設計・製造の現場において、デスクトップ仮想化(VDI)がもたらすメリットは大きい。サーバ向けGPUカード、およびデスクトップ仮想化ソフトウェアの最新機能を活用することで、3D CADのような高いグラフィック性能を求めるアプリケーションでも、デスクトップ仮想化の対象にできるようになってきた。これは大きな進化だ。
デスクトップ仮想化を通じて、GPUボードを複数ユーザーの間で共用できれば、CADやシミュレーションなどのソフトウェアを使った仕事のやり方を、大きく変えられる。設計・製造の現場で、これに気付いている人は多いはずだ。
デスクトップ仮想化(VDI)では、各ユーザーの使うデスクトップ環境を仮想マシンとしてサーバ側で動かし、これを画面転送で遠隔的に利用できる。ユーザーは、どこからでも、どの端末からでも、自分のデスクトップ環境にアクセスできる。つまり、より柔軟な働き方ができるようになる。プレゼンテーションや会議で作業中のデータを画面に表示して説明するなども、容易にできるようになる。管理する側にとっても、機密性の高いデータをユーザー側の端末に保存させない運用ができるなど、メリットが大きい。
だがこれまでは、3D CADなどの高度なグラフィック性能を求めるソフトウェアをデスクトップ仮想化で利用することは難しかった。サーバに搭載したGPUカードを、仮想デスクトップ環境で有効に利用する仕組みが、十分に進化していなかったからだ。
こうした状況が変わりつつある。デスクトップ仮想化に適した機能を備えるサーバ向けGPUカードが登場する一方、デスクトップ仮想化ソフトウェアのGPUカード利用機能も強化されつつあるのだ。
シスコは、同社のサーバ製品であるUnified Computing System(UCS)で、NVIDIAのサーバ向けGPUカード「GRID K1」「GRID K2」、VMware Horizon ViewのGPU共有機能、さらにCitrix XenDesktopが対応するGPU仮想化をいち早くサポートするなど、ワークスタイルの変革を、3D CADなどのツールを使う職種にも広げていこうとしている。
デスクトップ仮想化ソリューションにGPU共有やGPU仮想化という新たな武器が加わることのメリットを、ユーザー側と、管理者側の2つに分けて改めて整理してみよう。
まずユーザー側のメリットは何か。シスコの樋口美奈子氏(ソリューションズシステムズエンジニアリング、シニアシステムズエンジニア)は次のように語る。
「GPU共有やGPU仮想化のサポートにより、VDIのメリットを、デザイナーや部品設計者、機器設計者のようなCADユーザーにも提供できます。サテライトオフィスや在宅勤務のように遠隔地からCADを利用したり、タブレット端末を利用してモバイル環境でCADデータを閲覧することができます。このような、今までになかった可能性が開けてくるのです」(樋口氏)。
一方、シスコの中本滋之氏(ソリューションズシステムズエンジニアリング、シニアシステムズエンジニア)は次のように話す。
「今までは、広い工場内で大きな図面を持ち歩くこともありました。CAD実行に適した重量級の高性能ノートPCを持ち歩く場合もありました。しかし、デスクトップ仮想化ソリューションでCADを利用することにより、軽量なノートPCや、さらに軽量なタブレット端末からでも、CADのデータにアクセスできるようになります」(中本氏)。
それ以外にも、デスクトップ仮想化による使い勝手の多様化、自由度の向上のメリットがある。
「例えば、取引先により、利用するCADのバージョンが異なる職場があります。そのような場合、複数のデスクトップ環境を切り替えて利用できるデスクトップ仮想化ソリューションは非常に便利です。それぞれ必要なバージョンを導入したデスクトップ環境を用意しておき、同じクライアントPCから必要に応じて適切なサーバ環境を選んで使えば、異なるバージョンの切り替えも容易になります」(樋口氏)。
一方、管理者側のメリットは何か。まず、デスクトップ仮想化の一般的なメリットと同じだが、セキュリティを向上できる。端末にはデータを保存できないようにし、必ずサーバ側のストレージで管理されるようにしておけば、機密性の高い設計データなどの漏えいを防ぎやすくなる。
