「ファイルサーバー、小型NASは安いのを選べ」 本当にそれでいい?
2011/2/9
ファイルサーバー、または小型NASがさまざまな場所で便利に使われているが、製品選択では「価格の安いものを買う」というケースが多いようだ。値段が安くなりやすいのはLinuxをベースとしたNAS製品だが、それだけでLinux搭載NASを選ぶのはもったいない、と専門家は警鐘を鳴らしている。
LAN対応ハードディスク、あるいは小型NASが人気だ。個人やSOHOだけでなく、大容量ストレージを導入済みの中堅・大規模企業でも、業務部署からIT部門にいたるまで、便利なデータ保存ツールとして活用されている。
だが、NEC ラーニングの人気講師でMicrosoft MVPの吉田薫氏は、小型NASを値段だけで選んでいる人が多く、これはもったいないことだという。小型NASは現在、大まかに分けて、LinuxをOSとしたものと、Windows ServerをベースとしたWindows Storage Serverを使ったものとの2種類が出回っている。価格で選ぶと若干の違いでLinux OSのものに軍配が上がることが多い。もちろんそれでいい場合もあるが、性能的には圧倒的な違いが出ることは認識しておくべきだという。
数字で示された圧倒的なパフォーマンスの違い
ここに小型NASのパフォーマンステストの結果がある。Windows Storage Server 2008 R2搭載NASおよびWindows Storage Server 2003 R2搭載NAS、そしてLinux OS搭載NASの3機種を比較したベンチマークテストである。
このテストではまず、1台のWindows 7 PCからNASに対し100KBファイル×40,000個、10MBファイル×400個、1GBファイル×4個、計約12GBをXCOPYで一度にコピーする処理に掛かる時間を調べた。
結果は非常に面白い。Windows Storage Server 2008 R2搭載NASは17分28秒でコピーが終了した。これに対し、Windows Server 2003 R2搭載機では41分21秒と2倍以上の時間が必要だった。さらにLinux搭載NASでは9時間38分5秒。つまり、Windows Storage Server 2008 R2搭載機に比べ、30倍以上もの時間が掛かったことになる。Windows Storage Server 2003 R2搭載機と比べても、約14倍の時間が掛かっている。1、2倍ならまだしも、これだけの開きが出てくると仕事で使う際のストレスがまったく違ってくる。
もう1つのテスト結果を紹介しよう。今度は5台のWindows 7 PCから、先ほどと同様に100KBファイル×40,000個、10MBファイル×400個、1GBファイル×4個、計約12GBをXCOPYで一斉にコピーする処理に掛かる時間を調べた。
結果としては、Windows Storage Server 2008 R2搭載NASは45分35秒ですべてのコピーが終了した。これに対し、Windows Storage Server 2003 R2搭載機では2時間42分35秒掛かった。Linux搭載NASでは43時間33分48秒だった。Windows Storage Server 2008 R2搭載機に比べて約57倍、Windows Storage Server 2003 R2搭載機と比べて約16倍の時間が掛かった計算になり、1台の場合よりも差がさらに大きく開いた。
このパフォーマンスの違いはおもに、Windows環境におけるファイルの送受信で使われるプロトコルであるSMBの進化に起因すると、吉田氏は説明する。
Windows Serverでは、2008でSMB 2.0、2008 R2でSMB 2.1を搭載した。Windows Storage Serverは機能を主にファイルサービスに限定しているが、Windows Serverと同一のコードを用いているため、Windows Storage Server 2008 R2ではSMB 2.1を利用する。
SMB 2.0では、ネットワーク利用が全般的に改善したほか、複数のSMBリクエストを1つのネットワークリクエストとして送れるようになった。SMB 2.1では、SMBクライアントのファイルおよびメタデータの動的キャッシュ機能が改善し、ファイルのやり取りでネットワーク上を流れる必要のあるデータの量が減少した。これにより、ネットワーク帯域の消費が減少した。さらにMTUの拡大をサポートしたことで、10ギガビット・イーサネットなどの広帯域ネットワーク上のパフォーマンスが改善した。
「ファイルアクセスプロトコルで帯域の消費を減らすことができないと、特に複数クライアントとの通信を同時に行っている際に、TCP/IPレベルでの再送処理が発生しやすくなり、これがさらにパフォーマンスの足を引っぱることになる」と吉田氏は話す。つまり、どれだけ複数のリクエストをまとめ上げられるか、そしてキャッシュなどの利用によって、どれだけ実際のデータ転送量を抑えられるかが、ファイル転送のパフォーマンスを大きく左右するということだ。上述のSMB 2.1における動的キャッシュ機能の改善は、とりわけ小さなサイズのファイルに効くという。
Windows Storage Server 2008 R2は、Windows Server 2008 R2と同じコードであるため、ネイティブ64ビットOSのメリットを生かすことができる。そのうえでWindows Storage Server 2008 R2にはファイルサーバとしての独自のパフォーマンス・チューニングが施されている。これらの点も、上述のパフォーマンステスト結果の圧倒的な差となって現れると、吉田氏は指摘した。さらに、Linux OS搭載NASの場合、Active Directory連携もパフォーマンス低下の原因になるという。
なお、SMBはサーバ側とクライアント側双方のソフトウェアのバージョンに依存するので、NASにWindows Storage Server 2008 R2搭載機、クライアントにはWindows 7を利用した場合に、SMB 2.1による最高のパフォーマンスが得られる。クライアントがWindows Vistaの場合は、Vistaが搭載しているのはSMB 2.0であるため、Windows Storage Server 2008 R2搭載NASと組み合わせた場合にはSMB 2.0相当のパフォーマンスが得られる。今後のことを考えれば、急速に普及しているWindows 7は前提といっていいだろう。
