米EMCは年次イベント「EMC World」で、自らのビジネスモデルを新定義することを通して、あらゆる企業がITとビジネスを新定義していくことの重要性を強調するとともに、新定義を具現化するテクノロジ群を発表した。
2014年5月5〜8日にラスベガスで開催された「EMC World 2014」。EMCは「REDEFINE」をテーマに掲げ、あらゆる企業がITとビジネスを“REDEFINE(=新定義)”していくことの重要性をあらためて強調するとともに、新定義を具現化するテクノロジ群を発表した。その中核ともいえるテクノロジがSoftware-Defined Storage(SDS)である。これは、EMC自身が従来のハードウェアを軸としたビジネスモデルから脱却することを意味する。自らのビジネスを新定義してまで取り組むEMCの戦略とテクノロジについて、EMCジャパン マーケティグ本部プリンシパル マーケティング プログラム マネージャー 若松信康氏に話を聞いた。
それは、EMC Worldの1カ月前に発表されたIDCによる調査リポート「デジタルユニバース」* の調査結果からもうかがい知ることができる。この調査では、2020年にデータ量が現在の10倍の44Z(ゼッタ)バイトになると予測しているが、重要な点はその中身にある。44Zバイトもの膨大なデータ量はどこから来るのか? ―― 27%がモバイルによって生み出され、そこでは、ソーシャルネットワークによって人々が情報をほぼリアルタイムにやり取りする。さらに家電や自動車などのモノがインターネットにつながることで、10%のデータが「モノのインターネット」(IoT:Internet of Thing)から生じ、それら、人・モノから生じるデータをリアルタイムに分析・活用するビジネスの拡大などにより、クラウドサービス上に置かれるデータの割合も現在の2倍以上の40%にもなるという。
IDCでは、これら「モバイル」「ソーシャル」「ビッグデータ」「クラウド」を第3のプラットフォームと位置付けており、従来の第1のプラットフォーム(メインフレーム)、第2のプラットフォーム(クライアント/サーバー、PC)から、今まさに第3のプラットフォームへの転換期に来ているという。2014年のIDCの調査**でも、主な産業のトップ20社のうち3分の1は、2018年までに、第3のプラットフォームを活用した新しい競合によって、破壊(disrupted)されるという予測もされている。その変化に対応できる企業とそうでない企業で競争力に大きな差が生じるということだ。まさに、ITのプラットフォームの転換は、今考えるべき時期に来ているのではないだろうか。
*デジタルユニバース The Digital Universe of Opportunities: Rich Data and the Increasing Value of the Internet of Things, April 2014.
** IDCの調査 「IDC Predictions 2014: Battles for Dominance - and Survival - on the 3rd Platform」(Doc #244606)
若松氏は、その上で「今必要なのは、第1、第2のプラットフォームと第3のプラットフォームへの橋渡しをするためのテクノロジであり、まさにそれが今回の発表の中心にある」と説明する。
「クラウドやモバイル、ビッグデータなどの第3のプラットフォームを活用することは、ビジネスの変化やそのスピードに対応できるITを作ることであり、それらのプラットフォームのデータを分析・活用し、それに基づいた新たなクラウド/モバイル/ビッグデータ・アプリケーションのアジャイルな開発・展開およびスケールができる仕組みを作っていくということである。グーグルやフェイスブックなどに代表される第3のプラットフォームの勝者が実現しているこれらの仕組みを、全ての企業ができるようにする」(若松氏)――それが第3のプラットフォームへの橋渡しであるという。
また、第3のプラットフォームを活用するといっても、今運用しているメインフレームやその他の業務アプリケーションがなくなる訳ではない。第3のプラットフォームを活用するためにIT投資を大幅に増やせる企業も多くない。同じ財布の中でいかに第3のプラットフォームをビジネスに生かしていくか。それには、まず今抱えている従来のプラットフォームの運用コストを削減し、そのコストを第3のプラットフォームの活用へ振り向けることである。
さらに、第3のプラットフォームの活用を阻害するコスト以外の要素にも目を向ける必要があるという。
それはクラウド、データ、アプリケーションの「サイロ」である。
