誰もが知る『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズなどを創り出したゲーム会社スクウェア・エニックスがインフラエンジニアを募集している。その“インフラ”が指すもの、そして追究するべき方向は、他の企業とは異なる興味深いもののようだ。本稿では、スクウェア・エニックスのエンターテイメントを下支えするだけではなく、提案も行える“インフラ”エンジニア像とはどんなものなのかを掘り下げるために現役エンジニアに話を伺った。
スクウェア・エニックスといえば、誰もが知る『ドラゴンクエスト』シリーズや『ファイナルファンタジー』シリーズなどを創り出したゲーム会社だ。現在は、その知的財産を基に、多くの事業展開を行っている。その内容も、多人数が参加するMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)、スマートフォン向けのソーシャルゲーム、据え置き型のゲーム機などさまざまだ。ゲームはいまやスタンドアロンで楽しむものから、ネットワークに接続し対戦や協力プレーを楽しむスタイルに広がりつつある。そのとき、重要になるのはネットワークを支えるインフラ技術だ。
今スクウェア・エニックスは、事業拡大のために「インフラエンジニア」の募集を行っている。しかしその“インフラ”が指すもの、そして追究するべき方向は、他の企業とは異なる興味深いもののようだ。本稿では、スクウェア・エニックスのエンターテインメントを下支えするだけではなく、提案も行える“インフラ”エンジニア像とはどんなものなのかを掘り下げるため、情報システム部の衛藤慎一郎氏と春山久夫氏に話を伺った。
「スクウェア・エニックスのインフラチームは、ひと言で表すなら“スペシャリストの集団”。リーダーシップを持っていて、形式的で無駄な手続きを踏むことなく自分で対処できる人の集まり」――春山氏はインフラチームをそう表現する。ゲーム開発部隊とも信頼関係を築いており、全員の力を合わせることで、同社のゲームを作り出している。「よく運用部隊は『誰のおかげでメシが食えていると思っているんだ』みたいな言われ方をする印象がありますが、ウチはそんなことはない。普通の“運用”とは違うかもしれません」(衛藤氏)。
スクウェア・エニックスが提供するゲームは多種多様であり、現在はその多くが何らかの形で“ネットワーク”を利用し、通信を行う。そのインフラ基盤のみならず、開発における継続的インテグレーション(CI)やソースコードのバージョン管理を行うためのサーバー、グループ全体の基幹システム、さらにはグループ会社となったタイトーの運営店舗をつなぐネットワークを、スクウェア・エニックスのインフラエンジニアが支えている。
「われわれは“エンターテインメントビジネス”を行っている。24時間動き続ける必要があり、止まると即影響が出る。ゲームの体験は“運用”に掛かっている。いくら面白いゲームを考えついても、スムーズに提供できなければ意味がない」――。この世界では、遅延や性能劣化がダイレクトに業績に反映される厳しさを持っている。「データベースへのアクセスについては、ミリ秒の100分の1の遅延で実際にサービスへの影響が出てしまい、社内では“大事故”と表現されたこともありましたね」(衛藤氏)。
現在、スクウェア・エニックスでは130(※1)を超えるタイトルを運営している。オンラインゲームの負荷対策においては「クラウドを利用し、動的にインスタンスを生成して負荷分散を……」というのが定石だが、『ドラゴンクエストX』『ファイナルファンタジーXIV』といったスクウェア・エニックスのMMORPGの場合は少々、事情が異なるらしい。
※1:2015年11月17日現在
「実は、普通のパブリッククラウドを利用しようとすると、データサイズやトラフィックの性能上の問題から『ウチでは、この性能は出せません』と言われる。何しろ運用しているサーバーは数千台、インターネットの接続帯域は数十GB以上、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)の活用は年間数PB以上、という大規模で高度なインフラを構築・運用しているので。そのため、自分たちのチームで機材を選定したり、ラックを設計したりして一からインフラ基盤を構築する」(衛藤氏)。
もちろん、負荷が高まることを予想した場合、リソースを次々と追加し、パワーで押し切る方法もあるが、スクウェア・エニックスでは少し考え方が異なる。衛藤氏は「この会社には“ファミコン”時代の開発者も多く、まさに1ビットも無駄にしない人たち。そういう人たちを見ると、ハードウエア、ソフトウエアの力を100%使い切った上で“どうやって120%に見せるか?”を工夫しなくてはならない」と述べる。
例えば、『ドラゴンクエストX』を支えるIT基盤としては、オラクルが提供するハイエンドなサーバー「Oracle Exadata」を利用している(※2)。金融、証券系以外でこのクラスのサーバーを活用し、しかもリソースを使い切るほど。ここからもスクウェア・エニックスのサービス規模が判断できるかもしれない。「インフラエンジニアは世間にあるものを限界いっぱいに使うべし」――衛藤氏はそう述べる。
※2:プレスリリース「スクウェア・エニックス、オンラインゲームのIT基盤にOracle Exadataを導入」
逆に、ソーシャルゲームについては、「積極的にパブリッククラウドを利用する傾向にある」と春山氏は述べる。
