アプリ開発者が本気でレビュー!
【レビュー】月額980円、さくらのVPSは使えるか!?
2010/9/14
日本のホスティング業界の草分け、さくらインターネットが、ついにVPSサービスを開始した。月額980円でroot権限あり、メモリ512MB、HDD 20GBという非常に気になるスペックだ。果たして使い勝手はどうか? この記事では、ベータ版を利用した2人の方にレビューをご寄稿いただいた。
まずは、おさらい。さくらのVPSとは?
まず、簡単にサービス概要を整理しておこう。2010年9月1日に提供が開始された「さくらのVPS」は、仮想化技術を使ったVPS(仮想専用サーバ)サービスだ。物理サーバはクアッドコアXeon搭載機で、Linux OS上にKVMで完全仮想化された環境を構築しているという。1つの物理サーバを複数人で利用するという意味では共用サーバと似ているが、仮想化により各インスタンスのOSは隔離されていて、それぞれのユーザーはroot権限を持つことができる。このため、ニーズに合わせて自由度の高いカスタマイズができる。
各インスタンスには512MBのメモリと2GBのスワップ領域があり、HDDは20GB。回線は100Mbps共有回線となっていて、IPアドレスが1個付与される。
さくらのVPS980 サービス概要 | |||
---|---|---|---|
月額 | 980円 |
データ転送量 |
無制限 |
メモリ | 512MB |
管理者権限 |
root権限付与 |
HDD | 20GB |
リモートログイン |
SSH |
回線 | 100Mbps共有回線 |
OS再インストール |
コントロールパネルから可能 |
OS | CentOS 5 |
仮想化技術 |
KVMによる完全仮想化 |
今回は、さくらのVPSにおいて、以下のような使い方を試してみた。
- 標準のCentOSと異なるOSをインストールしてみる
- mixi向けソーシャルアプリを置いてみる
レビューその1
DebianやGentooを入れてみる
柴田博志(twitter @hsbt) |
---|
「手順はやや面倒でも、任意のLinuxが使えて便利。遅延も10msecと海外VPSより快適です」 |
【プロフィール】永和システムマネジメント勤務。サービスプロバイディング事業部プログラマ。Ruby on Railsを使った業務システムの開発を担当するほか、個人ではRubyの地域ユーザー会、Asakusa.rbに所属したり、Web日記システム「tDiary」の開発を行うなど活発にコミュニティ関連の活動を行っている。品質管理学会 正会員。
私はRubyやRailsを用いたWebアプリ開発を生業としています。さくらのVPSが採用するCentOS 5.5は、Rubyのバージョンが1.8.5と古いことから、Railsを利用するには、環境の再構築が必要となってしまいます。そこで今回のレビューでは、CentOS以外のLinuxディストリビューションとして、私が勤める永和システムマネジメントのメンバーがよく選択しているDebian GNU/Linuxと、Gentooの2つのOSをインストールしてみました。
OSの再インストールは管理画面のシリアルコンソールで作業を行います。シリアルコンソールは、Webブラウザを閉じても管理ページを開くことで接続が再開されるため、何らかのネットワークトラブルが生じても安心して作業ができます。またこのシリアルコンソールは、万が一iptablesによるルーティング設定を誤ってsshでログインできなくなったような場合でも、あたかも端末の前に座っているかのようにサーバにログインして設定ファイルを書き換えるようなこともできるので安心です。
通常、DebianとGentooのどちらのOSもCDブートからインストールするのが一番ラクな手順ですが、VPS内の仮想環境でOSをインストールする際にはカーネルイメージを用いて起動するか、CDイメージをループバックマウントして起動する必要があります。最初私はGentooをインストールするためにループバックマウントを試みたのですが、これはうまくいきませんでした。さくらのVPSのCentOSが採用しているGRUB(ブートローダ)のバージョンは、CDイメージからのブートをサポートしていないためです。このため、Debianならネットワークブート用のカーネルイメージ、GentooならSystemRescueCdのカーネルイメージを利用する必要がありました。
実際のインストール作業では、パーティションの切り直しや、シリアルコンソール特有の設定といったことも必要です。ネットワーク設定についても、自分で調べた設定情報をメモしておき、再設定します。このように、それなりに別OSのインストールは手間がかかりますが、無事にDebian、Gentooともインストール、ブートまで確認できました。
さくらのVPSで、任意のLinuxが利用可能なことが分かりました。Ubuntuや、その他のOSもインストールできると思います。また、インストール中に設定を失敗し、OSがまったく起動しなくなった場合でも、管理画面の「OS再インストール」機能を用いることで、CentOSの初期状態へと戻せるのは安心材料のひとつです。実際、私は起動関連ファイル(grub.conf)にシリアルポート設定を書き忘れたために、2度ほどCentOSの「再インストール機能」のお世話になりました。
これまでVPSといえば、例えばアメリカの「Linode」が有名でした。OSの選択肢が豊富で、管理機能も優れています。ただ、メモリ512MBのインスタンスで19.95ドルと、さくらのVPSが出た今となっては少し高く感じられます。おおよそ、さくらのVPSは、Linodeのような米国VPSサービスの半分の価格です。
また、Webアプリを開発する上でネットワークのレイテンシも無視できません。Linodeを始めとする西海岸のVPSでは、pingのレスポンスでおおよそ100msec以上の値であるのに対して国内にサーバがあるさくらのVPSでは 10msecと、応答に10分の1の時間しかかかりません。ベータテスト期間中でユーザー数が少ないことも影響しているとは思いますが、ssh経由での端末操作でもストレスなく作業ができるのは、開発者にとって、とても魅力的な選択肢の1つです。
VPSを借りてWebアプリケーションを公開してみたいけど、英語は苦手、国内のVPSでも「CentOSはちょっとなあ」と感じているプログラマの皆さん、さくらのVPSで、ほかのOSをインストールして利用してみてはいかがでしょうか?
