今、企業には市場ニーズの変化をいち早くつかみ、スピーディに対応していくことが強く求められている。これに伴い、業務を支えるITシステム運用管理にも一層のスピードと柔軟性が不可欠となっている。だがシステムは仮想化、クラウドの浸透を受けて年々複雑化している。こうした中で、いったいどうすれば運用管理のスピードと効率を両立できるのか。2016年1月、日立製作所(以下、日立)が発表した統合システム運用管理JP1(以下、JP1)の新バージョンVersion 11に、そのポイントを探る。
市場環境の変化が速く、ニーズへのスピーディな対応が不可欠となっている近年、システム運用管理の要件も変わってきた。従来の「安定稼働」や「効率化」といった役割に加え、「ITを通じた新しいビジネスの創造」「経営への提案」など、“ビジネスへのより直接的な貢献”が強く求められるようになっている。
日立制作所2016年1月、3年ぶりに登場したJP1の新バージョンJP1 Version 11は、そうした時代の要請に応えるべくリニューアルを果たしたという。日立の加藤恵理氏(IT基盤ソリューション本部 基盤インテグレーション/JP1ビジネス推進センタ 主任技師)は、新バージョンの狙いを次のように語る。
「ビジネスチャンスを逃さないために、現在は市場環境の変化に迅速・柔軟に対応できるITシステム、運用管理が不可欠となっています。そこでVersion 11では『すぐに使いたい』『使いたい分だけ使う』といった経営層やシステム管理層のニーズを重視し、俊敏性、最適投資、伸縮自在、自動化、見える化の各要素を徹底的に追求しました」(加藤氏)
具体的には「サービスとしてのJP1」「クラウドを支えるJP1」「IT運用に革新をもたらすJP1」という3つの柱を軸に機能強化を図っている。
まず「サービスとしてのJP1」とは、パッケージ販売の他、新たに「SaaS(Software as a Service)型のJP1」を提供することを指している。オンプレミス環境やプライベートクラウド環境での管理を基本にしてきたJP1をクラウドサービスとしても提供することで、市場環境の変化に応じて「すぐに使いたい」「使いたい分だけ使う」というニーズに応える形だ。
「クラウドを支えるJP1」は、クラウド環境での活用に最適化する各種の取り組みを指す。「クラウド環境に対応したJP1ライセンス体系の見直し」「システム構築作業の自動化・設定作業の容易化」「オートスケール対応の拡充」などだ。企業におけるクラウド活用が浸透したことを受けて、クラウド環境で求められる高度な運用管理を容易に実現可能とした。
「IT運用に革新をもたらすJP1」とは、変化の激しいIT環境を自動化・自律化によって、徹底的に効率化することを指す。具体的には自動化機能の強化を図った他、ITシステム全体の運用状況を容易に把握・分析できる新製品「JP1/Operations Analytics」を追加した。
「JP1は1994年の発売以来、ラインアップ拡充や機能強化を継続的に行いながら、統合システム運用管理の定番的な製品として実績を積み重ねてきました。今回の新バージョンは、長年培ってきた技術・知見を結集して、スピード経営時代のITシステム統合管理製品に仕上げたもの。日本企業の運用管理現場に寄り沿った、従来からの使いやすさ、使い勝手を担保しながら、“今の運用管理”に求められる要件に合わせて進化させました」
では具体的にはどのような機能強化が施されているのか。詳細を見ていこう。
まず「サービスとしてのJP1」では、資産管理の「JP1/IT Desktop Management 2 as a Service」と、高速データ転送「JP1/Data Highway as a Service」の2商品のSaaS型提供を第一弾として開始する。
資産管理は、企業のPCやサーバ、スマートデバイスなどをクラウド環境で一元管理できるようにするサービス。ハードウェア/ソフトウェアの管理、アプリケーションやファイルの配布、セキュリティポリシーの作成とそれに基づく対策実行、スマートデバイスの管理やリモートロック/ワイプなどが可能。資産管理で求められる一連の機能を、まさしく「すぐに使い始める」ことができ、必要な機能だけを選んで利用することができる。
高速データ転送は、例えば設計書や画像データなどの大容量ファイルを、企業間で高速転送できるサービス。効率的な多重化通信を行うことで、大容量データを高品質かつセキュアに転送できる。
転送するデータ量に応じた価格設定により「使いたい分だけ使える」点がポイントだ。誤送信防止のための「上長承認による宛先確認」機能なども持ち、国内企業の実態に合わせた運用が可能だ。
こうしたJP1 SaaSは「何かを“管理するツール”を動かすための環境構築やサーバメンテナンスの手間・コストを少しでも省きたい」というニーズに応えたもの。特にこの2製品は、「以前からSaaS化のニーズが大きかった製品であり、顧客企業は多くのメリットが得られるはず」という。JP1 SaaSのラインアップは、今後、順次拡充していく予定だ。
一方、「クラウドを支えるJP1」の機能強化点としては、クラウドでの利用を念頭にした見積もりの容易さ、導入・構築の容易化、クラウドの特性を活かした運用への対応拡充が挙げられる。ライセンス体系をリニューアルし、物理環境を前提とした考え方を撤廃した。またプラットフォーム共通ライセンスにしたことで、クラウド環境でも投資予算の見積もりが容易になった。
