
富士通のキーマンに聞く
プライベートクラウドをお題目だけで終わらせない方法は
2011/2/9
ITの世界はいま、「クラウド」に関する議論であふれかえっている。総論として、一般企業が社内クラウドサービスの積極的な活用を視野に入れつつ、社内ITでも「プライベートクラウド化」を進めるべきだということについて、異論を唱える人は少ないはずだ。問題は、具体的に何をどうすべきかという点にある。IT製品およびシステム構築支援サービス提供者の立場で、富士通は企業の社内ITインフラにどういった姿を描いているのか。ストレージ事業およびIT管理製品担当のキーマンに、@IT編集長の三木泉が聞いた。答えたのは、ストレージシステム事業本部 ストレージインテグレーション統括部 プロジェクト部長 兼プラットフォーム技術本部 クラウドインフラセンター(ストレージ構築技術担当)の荒木純隆氏、ストレージシステム事業本部 ストレージ企画統括部 担当部長兼プラットフォーム技術本部クラウドインフラセンター(次世代ストレージ担当)の岡安尚昭氏、そしてプラットフォームソフトウェア事業本部 第二プラットフォームソフトウェア事業部 プロジェクト部長の松本一志氏だ。
――2010年、IT業界はクラウド一色でしたが、プライベートクラウドを検討されている企業はどのように進めていくべきだと考えていますか。
松本 運用管理という観点からいうと3つの段階があります。まず企業データセンター全体を見える化して把握し、次にシステムおよび業務を標準化し、標準化した後でそれを自動化していくというものです。最終的には自動化が求められますが、自社のシステムを把握できないままにやってしまうと、いままで見えなかったところに弊害が生じ、その改善をし続けなければなりません。それを防ぐために、まず公平な目で全体を見渡す。その中から、可能なかぎり標準化する。標準化するとどこが自動化できてどこができないかが分かるので、そこから自動化できるものを自動化します。
――そうしたプライベートクラウド化への段階的な取り組みの中で、ストレージインフラ構築で意識すべき点はどのようなところと考えますか。
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富士通 ストレージシステム事業本部 ストレージインテグレーション統括部 プロジェクト部長 兼プラットフォーム技術本部 クラウドインフラセンター(ストレージ構築技術担当) 荒木純隆氏 |
荒木 サーバ仮想化は最大限に適用すべきです。しかし、どうしても仮想化に適さないと判断する場合もあると思います。その場合でも、データについてはほかの一部のシステムと同一のストレージに置くことにメリットが生じる場合が多々あります。ですから、プライベートクラウド化に際し、ストレージ統合を周到に設計すべきだと考えます。ストレージ統合によって、データ管理作業を集約化し、運用の効率化を図ることができます。データ管理作業の集約化は、バックアップをはじめとする管理作業の着実な実行にもつながりますし、作業の自動化を推進し、必要な運用管理作業を業務システムの要件に応じて適用する形に持っていくための基盤ともなります。
われわれは、企業内におけるすべての業務システムを画一的なストレージインフラに押し込むことがいいとは思っていません。企業には多様なシステムがあるため、それをどう仮想化環境に移行していくかという統合方針がまず大事です。各業務システムのサービスレベルを保ちつつ標準化しながら、サービスレベルが比較的そろっているシステムに分けて統合していくことが重要です。
エンドユーザーの利便性を確保しながら統合を推進することによって、全体として、コスト高の解消や電力消費量の削減といったコスト削減ニーズに応えられます。さらに大切なポイントとしては、それぞれのサービスレベル・グループにおいてストレージの機能を活用することにより、それぞれのグループに求められる可用性やパフォーマンスを確保するとともに、効率的かつ確実なデータ管理を行うことができます。
――しかし、ストレージ統合も、システム統合も、事業部門レベルでは困難です。「プライベートクラウド化」は、最終的には情報システム部門がどれだけイニシアチブを取れるかということに直結してきますね。
荒木 そうですね、IT予算を全体としてコントロールできる形にして、そのうえで課金、サービス事業的な仕組みを全社的に取り入れないと、なかなかプライベートクラウドには移れません。
松本 これまでの統合は、既存のシステムをそのまま移行する形が多かったと思いますが、クラウドが得意とするのは、新しいことをするための環境をオンデマンドですぐに作れることです。私は、従来のコストダウンなどを「守りのIT」、一方でビジネスを改革し、新しい分野に向かって構築するのは、アクティブに自分から攻めていく「攻めのIT」と言っています。既存のシステムを新しくして攻めのITにいかに持って行くか、そういう発想ができる企業が先を走っていけます。「考え方を変える」とか「ガバナンス」というのはそういう話だと思います。
――それは、情報システム部門がリード役となって統合を進めれば、ストレージについても、単なるデータの箱として使うのではなく、さまざまな機能を活用していくことができ、ITインフラを積極的にサービスとして展開していけるということでもあると思います。それでは、「見える化」「標準化」「自動化」の実現に、ストレージの機能はどのように貢献すると考えますか。