レビューその2
mixiアプリを置いてみる
荻野淳也(twitter @ogijun) |
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「国内SNS向けソーシャルアプリに有望な選択肢だ。上位仮想マシンの提供にも期待したい」 |
【プロフィール】300万人以上が登録する「マイミク通信簿」などのmixiアプリを中心にソーシャルアプリを提供する「空飛ぶ株式会社」に勤務するプログラマ。国内ハウジング、Amazon EC2/S3、VPS数社に加え自宅サーバまで、ハイブリッドに運用するインフラチームを結成しているつもりだがメンバーは1人……。お仲間募集中!
さくらのVPS(ベータ版)を試用する機会を得たので、さわってみた感触を簡単にレポートしたい。
さくらのVPSにデフォルトで入っているOSはCentOS 5.5、64bit系だ。iptablesなどは、すべて無効になっている。インストールされているrpmパッケージも素に近く、例えばApacheやPHP、MySQLなどは最初は入っていない。最近のサーバとしてはまっさらに近い状態だ。実際にサービスを稼働させるサーバとして使う場合、ある程度決まった設定が必要になるため、こうした割り切りは評価が分かれるところだろう。サーバ管理に慣れた人にとっては、素の状態に近いということはカスタマイズしやすい構成ともいえるのだが。
VPSサービスは申し込みから利用開始まで数分程度と手軽だ。一般論として、こうした機動性の高さから、VPSサービスをソーシャルアプリのプラットホームとして期待している人が多いだろう。さくらのVPSのメモリ512MBという容量は、一般的な用途には十分なものの、アクセスが集中する可能性のあるソーシャルアプリプラットホームとしては、やや力不足という感は否めない。今後、上位プランが整備され、8GB程度のメモリを搭載した仮想マシンが利用できるようになると期待したいところだ。もっとも、最初の一歩を踏み出すという意味では、ちょうどよい構成かもしれない。512MBとはいえ、好き勝手にいじくれるサーバが980円で国内に持てるのだから、これは魅力的だ。
いま「国内」と書いたが、これは重要な点だ。
これまで低価格VPSを求めて海外のサービスを利用していた方も多いだろう。海外VPSと比較して最も気になるのはやはり遅延だ。ここでは、実際のユースケースに近付けるために、簡単なアプリを書いて計測してみた。
アプリは、コンテナとしてmixiを利用し、外部サーバ呼び出しを認証付きで行う構成とした。外部サーバとして呼び出すのは、単に「OK」と出力するだけのプログラムである。この状態でリクエストにかかった時間を計測する。計測対象のサーバにアクセスしてくるのはmixiのプロキシサーバである。従ってmixiのサーバとネットワーク的に近い方が時間が短くなる。
比較対象として、ソーシャルアプリで比較的よく使われているであろうAmazon EC2のうち、日本に近いアメリカ西海岸で、さくらのVPSと同等の環境をセットアップした。さらに、私が普段利用しているさくらの専用サーバも実験に使ってみた。結果は以下の通りだ。
サービス | 遅延 |
---|---|
さくらのVPS980 |
30〜50msec |
Amazon EC2(US.West) |
200〜300msec |
さくらの専用サーバ |
50〜100msec |
簡単なベンチマークなので参考程度に見ていただきたいのだが、さくらのVPSは、予想以上に良い数字となった。やはり国内随一の老舗プロバイダが満を持して送り出しただけのことはある。太平洋を渡るアメリカ西海岸に置いてあるサーバに勝つのは当然としても、専用サーバよりも良い数字が出ている。
利用時の体感でも、総じてネットワーク環境は非常に良好と感じた。上記で実験した距離だけでなく、帯域もかなり太いようだ(ただし今回はまだベータ版サービスでのレビューであるので、正式サービス開始後に多くのユーザーが利用するようになったときどうなるかはまだ分からないが)。
このネットワーク環境がこのまま維持されるとしたら、メモリ容量や処理能力の大きい、より強力な仮想マシンの提供によって、国内各SNSプラットホーム上にソーシャルアプリを提供する際の選択肢としては非常に有望となるのではなかろうか。
全体的に、とても「さくらインターネットらしい」サービスだと感じた。同社の専用サーバを使い慣れている利用者であれば、使用感はほぼ想像通りと言っていいだろう。それでいて基本性能は申し分ないと思われる。個人的には、タイムゾーンの設定があらかじめJSTになっているところに、海外の低価格VPSにはない安心を感じた(笑)
初期費用無料で、すぐ始められる手軽さ
以上、2人のレビュワーによる評価から、さくらのVPSの使い勝手や可能性は、ある程度伝わったのではないだろうか。上位サービスや付加価値サービスなど、まだまだ今後に期待がかかるところではあるが、初期費用無料で、申し込めばすぐに使い始められる手軽さ。気になる読者は、まずは自分で試してみてはいかがだろうか?
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提供:さくらインターネット株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2010年9月30日