二つ目はパラメータ設計の容易化。これまでの経験・知見を基に、デフォルトで提供している値を全面的に見直し、新規ユーザーは推奨値を適用するとすぐに利用開始できる。これにより、カスタマイズ用に設定が必要なパラメータ数は、ジョブ系で約70%、監視系で約60%削減したという。
また、ランブックオートメーション機能を持つJP1シリーズの運用自動化製品「JP1/Automatic Operation」を使うことで、設計したパラメータ値をシステムに自動反映し、構築作業を簡易化することもできる。これにより、エージェント数が増えても正確かつスピーディな反映が可能になる。
この他、オートスケール環境でのジョブ実行にも対応した。ジョブの実行先としてAmazon Web Servicesのロードバランサー「Elastic Load Balancing」を指定するだけで、ジョブが自動的にオートスケール対応になるという。
そして今回の大きな目玉が、「IT運用に革新をもたらすJP1」として投入された新製品、「JP1/Operations Analytics」だ。商用ツールやオープンソースソフトウェア、仮想化、クラウドが混在したヘテロジニアスな環境であることが一般的な中で、システム全体の状況の把握、障害原因の分析を実現する。
具体的には、サーバ、ストレージ、ネットワークといったシステム全体の構成要素を自動収集し、それらの上で稼働する業務システムとの相関関係を分かりやすく可視化する。
障害時には、その発生箇所や、原因個所の特定に必要な情報を自動的に抽出し、原因分析や影響把握を迅速化する。一般に、障害への対処はベテラン管理者のスキルやノウハウに依存している例が多いが、原因究明に向けた一連の作業を自動化することで、影響範囲の拡大、復旧作業の長期化を防ぎ、万一の障害時も業務への影響を最小限に抑えられる形だ。
例えば以下の画面イメージのように、「分析パネル」を操作するだけで必要な情報だけを自動抽出できる。
これにより、影響分析、ボトルネック検証、原因相関分析、システム変更の影響分析といった、本来、高度なスキルが必要な作業も容易に行える。「ダッシュボード」もシンプルであり、システム全体の状況をひと目で把握できる。
前述した運用自動化製品「JP1/Automatic Operation」と連携できることも大きなポイントだ。JP1/Operations Analyticsで把握したシステムの状況や問題原因に基づいて、問題の対処に必要な作業プロセスをJP1/Automatic Operationで自動実行することで、俊敏かつミスのないシステム運用を図ることができる。
今回のリニューアルではJP1/Automatic Operationも機能強化しており、「一般によく行われる作業プロセス」のテンプレートを拡充。作業プロセスを作るための部品も1000個を超え、自社に応じたきめ細かなカスタマイズが可能だ。テンプレートの種類は今後も随時、拡大していくという。
「自動化すべき部分、人の判断が必要な部分を切り分け、前者については一層の効率化を図ることで『人の経験・知見に基づく自律化』を図る仕組みです。ただ今後はIoT(Internrt of Things)の取り組みの本格化などにより、ビジネス展開とそれを支えるITシステム運用にも一層のスピードと確実性が求められるようになります。今後はリアルデータの分析に基づいた自律化に向けて、JP1をさらに進化させていく予定です」
以上のように、経営環境がITシステム運用に一層のスピード・品質を要求する一方で、ITシステムが大規模化・複雑化している中では、クラウド環境への対応や、自動化・自律化は、今後ますます不可欠な要素となっていくだろう。事実、これらは統合システム運用管理製品のトレンドとも言えるが、そうした迅速・確実な運用が求められる中だからこそ、重要となるのが、製品・サービスの信頼性・安心感だ。
その点、JP1には20年にわたり国内企業のシステム運用環境を支援してきた実績と知見が蓄積されている。製品のラインアップ拡充や機能強化にも、この知見が生かされているという。
加藤氏は、「日本企業独自のITシステム運用に配慮し、日本製品ならではのきめ細やかな機能強化に努め続けてきました。“今の運用管理現場”にとって本当に嬉しい機能強化を、今後も継続的に実施していきます」と述べ、3年ぶりの新バージョンが既存顧客だけではなく新規顧客にとっても大きな価値をもたらすことを訴えた。
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提供:株式会社日立製作所
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2016年3月23日
ビジネスのスピードアップやコスト削減を目的に、仮想化、クラウドは多くの企業に浸透した。だがシステムの複雑化により、かえって運用の手間やコストが掛かっているケースが多い。中でも多くの企業に共通する悩みが「障害原因の特定と迅速な対応」だ。障害分析スキルを持つ人材も限られている中で、いったいどうすればこの問題を解決できるのか? 具体策を紹介する。