EMCジャパンは2015年10月15日、東京で「EMC Forum 2015」を開催。国内企業のITが大きく変化しようとしているいま、現在から未来への橋渡しを同社が果たせるとアピールした。また、東芝、日本通運、富士フイルムの新たなITへの取り組みを、ユーザーが詳細に語った。基調講演とユーザーの講演を中心に、同イベントの内容をまとめた。
EMCジャパンは2015年10月15日、東京で「EMC Forum 2015」を開催。国内企業のITが大きく変化しようとしているいま、現在から未来への橋渡しを同社が果たせるとアピールした。ここでは、基調講演とユーザーの講演を中心に、同イベントの内容をまとめた(当日実施されたパネルディスカッションについては、ニュース記事「ビッグデータや第3のプラットフォームのよくある誤解を議論」をお読みください)。
「どんな産業でも、既存の企業は現在のやり方を覆される可能性がある」――。米EMCのAPJプレジデントをつとめるデビッド・ウェブスター(David Webster)氏は、ITがビジネスと密接に関わり、その成否を左右する存在になりつつあることを、こう表現した。
これに伴い、企業におけるCIOの存在価値が、根本的に変わろうとしている。ビジネスを直接的に推進するITを構想し、実行することが求められるようになってきた。「しかし、新たに求められる役割と、現時点でできることの間には、大きなギャップがある」(ウェブスター氏)。
IT的には、ソフトウエア中心の世界へ移行していかなければならないことはもちろんだ。だが、目的は機動的で柔軟なITを実現しながら、コストを下げていくことだ。自社にとってのリスクを増大することなく、これを実現するにはどうしたらいいか、多くのCIOが頭を悩ませている。
EMCでは、実績に裏打ちされた既存製品の強化を続ける一方、「エマージングテクノロジー部門」と呼ばれる部署の活動をはじめとして、「第3のプラットフォーム」とも表現される未来への先手を打ち、悩めるCIOが自社に適したペースで新しい世界に対応していけるよう、支援を続けている。
新しい世界はソフトウエア中心だが、ソフトウエアオンリーではない。例えば「EMC XtremIO」というフラッシュストレージ製品は、これまで成し得なかった高速I/O性能を安定的に発揮するが、総所有コストは既存ストレージより大幅に低い。
ウェブスター氏は講演の最後に、2日ほど前に発表されたデルによるEMC買収にふれた。同氏は2社が完全に補完関係にあると話し、EMCの製品にデルのサーバー、モバイル、セキュリティなどが加わることで、中小企業から大企業のニーズを広くカバーした、総合IT企業が誕生すると話した。
東芝の寺下陽介氏は、「新たなビジネス価値創出に向けた『合意型PoC(Proof of Concept)』の実現をサポート〜Pivotal Labsのアジャイルソフトウェア開発手法を活用〜」と題する講演で、同社が2014年12月、東京・芝大門に開設した「eXtreme Design Studio」の狙いについて説明した。
クラウドに代表される環境の変化に伴い、システム開発のあり方は大きく変わろうとしている。誰かがかなり以前に固めた仕様に基づいて開発するというウォーターフォール型の開発に代わり、アジャイル方式で必要最小限の機能を満たす製品(MVP:Minimum Viable Product)を開発し、成果を実際に利用者に使ってもらい、その意見を反映して改良を繰り返し続けていくという新しいアプローチを通じて、これまでにない新たな価値を生み出すことが焦点になっているのだ。
米Pivotal Labsは、こうした新しい開発のあり方に必要なノウハウとプラットフォームを提供し、有力なスタートアップ企業を支援してきた。東芝は米Pivotal Labsと提携し、エンジニアの派遣や共同開発プロジェクトなどを通じてPivotal Labsのノウハウを吸収してきたという。この経験を生かして設立されたのがeXtreme Design Studioとなる。「利用者とコミュニケーションを取りながらニーズをくみ上げ、新しいサービスを構築していく『共創』がこのスタジオのコンセプトだ」と寺下氏は述べた。
ただ、一口に「共創」と言っても、それを実現するにはクリアしなければならないいくつかの壁がある。例えば、ICT活用に当たって存在するさまざまな壁、すなわち利用者と提供者、開発者と運用者の間に存在する壁をどう乗り越えるか、というのもその一つだ。「ICTの力と人の力、両方をうまく融合させてクラウド上で新しいサービスを作り上げていく、と言うのは簡単だが、実際にはさまざまなノウハウやコツが必要だ。そこに、Pivotal Labsから習ったことを反映している」と寺下氏は述べた。
