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@IT > .NETエンタープライズ新時代 > 相対立するパラダイム 〜「Visual Studio Team Systemで実践するソフトウェアエンジニアリング」 |
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ソフトウェアプロジェクトには特有の不確実性があるため、タスクを正確に予測することは難しく、大きなばらつきが発生する可能性があります。ばらつきがあってもプラスマイナスの相殺でほぼ同じ結果になると誤解されがちです。しかし、ソフトウェアプロジェクトはタスクが互いに依存し合う長い連鎖で構成されるため、ばらつきが積み重なれば下流工程で遅れが生じます。(注u) 残念ながら、プロジェクトマネジメントについての定評ある知恵の多くは建設業界から来ています。建設業界では、設計のリスクは低く、設計コストは建築コストに比べて安く、できた部分から引き渡すということもほとんどありません(半分だけ仕上げた橋では渡れません)。このような形態のプロジェクトマネジメントでは、最初にエンジニアリング設計を決定し、その設計を基に入念にタスクを割り出し、依存関係や確保できるリソースに基づいて各タスクにスケジュールとリソースを割り当て、各タスクの完了具合(達成率)を確認しながらプロジェクトの進行を管理します。便宜上、ここではこのようなプロジェクトマネジメント手法を「ワークダウン(順次終わらせる)」手法と呼びます。リスト内のタスクを1つずつ消していくイメージです。 ワークダウン手法が適しているエンジニアリングプロジェクトとは、リスクが低く、 計画のばらつきが少なく、設計が理解されやすいプロジェクトです。たとえば多くのITプロジェクトは、基幹業務ソフトなどの既存のCOTS(commercial-off-theshelf :商用既製品)ソフトウェアをカスタマイズする作業です。このようなプロジェクトでは多くの場合、プロジェクトにおいて開発作業が占める割合は、業務分析やプロジェクトマネジメント、テスト作業に比べて小さくなります。一般に、このようなプロジェクトは新規開発プロジェクトほどの高い可変度はなく、道路や橋の建設で培われた手法を適用してもうまく適合します。 1992年以降(注1)、ソフトウェアプロセスにワークダウン手法を適用することの難しさが明らかになりました。その代わりとして広がりつつある新しいパラダイムを一言で表すことはできませんが、ここでは「バリューアップ」手法と呼ぶことにします。他の新しいパラダイムの例にもれず、バリューアップの考え方は突発的に登場しました(図1-2 を参照)。 図1-2 ワークダウン手法とバリューアップ手法では測定基準が異なる。ワークダウン手法では、プロジェクトを何らかのコストを投入して達成すべきタスクの固定的集合と見なし、それらのタスクのコストを測定する。バリューアップ手法では、各時点での提供価値を測定し、入力情報を固定的集合ではなく可変フローと見なす。 バリューアップ手法の考えの1つが、アジャイルプロジェクトマネジメント宣言である「相互依存宣言(Declaration of Interdependence)」です。(注o) この宣言では、以下の6つの原則でバリューアップ手法を表しています。 ■ 継続する価値フローを重視することによって投資収益率を上げる。 ■ 顧客との密接な対話およびオーナーシップの共有によって、信頼性の高い結果を提供する。 ■ 不確実性を想定し、反復、予想、適応によってこれに対処する。 ■ 究極の価値の源泉は個人にあることを認識し、個人が力を出せる環境を構築することで創造性と革新を生み出す。 ■ 結果に対するグループの責務およびチームの実効性に対する責任を共有することでパフォーマンスを促進する。 ■ 状況に応じた戦略、プロセス、および実践を通して、効率と信頼性を向上させる。 この原則の背景には、作業の進め方に対するワークダウン手法とバリューアップ手法の考え方の大きな違いがあります。この違いについて、次の表1-1に示します。 ▼表1-1 ワークダウン手法とバリューアップ手法の考え方の違い
(注u) ばらつきと依存事項の相互作用による負の影響は、制約理論の中核である。たとえば次の書籍を参照。 Eliyahu M. Goldratt, The Goal (North River Press, 1986). 【邦訳】『ザ・ゴール― 企業の究極の目的とは何か』三本木亮訳(ダイヤモンド社、2001 年) (注1)ここでバリューアップ手法と呼んでいる手法を最初に大きく取り上げたのは、次の書籍である。 Gerald M. Weinberg, Quality Software Management, Volume I: Systems Thinking (New York: Dorset House, 1992). 【邦訳】『ワインバーグのシステム思考法― ソフトウェア文化を創る(1)』大野徇郎訳(共立出版、1994 年) (注o)アジャイルプロジェクト宣言についてはhttp://www.pmdoi.org/を参照。これもバリューアップ手法の一例である。
提供:マイクロソフト株式会社
企画:アイティメディア 営業局 制作:@IT編集部 掲載内容有効期限:2007年6月29日 |
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