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@IT > Predictive Analyticsの中核を担うデータマイニング導入の手引き |
企画、制作:アットマーク・アイティ 営業企画局 掲載内容有効期限2004年4月30日 |
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「5年ほど前までは“データマイニング”という言葉すら通用しませんでした」
こう語るのはSPSS 上級副社長 村田悦子氏である。昨年米国本社が35周年を迎えたSPSSは同社のコア・コンピタンスとして「Predictive Analytics(あえて日本語訳すると予測分析、以下PA)」を定義し、このコンセプトの下に、製品の拡充を急いでいる。単なる分析ツールベンダとしてではなく、ビジネスの収益拡大に貢献するITインフラを提供するビジネス展開を狙っているのだ。 データマイニングそのものはすでに企業のマーケティング部門やリサーチ部門などで活用が広まってきているが、最近では、経営層においても興味・関心が高まっている。その背景には、他社との製品・サービスの差別化が容易ではなくなり、さらに経営環境の厳しさが増す中で、新たな競争力を獲得したい、という切なるニーズが見てとれる。 では、SPSSが提唱するPAを経営に取り入れる際に、具体的にどのような視点で検討をすればよいのだろうか。今回は、村田氏に以下のポイントについて話を伺った。
まず、図1の企業におけるデータとシステム導入目的をご覧いただきたい。企業が導入するシステムには3つのフェイズがあり、図1に示したようにその1つがPA(Predictive Analytics)である。
それぞれのフェイズが企業にもたらす価値は以下のように定義される。
この相関図を前提にして、村田氏は次のように語った。
「このPAの中核にあるのが“データマイニング”であり、企業システムのサイクルの中においては、人間でいえば“頭脳”の働きをするものといえます。そして、データマイニングの分析対象となるデータの入口がOSであり、分析するためのデータを収集・加工するのがBIのフェイズです。データマイニングで質の高いアウトプットを得るには、そのインプットとしてのデータの質も高めなければなりません。例えばOSやBIのフェイズを通じて蓄積された膨大なテキストデータは、これまで分析の対象にされてきませんでした。しかし、SPSSはそうしたデータも含めて分析することでより精度の高い分析結果が得られると考え、テキストマイニングツールの開発にも力を入れています」 さらに、SPSSがPAを提唱する本当の理由を語ってくれた。
「どんなにすばらしい分析結果が得られたところで、“よかったね”で終わらせてしまってはまったく意味がありません。PAの本当の価値は分析結果に基づき具体的な行動(施策に落とし込むこと)を起こさなければ生まれません。つまり、データマイニングの分析結果を現場の業務、すなわちOSに反映させることによってようやく企業の収益に貢献するものなのです。ですから、SPSSでは、単なる“分析のためのデータマイニング”としてではなく、“収益を向上させるためのデータマイニング”という位置付けでPAを導入していただきたいと考えています」(村田氏)
実際に、企業経営においてPAの中核機能であるデータマイニングはどう展開し、活用していくべきなのだろうか、という疑問に対し、村田氏からはさらに具体的な話を聞くことができた。
「データマイニングの活用方法としては、3つの切り口が考えられます。まず1つ目は“Insight”、つまりデータから新たな知見を得る、という活かし方です」(村田氏) 多種・多様で、かつ膨大なデータを分析することで、物事の本質をとらえ、客観的な判断の素材として活用するということだ。「ああ、そうか!」と思わずひざを叩きたくなるような気付きが得られるであろう。こうした新たな知見は、特に経営層にとってはとても重要だ。目先の改善ではなく、企業全体の方向性や仕組みを考え直すには非常に重要なヒントが隠されているからである。そもそも、多忙な経営層にとっては、細かいデータを1つ1つ検証している余裕などあるはずがない。であれば、データマイニングによって、そこに潜む新たなビジネスのヒントをピンポイントで提示できるということがどれほど価値のあることかはお分かりいただけるだろう。
