限られたコスト、リソースの中で、ビジネス展開に即応するシステム整備・運用をいかに実現するか――この命題の下、多くの企業が「OpenStack」に関心を寄せている。だが具体的に、その利便性は企業においてどのように生かせばよいのだろうか? ストレージを中心にコミュニティ内外からOpenStackへの支援・対応を強化しているEMCに、柔軟性・効率性と信頼性・安定性を高度に両立するOpenStack活用の具体像を聞いた。
オープンソースのクラウド基盤ソフトウェア「OpenStack」に対する注目は高まるばかりだ。それも、IaaSなどのクラウドサービスを提供する事業者だけではない。多くのユーザー企業も、ベンダーロックインの排除やコスト削減、運用効率化といった観点から自社のプライベートクラウドの基盤としてOpenStack採用に意欲を示し始めている。
だがここで課題となるのが、エンタープライズアプリケーションの基盤として耐え得る機能や信頼性を、OpenStack上でどのように実現していくかだ。EMCはこの課題を解決すべく、さまざまな側面からOpenStackに取り組んでいる。
「OpenStackの適用領域として期待されているモバイルやクラウド向けのアプリの増加率は従来のアプリの10倍ですが、絶対数で言うと2016年でも全体の4分の1程度の見込みです。OpenStackが提供できる大規模な拡張性、柔軟性を生かしてコスト削減や管理の効率化といったメリットを得るためには、前者の運用だけにOpenStackを部分的に利用しても、ITシステム全体の効率化にはならない。つまりOpenStackと従来のアプリの橋渡しができる仕組みが必要であり、そこでSoftware-Defined Storage(SDS)などの取り組みが重要になってきます。OpenStackの長所を生かしつつ短所を補い、利用の幅を広げることで、本当の意味での選択の柔軟性や効率が促進されると考えています」と、EMCジャパン マーケティング本部 プリンシパル マーケティングプログラム マネージャーの若松信康氏は語る。
EMCは以前から傘下の子会社を通じてOpenStackコミュニティに関わってきた。2012年12月には正式にコーポレートスポンサーとなり、複数のプロジェクトに参加して内側からOpenStackの機能強化を進めてきた。その中でも顕著なのは、やはり得意分野のストレージやファイルシステム関連で、エンタープライズクラスの拡張性、信頼性実現に大きく貢献している。
例えば、コアプロジェクトの一つであるブロックストレージの「Cinder」に関しては、ボリューム間で整合性を保持する「コンシステンシグループ」機能の拡張を図っている。これにより、関連する複数のアプリ間で、データの整合性を保持してコピー等の運用が可能になる。つまり業務プロセスの単位でデータを扱えるようになるため、バックアップ/リカバリなどでアプリ間の整合性を合わせるための手作業の手間を省くことができるようになるだろう。
また、共有ファイルシステムプロジェクトの「Manila」にもコアメンバーとして参画し、OpenStackの今後の取り組みにもコミットしている。さらに、OpenStackのコア中のコアともいえる「Nova」については、さまざまなバグフィックス、例えば、ライブマイグレーションやデバイスロックの問題の修正を行うなど、コミュニティの一員として、内側からOpenStackの品質向上、機能向上に取り組んできた。
EMCのエンタープライズストレージ製品のOpenStack対応も進めている。既にミッドレンジの「VNX」やハイエンドの「VMAX」、オールフラッシュアレイの「XtremIO」などがOpenStackに対応済みだが、ストレージに求められる要件が多様化している中で、新たな要件に対応するOpenStack向けリューションの選択肢も用意している。
それがElasticなストレージを実現する「ScaleIO」だ。ScaleIOは、さまざまな汎用サーバーの内蔵ディスクをプール化し、スケールアウト型のブロックストレージを構築できるソフトウェア。
ScaleIOは、VMwareをはじめ、KVM、Xenなど多様なハイパーバイザーに対応している他、ベアメタルのサーバーも利用可能。特定のハードやハイパーバイザーに依存しないことで、社内に余っているサーバーを有効に活用できるようになる。「ユーザーの選択肢を拡張できるだけでなく、大規模な拡張性も提供できる」と若松氏は言う。
サーバー3台から始めて、最大で数千台の規模にまで拡張できる。必要に応じてサーバーを追加すれば、I/Oは自動的に分散され、性能もスケールする。いらなくなれば、サーバーを消去することで、残っているサーバーだけで自動的に平準化して運用を最適な形で継続する。
