「Windows Azure」を運営するマイクロソフトでは、“クラウドOS”を製品・サービス開発のメインコンセプトに掲げている。“クラウドOS”とは一体何を意味しており、そしてそれらに基づいてどのような製品・サービス戦略を推し進めているのかを探る。
最近、「クラウドOS」という言葉をよく耳にするようになってきた。パブリッククラウドサービス「Windows Azure」を運営するマイクロソフトでも、現在このクラウドOSを製品・サービス開発のメインコンセプトに掲げているという。果たしてマイクロソフトが打ち出すこれらのコンセプトは一体何を意味しており、そしてそれらに基づいてどのような製品・サービス戦略を推し進めているのか。日本マイクロソフト サーバプラットフォームビジネス本部 本部長 吉川顕太郎氏に、Publickey編集長の新野淳一氏が話を聞いた。
新野氏 最近、多くのベンダが「クラウドOS」というキーワードを打ち出していますが、マイクロソフトが考えるクラウドOSのコンセプトについて、まず教えてください。
吉川氏 これまでのOSの役割は、“1台のコンピュータリソースを管理する点”にありました。一方、クラウドOSではその役割をデータセンターの範囲にまで押し広げて、“データセンター自体をあたかも1台のコンピュータであるかのように扱う”という考え方を指しています。さらにマイクロソフトが目指すクラウドOSでは、オンプレミス環境やデータセンター上のホスティング環境、さらにはパブリッククラウド環境など、データセンターをまたいだ複数の環境を1つにまとめて管理できるようになることも目指しています。
新野氏 つまり、クラウドOSというジャンルのソフトウェア製品が提供されるわけではなくて、あくまでもシステムアーキテクチャ全体のコンセプトを指す言葉なのですね。これまで「OS」という用語が指していたものとは、かなりイメージが異なります。
吉川氏 これを理解するには、マイクロソフト社内での製品開発スタイルの変遷を説明すると分かりやすいかもしれません。弊社ではこれまで、4、5年に一度のメジャーバージョンアップを目指して個々の製品の開発プロジェクトを進めてきましたが、今では自社で運営するパブリッククラウドサービスであるWindows Azureに対して週単位で小刻みに機能をリリースしています。その背景には、「まずはクラウドありき」という設計手法の転換があります。つまり、弊社がクラウドサービスの運用で培ってきた経験やノウハウを、随時オンプレミス製品の設計にフィードバックしているのです。初めから、クラウドでの利用を前提とした設計手法に変わったのです。
新野氏 なるほど。ということは、今ある製品が今後成熟していくにつれ、互いに連携して全体としてクラウドOSとして動くようになるということですね。
吉川氏 はい。このような開発スタイルによる最初の成果が、2012年9月にリリースしたWindows Server 2012でした。それまでは、“まずはオンプレミス製品を作って、それを使ってクラウドを運用する”という考え方でしたが、Windows Server 2012では逆に、Windows Azureで実装した機能を切り出してきて、Windows Server 2012というオンプレミス製品を作り上げました。Hyper-Vのスケーラビリティ向上などは、まさにWindows Azureでのノウハウが存分に生かされた結果です。
新野氏 一方で、マイクロソフトはハイブリッドクラウドというコンセプトも打ち出しています。先ほどのお話から察するに、クラウドOSを実現するためにクラウドサービスとオンプレミス製品の両方を提供することを「ハイブリッド」と表現しているのだと想像しているのですが。
吉川氏 お客さまのニーズやシステムの要件によっては、「クラウドには持っていけないシステム」もありますから、ケースバイケースでクラウドとオンプレミスの両方を自由に使い分けられることこそが、お客さまにとって最もメリットがあると考えています。ただし、異なる場所にシステムを展開した際に、開発手法や管理手法がまるっきり変わってしまうと、管理や開発に掛かるコストや工数が増え、またユーザーの使い勝手も悪くなってしまいます。従って、今までオンプレミス環境でやってきたことの延長線上に、クラウドのメリットを最大限享受できる世界を作っていきたいというのが、マイクロソフトが標榜しているハイブリッドクラウドのコンセプトです。
