![]() |
「検証」から「実践」へ 大規模先進事例に見る仮想化のポイント 〜Hyper-Vによる基幹システム仮想化基盤構築セミナー レポート 〜 |
ITシステムの最適化を目的に仮想化を検討しながらも、どこからどのように手を付けたらいいのか分からずとまどっている企業は多いのではないだろうか。2月5日に開催された@IT編集部主催のイベント「Hyper-Vによる基幹システム仮想化基盤構築セミナー」では、マイクロソフトの仮想化技術「Hyper-V 2.0」を用いた大規模な仮想化環境の構築事例を通して、柔軟なIT基盤の構築に向けた指針が示された。
2010年2月5日、青山ダイヤモンドホール(東京、港区)にて、@IT編集部主催のイベント「Hyper-Vによる基幹システム仮想化基盤構築セミナー」が開催された。
![]() |
Windows Server 2008 R2に組み込まれた仮想化技術「Hyper-V 2.0」は、ライブマイグレーションやクラスタ共有ボリュームといった機能を備えている。これにより、お試しではなく、いよいよ本格的に基幹システムの仮想化プロジェクトを進める準備が整ったといえるだろう。
このイベントではその一例として、三井物産が現在取り組んでいる仮想化IT基盤構築プロジェクトの事例とともに、同プロジェクトに携わる各メーカー、ベンダによる仮想化技術への先進的な取り組みが紹介された。本稿では、そのうちのいくつかのセッションの概要をレポートする。
三井情報 | |
![]() |
仮想化基盤の拡張性を担保する「M-Model」アーキテクチャ |
三井物産では現在、マイクロソフトのサーバ製品「Microsoft Windows Server 2008 R2」と、同製品に搭載されている仮想化ハイパーバイザ「Hyper-V 2.0」を採用した仮想化IT基盤の構築プロジェクトに取り組んでいる。同プロジェクトでは、従来のIT基盤を個々のシステムのリプレース時期に合わせて順次仮想化していき、最終的には約1000台のサーバを仮想化環境へ移行する予定になっている。また将来的には、クラウド・コンピューティング環境への移行も視野に入れているという。
このプロジェクトに発足当初から参画し、Hyper-V 2.0の検証作業や仮想化IT基盤の設計、構築全般を担当しているのが三井情報(以下、MKI)である。同社 事業開発本部 チーフアーキテクトの養老利紀氏は、サーバ仮想化技術とクラウド・コンピューティングの現状について、次のように述べる。
![]() |
三井情報 事業開発本部 チーフアーキテクト 養老利紀氏 |
「これからの企業ITについて語る際、よく『仮想化によるサーバ集約』と『プライベート・クラウド』というトピックが話題に上がる。しかし、この両者の違いが分からず、混乱している方が多い。また、そもそもプライベート・クラウドについてはその定義もまだあいまいなのが現状だ」(養老氏)。
そこで養老氏は、仮想化により単にサーバを集約しただけの環境と、プライベート・クラウド環境との間の具体的な違いとして、「ライブマイグレーション」「HA(High Availability)」「分散リソーススケジューラ」「自動プロビジョニング」といった具体的な機能の有無を挙げる。そして、こうした機能を導入してプライベート・クラウド環境への移行を目指す場合には、個々のシステムごとに、その重要性や性格に応じてそれぞれの機能を導入するか否かを判断するべきだと述べる。また、これらの機能を一気にすべて導入するのではなく、テクノロジ的にまだ未成熟なものについては、段階的に導入する方が現実的だとアドバイスする。
さらに同氏は、段階的に投資を行いながら仮想化IT基盤を順次拡張していく際、ストレージがネックになるだろうと指摘する。
「ビジネスの成長に従ってアプリケーションや仮想サーバが逐次増えていく仮想化環境では、拡張性を担保できるIT基盤を構築することが重要だ。しかしストレージに関しては、拡張性をストレージ装置の機能で実現しようとすると高価な機器を採用せざるを得なくなり、段階的な設備投資が難しくなる」(養老氏)。
そこで同社が提唱するのが、容量単価の低いエントリークラスのストレージ装置を複数台使用することで、仮想化環境におけるストレージの拡張性を確保する方式である。通常なら、まずサーバの台数や負荷特性を特定した上で、それに見合った容量と性能の共有ストレージを調達する。しかし同方式では、まずラックに搭載するエントリークラスのストレージ装置を決め、その容量と性能に応じた台数のサーバを同じラックに搭載する。これにより、ラックごとに仮想化環境の性能や信頼性が確保できる上、仮想化IT基盤全体を拡張する際には、ラック単位の増設のみで対応可能だ。