岡安 例えば富士通のストレージ「ETERNUS」にはシン・プロビジョニングをはじめとした数々のストレージ仮想化機能があります。特にシン・プロビジョニング機能では、性能や信頼性重視といったデータ活用ニーズに合わせてRAID構築、容量切り出し、サーバーへの割り当てが迅速に行えます。また、物理ディスク使用量の可視化としきい値監視により、利用率の推移を確認できるとともに、物理ディスクの増設時期を予測することができます。これによりサービスとしてのITを止めることなく、ストレージインフラを無駄なく、必要なときに必要な分だけ増設していけるわけです。
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富士通 ストレージシステム事業本部 ストレージ企画統括部 担当部長兼プラットフォーム技術本部クラウドインフラセンター(次世代ストレージ担当) 岡安尚昭氏 |
さらに、RAIDマイグレーション機能ではRAID構成をデータ活用ニーズの変化によって動的にデータを最適な構成へ再配置する機能があります。これにより、事前に設定した運用ルールに基づき、データの特性に合わせたスループットとコストのバランスを確保することができます。その他、バックアップの効率化を図る高速コピー機能や、ネットワーク品質の不安定な場所でも自動的に安定したリモートコピー制御を実施する機能もすでに備わっています。
こうしたストレージのアシスト機能を業務特性と組み合わせて自動化していく。これをいま、お客様には推進していただきたいですし、私たちはその手助けを全力を挙げて行っていかなければならないと考えています。
――しかし、仮想化によって、物理的な装置の管理に加え、論理的なITリソースの管理という新たな管理の要素が生まれてきますね。
松本 実際の運用管理という観点では、物理的には見えるものが、仮想化することで見えなくなる部分もあります。だからこそ、見えるようにすることが重要になってきます。そのために今回富士通で「ServerView Resource Orchestrator」という管理製品を投入しました。これは、サーバ、ネットワーク、ストレージを含めて仮想リソースをプール化し、それぞれをプロビジョニングするためのツールになります。今後は、この上にポリシーを適用して運用できるようなツールを作って行きたいと考えています。
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富士通 プラットフォームソフトウェア事業本部 第二プラットフォームソフトウェア事業部 プロジェクト部長 松本一志氏 |
一方、仮想化やITのリソース化を進めると、物理的なIT機器の管理がさらに重要性を帯びてきます。特に仮想化環境の基盤ともいえるストレージでは、その信頼性や可用性の確保がITリソース全体の運用を左右することになります。富士通のストレージ管理ソフトウェアである「ETERNUS SF Storage Cruiser」では、ストレージ、SAN、サーバ、仮想マシンの関係を可視化することによって、この新たな管理課題に対応しています。ストレージ装置の故障箇所をグラフィカルに表示するとともに、その故障によってどの仮想マシンが影響を受けるかが瞬時に分かるようになっています。
障害に至らずとも、IT運用担当者にとってはサービスレベル確保の一環として、確実な性能監視が求められるようになってきます。ETERNUS SF Storage Cruiserでは、しきい値を事前に設定することで、この値を超えた性能問題の発生を検出し、性能トラブルの予兆を把握できます。また、「コンディションレポート」というレポートの表示で、問題の解決案を提示することができ、迅速な事前の問題解決を助けています。
――つまり、従来からあるハードウェア管理はますます重要ではあるが、ITをサービスとして提供するには、物理的なストレージ容量やスループットを論理的な「リソース」という形に構成して、提供できなければならないということですよね。
松本 これまでは、サーバ管理ソフト、ストレージ管理ソフト、ネットワーク管理ソフトが合わされば、リソース管理が一応成り立っていました。これからはそういう時代ではありません。管理ソフトと業務ソフトとを融合しないと、サービスとして管理ができません。富士通では、管理製品における従来のレイヤ分けを融合して、Systemwalker、Resource Orchestrator、そして既存の管理ツールを組み合わせています。どんな時代になっても、それぞれが見える化・標準化のための部品として機能できるようにしています。
こうした動きの集大成ともいえるのが課金管理です。一部の大規模企業では、グループ内の企業への共用ITインフラ提供に際し、各企業に提供するサービスレベルやリソースの利用量に応じた課金を行う仕組みへの移行が真剣に検討されています。すでに申し上げたような管理ソフトの融合、それによる物理、仮想双方における「見える化」「標準化」「自動化」の実現によって、サービスとしてのITと、その裏付けとなる課金管理が実現します。
