vCloud Airが日本にデータセンターを開設し、日本国内で同社クラウドサービスを提供し始めてから1年が経った。特に2015年後半にかけて、同サービスの利用を検討する国内企業が急増してきたという。では、先駆的な国内ユーザーは、どのような理由で、どうvCloud Airを使っているのか。これを追った。
ヴイエムウェアは、2014年11月に同社のクラウドサービスである「VMware vCloud Air」の国内販売を開始した。それから1年。このサービスの典型的な利用パターンは見えてきたのか。ユーザー企業にとって、vCloud Airでなければならない理由はあるのか。具体的なユースケースを通して、これを探る。
vCloud Airは、VMware vSphereによる仮想化で、社内のITインフラを構築・運用している企業が、次のステップとして仮想化アプリケーションの一部、あるいは全体を移行する先として利用するケースが多いようだ。特に、重要なアプリケーションを動かしている場合は、安定稼働の確保が重要な条件になる。過度なリスクを負わずに、これを担保できるクラウドサービスとして、vCloud Airを選択するケースが多い。
クラウドへの利用を検討するきっかけは、自社で運用してきた仮想化環境の保守切れが多い。vSphereのサーバー仮想化で、以前の物理サーバーに基づくITの効率は向上し、TCOは低減した。だが、それでも5年に一度のシステム更改時の製品調査、RFPの作成、社内稟議、アプリケーションの更新など、多くの負荷がかかることは変わらない 。
これまでの社内運用でvSphereの安定性と運用性に信頼を置いている企業は、自らが信頼するvSphereを、これまでと変わらぬ運用手法で使い続けながら、システム更改やハードウエア障害対応などの工数とコストから解放される。vCloud Air選択の理由として、最も多いのはこれだ。
また、vCloud Airでは、CPU単位のライセンス体系が採用されているデータベース製品のクラウドへのライセンス持ち込みにも対応できる。vCloud Airでは、「Virtual Private Cloud (共有型)」, 「VPC OnDemand (従量課金型)」に加え、顧客ごとに専用の物理インフラを割り当てる「Dedicated Cloud (専有型クラウド)」が提供されていて、専有型ならCPUを特定できるからだ。
建設大手の熊谷組は、同社の基幹システムをvCloud Airに移行した。その動機は、上記そのものだったという。同社ではハードウエアのリース終了というチャンスを逃したくなかった。そのため、Windows Server 2000、Windows Server 2003といった古いOS上で動いている業務システムについて、同時に移行作業を行うようなことは避けたかった。そこで熊谷組にとって、vCloud Airが、これらのOSをサポートしている唯一の主要クラウドプラットフォームであることは、重要な決め手になったという。同社は、基幹システムを含む、全システムのvCloud Airへの移行をわずか1.5ヶ月で完了させた。今は、グループ企業のシステム集約も進めている。
日本のサラブレッド生産者の業務を支援する日本軽種馬協会もvSphereユーザーだが、5年ごとのハードウエアリプレースに掛かる工数とコストを排除するため、クラウドの活用を進めようとしていた。
だが、データベースのライセンスを移行できる適切なクラウドサービスがなかったため、同社の情報サービスでは、Webサーバーおよびアプリケーションサーバーはクラウド上、 DBサーバーおよび中央・地方競馬主催者や登録団体からのデータを受信する業務系ゲートウェイサーバーはオンプレミスという運用になってしまっていた。このため、情報サービスと情報の更新のパフォーマンスが低下していた。
日本軽種馬協会では、「専有型クラウド」を持ち、オンプレミスからのシステム移行が楽で、これまでと同様に安定運用が期待できるvCloud Airが登場したことで、即座にデータベースを含むほとんど全ての業務システムを1箇所に集約。オンプレミスの運用管理からも解放され情報サービスのパフォーマンスが大幅に向上したという。今後、オフィスの引越しを控えているが、今回の移行によりその負荷を抑え、引越しによるシステム停止も行わずに済むという。
広島市の不動産総合デベロッパー、マリモの場合は、2012年にvSphereを導入したため、ハードウエアのリース切れは2017年だ。だが、新たな業務システムのサービスインに伴い、オンプレミスのリソースが足りなくなってきたことをきっかけに、新システムからvCloud Airでの稼働を進めている。2016年末には全システムを移行する予定だ。
マリモでは、事業の多角化、オフィス移転、ともにITの重要性が急速に高まっていたが、これに伴いITの運用負荷が大きな課題となってきた。このため、2012年時点ですでに、クラウドサービスを利用したいと考えていたという。だが、当時は同社の要件を満たすサービスがなかったため、将来のクラウドサービス移行を見据えて、vSphereによる仮想化環境の構築を行ったという。