MKIではこの方式を「M-Model」アーキテクチャと名付け、仮想化環境への移行を目指す企業に広く提案しているという。もちろん、三井物産の仮想化プロジェクトもこのアーキテクチャをベースに構築を進めているという。

富士通 | |
![]() |
本番環境におけるHyper-V活用の勘所 |
三井物産の仮想化プロジェクトにおいて、サーバ機器の提供とHyper-V 2.0導入に関する技術支援を行ったのが富士通だ。同社は、Windows Server 2008に搭載されたHyper-V 1.0の時代から、マイクロソフトと密接に協業しながらHyper-Vの検証と実装に取り組んできた。また、2008年5月には「富士通 Hyper-V 仮想化センター」を設立し、Hyper-Vに関する技術サポート、人材育成、情報提供を積極的に行ってきた。このような先進的な取り組みが評価され、三井物産の仮想化プロジェクトにおける同社製品の採用が決まったのだという。
同プロジェクトにおいて富士通は、Windows Server 2008 R2とHyper-V 2.0の動作検証をβ版の段階から行い、Hyper-V 2.0の実装に関する膨大なノウハウを提供してきた。本イベントでは、同社のこうした取り組みの中で蓄積されたHyper-V 2.0に関するノウハウの数々を、富士通 Hyper-V 仮想化センターのセンター長を務める出海修二氏が解説した。
同氏によれば、Hyper-V 2.0の目玉機能である「クラスタ共有ボリューム」(CSV)と「ライブマイグレーション」に関しては、用途や環境に応じて旧来技術との使い分けが必要だという。同社がCSV機能の検証を行った結果、その目的であるディスクリソースの有効活用という点では十分に利用可能だと判断されたが、これを実際に運用するにはコツが必要だという。
![]() |
富士通 Hyper-V 仮想化センター センター長 出海修二氏 |
「CSVは新しい機能であるため、対応するバックアップソフトウェアが現状ではまだ少ないのが問題。そのため、バックアップの運用を考慮すると、当面は従来のLUN運用との併用も必要になってくるだろう」(出海氏)。
またライブマイグレーション機能に関しても、問題なく動作することは検証済みだが、処理完了までに要する時間が読みづらいため、場合によってはクイックマイグレーションと使い分ける必要もあるだろうとアドバイスする。このほかにも、「リダイレクトI/O」「iSCSIマルチパス構成」「ホストクラスタ」といった機能に関しても、同社の検証作業の結果得られた運用上の勘所が紹介された。
一方、これから仮想化の導入を検討しようという段階の企業にとっては、「目的と優先順位の明確化」「仮想化の対象システムと製品選定」「コスト削減の効果試算」「標準化」「事前検証と移行計画策定」「運用体制の確立」という6つのポイントが導入成功の鍵を握ると同氏は説明する。
この中の「仮想化の対象システムと製品選定」の部分に関して、富士通ではサーバ、ストレージ、ネットワーク機器、運用管理ミドルウェアなど、あらゆる領域にわたってHyper-Vによる仮想化環境に適した製品を用意しているという。特に、三井物産にも採用されたラック型サーバ「PRIMERGY RX300 S5」は、冗長性、性能、拡張性において高いレベルでバランスが取れており、仮想化環境での利用に極めて適しているという。
最後に出海氏は、「仮想化環境の構築には、幅広い分野に関する総合的な技術力が必要。その点、富士通は仮想化IT基盤を支えるためのあらゆるプロダクトを提供しており、総合的なサポートを顧客に提供することができる」と締めくくった。

マイクロソフト | |
![]() |
マイクロソフトが描く仮想化の未来 |
Hyper-V 2.0の提供元であるマイクロソフトからは、同社の仮想化ソリューションの現状と未来、さらにクラウドコンピューティングの戦略などについて紹介が行われた。同社 サーバプラットフォームビジネス本部 Windows Server製品部 マネジャーの藤本浩司氏は、いま企業に求められているIT戦略は数年前と比べ、がらりと変わったと指摘する。
![]() |
マイクロソフト サーバプラットフォームビジネス本部 Windows Server製品部 マネジャー 藤本浩司氏 |