新野氏 例えば、これまでずっとVisual Studioを使ってオンプレミス向けアプリケーションを開発していたのに、クラウドになった途端に「別の開発ツールを使ってください」というわけにはいきませんよね。
吉川氏 それはあまりにも非現実的ですよね。ですから弊社では、Visual StudioにWindows Azure用のアドインを入れることで、必要最小限のコード修正で既存のアプリケーションをWindows Azure環境に移行できるようにしています。
新野氏 一般的にハイブリッドと言うと、オンプレミスとクラウドが混在した環境のことを指すのですが、マイクロソフトが考えるハイブリッドクラウドとは、その先にある「両者のシームレスな連携」までを視野に入れた考え方なのですね。
吉川氏 その通りです。オンプレミスとパブリッククラウドの単なる使い分けは、マイクロソフトが考えるハイブリッドではありません。そうではなく、“システムをどんな場所に展開しても、使い勝手や開発性、管理性、セキュリティに一貫性があり、ユーザーがシステムの展開先について一切意識せずに済むような世界”が、弊社が目指すハイブリッドです。恐らくそう遠くない将来には、“システムの要件に応じてプラットフォーム側が自動的に最適な展開先を判断してくれるような世界”が実現すると考えています。
新野氏 先ほどWindows Server 2012についてのお話がありましたが、その次期バージョンである「Windows Server 2012 R2」の年内リリースが予定されています。これまでうかがってきたクラウドOSやハイブリッドの戦略を担う上で重要な製品になると思いますが、どんな新機能が盛り込まれる予定なのでしょうか?
吉川氏 まず、ストレージ関連の機能が大幅に強化されています。昨年リリースしたWindows Server 2012では、新たに「記憶域スペース」という機能を搭載して、ストレージの仮想化とシンプロビジョニングをOSの機能だけで実現し、さらに重複除去の機能も併せて搭載しました。Windows Server 2012 R2ではこれらに加えて、「ストレージ階層化」の機能も新たに追加されます。従来はストレージ専用ハードウェアでしか実現できなかった機能ですが、これを汎用ハードウェアを使って低コストで実現できるようになります。
新野氏 仮想化やプライベートクラウドを導入した企業の多くが、ストレージコストの高さに頭を悩ませているようですが、汎用のサーバOSとハードウェアだけでこれだけのことができるようになれば、かなりインパクトは大きいでしょうね。
吉川氏 そうですね。これらのストレージ管理機能も、弊社がWindows Azureで培った技術をオンプレミス製品にフィードバックした成果です。クラウドでは、これまでのような高価なSANストレージではなく、汎用ハードウェアを多数並べることで冗長性を確保していますから、個々のハードウェアの構成は極めてシンプルで済むのです。事実、Windows Azureで使われているハードウェアは一切の無駄が省かれた、極めてシンプルな造りになっています。
新野氏 Hyper-Vの仮想化機能にも、何らかの機能強化が行われるのでしょうか。
吉川氏 はい。Windows Server 2012で新たに加わった「Hyper-Vレプリカ」は、OSの機能だけで仮想マシンのコピーが簡単に行えるので大変好評だったのですが、リリースから1年ほど経って、面白いことが分かりました。もともとHyper-Vレプリカは遠隔バックアップや災害対策の用途を想定していたのですが、多くのお客さまがローカル環境の可用性向上、つまり“フェイルオーバーの手段として使うケースが非常に多いこと”が分かったんです。そこでWindows Server 2012 R2のHyper-Vレプリカでは、仮想マシンとそのコピーとの間で同期を取る間隔を、これまでの5分間隔固定から、最小で30秒間隔まで短く設定できるようにして、よりフェイルオーバー用途で使いやすくしました。
新野氏 なるほど。ちなみに、ネットワーク仮想化に関しては何かトピックはあるのでしょうか? Windows Server 2012は、サーバ仮想化とストレージ仮想化の点ではかなり注目を集めていますが、ネットワーク仮想化については、これまであまりマイクロソフトから情報が発信されてこなかった印象があります。
