2800万ポリゴンを動かすCG技術と130万円相当のハードウエア、DirectX 12の結晶「WITCH CHAPTER 0 [cry]」を作り出した“同士”たちの挑戦「最先端の技術で勝負できる能力と意欲を世界に発信できたことが最大の成果」

スクウェア・エニックスを中心に、マイクロソフト、エヌビディアの3社共同で作られた、DirectX 12によるリアルタイムレンダリングCGの技術デモ「WITCH CHAPTER 0 [cry]」が、4月の「Build 2015」に続き、5月26日に東京で開催されたマイクロソフトの技術者イベント「de:code 2015」の基調講演でも来場者に披露された。この技術デモの制作に至った背景や、今回の協業から得られた成果について、スクウェア・エニックス、日本マイクロソフト両社の担当者に話を聞いた。

» 2015年06月17日 10時00分 公開
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 日本マイクロソフトが5月26、27日の両日に東京で開催した技術者を対象としたカンファレンス「de:code 2015」の基調講演の中で、ひときわ目を引くグラフィックスデモが公開された。このデモは「WITCH CHAPTER 0 [cry]」(以下、WITCH)と名付けられている。マイクロソフトの次期OS「Windows 10」に含まれる最新のマルチメディアAPI「DirectX 12」による、リアルタイムレンダリングCGの可能性を示すものとして披露されたものだ。

 WITCHが初めて公の場で紹介されたのは、米マイクロソフトが4月末にサンフランシスコで開催したイベント「Build 2015」の基調講演だった。Buildに続き、その日本版とも言える「de:code 2015」においても、高精細なリアルタイムレンダリングCGによるドラマチックな映像が来場者を魅了した。その模様は「[日本語] 進化するエンジニアへ 〜 テクノロジが創りだす未来と価値 〜 - Part2 - | de:code 2015 | Channel 9」の44:15〜で確認できる。

de:code 2015で披露されたスクウェア・エニックスによるDirectX 12のデモ「WITCH CHAPTER 0 [cry]」(「[日本語] 進化するエンジニアへ 〜 テクノロジが創りだす未来と価値 〜 - Part2 - | de:code 2015 | Channel 9」より引用)

 WITCHの制作を行ったのは、「FINAL FANTASYシリーズ」などのゲームパブリッシャーとして著名なスクウェア・エニックスである。今回、de:codeの会場で、スクウェア・エニックス 第2ビジネス・ディビジョン ディビジョン・エグゼクティブの田畑端氏と、マイクロソフト側で制作に協力した日本マイクロソフト エバンジェリストの大西彰氏に、WITCHの制作に至った意図と、そこから得られた成果について話を聞いた。

何とか動いたのは2週間前。Buildの当日までデモが流れるかは分からなかった

 スクウェア・エニックスの第2ビジネス・ディビジョンでは、自社のゲーム制作に利用するゲームエンジンをはじめ、プリレンダリングCG、リアルタイムCGなど、多様な技術に関する研究開発に取り組んでいる。今回のWITCH制作プロジェクトは、同社のコアビジネスである「コンシューマー向けゲームの開発」とは別の視点で、「自社が持っているCG制作の技術と、社外にある最先端の技術とを結び付けることによって、どれだけハイエンドなものを作ることができるのかを追究したい」という思いからスタートした。

 まだ開発途上であるDirectX 12上で動く高品質なリアルタイムデモに挑戦し、その成果を「Build」で世界に向けて示そうという方向性がスクウェア・エニックスの社内で決まったのは2014年の年末。2015年初頭には、マイクロソフトと、GPUの開発元であるエヌビディアにも協力を求め、3社共同での取り組みとして本格的に作業を進めていった。

スクウェア・エニックス 第2ビジネス・ディビジョン ディビジョン・エグゼクティブ 田畑端氏

 田畑氏は「これまで、マイクロソフトとスクウェア・エニックスは、ゲームのプラットフォーマーと、サードパーティゲームデベロッパーという関係でのお付き合いが中心でした。ですので、開発途中の技術をベースにした作品制作を行いたいと思っても、アプローチ先が分からない。それを探すところからスタートしました」と、プロジェクト開始当初の状況を振り返る。

 大西氏も「この話を伺ってから、まずはスクウェア・エニックスの開発メンバーが、開発中であるWindows 10ならびにDirectX 12のコア技術にアクセスできる環境を作ることが必要でした。あまり前例のないことでしたが、スクウェア・エニックス側の技術力と熱意を本社に理解してもらい、実現することができました」と話す。

 スクウェア・エニックス側では、自社で制作中の「FINAL FANTASY XV」で使われているアセットの一部を、WITCH制作のために活用。マイクロソフトは、DirectX 12へのアクセスと技術支援を提供。そして、エヌビディアは、スクウェア・エニックスがWITCHで実現したいパフォーマンスを実現するために、当時は未発表だった「GeForce GTX TITAN X」GPUとDirectX 12対応ドライバーの提供を行った。ある程度動作するものは、スクウェア・エニックスの10人弱のスタッフによって、1カ月程度で開発できたという。

