SI業務/受託開発に疲れたエンジニアにこそ勧めたいエンジニアの働き方にはもっと
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「デスマーチ」「泥開発」「プログラマ35歳定年説」「やりたいことがやれない」など、とかくネガティブなイメージがつきまとう「システムエンジニア」という職業。一方で、「やりたい仕事で年収3500万円を達成できるエンジニア」が存在するのをご存じだろうか。ディー・エヌ・エーシステム統括本部 技術戦略部の能登信晴氏に、同社でのワークスタイルやキャリアパスについて聞いた。 |
エンジニアのモチベーションを上げれば |
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ディー・エヌ・エー システム統括本部 技術戦略部 部長 能登信晴 氏 |
―― 能登さんは、いまは技術戦略部部長をされているということですが、もともとはエンジニアだったのですね。
最初は、インターネットオークションサイトの「ビッダーズ」を携帯電話に対応する「ポケットビッダーズ」の開発メンバとして、DeNAに入社しました。2004年1月入社なので、もう在籍して6年以上経ちますが、実は途中で「ソリューション事業」という、いわゆる受託開発をやっていた時期もあります。入社時は「DeNAでは、新規事業ができる」というのを楽しみにしていたのですが、「当時のDeNAにとっての新規事業」というのがソリューション事業でした。「それってSIじゃん」みたいな(笑)。しかし、結果的には良い経験でした。それまで研究員をしていて「チームで契約をし、要件定義書を作り、仕様書を書いて、それに基づいてきちんと期日までに開発し、利益を出す」というビジネスの流れを経験したことがなかったので。
その後、自社サービスの部署に戻って「ポケットアフィリエイト」のチームに入りました。これも、自分の中では転機でした。ソリューション事業部のときは、いわゆる「プロジェクトマネージャ」の仕事をしましたが、ポケットアフィリエイトでは、またコードを見ることになりました。「プロマネになったのに、またコードかぁ」と、一瞬そう思ったのですが、DeNAのサイトで使われるコードは読みやすかったり修正しやすかったので、「これなら自分で仕様も考えて開発できるな」と、すぐに思い直しました。
その後、いくつかのサービスでコーディングやマネジメントの仕事をして、いまは技術戦略部でエンジニアの採用や教育、全社的なR&Dの取り組み、全社エンジニアの環境改善といったことを担当しています。
―― 環境改善とは、具体的にどのようなことですか。
エンジニアにとって魅力的な環境を作るのは、生産性を上げることにつながります。エンジニアはコンピュータ好きなので、自分の好きなマシンがあると、それだけでモチベーションが上がって生産性も上がります。例えば、大きなディスプレイが複数台あると、それだけで頭の中が広がった感覚になります。たくさんの情報を見ながら、同時にコードを書けますからね。
後は、「何十台もの実験用サーバを用意すれば、実環境とは別に並列処理の実験ができる」とか、「携帯電話を1人1台、毎年買い替えて新しい端末に触れられるようにしよう」とかですね。検証端末はもちろん社内にたくさん、それこそ日本で発売されているほぼすべての携帯端末がありますが、自分が使い込んで初めて分かってくる面もあるので、支給することにしました。特に最近では、スマートフォンですね。「モバゲータウン」のメインターゲットは普通の携帯電話端末ですが、今後のサービスやビジネスを考えるうえで、新しいものを吸収する必要があります。
エンジニアの価値は「人月」とは別もの |
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―― エンジニアの価値ということについて、ご意見をお持ちだそうですが。
最近、学生などにIT業界の分析を説明する機会があり、そのときに経済産業省の統計データを調べたのですが、エンジニアのうち売り上げ規模で約86%の人が受託開発に携わっているそうです。そして、受託開発のエンジニアの価値は、「人月」です。費やした時間に比例して会社は儲かり、それによってエンジニアの収入が決まります。1人のエンジニアが1カ月働いた場合の売り上げは、数十万〜百数十万円ということが多いのではないでしょうか。
一方、昨年の10〜12月のモバゲータウンの売り上げのうち、ゲーム関連の売り上げは約35億円です。もちろん、全部がソーシャルゲームではありませんが、すごく単純化して、3カ月で割ったり、リリースしたタイトル数で割ったりすると、1カ月当たりの1人の売り上げは大体1億円ちょっとです。これが、DeNAのエンジニアの「人月」の価値ということです。