『MOBIUS FINAL FANTASY』『星のドラゴンクエスト』『乖離性ミリオンアーサー』『スクールガールストライカーズ』などの人気タイトルでは、ゲーム内イベントを開催すると100万DAU(デイリーアクティブユーザー)を超えるような急激なアクセス増加が発生する。そのような場合に備えて急なインフラ増強を行うことが非常に多いが、そういった流動的なインフラ構成の変更に対応するにはパブリッククラウドの利用が最適だと考えている。スクウェア・エニックスではゲームの特性に合わせて複数のクラウドを使い分けているのだ。
また、数千台を超える仮想サーバーを運用しているが、構成管理ツールとしてオープンソースの「Ansible」をメインに「Chef」「Puppet」なども利用して運用の効率化は実現している。しかし、これらのツール群はあえて社内で統一していない。
「われわれは多くの開発会社と協業している。そのとき、ツールを押しつけるのではなく、その開発会社が100%力を発揮できるよう、得意なツール、フレームワークを使ってもらっている。そのため、われわれはさまざまなツールを広く知るために常に情報収集を行っており、さらにそのツールについて問われたら深く調査できるような軽いフットワークが必要とされている」(春山氏)。
例えば、あるフレームワークを利用すると決めたとき、サービスインした後に初めて、負荷が原因の問題が発生したとする。その際には、フレームワークの解析なども手掛け、原因追及と対策を行うという。
「開発部隊からの要求に応えられるためには、インフラチームはスペシャリストになる必要がある。何かトラブルが起きたとき、SI事業者に問い合わせて答えを待つことはほとんどない。自分たちで問題を切り分け、8〜9割は自己解決できている。オープンソースもプロプライエタリも“中身の想像が付く”レベルにまで自分の技術力を高めなくてはならない」と衛藤氏は述べる。その結果、サポートに投げた事象は世界初、日本初のものになることも多いという。それだけ同社の技術力が高いことがうかがい知れる。
春山氏はこれまで、金融系システムのエンジニアとして活動していた。これまでの職場と比べて、スクウェア・エニックスは「技術力があり、全員が“自信のあるリーダー”」であるという。しかし、現在に至るまでには苦労もあったそうだ。
「この会社に来る人は、皆それまではリーダー職を経験し、自信がある人ばかり。そういうメンバーが集まっているので、入社した直後は皆、心が打ち砕かれる(笑)。それでいて弊社は、どこからでもキャッチアップできる受容性もある。業務時間の2割は学習・研究に当てられることもあり、最新の知識を身に付け、さまざまなことを体験できるので、毎日が楽しくてしょうがない」(春山氏)。
衛藤氏は、スクウェア・エニックスに入社後いったん退職し、別会社で働いた後にまた戻ってきた経歴がある。「ここ以上に技術をカジュアルに学べるところはなかった。いろんなところに技術の山があり、好きなだけ挑戦ができる。それを無駄だと言う人もいない」(衛藤氏)。
インフラエンジニアに対しては、「とにかくキツイ」「いつでも呼び出しを食らう」「そのくせ感謝されない」といった、少々悪い印象もあるのは確かだろう。そして最近は、エンジニアも安定志向の人が多くなった。「われわれの働き方は、単に言われたことをやるだとか、いちいち上に判断を仰いで決裁を仰いで……というものではない。例えば開発から『いっぱいサーバーを用意して』『5倍の性能が欲しい』と言われたとしても、その性能要求の根本がどこにあるのか判断し、リソースに応じて交渉するような、コンサルタントやネゴシエーターとして動く能力が必要とされる。そこに裁量と責任があり、自分の能力を十分に発揮できる環境だ」(衛藤氏)。事実、吸収力が高いエンジニアであれば、新卒でも2年目から一タイトルのインフラを任せられるほどだという。
いま、スクウェア・エニックスは、衛藤氏や春山氏のような人材を欲している。エンターテインメントビジネスを支える、ハイスペックなリソースを使ったシステムを守るインフラエンジニアだ。
ここまで紹介したように、エンターテインメントビジネスはいわゆる「企業のインフラ」とは少々異なる側面を持っている。土日や夜間も緊急時には対応が必要になるだろう。しかし、その環境は両氏が「最高だ」と評価する。
求める人材は、「貪欲に技術を詰め込むことができる人」。通常ならば触ることすらできないハイスペックの機器を、フルに活用するためのスキルを持つ人だ。「即戦力ならばなお欲しい」と両氏は言う。さらに、有名なゲームタイトルを扱うだけにサイバー攻撃も多いため「セキュリティスペシャリスト」にも来てほしいという。
そういったスペシャリストではないが、「そのようなスペシャリストになる!」という意気込みを持つ人にも門戸は開いている。いわゆる「ポテンシャル採用」だ。「きちんとしたミッションを設定し、プロジェクトの満足度をキープしつつ、責任を持って仕事ができる人」――そのようなエンジニアは大歓迎だ。
インフラエンジニアが自分の価値を高めたいと思ったときには、さまざまな業種、業態が思い浮かぶだろう。エンターテインメントビジネスでは、企画から構築、運用までが密接に関わり、かつ安定運用が顧客満足度に直結する。「最高」と評価される環境で技術を磨きたいエンジニアは、スクウェア・エニックスという選択肢を見逃す手はないはずだ。
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提供:株式会社スクウェア・エニックス
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年12月16日