Pivotal流の特徴の一つは、コミュニケーションを重視することだ。「どのアイデアが優れているか」とディスカッションするのではなく、コミュニケーションを通じて共感や気付きを得ながら、全ての参加者が合意できる仕様を作り上げていく。そして、単にその仕様を満たす「シナリオ」にとどまらず、「ユーザーにとってこんなニーズが必要ではないか」と探りながら、感情を込めた「ストーリー」に落とし込んでいく。
もう一つポイントを握るのは、アジャイル開発、二人一組のペアで実装を行うエクストリーム・プログラミングという開発スタイルだ。チームが作成したストーリーを実現するために必要なものを、優先度を付けながら二人一組で設計、実装、テストしていく。
ここで重要なキーワードが「YAGNI(You ain't gonna need it)」で、今必要なもの、コアとなるものだけの開発にフォーカスするという姿勢だ。「労力と時間をかけて多くの機能を盛り込んでも、納期が遅れてしまうだけだ。そもそも利用者のニーズの変化は激しい。新しいサービスを体験してもらい、その結果を共有、吸収するというサイクルを短期間で回していくことが重要だ」と寺下氏は語った。
実際、米Pivotal Labsでの開発風景はこんな感じだそうだ。「朝8時半に出社して9時にスタンドアップ・ミーティングを行い、ペアプログラミングに取りかかる。これを繰り返して一週間の最後、金曜日にはミーティングを行い、翌週のアクションアイテムを決定する。『昨日は徹夜したんで、昼から来ます』なんていうことはない」
東芝はこうしたPivotal流を学んだ上で、eXtreme Design Studioを開設した。ここでは、誰もが気軽に立ち寄れるPivotal Labsの「ウォークイン」スタイルを日本風にアレンジし、「ぷらっといん」というスタイルを提案している。「プロダクトオーナーに、『市場にはこのようなニーズがあるはずだ』という仮説を持ってぷらっとスタジオに入ってもらい、仮説をブラッシュアップしながら、オープンな環境でその仕組みをMVPの形に開発していく」(寺下氏)
アジャイルに開発し、その成果に対する利用者の意見を聞くために必要なプラットフォームも整備した。「効果を最大に生かすにはエラスティックな基盤が必要だ。eXtreme Design StudioではEMCのVNXシリーズにViPRを配置して、その上でオープンソース版と商用版のCloud Foundryを運用し、開発したものをデプロイするようになっている。また利用者がどんな体験を得たかという結果を汲み取るため、ピボタルのビッグデータスイートで解析する環境を作った」(寺下氏)
「常に利用者の意見を聞きながら、構築と計測と学習のサイクルを回していく。そうしてできあがったものが『価値』になる。開発した自分たちだけでなく利用者の意見も反映されているということが『共創』のポイントだ」と寺下氏は述べ、eXtreme Design Studioという拠点をベースに、顧客とともにMVPを作り上げていくプロセスを支援していくとした。
物流大手、日本通運グループの情報システム会社である日通情報システムでは、インフラのパブリッククラウドへの移行作業を進めている。同社の下田よしの氏は、「パブリッククラウドへの全面移行へ向けた日本通運の挑戦」と題する講演を通じて、移行に際して何を重視し、どんなプロセスを踏んでスムーズな移行を実現したかを説明した。
もともと日通情報システムでは2009年から2013年にかけて、個別に構築されてきた従来のシステムをプライベートクラウドに移行するプロジェクトを進めていた。「これにより、インフラ調達に要する期間を3カ月から10営業日に短縮できた他、コストも30%削減できた。加えて、基盤を集約することで災害対策を実現できるというメリットもあった」(下田氏)
だが同時に、新たな課題も生じてしまった。「仮想サーバーの増大に伴い、その運用工数も増加してしまった。同様に、リソースプールの構築管理業務も増加し、クラウド専任の運用担当者へ業務が集中してしまった」(下田氏)。
こうした課題の解決策を模索し始めたのは2012年の初めごろ。同年3月にはAmazon Web Services(AWS)が東京リージョンを開設するなど、ちょうどパブリッククラウドがメジャーになってきた時期だった。「しかし『企業として見た場合、パブリッククラウドは本当に使い物になるのか?』と誰もが思っていた時期でもあった。答えは誰にも分からない。ならばということで、自分たちで検証してみた」と下田氏は振り返る。
