定的な状況である」(調査報告書概要)という。同じく製造業の企業を中心に懸念が広がっている固定資産に対する再評価モデルの適用について、フランスとドイツではほとんど利用されておらず、大多数の企業は取得原価法が利用されているという。「製造業においては、(IFRS適用の)影響は比較的限定的であった模様である」(同)

 調査を実施した企業会計審議会委員の逢見直人氏(日本労働組合総連合会 特別専門委員、金融庁参与)は「有形固定資産について公正価値会計を適用している例は極めて例外的だった。ほとんどの企業が取得原価主義。だが将来的に取得原価主義の選択適用が認められなくなると大きな影響がある」と述べた。またIFRS適用の影響については「会計基準が想定する利用者を広くとらえていて、株主だけではなく、債権者、取引先、規制当局、課税当局、従業員を想定している。多様な利用者に配慮した会計基準を指向しているという印象を受けた」と話した。

jfsa01.jpg 会議の冒頭にあいさつした金融庁の自見庄三郎担当大臣

商法、税制も改正した韓国

 2011年に上場企業や金融機関を対象にIFRS適用を始めたカナダでは、「比較的順調にIFRSが入ったという印象を受けた」(金融庁の企業開示課長 栗田照久氏)。旧カナダ基準がもともと原則主義だったこともあり、IFRSへの移行がスムーズだったようだ。「一部の企業からは、コストを上回るベネフィットがあったわけではないとの指摘が聞かれた半面、国際企業では、世界中で適用できる統一基準であるIFRSの導入によるメリットが認められるという意見も聞かれた」(調査報告書概要)

 同じく2011年にK-IFRS(IFRSを基に逐語で翻訳・制定された韓国採択国際会計基準)を上場企業の連結、単体財務諸表に適用した韓国では、同時に、開示を従来の単体中心から連結中心に移行した。IFRSと連結開示の開始で開示コストが増大したとの声があったという。一方、韓国は通貨危機後に韓国基準への信頼性が低下し、企業の資金調達が難しくなっていた(いわゆるコリア・ディスカウント)。対外的な信頼度を向上させ、会計の透明性を高めるには国際基準とされるIFRSを適用する必要があった。韓国はIFRS適用に合わせて商法や税制なども改正。国を挙げて適用をバックアップした。

 調査ではIFRSを適用したことで資本調達コストが低減した、比較可能性がアップしたなどの意見が聞かれたという。しかし、原則主義に基づき各企業が独自の判断でIFRSを適用し会計処理をするために、比較可能性は向上していないという声もあった。

中国は国家プロジェクトでIFRS取り込む

 中国も国家プロジェクトとして会計基準の改正を進めてきた。中国では「新企業会計準則」と呼ばれる会計基準が2007年から全上場企業に適用されている。この新企業会計準則は「かなりIFRSよりも分量が少なくて、簡潔にざっくりと書いている」(栗田氏)。しかし、中国当局はIFRSと新企業会計準則の差異は「減損損失の戻入」のみで「実質的に中国基準はIFRSと同一であると言ってもよい」としているという。実際は、公正価値測定や共通支配下の企業結合などの項目が差異として残るが、中国当局では「それらの差異は明確な差異とは認めていない」(調査報告書概要)。新企業会計準則はIFRSとコンバージェンスしているといい、IFRSの更改に合わせて新企業会計準則も更改していくことになっている(実際はガイドラインの公表などによりIFRSの改正を取り込んでいるという)。

 IFRS適用のベネフィットは比較可能性の向上や中国企業の海外進出の促進などが聞かれたが、政府によるコントロールが強い国だけに企業の本音は別にある可能性がある。調査報告書概要では「新企業会計準則の導入は、当局の政策であり、企業にとってベネフィットは特段ないという意見もあった」との声も紹介している。

 韓国、中国での調査を行った委員の鈴木行生氏(日本ベル投資研究所 代表取締役)は、「中国は会計の近代化、韓国は会計の信頼性向上が目的と、日本とはだいぶ局面が異なる」と指摘した。

原則主義に違和感が強い米国

 今回調査を行った国の中で、米国は日本と同様にIFRSに対する方針を明確にしていない。2011年中に方針を決める予定だったが、調査直前に延期された(参考記事:SEC、米国企業へのIFRS適用判断を先送り)。現在は2012年第1四半期(1-3月)に方針を示すとみられている。米国では2011年5月に、US-GAAPを維持しながら5〜7年をかけてUS-GAAPにIFRSを取り込んでいくコンドースメントアプローチがSEC(米国証券取引委員会)スタッフの案として公表されている。米国ではコンドースメントアプローチについて、「作成者、監査人、会計基準設定主体などの関係者からは、US-GAAPを維持することや十分な移行期間を検討している点を支持する意見が聞かれた」という。

 細則主義のUS-GAAPから見てIFRSの原則主義はかなり違和感があるようで「米国のIFRSに対する不満は原則主義に集中している」(栗田氏)。原則主義で比較可能性が低下する懸念や、訴訟の可能性を指摘する意見があった。「IFRSを導入するならガイダンスが必要との声が圧倒的だった」(同氏)。また、米国では契約文書や法律に「US-GAAP」という用語が使われている例が多く、US-GAAPを存続させておかないと、膨大な契約文書や法律を変更する必要が生じるとの指摘もあった。

 米国で調査をした委員の廣瀬博氏(住友化学工業 取締役副会長)は、「米国は世界最大の市場を抱える国として、威信をかけてグローバルで高品質、プラグマティックな会計基準の開発をリードする意欲と責任感を持っているという印象を受けた」と指摘した。また、「米国は金融市場の保護を強く意識しており、訴訟社会であることもあり、IASB(国際会計基準審議会)のガバナンスや監査法人との関係について深く言及している」と説明。「日本は、同じくIFRSを決定していない米国とは意義ある協議ができるのではないか」とした。その上で廣瀬氏は以下のように述べた。

 「日本の状況は世界でとても注目されている。世界の理解を正しく得られるように、感情的なイデオロギーの議論ではなく、しっかりとした見識、論理構成で意見発信を行い、世界の会計基準作りに大いに貢献すべきだ。日本として世界の経済活動に役立つ経営思想は堂々と主張し、世界の理解を得る努力を継続する必要がある。米国の動向を注視し、国際会計基準のサークルの中での立ち位置を慎重に見ながら、過去のレジェンド問題にも思いを巡らせつつ、議論をしていくべきだ」

 合同会議後、委員の八田進二氏(青山学院大学大学院教授)は「他国はさまざまな状況があるにもかかわらず前に進んでいる。日本は周回遅れにならないように議論を進めないといけない」と話した。

影響を十分に議論する必要がある

 合同会議の冒頭、金融庁の自見庄三郎担当大臣があいさつし、IASBのハンス・フーガーホースト議長との2月8日の会談について以下のように述べた(参考記事:IASB議長が来日「IFRSフルアドプションが日本のためになる」)。

 「IASBに対する日本の人的、資金面での貢献を説明し、わが国の関係者の意見も聞いてIASBの今後の検討に反映してもらいたいと伝えた。また、IFRSについての審議会の検討状況を説明し、会計基準の国際的な調和は必要だが、調和のみを追求することで経済活動が停滞することはあってはならず、会計基準が企業の経済活動や各国の法規制に与える影響について十分に論議する必要があると伝えた」

関連リンク

(IFRSフォーラム 垣内郁栄)

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