3D CADでデスクトップ仮想化、使いものになる時代が来た

日立建機の開発・設計部門が、3D CAD業務でデスクトップ仮想化を大量導入した。これはおそらく、性能とコストを両立させるGPU仮想化機能を採用した、国内初の事例だ。

» 2014年08月18日 10時00分 公開
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 世界有数の建設機械メーカー、日立建機。海外売上高比率が約75%に達する同社は、名実ともにグローバル企業といえる。純国産技術によって国内初の油圧ショベルをつくった開発力は、同社の国際展開を支える競争力の源泉となっている。

 この日立建機の設計部門が、3DCAD業務のためにデスクトップ仮想化を大量導入した。これはおそらく、2013年秋に正式サポートが開始されたGPU仮想化(vGPU)機能を採用した、国内初の事例だ。3D CADのようにグラフィック性能要件の厳しい業務は、デスクトップ仮想化に最も適さないとされてきた。日立建機の導入事例は、vGPU機能の登場によって、本格的設計業務におけるデスクトップ仮想化が、性能・コストの両面で実用段階に入ったことを明確に示している。

 日立建機は、茨城県土浦市に開発・設計部門を置いている。運用してきたワークステーションは400台。このうちの約100台を、インテル® Xeon® プロセッサーを搭載したCisco Unified Computing System(Cisco UCS)、NVIDIA GRID、Citrix® XenDesktop®の組み合わせによるデスクトップ仮想化に移行した。

 このVDI導入を進めたのは、同社の開発支援センタ デジタルエンジニアリング推進部(以下、DE推進部)。開発・設計部門のうち、3D CADを使った設計業務のためのIT支援を行っている。

 直接のきっかけは、Windows XPのサポート終了だ。400台の3D CADワークステーションの半数が、OSとしてWindows XPを搭載しており、日立建機としては、何らかの形で新OSに移行する必要があった。だが、同社は別の問題で、数年前から頭を悩ませていた。デスクトップ仮想化は、これを解決するための手段として導入されたと、DE推進部 主任技師の須賀田稔明氏はいう。

ワークステーションとそれに必要なスペース、効率化できないか

 日立建機では、3D CADワークステーションをCAD共用スペースに配置、設計者は空いているワークステーションで3D CADの業務を行ってきた。しかし、設計者が増えてきたことで、この運用が難しくなってきた。設計者が増えれば、3D CADワークステーションの利用ニーズは増える。だが、個人机のスペースを確保するため、逆にCAD共用スペースを徐々に縮小せざるを得なくなっていった。このため、個人机に置かれるワークステーションが増えてきた。

日立建機 開発支援センタ DE推進部 主任技師 須賀田稔明氏

 3D CADワークステーションを、個人が占用するのでは利用効率が低く、コストの点で問題がある。このため、DE推進部では、少ない台数のワークステーションを何らかの形で遠隔的に共有する手段はないかと、過去約2年にわたり模索してきた。

 「まず、ディスプレイやキーボード、マウスの出入力インターフェースを延長するような製品を試したが、ワークステーションを共有する手段にはなり得なかった。次に一般のサーバー上でHyper-Vを使って仮想化を行い、その上で仮想デスクトップを動かして、これをリモートデスクトップで遠隔的に使うということもやった。しかし、この形ではグラフィック性能が貧弱だ。このため、重くない図面の作成・閲覧にしか使えなかったが、それでも場所を取らない手軽なCAD環境として必要に迫られた」と、DE推進部 技師 田端聡氏は説明する。

 その後、XenDesktopやVMware Horizonといったデスクトップ仮想化(VDI)製品で、サーバーに搭載したグラフィックスカードの処理能力を仮想デスクトップから活用できるようになったことを知った。だが、VDI製品におけるグラフィックスサポートは、当初「パススルー」と呼ばれる方式が主流だった。これは1仮想デスクトップに対し、サーバーに搭載した物理GPUを1つ割り当てて使うもの。搭載GPU数を超える台数の仮想デスクトップはサポートできず、コストの点で導入に至らなかった。

日立建機 開発支援センタ DE推進部 技師 田端聡氏

 だがシトリックスはその後、Citrix XenDesktopの新バージョンで、GPU仮想化(vGPU)機能を提供すると発表。GPUカードとしては、NVIDIAの「GRID K1」「GRID K2」との組み合わせをサポートするとした。

 vGPUは、各GPUを複数の仮想デスクトップで論理分割して使う手法。各仮想デスクトップはネイティブドライバでGPUを使うため、性能はパススルーに比べれば劣るものの、コスト効率を大幅に向上できる。

 Citrix XenDesktopとNVIDIA GRIDによるvGPU機能は、2013年の夏にTech Previewが開始、同年秋に正式リリースとなった。これをTech Preview開始前の非常に早い段階からCisco UCSとの組み合わせで検証し、国内市場に紹介してきたのがシスコシステムズの日本法人だ。

 シスコとシトリックスの本社は強固なパートナーシップで結ばれていて、Cisco UCSはXenDesktopの開発・検証プラットフォームとして使われている。2社はNVIDIA GRIDを使ったvGPUについてもノウハウを共有しており、パフォーマンス検証も活発に行ってきた。日本国内においても2社のエンジニアの関係は深く、ユーザー組織にとっての仮想デスクトップの最適な利用環境を実現する構成について、相互協力を進めてきた。