例えば、アプリケーションを迅速に開発して展開しようにも、プラットフォームとそのAPIの違いによって、個別にアプリケーションを変更しなければならない。データへのアクセスの仕方(ファイル/ブロック/HDFS/オブジェクト)によってストレージも違えば、アプリケーションも書き換えなければならない。アプリケーションとデータには可搬性がなく、クラウド間(オンプレミスとオフプレミスの間、またはオフプレミスのクラウドサービス間)で、リソースや管理、セキュリティなどが分断される。1つのクラウドで構築した災害対策(DR)の仕組みは、他のクラウドに持って行けない。また、オンプレミスのリソースが余っていれば当然それを活用してオフプレミスのリソースを縮退させた方が企業としてのトータルコストは抑えられるが、オンプレミスとオフプレミスにわたるワークロードの分散配置やスケールができない。
クラウドサービスはそのコストも含めて激しく変化しており、サービス事業者の淘汰の可能性も考慮しなければならない中で、クラウド間の自由な行き来ができない――つまりユーザーの「選択肢」が制限されることが、クラウドの活用の足かせになっている。
これは、それぞれのテクノロジレイヤーにおけるサービス機能が特定のプラットフォームに依存し、サイロ化していることに要因がある。プラットフォームとは、アプリケーション開発基盤/フレームワークやプログラミング言語、そしてデータセンター、ハードウェアである。
これらの「サイロ」を解消するテクノロジが必要であり、そのためのアプローチがまさにEMCがグループ全体で取り組んでいる「Software-Defined」である。
グループ会社の1社Pivotalは、プログラミング言語やフレームワーク、データサービス、インフラに依存しないオープンなPaaS基盤であるCloud Foundryや、統合データ分析基盤、アジャイル開発の支援を通して、データを活用した迅速なアプリケーション開発と展開を可能とする。
ただし、そのためには、アプリケーションのためのリソースが、特定のサーバー、ストレージ、ネットワークなどのクラウドインフラに依存してはならない。ハードウェアに依存せずにアプリケーションがあらゆるクラウドインフラ上のリソースを、共通の管理プラットフォームの下で必要に応じて利用できるSoftware-Defined Data Centerの機能をヴイエムウェアが提供する。それにより、プライベートクラウドの管理の延長でパブリッククラウドを利用してプライベートとパブリックにわたるワークロードの再分配やスケールができ、その間で同一のセキュリティ機能やポリシーを適用することも可能となる。
そして、EMCが提供するSoftware-Defined Storageは、Software-Defined Data Centerの一部として、データを活用するビジネスに直結するデータサービス(ブロック/ファイル/HDFS/オブジェクト、DR/バックアップ/データ移行などのサービス機能)を、さまざまなハードウェア上に展開して利用できるようにする。
つまり、どのハードウェアを使っているか分からないクラウド事業者との間であっても、DRやバックアップができたり、1つのハードウェアリソースをソフトウェアの定義によって、ブロックストレージとして使ったり、データ分析用のHDFSやオブジェクトストレージとして使うこともできるようになる。それぞれのための個別専用ストレージハードウェアは不要で、余っているハードウェアリソースを必要なときに迅速に使用できるようになる。
「ビジネスは、ハードウェアの変更を待ってくれません。ビジネスの変化のスピードに対応するためには、従来のインフラ機能のインテリジェンスをハードウェアから、ソフトウェアへ転換させる必要があります。それが、ハードウェアを主体とした製品開発・販売をしてきたEMCが、自身のビジネスをもHardware-DefinedのアプローチからSoftware-Definedのアプローチに転換させている理由です」(若松氏)
そのSoftware-Defined Storageを実現し、EMCの“新定義”の中核をなす製品がEMC ViPRだ。EMC Worldでは、進化したViPR 2.0が発表された。
では、ViPRは具体的にどのような役割と効果をもたらすのか。
ViPRは、既存の異機種混在ストレージ環境、コモディティハードウェアを抽象化、それらのリソースをプール化し、ストレージのデータサービスの機能をソフトウェア定義で適用して使用できる。
「例えば、既存のファイルストレージをオブジェクトストレージとして使ったり、オブジェクトストレージをHDFSストレージとして使うことができます。オブジェクトのデータセットにファイルとしてそのままアクセスして編集できたり、オブジェクトベースのアプリケーションとデータ分析用のアプリケーションから同一のデータにアクセスができます。従来、専用ストレージ上で個別に行っていたことが、1つのユニバーサルプラットフォーム上でシンプルに実現できます」(若松氏)