どれほど優秀なITコンサルタントでも、1カ月に1億円のチャージはできないのではないかと思います。エンジニアが何か新しいものを生み出す場合、具体的には「ゲームを開発して、アイテム課金の仕組みを作って」といったことですが、エンジニアの価値は“けた”が変わるのです。DeNAでは「人月とは別の次元で、エンジニアの価値を出していける」と考えています。
もう1つ、付け加えておきたいことがあります。「プログラマは35歳で定年」とか「プロマネやITコンサルをやると、“あがり”」とよくいわれています。なぜそういわれるのか説明しましょう。プログラマ1人をアサインして企業にチャージできる金額が仮に100万円とすると、プロジェクトマネージャはより高額な150〜200万円をチャージできます。売り上げが高い人の方が給料が高いのは当然なので、35歳で年齢に見合う収入を得るにはプロジェクトマネージャにならざるを得ないのです。つまり、会社にもたらす利益と、そこから得られる個人の報酬の関係で、「コードが書けなくならざるを得ない」ということです。
しかしDeNAでは、1人のエンジニアが1カ月に1億円の売り上げを作ることがあるわけですから、高額な給料を払うのは決して不可能ではない。南場(南場智子氏:ディー・エヌ・エー代表取締役社長)が「優秀なエンジニアには年収3500万円出す」といっているのは、口から出任せではありません。
少人数のチームで1つのサービスを作っている点もSIと違います。100人のチームで開発し、そのうち数十人がプロダクトデザインをしているとしたら、「売り上げの、どの程度が、誰の貢献か」が明確になりにくいでしょう。しかしモバゲータウンの場合は、少人数でサービスを開発しているので、それが明確で、成功したときの充実感もあります。
大きく「企画部署主導型開発」「エンジニア共同企画型開発」に2分されるDeNAの開発スタイル(ディー・エヌ・エーの採用サイトより引用) |
―― 非常に成功したエンジニアが、現に社内にいらっしゃるわけですね。
社内で一番目標とされているのは、川崎(川崎修平氏:ディー・エヌ・エー取締役)です。携帯電話向けWebアプリケーションフレームワークの「MobaSiF」を作ってリリースもしていますが、やはり一番すごいのは、「モバゲータウンを作った」ことです。それも、どうやったら魅力的なサイトになるかというところから一緒に考えています。
モバゲータウンを作っていた当時は、SNSというものがまだ認知されていませんでした。分かりやすくするために、次のようなサイクルのモデルを作り上げました。
- 無料ゲームが楽しめる
- →対戦ゲームをしてほかのユーザーと親しくなる
- →それなら、自分の日記も見てもらおう
- →日記の横のアバターで個性を発揮しよう
- →アバターをリアルの友人にも見てもらおう
- →友人を誘って新規入会者が増える
モバゲータウンでは、アバターが魅力的になることが重要で、アバターのためにユーザーがお金を使ってくれたり、広告をたどってくれるようにするための「アバターがコミュニティで重要になる仕組み」まで考えて開発していました。
よくある受託開発のエンジニアは、他人が作った仕様に基づいてシステムやサービスを作ります。しかしDeNAでは、どうやったら魅力的なサイトになるか考えるところからかかわることが求められます。その意味でも、川崎は目標にされているエンジニアです。
一方通行ではないキャリアパス |
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―― 新しいサービスを思い付いた場合、それを社内でアピールする場はありますか。
2006年から「DIG(DeNA Innovation Group)」という社内公募制度を行っていて、一次審査を通ると、経営陣がアドバイザとして付いてくれます。この制度で生まれた新規サービスは、まだありませんが、個々のスキルアップにもつながっています。DIG制度でスキルを身に付けた結果、新規事業を考える部署に配属されて「みんなのウェディング」というWebサイト作った人もいます。
―― 新しい仕組みや、もうかる仕組みを考える人ではなく、コーディング力を突き詰める職人気質のエンジニアには、DeNAで活躍の場はないのでしょうか。
そんなことはありません。新規ビジネスを考えて実現するキャリアパスを「サービスリード」と呼んでいて、これがボリュームゾーンですが、一方で「エキスパート」というパスもあり、こちらも今後は増やしていく考えです。