吉川氏 実はWindows Server 2012では、ハイパーバイザの機能の一部としてネットワーク仮想化を実装しています。これも、もともとはWindows Azureで培った技術を切り出してきたもので、実績のある確かな機能なのですが、その価値をきちんとお客さまに伝えられていない面は確かにあるかもしれません。ただ、ハイパーバイザの仮想ネットワーク機能を使うというシナリオは、まだ一部の大手グローバル企業やデータセンター事業者に限られているのも事実です。今後、クラウドの普及がより進めば、より多くのお客さまにそのメリットを理解していただけるのではないかと考えています。
吉川氏 ここまで、主にWindows Serverに焦点を当ててお話ししてきましたが、クラウドOS実現のためにはSystem Center 2012 R2も同じぐらい重要度が高い製品だと考えています。弊社がWindows Azureの運用で得た知見は、Windows Serverだけでなく、System Centerにも数多く注ぎ込まれています。言ってみれば、Windows ServerとSystem Centerが手を組むことによって、ハイブリッドのシームレスな運用を支えていくというイメージですね。
新野氏 確かに運用管理の自動化などクラウド環境に欠かせない機能は、System Centerが主に担うことになりますからね。
吉川氏 はい。さらに言えば、Windows Azureの管理コンソールと同様のインターフェイスからオンプレミス環境やプライベートクラウドの管理を行うことができる「Windows Azure Pack」というツールも提供しています。
新野氏 これを使えば、ユーザーはWindows Azureのパブリッククラウド環境もオンプレミス環境も、シームレスに利用できるということでしょうか。
吉川氏 現時点ではまだ、Windows Azureの管理コンソールとWindows Azure Packの管理コンソールは別物なのですが、将来的には両者が融合していき、同じツールからオンプレミスもWindows Azureもシステム展開できるようにすることを目指しています。既にSystem Centerでは実現できていますから、きっと可能なはずです。また、サーバOSや管理ツール、開発ツールだけではなく、データベースソフトウェアについても弊社はクラウドOSのビジョンに沿った開発を進めています。現にSQL Server 2014は、Windows Azure上のリレーショナルデータベースサービス「Windows Azure SQL データベース」の開発と運用で得たノウハウを切り出して実装していくという開発スタイルを採っています。
新野氏 ということは、Windows Azureの機能進化をウォッチしていれば、オンプレミス製品の今後の進化の方向性も見えてくると言えそうですね。
吉川氏 そうかもしれません。実際、Windows Azureの機能実装の重点は、IaaSからPaaSに、さらにPaaSの中でもより上位のレイヤへと移ってきています。現在、Hadoopやモバイルサービス、HPC(High Performance Computing)などのクラウドサービス開発を進めていますが、もし「これらをぜひオンプレミス製品でも」という要望が出てくれば、やはりクラウドで培った技術を、オンプレミス製品へ切り出していくことになるかもしれません。
新野氏 それは楽しみですね。では最後にあらためて、クラウドOSやハイブリッドクラウドの実現に向けて、マイクロソフト製品が今後どのような方向に進化していくのか、教えていただけるでしょうか。
吉川氏 クラウドという技術はかなり普及してきましたが、そのメリットをさらにお客さまに享受していただくために、マイクロソフト製品は今後もコモディティ化によるコスト削減や構築のしやすさ、管理のしやすさを徹底的に追求していきます。まだまだ足りない面も多々あるのですが、課題を1つずつつぶしていき、最終的には各製品を連携することで「真の意味でシームレスなハイブリッド」が実現することを目指します。
新野氏 ありがとうございました。
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