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サーバ仮想化の代表的製品である「VMware vSphere」は、国内で大きな広がりを見せている。中堅以上の規模の企業や組織では、もはやVMware vSphereの導入は珍しいことではない。しかし、富士通株式会社 プラットフォーム技術本部 プロダクトソリューション技術統括部の土村忠生氏は、必ずしも理想的な状況ではないと警鐘を鳴らす。土村氏は、技術検証から顧客提案まで、VMware vSphereのさまざまな側面に過去約6年にわたって関わってきた。いわばVMwareに関するエキスパートである同氏が危惧しているのは、「仮想化のサイロ化」現象だ。
サーバ仮想化を導入しているといっても、業務システム単位での導入が多い。ある業務システムのハードウェアが更改を迎えるタイミングで、物理サーバを仮想化することは非常によくみられるようになった。もちろんそれでも、部分的なサーバ統合によるサーバ台数の削減、システムの延命やメンテナンス環境の改善といったメリットはある。しかし、このように業務システム単位でばらばらに構築された「仮想化の島」の数を増やしていくだけでは、サーバ仮想化の恩恵が非常に限定されてしまうというのが土村氏の指摘だ。
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富士通株式会社 |
業務システムごとの仮想化環境への移行は実行しやすい。社内の情報システム部門と複数の事業部門の間の面倒な調整の必要がないし、予算も従来どおりの方法で確保できるからだ。しかし、仮想化の基盤をつくってその上に仮想化するシステムを集めていくことでこそ、柔軟かつ効率的な運用が実現できる。統合仮想化基盤の構築を進めないかぎり、最終的に企業として目指すべき全体最適にはつながらない。
土村氏は、社内合意のプロセスとしてまずは、次のようなアプローチをとるべきだと提言する。
まず、情報システム部門が自らコントロールしているシステムを仮想化基盤に統合して、コスト削減効果を取りまとめ報告する。これに基づいて経営層に、事業部門のシステムを広くこの仮想化基盤に統合する流れをつくってもらう。または当初から、コスト削減やビジネスの俊敏性にかかわるメリットを経営層に理解してもらい、下におろしてもらう。全社的な観点で最適化を進めるためには、企業の上層部の関与が欠かせないと土村氏はいう。
現状でよく見られるサイロ的な仮想化導入は、サーバ仮想化やサーバ、ストレージのポテンシャルを生かすことができないという点で、逆効果を生む可能性すらある。「サーバを仮想化すればコスト削減になるはずなのに、ソフトウェアやハードウェアに金がかかって思ったほど安上がりにならないではないか」という声が出てくるからだ。しかし、VMware vSphereは単純なサーバ仮想化ソフトウェアではなく、仮想統合基盤の構築・運用ソフトウェアだ。また、例えば富士通が提供しているサーバやストレージも、これを使って仮想統合を進めることで、本来のメリットが出せる。
では具体的に、VMware vSphereはどこが単なる仮想化ソフトウェアではないのか、どういった使い方をすべきなのか。土村氏は以下を指摘した。
ユーザーが制御できる自動化
VMware vSphereがほかの仮想化ソフトウェアとまったく異なるのは、ITインフラの運用を自動化し、業務ニーズに直結させるための機能を多数搭載している点だ。「VMware vSphere Distributed Resource Scheduler(DRS)」は、その代表格ともいえる。
DRSは、物理サーバの負荷に応じて、その上で動作している仮想マシンの一部を、他のサーバに自動的に移動する機能。CPU やメモリの利用負荷が事前設定のしきい値を超えると、VMwareのライブマイグレーション機能であるVMware vSphere vMotionが起動し、物理サーバのリソース利用量を見ながら、仮想マシンが負荷の少ない物理サーバに移動する。これにより、物理サーバ間で負荷が平準化する。仮想マシンごとに性能管理を行う必要がなくなる。
土村氏はこの機能を使いこなしている例として、ベネッセ・グループの情報システム企業であるシンフォームを挙げる。
シンフォームでは、業務の一部として、ベネッセの雑誌などに連動するWebサイトのためのITインフラを提供している。シンフォームでは、vSphere上に月あたり最大で約80台の仮想マシンを提供する作業を行っているという。同社では合計で約1200台の物理サーバがあり、その80%について仮想化を進めている。これだけの数になってくると、仮想マシンをそれぞれ管理するのは不可能であるため、DRSを使って自動最適化している。ちなみに同社は、仮想マシンの配布の仕組みを、GUIではなくスクリプトで組んでいるという。