過去の例では、モバゲータウンを良くない目的で使おうとする、例えば低年齢の携帯電話ユーザーに直接メールを送って会おうとする人もいました。最初は、人間がチェックして審査し、場合によっては強制退会させる措置を取っていましたが、そこに大きな工数を割いていました。そこで、そういったメールを機械学習で見つける仕組みを、ある「エキスパート」が開発して導入しました。そして、危険度が高いメッセージから優先的に人間が見てチェックします。これは、機械学習にある程度専門性があるエンジニアが携わる必要がありました。
もっとも、その「エキスパート」も最初から、それを専門に入社したわけではありません。モバゲータウン内のニュースサイト用のアプリケーションを開発している中で、「こういうサイトでは、こういう問題がある」と気付き、「自分の専門的な技術知識を使えば、こう解決できる」と思い付いたのです。ほかにも、ビジネスモデルには直接関係しませんが、MySQLやインフラの「エキスパート」も必要です。ただDeNAは、「あれをやれ、これをやれ」と誰かが指示する会社ではないので、ビジネス上の課題を見つける能力や解決策を提案して、それを実現する能力は必要でしょう。
そのほか、「マネジメント」「ビジネスリード」というキャリアパスがあります。マネジメントは、単なる人事的な管理職とも、いわゆる「SIのプロマネ」とも違います。SIのプロマネは、とにかく納期までに良いものを作るための管理が仕事で、プロジェクトを無事完了させられればゴールだと思います。
しかしDeNAの「マネジメント」では、それぞれのエンジニアの成長を促すのが1つの仕事です。もちろん売り上げの達成や障害発生率の低減など組織の目標はありますが、それを達成しつつ個人を成長させるところに責任を負っています。特にDeNAはベンチャーで、人が資産なので、とにかく人を成長させようとしています。人が成長すればその分会社としてできることも増え、会社自体が成長すると考えています。
「ビジネスリード」は、事業部長やグループ会社の社長になるような、経営の部分まで担っていくキャリアパスです。ネット会社なので、ビジネスの基盤となるシステムを理解できるエンジニア出身の方がビジネス成功の確率が上げられるという面があって、そういう人もどんどん増やしていきたいと考えています。
DeNAのエンジニアキャリアの自由度(ディー・エヌ・エーの採用サイトより引用) |
―― 能登さんも、そのうちビジネスリードになるのですか?
いや僕は、自分が考えて当たったサービスときちんといえるものが、いまのところないので、次は「もう1回サービスリードに戻ってヒット作を作りたい」と思っています。それで、「能登さんのあのサービスで結構世の中変わったよね」っていわれたら本望です。ITの世界では「マネージャになったら“あがり”」とよくいわれますが、DeNAではそうではないので、マネージャを経験した後に、また技術にチャレンジしてもいいわけです。
「自分の価値を、どう社会に提供するか」 |
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―― 最後に、現在SIやパッケージ開発で受託開発を行っているエンジニアに向けて、ひと言いただけますでしょうか。
「自分の価値を、どう社会に提供するか」についてエンジニア自身が無頓着だから、人に「作れ」といわれたものを作る立場になってしまっているのではと思うことがあります。ある意味エンジニアというもののビジネスモデルをしっかり意識して仕事をしないとエンジニアの地位は向上しないし、そういう仕事ができる会社を選ぶべきでしょう。
おそらく、多くのエンジニアは、大学の研究室や専門学校でプログラムを書いていたときは、「こういうものを実現したら社会に貢献できる」とか、「少なくとも研究の世界で役に立つだろうな」と自分で考えて作っていたはずです。それが就職した途端に、誰かに「作れ」といわれものを作り始めるというのは不自然だと思います。「自分で考えて自分で作るという環境を、エンジニアもぜひ追究してほしい」というのが、僕のメッセージです。DeNAも、そういうエンジニアを求めています。
関連リンク |
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ディー・エヌ・エー | |
モバゲータウン(PC向け) | |
ビッダーズ |
提供:株式会社ディー・エヌ・エー
アイティメディア営業企画
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2010年06月23日
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