「景気が良かった2007年ごろ、企業はこぞって戦略的なIT運用に取り組んでいた。しかし経済環境が大きく変わった今日では、市場で生き残っていくためのIT投資やコスト削減策、さらにはグリーンITやセキュリティ、コンプライアンスといった方向にシフトしている。こうしたことを実現する手段として、仮想化技術には大きな期待がかけられている」(藤本氏)。
マイクロソフトでは、今日の企業ITが抱える課題を「コスト削減」「可用性の向上」「ビジネスの機敏性」という3つに領域に分けた上で、それらを仮想化技術を活用して解決する「Dynamic IT」というビジョンを提唱している。具体的には、「データセンター」「クラウド」「クライアント」という3つのソリューション分野それぞれにおいて、同社の製品を活用することにより課題の解決を支援するというものである。
その中でも、データセンターとクラウドの分野で中心となる製品がWindows Server 2008 R2 Hyper-Vだ。Windows Sever 2008 R2で大幅に強化されたHyper-Vでは、三井物産の仮想化プロジェクトでも採用されたライブマイグレーション機能が新たに加わったほか、旧バージョンと比べ利用可能な論理プロセッサ数や仮想プロセッサ数が増えたことにより大幅にスケーラビリティが向上しているという。また、Windows Server 2008 R2に組み込まれた形で提供されるため、誰もが使い慣れたWindows GUI上の操作で簡単に利用できる点も大きなメリットだという。
マイクロソフトではさらに、Hyper-V 2.0上に構築した仮想化環境の管理を自動化するさまざまな手段を提供している。特に、Windows Server 2008に組み込まれているスクリプティング環境「Windows PowerShell」を使った管理作業の自動化は、ユーザーのニーズが非常に高いという。同社では、仮想化環境の統合管理ツール「Microsoft System Center Virtual Machine Manager 2008 R2」を提供しているが、このツールもWindows PowerShellとの親和性が非常に高いという。また、同ツールと「Microsoft System Center Operations Manager 2007」を組み合わせると、サーバ負荷に応じて自律的に仮想サーバの配置を変更することができる。この機能は、三井物産の仮想化IT基盤でも実際に活用されているという。
こうした仮想化環境の進化形であるクラウドコンピューティングについても、マイクロソフトは独自の戦略を打ち出している。同社では、クラウドコンピューティングを「プライベートクラウド」「パートナークラウド」「パブリッククラウド」に分類し、ビジネス要件に応じてそれぞれを組み合わせたハイブリッドなシステムを提唱している。
藤本氏は、「それぞれのクラウドが共通の基盤上で動作し、連携できることが重要。その点マイクロソフトでは、オンプレミス用のサーバ製品と、クラウド用の各種アプリケーションサービスやプラットフォームサービスを提供しており、双方を容易に連携させることが可能だ」と同社の強みを強調する。
さらに同社では、クラウドコンピューティングに向けた仮想化プラットフォームの構築を支援するツール群「Microsoft Dynamic Data Center Toolkit for Hosters」の無償提供を2009年10月から開始しており、本セッションではそのデモンストレーションも披露された。
同ツールはホスティングサービス事業者に向けたものだが、2010年前半には一般企業向けのツール「Microsoft Dynamic Data Center Toolkit for Enterprises」の提供も開始する予定だという。
また、3月に急きょ、仮想化をはじめとするマイクロソフトの最新の情報を無償で入手できるイベント「Microsoft Virtualization Summit」の開催が決定された。さらに詳しい情報を入手したい場合は、こちらに参加するといいだろう。

提供:三井情報株式会社
富士通株式会社
マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業本部
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2010年3月25日
イベントレポート
インデックス |
|
![]() |
三井情報 「仮想化基盤の拡張性を担保する「M-Model」アーキテクチャ」 |
![]() |
富士通 「本番環境におけるHyper-V活用の勘所」 |
![]() |
マイクロソフト 「マイクロソフトが描く仮想化の未来」 |
スポンサー |
|