以上から確実にいえるのは、多数のファイルを一度にまとめて送る必要のあるファイルのバックアップ、複数人で利用するファイルサーバーなどでは、Windows Storage Server 2008 R2やそのベースになるWindows Server 2008 R2製品が適しているということだ。
イザというときも安心なWindowsによるファイル管理
Linux OSを使ったNASはたしかに安い。だが、Windows Storage Server 2008 R2搭載のNASとの価格差は大きくない。Windows Serverというと「クライアントライセンスが必要なんじゃないの?」と言う人がいるが、Windows Storage Serverではまったく不要だ。NAS本体以外のコストは掛からない。
この多少の価格差をどう考えるか。圧倒的なパフォーマンスの違いは、仕事の生産性に直結する。製品価格をとるか、仕事の生産性をとるかという問題だろう。もう1つ、Windows Storage Server搭載NASについて考えるべきことは、イザというときに備える保険としてのWindowsのメリットだ。
Microsoft MVP 吉田薫氏
当たり前だが、Windows Storage Server 2008 R2搭載NASは、Windowsと同じ親しみやすさで管理ができる。これは瑣末(さまつ)なことではない。何かトラブルが発生したときに、Linuxでは手も足も出ない人が多いだろう。Linuxを知っている人でも、ファイルサーバのために細かな確認作業や設定変更をするのはいやだという人は多いはずだ。
「Windows Storage Server 2008 R2搭載NASでは、最悪、ほかのWindowsマシンに持っていき、データを吸い出すことができる」(吉田氏)
日常の管理作業も非常に柔軟に行える。リモート・デスクトップ・プロトコル(RDP)を使った管理ができるので、PCはもちろん、iPadなどを使って日常の運用や確認作業が可能だ。また、より大規模なIT環境でMicrosoft System Centerを導入しているのであれば、Windows Storage Server 2008 R2搭載NASに管理エージェントをインストールすることで、一括管理の対象とすることができる。
企業の部門や支店などで使う場合は、Active Directoryとの強固な連携も見逃せないWindows Storage Server 2008 R2搭載NASは、読み取り専用ドメインコントローラとなることができる。これは、支店に設置したNASで、Active Directoryへのログオンを処理できることを意味する。いちいち本社などにWAN経由でログオンリクエストを送る必要がないので、エンドユーザーの利用環境を改善できる。「将来、BPOSのようなオンラインサービスを使いこなすには、Active Directory連携が不可欠。Linuxでも対応が見られるが、参照数やパフォーマンスの制限がある」と吉田氏はいう。
また、iSCSI対応のWindows Storage Server 2008 R2搭載NASは、ストレージ領域の一部に仮想ディスクを作成し、これに対してiSCSIでアクセスすることもできる。これは、Windows Server 2008 R2にもない機能である。ファイルサーバーとしてではなく、あたかもローカル接続のハードディスクのようも利用できるわけで、まさに、NASにとどまらない使い勝手が実現する。
もうひとつ、Windows Storage Server 2008 R2固有の機能として、シングル・インスタンス・ストレージ機能がある。シングル・インスタンス・ストレージ機能では、同一内容のファイルが複数保存されても、NASのストレージ領域は、単一のファイルサイズ分しか消費されずにすむ。「ISOイメージファイルや営業資料などの保存に便利」と吉田氏はいう。さらにBit Locker機能では、万が一悪意のある人が、NASのハードディスクを取り外して持ち去ったとしても、ディスク内のデータを読み出すことはできない。
安定したファイルサービス環境が欲しいなら
「Windows Serverは、Windows NTの頃からファイルサーバーとして使われてきた。長い歴史があるため、機能がしっかりしている」と吉田氏は話す。例えば、保存ファイルの特定のプロパティに応じて、暗号化するなどの処理が実行できる。ファイルスクリーニング機能では、業務に関係のない種類のファイルの保存を制限できる。各ユーザーの個人フォルダに容量制限をかけ、利用状況に応じてユーザーへの通知を行うことも可能だ。だれがどれくらいの容量を消費しているかを、簡単にレポートとして出力することもできる。
Windows Storage ServerはWindows Serverをファイルストレージ用にチューニングしたもの。だから、一部を除いて機能は共通だ。ファイル共有の規模が大きくなってきたり、より柔軟な運用が必要になってきたりした場合には、Windows Server 2008 R2に移行するという選択肢がある。最近では専用ストレージ装置もこぞって採用しているインテルXeonプロセッサーなどの最新CPUを搭載したサーバー機にWindows Server 2008 R2をインストールすれば、即座に高速なファイルサーバーが実現する。Active Directory連携は当然ながら完ぺきだ。管理は容易だし、前述のSMB 2.1によるファイル転送の大幅な高速化のメリットも、フルに活用することができる。導入規模によってはWindows Server 2008 R2 Foundationという選択肢も考えられる。
パフォーマンス、管理、セキュリティなど、さまざまな面で成熟したファイルサーバー機能を備えるWindows Storage Server 2008 R2搭載NASとWindows Server 2008 R2は、使えば使うほどメリットを生かせると吉田氏は強調する。だからこそ、何も考えずに多少の価格差を理由にNASを選んでしまうのはもったいないというのだ。
関連リンク
- Windows Storage Server 2008 R2関連情報
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2010年3月8日