デスクトップ仮想化に、さらにGPU共用やGPU仮想化を組み合わせることで、コスト効率を大幅に向上できる。高性能のワークステーションをユーザーの人数分揃えるのではなく、サーバ側にIT資源を集中できる。この「割り勘」効果により、IT資産の総所有コストを低減できる。
もちろん、作業スペースに大きく発熱量が大きなワークステーションの替わりに、最小限の機能のPCクライアントを置けばいい、といったメリットもある。ソフトウェアのライセンス形態によっては、ライセンス利用の効率を上げることも可能だ。
サーバ側GPUの使い方は、より詳細に分けると3通りある。(1)GPUを仮想化せずにそのまま使う「GPUパススルー」、(2)GPUをソフトウェア的に共用する「GPU共有」、(3)GPUをハードウェアの論理分割により共用する「GPU仮想化」である。ここでは、それぞれの違いを簡単に説明しておこう。
「GPUパススルー」は、GPUを直接単一の仮想マシンに割り当てGPU性能を占有する。仮想化ではなくハードウェアを占有して使うため、GPUの機能・性能を隅々までフル活用したい場合にはパススルーが適する場合がある。ただし、当然ながら物理的なGPU数を越える台数のデスクトップはサポートできない。またデスクトップ仮想化ソリューション特有のメリット、例えばスナップショットを取ったりライブマイグレーションをしたり、というメリットは享受できなくなる。
「GPU共有」は、ソフトウェアでGPUを共有し、複数の仮想デスクトップに割り当てる。先のパススルーとは異なり仮想化のメリット(スナップショット、ライブマイグレーション)を享受でき、仮想マシンの統合率を高くできる。その一方で、アプリケーションからは原則として仮想グラフィックスドライバを経由してGPUを制御するため、GPUをネイティブに使う場合に比べるとGPUハードウェアの細かな機能を隅々まで使う目的には適合しない場合がある。
「GPU仮想化」はGPUをハードウェアのレベルで論理分割して仮想デスクトップに割り当てる。先のGPU共有との違いは、仮想マシンがGPUをネイティブドライバ経由で利用できることだ。GPUを複数の仮想デスクトップで分割して使うので、コスト効率を高められる。一方、性能はGPUパススルーに比べれば落ちるが、GPU共有に比べれば高い。
これらの方式は、組み合わせて混在利用できるケースもある。高いグラフィック性能を必要とするユーザーには GPU パススルー、そこまでの性能は必要ではないユーザーには GPU 仮想化あるいはGPU共有、といった構成も可能になる。
Citrix XenDesktopの最新バージョンでは、サーバ側GPUカード「GRID K1」「GRID K2」と組み合わせ、GPU仮想化をサポートする。本稿執筆時点ではシトリックス・システムズのGPU仮想化対応は“Tech Preview”、すなわちまだ製品出荷されていない段階のホヤホヤの新技術だ。
シスコは、2013年7月のシトリックス開催イベント、およびNVIDIA開催イベントにおいて、サーバ側GPUを活用して3D CADアプリケーションを実行させたデモンストレーションを実施している。その時点ではまだTech Preview前という早い段階であったにもかかわらず、これらの先端的な環境を実機によってデモンストレーションし、サポート体制を着々と整えている。
シスコがGPU仮想化にこれだけ早い段階から取り組む意味は何か。言うまでもなく、デスクトップ仮想化ソリューションがもたらすメリットを、GPUを駆使するアプリケーションのユーザーにまで広げたいからだ。高性能の設計用ワークステーションですらもデスクトップ仮想化ソリューションによりサーバ側にコンピュータ資源を集約し、ユーザーにとっては利用場所を選ばない自由度を提供し、しかも管理効率の向上を図ることができる──このようなワークスタイルの変革を、3D CADなどのツールを使う職種にも広げていこうとしている。
こうして、デスクトップ仮想化ソリューションはGPUを駆使するアプリケーションすらも対象に取り込みつつある。「どこからでも」「どの端末からでも」「セキュリティを保ったまま」業務データを活用できるワークスタイルが、設計、製造の現場にも広がろうとしているのだ。
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