「次に、“バッチ処理”、つまりデータマイニングによって導き出した分析モデル(ストリーム)を利用して分析を自動化し、またそれによって繰り返し分析する、という活かし方です」(村田氏) これは、実際に分析業務を担当するスタッフセクションである、マーケティング部門などが主役となる。マーケティング施策の結果をデータマイニングすることで、例えば、ダイレクトメールにおいて最大の反応率を得るターゲットを絞りこむための「反応率予測モデル」などを作成することができる。こうしたモデルを次のマーケティング施策に適用することで、より高い成果を得ることが可能になる。
「最後に、“リアルタイムなDeployment”、つまりデータマイニングによって得られた知見やモデルをしくみとして業務に一体化させる(OSに組み込む)、という活かし方です」(村田氏) これは、顧客と接する最前線の部門(コールセンターや店頭カウンターなど)がいわゆる“現場ユーザー”となる。現場ユーザーは、データマイニングによって作成された新たなモデル(例えば、金融業における与信審査ルールや保険業における解約防止プログラムなど)の存在を意識することなくシステムを利用することで、業務プロセスに組み込まれたデータ分析結果を間接的に利用し、高い成果を上げることができる。
PAを導入するということは、言い換えれば経営層からマーケティング部門、そして現場ユーザーまで、いわば全社的にデータマイニングを活用するという取り組みであるといえる。したがって、PAの導入を成功させるためには、全社一丸となった取り組みが必要となることはいうまでもない。しかし、いざ全社レベルで取り組もうとしても、そのハードルは往々にして高いはずである。というのも、経営層がデータマイニングの価値について懐疑的であったり、現場ユーザーが分析の必要性を認識していなかったりということが少なくないからだ。 そこで、こうした状況を乗り越え、PA導入を成功に導くためには、PAの価値を理解し、導入による成果が実を結ぶには相応の時間がかかることも理解したうえで、経営層〜現場ユーザーを巻き込むことができるようなPA導入のビジョンを繰り返し説得できるような人材が必要となる。SPSSでは、こうした人材を「スポンサー」あるいは「チャンピオン」と呼び、全力でバックアップしていくという。 村田氏は、PA導入の成否を分けるポイントについて次のように語った。
「企業経営にPAを定着することに成功している企業とそうでない企業の違いは、“覚悟”を決めて、施策に乗せるというような具体的なアクションを起こしているかどうかというところにあるようです。分析結果を出すところで満足しないで、その結果から導き出されたことをきちんと現場の業務に落とし込み、そしてまたその施策を評価・分析する、こうした繰り返しを根気よく続けることのできる企業が結果を出しています。例えば、事例探求シリーズでも第1回で取り上げたソフマップ様の事例などでは、データマイニングを導入して1年ちょっとでROI:300%というご報告をいただいています」 さらに、村田氏によれば、PAを成功に導くには次の3種類のキープレーヤーが必要になるという。
ユーザーとアナリストについてはすでにその役割はお分かりいただいているだろう。では、IT技術者の役割とは何か? いうまでもなく、分析用のデータを取得するという役割も大きいが、PAからOSへのつなぎ、つまり村田氏が述べている「具体的なアクションとして、PAから得たことをOSに落とし込む」際のOSにおけるシステム改善には欠かせない役割を担う。PAを成功させるには、ITインフラの管理者たるIT技術者が、ユーザー、アナリストとともに三位一体となってPAに取り組むことが求められる。
PA導入の際、どのようにツールを選定すべきかというポイントについても触れておこう。詳細については、村田氏が執筆した連載記事「マーケターのためのデータマイニング講座 第5章、ツール選びのポイント」を参照していただきたい。今回、村田氏がツール選定のポイントとして特に強調されていた“ツールのオープン性”について加筆しておく。 PAは分析結果を出すところで終わりではなく、現場の業務に戻すところまでを視野に入れている。このため、現場業務を支援する「OS」に対して、データマイニングから生み出されたモデルやルールを容易に組み込める必要がある。つまり、近年のLinux台頭に象徴されるように、さまざまなプラットフォーム上に多様なアプリケーションが混在するようなシステムが構築されていたとしても、OSやBIとの連携が実現されなければならない。 