vMotionと再起動型HA機能であるVMware vSphere HAは自然に使っている人が多いが、DRSになると、仮想マシンが自動的にサーバ間を移動することへの不安や従来の構成管理との兼ね合いから、利用ユーザーはまだ多くないと土村氏は指摘する。しかし、DRSという機能がよく理解されていないことが、その一因になっているのではないかという。
まずDRSでは、物理サーバ群をグループ化し、特定の仮想マシンをこの中でのみ移動させるような設定が可能だ。すなわちDRSを使うことが仮想マシンの運用をvSphereに完全にまかせてしまうということにはならない。運用ポリシーを明確に反映できるようになっている。
とはいえ、DRSは各仮想マシンのメモリとCPUしか見ていないという弱点はある。例えば狭いネットワーク環境の中、DRSで移動した先で、たまたまネットワーク負荷が高い仮想マシンが集中してしまったらどうなるのか。重要な業務システムのサービスレベルが保てない危険性がある。そこでヴイエムウェアでは、「Network I/O Control」「Storage I/O Control」の2つの機能を提供している。各仮想マシンに対して、物理サーバ上でのネットワーク利用帯域、ストレージI/O帯域の優先度を割り当て、適用できる。これにより、「DRSを使うとサービスレベルが保てる保証がなくなる」という心配を回避できる。
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vMotion、DRSとNetwork I/O Control、Storage I/O Controlを組み合わせることで、アプリケーションのサービスレベルを確保しながら、仮想化を最大限に活用して効率的な運用ができる |
DRSに関連して、VMware vSphereの大きな特徴となっている機能に、「Storage vMotion」「Storage DRS」がある。文字どおりvMotionとDRSのストレージ版だ。ストレージI/Oの負荷が高まると、仮想マシン上の業務アプリケーションのトラブルが起こりやすくなるが、これを未然に防ぐ効果がある。もちろん仮想化基盤の利用が拡大し、ストレージ容量が足りなくなってくると、ストレージ装置の機能でオンライン容量拡張を行うか、ストレージ装置のきょう体を追加することになるが、特にきょう体追加の際にはStorage
DRSを使うと、自動的に仮想ディスクを再配置してくれ、人手で対応するよりもミスなく最適化が図れる。
さらに関連して、非常に便利なのは、VMware vSphere 5の新機能である「Profile-driven Storage」だ。これはストレージ・ボリュームに対し、ディスク冗長度の設定(RAID構成)、性能特性(ディスク回転数やデータ転送性能を意識した設定)などのサービスレベルに応じて「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」などのタグを付けられるというもの。これを設定しておけば、仮想マシンの作成者が、新規に作成する仮想マシンに「ゴールド」のサービスレベルを指定するだけで、ゴールドレベルのストレージ(データストア)にこの仮想マシンが作成される。業務アプリケーションの設計者とITインフラのオペレータがいちいち調整しなくても、運用レベルについての理解を合致させたうえで、ほとんど自動的にこれを確保できる。
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ストレージボリュームをサービスレベルに応じて「Gold」「Silver」「Bronze」のタグをつけておくと、仮想マシン作成時にいずれかのタグを指定するだけで、該当するボリュームにこの仮想マシンが配置される |
仮想統合の実現に役立つ機能として、ぜひとも紹介しておきたいのが分散仮想スイッチの「vSphere Distributed Switch(vDS)」。vSphereでは一般的に、各仮想化ホスト(物理サーバ)が仮想スイッチを持ち、仮想マシンの通信を制御するが、vDSでは、この仮想スイッチを複数サーバにまたがって構成できる。大規模環境での仮想ネットワーク管理を一元化できる。
実は、vDSには「プライベートVLAN」という機能がある。これを使うと、部門やグループ企業などを1つの仮想化基盤に統合する際に、同じネットワークセグメント内でのセキュリティが確保できる。vDSにはさらに、負荷分散に関する機能も保持している。ある仮想マシンが大量にネットワークを使う場合に、同一物理サーバ上でNIC Teamingを構成し、送出トラフィックの物理NICへの割り当てを動的に変更することができる(Load Based Teaming)。
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vSphere Distributed Switch(分散仮想スイッチ)では、仮想化環境のネットワークを一元管理するとともに、プライベートVLANでこれを論理的に分割し、相互の通信を制限できる |