また、ViPRではストレージの管理を単一のインターフェースに統合し、プロビジョニングを自動化できる。アプリケーション開発者は、リソースが必要なときに、ViPR上で定義されたサービスカタログからサービスを選択することで、即座に必要なリソースを利用できる。プロビジョニングは自動化され、アプリケーション管理者がプロビジョニングを意識する必要がない。
「ViPRの良い所は、Software-Defined Storageの機能を得るために専用ハードウェアを新規に導入する必要がないとことです。ソフトウェアとして提供されますので、それをオンプレミス/オフプレミスのクラウド間で即座に展開して利用できます。また、ViPRの機能は、EMCのストレージ環境が前提ではありません。EMCのストレージがなくても、例えば、NetAppのストレージのみの環境でも、ストレージシステムがなく、コモディティハードウェアのみの環境でも利用することができます。管理もOpenStackやVMware、MicrosoftのクラウドOS管理環境に統合できるため、既存のプラットフォームの運用に取り込み、そのまま第3のプラットフォームも含む管理へ拡張させることができます」(若松氏)
ViPR 2.0の主な機能追加として、大きく以下の3つがある。
以降では、それぞれについて詳しく見ていく。
EMCは、Software-Defined統合サーバーSAN「EMC ScaleIO」という製品を2013年から販売しているが、この機能が、今回ViPRに統合された。それにより、これまで対応していたオブジェクト、HDFSなどに加え、ブロックストレージの機能をコモディティサーバー上に展開/利用できるようにしている。ScaleIOは、ごく簡単にいうと、複数のサーバーの内蔵ディスクをプール化し、ブロックストレージとして使用することを可能にするものだ。プール化できる対象は、x86であれば物理サーバーでも仮想サーバーでもよい。ハイパーバイザーはvSphereだけでなく、Hyper-VやXenにも対応している。メディアにも非依存で、PCIeフラッシュの階層プール、SSD階層プール、HDD階層プールといった階層化ストレージをサーバー側で作ることもできる。
「ScaleIOは、リリース当初ElasticサーバーSANとも呼んでいましたが、その理由は、サーバーにScaleIOエージェントを入れることで、即座にScaleIOのプールに取り込むことができ、必要なときに複数サーバーをプール化して、最大数千ノードにまで拡張できるためです。必要なくなれば、プールから取り外すこともでき、伸縮自在のリソースプールを作ることができます。サーバーを取り外す際にも、面倒な手間は要りません。取り外せば、データとワークロードは自動的に残っているサーバーに分散されます。データ保護や暗号化の機能も持っていますので、安いサーバーをかき集めて、インテリジェントなSANストレージとして使うことができます。これはまさに、第3のプラットフォームであるパブリッククラウドの技術であり、これをプライベートクラウドにも適用することが可能になります」(若松氏)
同じコンセプトの製品としては、VMwareのVSANがある。vSphere(ESXi)をインストールしたディスクを共有ストレージとして利用できるようにする機能だが、vSphere限定の中規模以下の環境にはVSAN、マルチハイパーバイザー、物理環境との混在などがあるケースや、中規模から数千ノードまでの拡張性が求められる超大規模な環境までをScaleIOがカバーするという。
「EMCとヴイエムウェアは競合しているのでは、とよく言われます。半分は正しいです。それぞれのテクノロジレイヤーでそれぞれがNo.1を取るためのエコシステムを作る上で、また、ユーザーの細かいニーズに対応するためには、両方でサポートして選択できるようにする必要も出てきます。機能だけで見てしまうと、“競合してるよね?”と疑問に持たれることと思いますが、VSANとScaleIOでいえば、カバレッジや主なユーザーベネフィットが違います。VSANは「シンプル」、ScaleIOは「包括的」というのがキーワードです。ですから、EMCはScaleIOを販売しながらVSANにも力を入れていきます。環境や要件によってはScaleIOではなく、VSANをおススメするケースも出てくるでしょう」(若松氏)
このScaleIOは、単体製品として販売されるほか、今回ViPRに統合され、ViPRの管理下でも抽象化したブロックストレージとして扱えるようになった。
また、今回プール化できる異機種混在ストレージの範囲も拡張された。ViPRからネイティブでサポートするストレージアレイとして、新たに、ScaleIOはもちろん、やVBLOCK、XtreamIOに加え、日立製のストレージ2製品「Hitachi HUS VM」「Hitachi VSP」が加わっている。