vSphereの採用で、それまでに比べてIT運用は改善した。それでも、マリモは不動産業であるため、週末や休日もシステムを止めるわけにはいかない。ハードウエアのメンテナンスやパッチの適用など、時間が限られるなかで担当者の心理的な負担も大きかった。そこでvCloud Airの登場に伴い、クラウド化推進の方針を決定したという。同社の場合も、vSphereのパフォーマンスや安定性に満足していたため、この環境がクラウドサービスとして使えることで、インフラ運用から解放され、ビジネスに注力できるITになれる点が、重要な選択理由になっているという。導入後、ストレージを増強するなど、vCloud Airのリソースプールも増強し、移行だけでなく新規のアプリケーションの構築も進んでいる。
企業の業務アプリケーションを構築し、その運用を代行するビジネスで、vCloud Airを活用する例も増えてきているようだ。
シーアイオープラスは業務システムの構築をメインとする企業。だが、運用の委託を受けることも多いという。これまでは、データセンターにおけるハウジングなどで運用・保守を提供してきた。だが、ハードウエアのトラブルに悩まされることが多かったという。
同社では、インフラのお守りからくる負荷を軽減し、アプリケーション開発に集中したいということから、複数のクラウドサービスを比較・検討。vCloud Air採用の決め手となったのは、「リソースプール」という考え方に基づくサービス提供方式にあったという。一般的なクラウドサービスでは、特定の仮想CPU/メモリ仕様から成る仮想インスタンスタイプを選択して使う。一方、vCloud Airでは、仮想CPU、メモリ、ストレージの総体としての量をリソースプールとして調達し、これを複数の仮想インスタンスに割り当てて利用できる。仮想インスタンス稼働後のスペック変更も可能だ。このため、シーアイオープラスは、個々のシステムの稼働状況を見ながら、それぞれのリソース使用を最適化できる。すなわち、リソース利用の無駄を防ぐ一方で、顧客に対するサービスレベルを向上できる。
シーアイオープラスでは、vCloud Airを開発環境としても使い始めているという。アプリケーションのアップグレードなどでは、現バージョンのシステムイメージを活用して、実効性の高い検証が可能になる。
vCloud Airでは、災害対策のため、システムおよびデータの複製をデータセンター側に保管しておき、万が一の場合にはここからシステムを起動できる、vCloud Air Disaster Recovery(以下、vCloud Air DR)というサービスを使う組織も増えているという。
東日本大震災の直後は特に、IT面での事業継続性計画や災害復旧が注目された。だが、当時はデータ複製のため、同一のストレージ装置を対向で使う必要があるなど、コストがかさむことから、比較的シンプルなバックアップでとどまらざるを得ない企業が多かった。だが、改めてシステム復旧を何らかの形で自動化できる仕組みの導入を考える企業が出てきている。
特にvSphereユーザーは、その後の技術進化により、他サービスよりも低コストで、システム復旧を半自動的に行える環境が整ってきている。
vSphereでは、ストレージ装置にかかわらず、仮想マシン単位で遠隔地に複製できる機能(vSphere Replication)が登場した。 この機能を実装したvCloud Air DRサービスは 、システムとして保護したい仮想マシンを同サービスに定期的に複製しておき、ここから即座にシステムを立ち上げて使えるようになる。オンプレミスへのフェイルバックも可能だ。しかも、以前の一般的な災害復旧では、予行演習がしにくいことが問題だったが、vCloud Air DRでは簡単に実施できる。
インターネットメディア事業のリブセンスは、vCloud Air DRでERP、ファイルサーバー、社内Webポータルなどをシステム保護している。同社がこのサービスを選択した理由は、「データセンターのvSphere環境上で稼働しているアプリケーションを保護する際に、仮想マシン形式の変換も要らず、親和性が高いこと」「仮想マシンを完全にコピーしておくという考え方はシンプルで分かりやすく、運用に手間が掛からないこと」「月額で最低9万円からと、コストが従来型のソリューションに比べ、非常に低いこと」「従量課金でなく、月額固定料金なので、予算化がしやすいこと」を挙げている。
総じて、クラウドサービスを活用していきたいが、既に導入しているvSphereの安定性をあえて犠牲にし、過度なリスクを背負いたくない組織、さらには、クラウドサービス上でも、システムのチューニングをしていきたい組織が、vCloud Airを積極的に使いこなしているようだ。上記に挙げた組織の全てが、社内システムを全面的に移行するとしている点、また多くの組織が移行後、新規のアプリケーションを同じリソースプール上で構築している点も興味深い。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2016年2月14日