 シスコ、シトリックス、NVIDIAの3社は、こうした活動の成果を2013年11月の共同セミナーで披露した。田端氏はこれを聞いて、とうとう性能、コストともに要件を満たせるソリューションが現れたと直感。その後は国内であまり例のないくらいのスピードで、導入に向けた作業が進んでいった。

 2013年12月には社内に検証環境を構築し、日立建機で使用してきたCADソフトウェアを用い、実際に近い作業を繰り返して性能や運用性を検証。ワークステーションと比べて遜色のない使用感が得られるとの判断を基に、社内手続きを経て調達プロセスに入り、構築・検証を終えて運用を開始したのは2014年4月と、まさにWindows XPサポート終了ぎりぎりのタイミングとなった。

 日立建機におけるXenDesktop環境の検証、構築を支援している伊藤忠テクノソリューションズ(以降、CTC)の仲村公孝氏は、「日立建機様とはさまざまな業務で長いお付き合いをさせて頂いています。今回はシスコ、NVIDIA、シトリックスとともにベータ版の段階から3D CADのパフォーマンスを意識した検証を実施してきたCTCのノウハウを、スピード感のある導入に繋げることが出来ました」と話している。

仮想デスクトップを導入して分かった想定外のメリット

 VDIの導入により、設計室のスペースは大幅に節約できることになった。設計者の間での評判も上々という。設計者は自分の机を離れることなく、手元の一般業務用PC 1台で、本格的な3D CAD業務を行えるようになった。特に、仮想デスクトップ画面で3D CAD図面を表示し、画像をキャプチャして、一般業務用PCのデスクトップ画面で作成している設計資料に簡単に貼り込めるといった、日常業務の効率アップを実感するユーザーが出てきているという。

 VDIには、物理的な場所の壁を越えられるというメリットもある。日立建機では、ユーザーからの要望に応える形で、遠隔からVDIを使い始めた例がすでにあるという。

 日立建機には数々の製造拠点があるが、その1つに大型ショベルやダンプトラックを製造している常陸那珂臨港工場がある。これらの製品の開発・設計担当者は、設計部門のある土浦工場で業務をしている。だが、「現物を見ないとよい設計ができない」という理由から、一部のメンバーが臨港工場に移った。これらのメンバーから3D CADを遠隔的に使いたいというリクエストがあり、利用が始まっているという。

 須賀田氏と田端氏が今後に向けて大きな期待を寄せるもう1つのポイントは、ワークステーションの運用管理プロセスの改善だ。例えばワークステーション上のアプリケーションを全台についてバージョンアップしたいとする。従来なら設計室に行って、1台ずつ手作業でバージョンアップを実施する。だが、台帳に記録されているのとは別の場所に移動したなどの理由で、作業漏れが発生することがある。だが、今後は仮想化されたワークステーションに関していえば、基準となるシステムイメージについて手作業によるバージョンアップを一度済ませれば、基本的には これを複製するだけで、短時間のうちに作業を終えることができる。

次のプロジェクトは中国の開発拠点におけるVDI導入

 国内設計部門に続き、DE推進部では2014年10月のカットオーバーを目指して、中国の開発拠点でのVDI導入を進めている。

 中国の開発拠点では、現地市場向け製品を設計しているのに加え、日本およびグローバル向け製品にかかわる設計業務の一部を担当している。ここでは、設計データの不正持ち出し防止が、重要な課題となってきた。

 対策としてDE推進部では、データ暗号化ソフトウェアを採用し、すべての設計データが、保存時に自動的に暗号化されるようにしている。しかし、CADはデータの入出力が複雑で、一般的なオフィス用途向けに開発されたこの暗号化ソフトでは対応しきれなかった。DE推進部では、この製品にカスタマイズを加えて使ってきた。しかし、CADソフトのバージョンアップなどに伴って追加的な修正が必要となり、メンテナンスコストが掛かるという悩みを抱えていた。

 DE推進部ではデスクトップ仮想化がデータ持ち出し防止に有効であるという点を早くから認識しており、国内設計部門における導入を踏まえて、即座に中国での導入に取り掛かった。VDIのためのサーバーを中国拠点に設置して運用。仮想デスクトップ環境の管理は、日本から遠隔的に実施することになる。中国における導入でもCisco UCS、NVIDIA GRID、Citrix XenDesktopの組み合わせを採用する。このような海外でのITシステム導入で、日立建機はシスコのグローバルなサポート体制を活用できることになる。

VDI利用を積極的に拡大し、効率アップへ

 日立建機の設計部門におけるVDI利用は、まだ始まったばかりだ。だが、須賀田氏は、「今後こうした方向に進むことは分かっている」と話す。利用が進むにつれ、VDIだからこそのメリットや利用シーンが、今後さらに広がってくる可能性がある。DE推進部では、稼働状況を見ながら運用ノウハウを蓄積し、徐々に設計部門の各種部署に対し、積極的な活用を働きかけていきたいという。

 Cisco UCSは、一般的なサーバーと異なり、集約的な管理に向けた設計となっているため、将来における拡張の際に役立ってくれるだろうとDE推進部では期待している。また、3D CAD VDIではネットワークを流れるトラフィックの量が気になるため、シスコのノウハウを生かしながら注意深い運用を進めていきたいという。

 常に新技術をいち早く提供してきたシスコは、3D CAD VDIでも「使える技術」を早くから開拓、関連ベンダーと協力してユーザー組織が安心して使える環境を整備してきた。この取り組みが、今回の日立建機における国内初の導入事例につながっている。

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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年9月17日

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