評価の軸としたのは「コンプライアンス」の他、プライベートクラウドと同等の機能が提供できるかという「システム特性」、そして「サービスレベルは下がらないか」という3点。検証項目をまとめ、対応状況を確認した結果、「十分に活用可能と判断し、次に、採用した場合どのくらい効果が得られるかを検証した」(下田氏)。
検証においてはRFI(Request For Information)の精査に加え、プライベートクラウドで稼働しているシステムのうち代表的な20システムを抜き出し、5年間の想定でコストシミュレーションを実施した。この結果「コスト効果、リソース管理の効率化や負荷軽減効果は期待できると判断した上、将来的な期待も込みで、パブリッククラウドへの切り替えを決定した」という。
これを踏まえ、より詳細な要件をまとめてRFPを出し、サービス候補を絞っていった。その中で浮上してきたのがAWSとIIJの二社だったという。
「一方は非常に低コストで先進的、もう一方には既存のプライベートクラウドと親和性が高いという特徴があり、非常に悩んだ。最終的には、コスト効果が高く、グローバルに展開しているAWSと、VMwareを使用していたIIJの二社を選び、マルチクラウドサービスの実現へ舵を切った」(下田氏)。IIJについては品質の高さ、日本企業ならではの手厚いサポートを、またAWSは業界のプライスリーダーならではのコスト削減効果や新たなサービス・インスタンスが続々登場する点を特に評価しているそうだ。
パブリッククラウドの採用に当たって同社では、提供するサービスメニューの概要をまとめた「サービスカタログ」の内容を更新。同時に、サービスの利用方法や開発の作法を解説した「ガイドライン」も、AWSとIIJそれぞれ向けに作成し、これらを元に社内やベンダー向けの説明会を繰り返し実施し、理解を求めたという。
このプロセスでは、EMCのコンサルティングサービスの力も活用した。「各クラウドの特性を十分に理解していただいた上で、利用者にも分かりやすい高品質なサービスカタログ作成を共に実施いただき、滞りなく外部クラウドサービスをスタートできた」(下田氏)そうだ。
実はパブリッククラウド導入に当たって、全く障害がなかったわけではない。その一つが「パブリッククラウドを採用すると、ある日突然パッチが当てられてアプリの動作に支障が出る」という「都市伝説」がユーザーに流布したことだった。「こうした問い合わせに対してはサービスカタログを示し、正しい情報を伝える啓蒙活動を進めた」と下田氏は振り返る。
結果として、「仮想サーバーの運用工数の増大とリソースプールの構築管理業務の増加という課題は解決できた」(下田氏)。クラウド運用担当者の業務集中については致し方ないが、おおむね「選んで良かった」という状況を実現できているという。
「パブリックシステムでシステムを構築するという短期的な目標は完全に達成できた。次は、プライベートクラウド上で稼働している2000ものOSをパブリッククラウドに移行していくという中期目標に取り組んでいくとともに、グローバルサービスも開始していく。最終的には、2019年度末に向けて全システムをパブリッククラウド化していく」(下田氏)。
最後に下田氏は、今後クラウドサービスの導入を検討している企業に向け、同社がどんなことに取り組んできたかを説明した。RFI/RFPやサービス設計、構築といった部分に目が行きがちだが、「まずは社内システムの分析、棚卸しを行い、さまざまなOSやデータベースを次期基盤に向けて標準化し、集約することが大事」という。そしてサービス開始前にはサービスカタログの準備とユーザーに向けた説明会を行うことも、見落としがちだが、移行を成功裏に進める上でポイントになるとした。
「IT部門の価値は、いかにビジネスバリューを提供するかということだ」。富士フイルムICTソリューションズの柴田英樹氏は、「富士フイルムにおけるビッグデータ分析・活用基盤構築事例」と題する講演の中でこのように述べ、グローバルなデータ分析基盤の構築を通じたビジネス最適化の取り組みを紹介した。
富士フイルムICTソリューションズは富士フイルムグループの情報システム会社として、「ITが経営にどう貢献できるか」という観点に立ち、システムの戦略策定や企画、構築、導入から保守運用までをカバーしている。