さらに、性能要件に合わせたストレージ階層化や、QoSによる帯域制御、暗号化など、エンタープライズ向けの機能も備えており、OpenStackを活用した拡張性の高いストレージを、既存資産を生かして低コストで安心して構築、利用できるというわけだ。
EMCは他に、バックアップアプライアンス製品でもOpenStack対応を進める。今後EMCの重複排除バックアップを利用できるようになることで、Cinderのバックアップデータ量を10分の1〜30分の1にまで削減可能だ。若松氏は「より短時間・低コストで確実にバックアップ、リカバリを行える、エンタープライズレベルの機能性・信頼性確保につながる」と話す。
EMCは、さらにこの標準化を促進することで、OpenStack環境の選択肢の拡張と運用効率化の両立を可能にしていくという。その鍵を握るのが、SDS「ViPR」というソフトウェア製品だ。
ViPRを使用することで、さまざまなストレージを抽象化し、OpenStackなどの単一のインターフェースから、一元的にストレージを管理できるようになる。ViPRがOpenStackのCinder、Swiftのドライバーをサポートしていることで、EMCのストレージ製品群はもちろん、OpenStackをサポートしていない他社製品や汎用製品もOpenStackの管理下で一元管理できるようになるだろう。これにより、既存の資産を有効活用できるという選択肢の拡張とともに運用の標準化、効率化を実現していく。
若松氏は、「現在、OpenStackに対応したストレージは増えているが、製品ごとにドライバーがあり、対応機能もバラバラです。インテグレーションのためにそれぞれのドライバーを一個一個テストする必要がありますが、ViPRを使えばドライバーはViPRに一本化でき、テストもシンプル化、新たな選択肢の活用も迅速にできます」と指摘する。
ViPRは、さらにデータサービスをも抽象化し、選択肢を拡張できる。ハードウェアに依存することなく、ブロック/オブジェクト/HDFS、バックアップ、レプリケーションなどのデータサービスを、OpenStackからViPRを介して定義して利用できるようになる。
例えば、既存のファイルストレージの余りリソースを、新たに必要になったオブジェクトストレージとして転用したり、それが必要なくなれば、HDFS用のリソースとして転用するといったことが可能となるため、必要に応じて柔軟に、Elasticなストレージを用意できる。
これはハードウェアによる「縛り」、ベンダーロックインから解放され、既存資産の利用方法の選択肢が増えることを意味する。若松氏はこうした柔軟性を基に、「ViPRは、OpenStackとさまざまなハードウェアの橋渡しをすることで、ユーザーの選択肢、ビジネスへの俊敏性、システムの効率性を実現する」として、まさしくビジネス要件に無駄なく即応する環境の実現を支援していくという。
EMCは今後も、OpenStackを活用したソリューションの展開を強化していく方針だ。つい先ごろも、OpenStackベースのクラウドソリューションを提供しているCloudscaling社の買収を発表したばかり。「同社のソリューションも活用し、オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境もOpenStackを使ってシームレスに連携・運用できるようにしていく」という。
このように機能の進展を追求する一方で、エンドユーザーの使い勝手にも配慮。パートナーを主体としたリファレンスアーキテクチャベースのパッケージソリューション展開も促進する。さらに、EMC自身もエンジニアドソリューションとして「EMC Enterprise Hybrid Cloud OpenStack-Powered Edition」を用意することを発表している。機能だけでなく、利用を効率化する各種テンプレートなどと組み合わせることで、「ユーザーが即座に利用できるソリューションの提供」に注力している。
2015年以降も、OpenStackを使った効率的なインフラ整備への関心は、ますます高まっていくだろう。そうした中で、どうすれば自社でも安定的・効率的に使えるOpenStack環境を実現できるのか?――既存資産活用の選択肢担保と運用効率化の両立を狙う企業なら、コミュニティ内外からOpenStack活用の在り方を提案し続けているEMCの動きから、決して目が離せないはずだ。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年1月30日