また、このネイティブ対応の他に、OpenStackのブロックストレージのコンポーネントであるCinderとAPI経由で連携することで、他社製のストレージアレイを配下に加えることができるようになった。OpenStack連携で対応したストレージアレイとしては、「IBM XIV」「IBM SVC」「IBM DS8000」「Dell Equal Logic」「HP 3PAR」「HP Left-Hand」「Solidfire」「Oracle ZFS Appliance」「NetApp E-Series」を挙げている。一部の製品については、今後、API経由ではなくネイティブで接続できるようにしていくという。
ジオレプリケーションは、ViPR上で地理的に分散したデータを管理できるようにする機能である。
地理的に離れたデータセンター同士で、それぞれのデータセンターが持つデータを、アクティブ/アクティブ構成でレプリケーションできるというものだ。物理的なネットワークセグメントが異なっても、共通のネームスペースでデータアクセスが可能であることから、ユーザーはデータの場所を意識することなく、また1つのデータセンターが丸ごとダウンしたとしても、分散保護されたデータにそのまま継続的にアクセスができる。
さらに、今回ViPRをアプライアンス製品「Elastic Cloud Storage(ECS)アプライアンス」の提供が発表された。コモディティサーバーとViPR、ScaleIOを組み合わせた、従来のストレージを持たないアプライアンスであることが特徴だ。
ラインアップとしては、容量別に、360Tバイト、1.4Pバイト、2.88Pバイトの3つのモデルがある(利用するストレージのタイプにより容量は変わる)。
容量を柔軟に拡充することができるため、大企業のデータセンターやクラウド事業者のハイパースケールな要件に応えられる構成になっている。
なお、このアプライアンスに関しては、EMCが興味深い試算を示している。
2014年4月現在の価格をベースにしたその試算によると、今後4年間のTCOは、Amazon Web ServicesやGoogleのストレージサービスと比較して、23〜28%低く抑えることができるという。5Pバイトという大規模構成のケースであるが、コスト競争が激しい中で、Amazon、Googleと競合するクラウドサービス事業者がコスト競争力の高いサービスを提供するために重要なソリューションとなる可能性を秘めている。
ここまでで見てきたように、同社はViPRという製品を通して、今までストレージベンダーとして提供してきたエンタープライズストレージ機能をハードウェアの制約から解放して、より積極的に「第3のプラットフォーム」の世界に投下しようとしていることが分かる。
今後のプランとしては、VNXやIsilonなどのストレージアレイをソフトウェアとして提供し、ViPR上でさまざまなハードウェアに適用して利用できるようにしていく。
「これは『Project Liberty』としてEMC Worldで発表されたプロジェクトです。第一弾として、まずはSoftware-Defined VNXの提供を進めていますが、今後スケールアウトNASのIsilon、DRのRecoverPoint、仮想ストレージのVPLEX、Data Domainなどへその範囲を拡張していく予定です」(若松氏)
例えば、災害対策向けにVNXを使ったレプリケーションを行う際に、専用データセンターを設置せずに、クラウド事業者内に仮想的なVNXを構築して、レプリケーションを行うといった手段を採ることができるようになる。
「EMCは、これまで市場で圧倒的優位をしめてきたエンタープライズストレージの部分にまで、Software-Definedのアプローチを持込みます。それによって、来るべき第3のプラットフォームの時代でも圧倒的優位を築くべく、テクノロジの開発を進めているのです」(若松)
高価な専用ストレージを不要にする仮想SANストレージソフトウェア
専用ストレージシステムのいらないソフトウェア提供のSANで、高機能と俊敏性、コスト削減の両立が可能になった。パブリッククラウドのメリットをプライベートクラウドで実現できる製品だ。
従来のストレージの定義を変えるSoftware-Defined Storage
適材適所に導入したはずのストレージが、運用負荷とコストの増大を招いている。Software-Definedテクノロジーが、その課題を解決してくれる。
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提供:EMCジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年6月25日
専用ストレージシステムのいらないソフトウェア提供のSANで、高機能と俊敏性、コスト削減の両立が可能になった。パブリッククラウドのメリットをプライベートクラウドで実現できる製品だ。
適材適所に導入したはずのストレージが、運用負荷とコストの増大を招いている。Software-Definedテクノロジーが、その課題を解決してくれる。