仮想化ソフトフェアがITインフラの運用自動化に貢献しても、仮想化ソフトウェア自体の管理負荷が増大するのでは本末転倒だ。こうした懸念を払しょくする機能として、vSphere 5には「Auto Deploy」が加わった。
Auto Deployでは、VMware vSphere ESXi(ESXi)を自動展開できる。マスターとなるESXiを作り、新規物理サーバをネットワークブートするだけだ。新規インストール時だけでなく、パッチについてもマスターに適用し、まずは1台に当ててみて、問題がなければサーバ機を順次リブートするだけで、自動的に適用される。バージョンアップもまったく同じ手順で、サーバ数が膨大であってもほとんど自動的に実行できる。
関連して、VMware vSphere 4から「ホストプロファイル」という機能が備わっている。仮想ネットワークスイッチの設定など、ESXiサーバの設定情報をプロファイルとして保持しておき、この設定情報を配布することにより設定を自動化するというものだ。富士通のサーバには、ESXi ソフトウェアをフラッシュメモリに格納した「インストールタイプ」があるが、これを起動してホストプロファイルを適用すれば、即座に稼働を開始できる。前述のAuto Deployとの併用も可能だ。
富士通では、上述のようなVMware vSphereの機能を最大限に生かすべく、関連製品を開発、提供している。
富士通のサーバでは「インストールタイプ」を用意していることに加え、「Cloud Ready Blocks」というサーバとストレージ込みのパッケージを提供。VMware vSphere 4対応版を販売しているのに加え、vSphere 5対応版を開発中だ。富士通サーバ「PRIMERGY」のラックマウント製品「RX300」「RX600」は、ヴイエムウェアの最新仮想化環境ベンチマーク「VMmark 2.1」で、どちらもCPUコア数別にナンバーワンのスコアを達成し、その結果を公開している。基幹IAサーバの「PRIMEQUEST」は米ヴイエムウェアのvSphere製品開発において活用されている。
富士通ストレージの「ETERNUS DXシリーズ」ではVAAI(vStorage APIs for Array Integration)、VASA(vStorage APIs for Storage Awareness)といったVMware vSphereのストレージ管理APIに対応し、ETERNUX DXシリーズの持つコピー機能やThin Provisioning機能などとvSphereがシームレスに連携し、vSphereの機能を活かせるようになっている。もちろんその前提ともいえる安定稼働や柔軟な拡張性は、富士通のDNAだ。クラウドミドルウェアの「ServerView Resource Orchestrator」は、VMware vSphereの管理ツールを補完し、システム運用の可視化や自動化を実現している。
仮想化システムの活用ができる
これまで、VMware vSphereに特徴的な機能を、相互の関連性を含めて紹介してきた。土村氏は、まさにこの機能間の相乗効果を強調する。「この機能は使う、これは使わないと選択していくと、その機能だけの部分最適になってしまう。1つの機能だけでなく、別の機能と組み合わせて使うことで、運用の流れに沿った効率化が図れる。機能が有機的に結合することにより、お客様に最適な運用を実現できる」と話す。
仮想統合を進めていくと、物理資源の追加はいつか必ず必要になる。その際にAuto Deployのような機能があれば、即座にインフラを、ミスなく安心して拡張できる。DRSが有効になっていれば、Auto Deployで用意された新規物理サーバに対し、既存の仮想マシンが自動的に再配置される。仮想マシンを新たにつくるときには、テンプレート機能を使えば迅速だ。それだけでなく、Profile driven Storageを有効にしておけば、望むサービスレベルのストレージ装置に自動的に作られる。その仮想マシンを稼働しているサーバ機に障害が発生すると、VMware HAで別のサーバに自動的に配置される。障害が発生していたサーバが復旧してくれば、DRSでまた元に戻る。こうすることで、サービスレベルはもちろんのこと、サーバの統合率も飛躍的に向上する。
「つまり、お客様は最初の設計の部分をしっかり考えておけば良い。サービスレベルはこういう風に構成したいと事前に設計を決めておけば、運用ではこれにのっとってvSphereが自動的にハンドリングしてくれる」。
サーバをシステムごとに仮想化しただけでとどまることなく、これを仮想化IT基盤として育て、機能させてこそ、VMware vSphereで社内ITを改善することにつながるのだと土村氏は強調する。すなわち仮想化の第2ステージとは、単純に仮想化をしただけで満足しない、あるいはあきらめないところから始まるといえそうだ。
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2012年02月29日
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