したがって、PAでは、システムの展開を容易するための“Enabling Technology(イネーブリング・テクノロジ)”を駆使した製品の拡充が望まれる。SPSSではこの点に着目し、データマイニングによって得られたモデルをほかのアプリケーションに組み込んで活用することができる「Clementine Solution Publisher」やプラットフォームに依存しないWebでの展開を可能にする「Cleo」など、次々に製品を開発している。こうした先を見越した製品開発にベンダが取り組んでいるかどうかもツール選定のポイントとなるだろう。 では、ツールを選定し、導入した際、PAの導入評価はどのように行えばよいのだろうか。これは経営者でなくとも気にかかるところである。この点について村田氏に尋ねたところ、次のような評価の枠組みに沿って実施してはどうか、という導入評価についてのヒントが返ってきた。
PAは全社的な取り組みであるとはいえ、導入の目的は企業内で置かれた立場によって微妙に異なるはずである。それぞれの目的がどの程度達成されているか、それらを個々に評価することによって導入効果を見極めればよいのではないだろうか。そして1度の評価によって成否を判断するのではなく、繰り返し評価することで、導入効果を高めていくような企業努力の継続も当然必要になってくる。
では、実際にツールを導入するにあたり、そのツールを提供するベンダに対して企業が期待できる役割とはどんなことだろうか? 村田氏は「それは、クライアントのパートナーとして、その企業のビジネス課題の解決に一緒に取り組めるかどうかですね」とずばり指摘する。これは、ツールの導入という一義的な目的ではなく、ビジネス課題の解決を前提としたツールの選定・導入を目的とすべき、ということである。この目的意識が揺らいでしまっては、ツールベンダとの関わりも表面的なもので終わってしまうことになる。 特に、PAを導入する際には、分析の専門家としてのアナリストだけでなく、全社的にデータ活用に取り組まなければならないため、データを活用するためのツールには高い操作性が求められる。GUIに優れていて単に使いやすいということだけでなく、操作方法の学習が容易であるかどうかも極めて重要なポイントだ。SPSSでは「スキル・トランスファー」というスタンスを持ち、ユーザーの分析スキルの向上にも力を入れている。そこには、ツールの操作や分析の手順を早く覚えてもらうことによって、実際の効果をできるだけ早く実感してもらいたい、という狙いもある。 実際、SPSSではPAの導入コンサルティングを行う場合、標準的な例でいえば、6カ月という導入期間のうち、最初の3カ月で導入成果をきちんと提示して社内の理解を得ることを目指し、残り3カ月はスキル・トランスファー期間として、分析スキルを社内ユーザーに対して確実に身につけてもらうそうだ。 さらに、PAのかかわる業務をアウトソーシングすることの是非についても村田氏に質問してみた。
「もちろん、PAにかかわる業務は、外部に委託することは可能です。理想をいえば、社内のリソースでまかなえれば言うことはありません。というのは、分析対象となるデータを正しく扱おうとすると、自社の業務や顧客に実際に触れ、データのもつ意味合いをちゃんと理解している当事者でなければ難しいからです」(村田氏)
村田氏によれば、SPSSは近年、製品開発における設計思想を大きく変えてきたという。以前のSPSSは、統計解析ツールのパイオニアであり、そうした専門分野の知識・スキルを持つアナリストに使ってもらえればよい、という考え方が強かったという。 しかし、それでは“分析のためのツール”という域を越えることはできない。そもそもビジネス課題の解決に十分に貢献できていないのではないか、ということに気付き、企業ユーザーにとって真に役に立つツールとして、「SPSSの製品はどうあるべきか」という発想が主流になってきたのだそうだ。 SPSSが提唱するPAは、そうした設計思想を具現化するためのコンセプト・製品群であり、単なる分析のためのツール群ではない。それは、あらゆる企業のビジネスの上流から下流に至るさまざまなユーザーニーズに応えるべく、これからも確実な進化を遂げていくはずである。
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