――特に攻めのITの時に、いわゆるクラウド的な動きをすると、運用管理の役割もやり方も変わってくる気がします。従来は管理者が楽をするのはいけないことのように言われてきましたが、管理者が楽をすることがいいといえる時代が来たと思います。管理ツールも進化し、ITシステムをポリシー的に管理できるようになった。よりレベルの高い運用管理ができるようなチャンスが生まれてきているように思います。
荒木 以前から、ストレージ統合やバックアップの自動化によって運用管理は楽になるので、人的資源を、今後の投資のための企画や調査など、新たな前向きな作業に振り向けていきましょうと、提案してきました。クラウド環境でも、物理・仮想のリソース管理が、自動化によって楽になります。ではITを活用して、次の経営にどんな価値を生み出せるか。企業価値をどんどん上げていくための活動にITを使っていく。それは情報システム部門の1つの強みでもあります。企業活動の中で今までの情報システムに蓄えられてきたデータと新しいデータをどう分析して企業活動に役立てるか、そのためのITシステムは何かを今後に向けて考えていくことが必要な時期に来ていると思います。
――改めて、これからの企業ITに求められるものと富士通が提供できるものについて、聞かせてください。
荒木 私は、富士通のストレージ事業におけるクラウド対応とは、「見える化」「標準化」「自動化」をキーに、従来のシステム管理と全く変わってしまうのではなく、従来のものは踏襲しながら、新しい機能要件に対応する製品を提供する、ということだと考えています。ハードウェアを開発しているため、ITをリソースとして利用する動きが今後さらに強まっていく際に、より深いレベルの管理・連携を提供することができます。その上で、コンサルティングや構築サービスの中でカスタマイズにも対応していく取り組みを進めて行きたいと考えています。
松本 いままではリソース管理にしても運用管理にしても、ハードウェアを管理すれば済んでいたのですが、今後はハードとソフトをどうやって融合していくかという、本来のソフトウェアの仕事も引き受けなければなりません。この視点を取り入れて、メインフレームで培った技術を応用していきます。さらに、単純な仮想化・統合の上を目指しているお客様には、そうしたニーズに合ったものを提供します。企業内では、いろいろな部門の人たちがいろいろな考え方を持っています。すると、古いものも動くし新しいものも動く、といった形のシステムが求められます。その場合もシステム間で情報を連携できる、そういったものを提供します。オープンの世界では、富士通だけでやっていくのは難しいため、標準化団体を通じた標準化作業を併せてやっていきます。1つの方向性として、メインフレームでできたことをオープンの世界でもやるというのは大きな指標であり、これに必要な経験を持つベンダは非常に少数です。当社の経験を着実に生かしていきたいと思います。
岡安 私は、一言でいうと、クラウド環境におけるストレージ運用には、にんべんの付く「自働化」が必要だと考えます。一般的に、クラウドの運用とは、全部オートマチックで、システム管理に関するモノ・コトが自動化できるようになることと期待されております。自動化に至るプロセスには、運用ポリシー管理の設定「見える化」、お客様のさまざまなノウハウ、智恵をシステムの中に取り入れるための「標準化」が必要です。いわばお客様の知恵とシステムが一体となった自働化、人の知恵が入って初めて成り立つ自働化が、私のいま思っているクラウド環境におけるストレージ運用のあり方なのではないかと思っています。人が入ることでいろんな細かいことができ、モニタリングした後、監視をして判断できる。どう判断してどう動かすかについては、まだまだ人の知恵が必要になります。お客様に、製品を提供した後も、お客様の満足を得るために、クラウド環境におけるストレージ運用機能の強化、ETERNUSのアシスト機能を強化し続けていく必要がある。我々の経験も含めた色々な意味での人の知恵を、これまで同様、ETERNUSに取り入れていくことで、お客様に満足頂けるストレージに仕上げていく。そういった意識でやっています。
企業ITのプライベートクラウド化は、サーバ仮想化をあらゆるシステムに適用するとか、ITを画一的なインフラに統一するということではない。サーバ仮想化はあくまでもツールであり、最終的には個々の企業や企業グループにおけるITニーズに対して、ITをどこまで最適化できるかということが目標になる。それを担保するのがITのサービス化という考え方であり、さらに具体的には課金管理のような仕組みだ。
一方で、ユーザー企業それぞれにITシステムの規模、ビジネス戦略、社内における業務部門とIT部門の間の関係など、理想どおりには進められないさまざまな現実がある。
富士通は、ハードウェアおよびソフトウェア、そして管理ツールを組み合わせ、さらにコンサルティングサービスを踏まえて、顧客それぞれのITの実情に合わせたオーダーメイドのプライベートクラウド環境構築を提案していくという。
どこまでこれが可能なのか。今後増えていくであろうさまざまな事例により、明らかになっていくだろう。
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2011年3月22日
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