 ただし、APIもドライバーも「開発途上」のものを利用しての開発作業は、当然一筋縄ではいかない。頻繁に行われるDirectX 12とドライバーのアップデートに翻弄されながらも、3社の間で調整を続けていった。最終的にWITCHは、GeForce GTX TITAN Xの4way SLIというリッチな環境上で動作することになったが、「DirectX 12上で4way SLIが何とか動いたのは、Build開催の2週間前だった」(大西氏)という。

 さらに、そもそもの目的であった「Build基調講演でのデモ披露」も、実際に行われるかどうかは本番当日まで分かっていなかったのだという。

 「基調講演の内容については、本当に当日になってみないと分からないというのが正直なところでした。マイクロソフトの最新の技術に対して、基調講演でどのようなデモを紹介すれば、その有用性を最も効果的に示すことができるのか。その観点で、ぎりぎりまで調整が行われていました」(大西氏)

 WITCHの開発は、スクウェア・エニックス、マイクロソフト、エヌビディアのごく一部の関係者のみが知る極秘のプロジェクトとして進められていた。本番直前には、3社の担当者が、もはや「同志」のような思いで、共にWITCHが紹介されることを祈っていたそうだ。

 「Buildの基調講演で映像が紹介された瞬間、もう関係者一同大騒ぎでした(笑)。日本のチームが最新の技術を駆使して作り上げた作品が、世界に対して大々的に発信されている。自分たちの技術力を世界にアピールできる、大変誇らしい取り組みだったと思っています」(田畑氏)

WITCHによって得られた「技術ノウハウ以外」の成果

 WITCHでは、先述の通り、グラフィックAPIとして「DirectX 12」を利用している。ハードウエアには、3GHz動作のCore i7 CPU、64Gバイトメモリ、そして「GeForce GTX TITAN X 4way SLI」を採用することで、1700万ポリゴンのキャラクター、1100万ポリゴンの背景を、バックバッファ4K、出力解像度フルHDでリアルタイム描画することを可能にしている。

「de:code 2015」基調講演のデモで使われたハードウエア

 「WITCH CHAPTER 0 [cry]は、純粋に技術的なチャレンジであり、この水準のグラフィックがすぐに一般に販売されるゲームに採用されるという意味のものではありません」と田畑氏は言う。

 一方で、今回のプロジェクトを実現する中で得られた、DirectX 12に関するノウハウ、最新のGPU上でのグラフィック表現に関するノウハウは、それぞれ個別に、同社のゲームエンジンである「Luminous Studio」や、開発中の「FINAL FANTASY XV」などの作品にもフィードバックされていくことになるという。

 「ゲーム開発は、現行のプラットフォームや技術の活用ばかりにリソースを集中してしまうと、次に出てくる新しいものへの対応が遅れてしまい、そのことが次の世代で他社に出遅れる原因になるというリスクが常にあります。実際、過去にわれわれにもそのような状況がありました。だからこそ、エンジニアは常に最先端の技術に貪欲ですし、トップもその重要性を理解した上で、今回のプロジェクトを承認してくれた部分はあると思います」(田畑氏)

 また、スクウェア・エニックスがこのプロジェクトから得たのは、技術的なノウハウだけではなかったという。

 「『道なき道を行く』とでも言いますか、開発者の立場から、これまでにやったことのない新しいことをやろうとするとき、どのように目標を定め、どのように進めていけば、それが成就できるのかという実例を、社内に閉じない取り組みにおいて作れたという点でも大きな意味がありました。また、リアルタイムレンダリングCGの技術は、ゲームの世界だけでなく、他の分野にも応用ができるものです。その技術力を内外に広く示したことで、今後、さまざまな可能性が広がってくるだろうと思っています」(田畑氏)

日本マイクロソフト デベロッパーエバンジェリズム統括本部 テクニカルエバンジェリズム本部エバンジェリスト 大西彰氏

 マイクロソフトの大西氏も「WITCH CHAPTER 0 [cry]は、これから登場するDirectX 12、そしてWindows 10で、どこまでのことができるのかを開発者に鮮烈にイメージさせ、新しい物を生み出すための原動力になったと思います」と話す。

 実際、Buildでの「WITCH」の公開以降、スクウェア・エニックスにはゲーム業界だけではなく、他のさまざまな業界から情報交換をしたいという声が、これまで以上に届くようになったという。

 「スクウェア・エニックスにとって、WITCH CHAPTER 0 [cry]の公開はスタートラインにすぎません。実際、今回はスケジュールの都合もあって、まずは現時点でのDirectX 12で確実に動くものを作ったという段階です。ですが、今後に向けて自分たちが持つアートやCGの強みを、最新の技術をベースに展開していくという意欲を示したことから、さまざまな新しい可能性が開けてくるだろうと思っています」(田畑氏)

 お話を伺う中で田畑氏は、ビジネス的な視点もさることながら「エッジな技術を使って、最先端なことをやる」ことの魅力を、開発者の立場で力強く語ってくれたことが印象的だった。WITCHを起点に動き出すスクウェア・エニックスの新たなチャレンジ、そして、マイクロソフトと同社との関係が、今後どのように発展していくのかも興味深い。

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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年6月30日

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