現在、企業を取り巻く環境は大きく変化している。オープン化やスマート化の流れに加え、IoTにビッグデータや人工知能といったテクノロジーの進化、そしてグローバル化やビジネススピードの加速といった市場環境の変化に直面する中、「とかくコストセンターと見られがちなIT部門は『何でもできます』では差別化にならない」と柴田氏は指摘。いかに変化のスピードを加速し、イノベーションを起こし、新しいテクノロジーを通じて差別化を図るかが問われているとした。
これに対し同社はIT部門として、「クラウドへの対応力強化」「オープンソースソフトウェアへの対応力強化」「アジャイル開発」という三つの取り組みを推進。「『ITを道具として与え使わせる』のではなく、IT部門がビジネス部門に対し積極的に働きかけ、『自らITを使って顧客価値を生み出す』ことを実現していかなければならない」(柴田氏)と考えているという。
ビッグデータの活用もこうした流れの一環をなすものだ。「富士フイルムグループ全体で、グローバルで共通化、統合化したデータの分析基盤を構築していくことを目指している。いわゆる基幹系にとどまらず、SFAなどの業務システムやSNSといったものも積極的に取り込み、最大限に活用していこうと取り組みを進めている」(柴田氏)という。
このグローバルなデータ分析基盤に求められる役割はさまざまだ。経営層ならば事業戦略の立案支援や月次の経営会議に役立つレポートが、現場レベルでは、部門別の戦略立案や日々のモニタリング、問題分析などが求められる。これを達成するためにデータ分析基盤には、リポーティングやOLAP分析、データマイニングといった「Business Intelligence(BI)」の機能、そしてプランニングを支援する「Business Analytics(BA)」の機能が必要だ
「こうした機能を備えた基盤を通じて、膨大なデータに内在する相互関係や構造を分析し、分かりやすく表現し、事実に基づく意思決定を支援する。スペシャリストのカンや経験に頼るのではなく、事実に基づいてビジネス上の判断を下すことがバリューチェーンに貢献し、ひいてはビジネスを最適化していくことにつながると考えている。『何かが起こってから変わる』のではなく、『何かが起こる前に変わる』というところにIT部門がいかに寄与できるかがポイントだと考えている」(柴田氏)
同社はそんなデータ分析基盤の実現を3ステップで実現しようと試みている。最初のステップはHadoopを活用した情報収集・蓄積基盤の整備で、これによって「洞察」を提供できる環境を整える。「次の段階として、予測分析によってビジネスオペレーションを最適化し、それをビジネスプロセスに取り込むことを目指している。そして最終的にはリアルタイム/データサイエンスによる新しいビジネスモデルを創出できる基盤を実現していきたいと考えている」(柴田氏)
こうして構築が進んでいるのが、富士フイルムグループ全体をグローバルにカバーするBAaaS(Business Analytics as a Service)、「ONE FUJIFILM」と、それを下支えするデータ分析基盤「Data Lake」だ。Data Lakeには構造化データも非構造化データも全てが蓄積され、ユーザーがそれぞれのニーズに応じて、自分自身でさまざまな分析を行えるという。
構築に際しては全てを一新するのではなく、既存のデータウェアハウスを集約した上で活用し、分析対象や内容に応じて適材適所でオフロードする形とした。提携分析用の標準ツールとしてMicroStrategyを採用しているが、それ以外にも「目的や用途、シーンに応じて、過去データの分析や未来予測、あるいは人工知能など、最適なBIやBAと連携できるインターフェイスを用意し、柔軟に連携できるようにしている」(柴田氏)。
Data Lake基盤の構築に当たっては、蓄積するデータの量や特性を踏まえた上で、EMCのハードウェアやPivotal Labsのソフトウエアなどを活用した。ポイントは、今後大量のデータを扱うことを見越して「初期構成からスケールアウトで拡張できること、それも活性的に基盤を拡張できることを前提に基盤を構築している」(柴田氏)点だ。
柴田氏は最後に、「モバイルやソーシャル、クラウドといったトレンドによってデータが増大しているが、ビジネスサイドにとっては、非常に好機であり、データ分析力が競争優位の源泉となりうる。それをとらえ、適切なソリューションを提供していく」と述べ、あらためてこのデータ分析基盤通じてビジネスの最適化に寄与していきたいと協調した。
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提供:EMCジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年12月15日