オールフラッシュストレージ製品が話題になっていることはたしかだが、まだ大企業のデータベース高速化が主な用途ではないのか。今後オールフラッシュストレージはどう使われていくのか。ストレージ製品市場の動向に詳しいIDC Japanの鈴木康介氏と、国内オールフラッシュ製品市場において「EMC XtremIO」がトップシェアというEMCジャパンの渡辺浩志氏に、アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブエディターの三木泉が聞いた。
ここ1年間で、最も存在感を増したエンタープライズITインフラ技術といえば、何といってもオールフラッシュストレージだ。少し前までは、高速I/O性能を必要とする特定アプリケーション向けの製品と考えられることが多かったが、今やエンタープライズITストレージ製品に関する話題を独占している感がある。
では、これからストレージの導入あるいは更新を計画している企業は、オールフラッシュストレージ製品をどのように考えるべきなのだろうか。ストレージ製品市場の動向に詳しい、IDC Japan エンタープライズ インフラストラクチャ リサーチマネージャー 鈴木康介氏と、国内オールフラッシュ製品市場において売り上げがトップ(2015年第3四半期実績)という、EMCジャパン フラッシュストレージ セールスディレクター 渡辺浩志氏に、アイティメディア ITインダストリー事業部 エグゼクティブエディターの三木泉が聞いた。
――オールフラッシュストレージを実際に採用した企業は、果たして期待した通りの導入効果を得られているのでしょうか? そもそも、どこまで導入は進んでいて、どのような期待がオールフラッシュストレージには寄せられているのでしょうか?
鈴木氏 かつては、アルゴリズムトレーディングやゲノム解析など、極めて高いI/O性能を必要とする特定アプリケーション向けのポイントソリューションだととらえられていましたが、徐々に企業のシステム全体を網羅する一次ストレージとして採用する例が増えてきました。
このグラフでは、HDDとフラッシュを双方使用したハイブリッドストレージ、およびオールフラッシュストレージの合計出荷額を赤色、HDD構成のストレージの出荷額を青色の線で示しています。IDCでは、オールフラッシュストレージとハイブリッド構成のストレージの世界市場における合計出荷額が、HDDオンリーストレージの出荷額を、2015年に上回ったと見ています。つまり、フラッシュを使ったストレージの採用は、既に当たり前になっているといえます。
渡辺氏 現在、EMCに寄せられるお客さまからのご要望の大半が、オールフラッシュストレージ製品に関するものです。ユーザー企業と日々実際に接している肌感覚でも、「フラッシュ・ファースト」のニーズを実感しています。
背景には、フラッシュストレージがI/Oを高速化するだけでなく、その派生効果としてさまざまなメリットをもたらすことがお客さまに理解されてきたことがあると思います。例えば、ストレージのIOPSが向上すれば、データベースサーバの待ち時間も減りますから、データベースのためのハードウェアおよびソフトウェアの構成をシンプルにできます。データベースのライセンス費用を減らせる可能性も生まれ、トータルなITコストを削減する効果があります。
鈴木氏 オールフラッシュストレージはパフォーマンスチューニングがほぼ不要ですから、運用コストも大幅に低減できますね。I/O高速化のためのストライピング構成を組まなくていいので、ディスク容量の利用を効率化できます。また、システム構成をシンプルにできるので故障率も減ります。もちろん、システムを利用するユーザーにとっては、スループットが短縮することで生産性が向上します。これまで長時間かかっていた処理が短時間で終わることによって、意思決定の頻度を上げ、リアルタイムに経営判断を下せるようになります。
渡辺氏 システム運用面とビジネス面、双方においてオールフラッシュストレージにメリットがあることが認知されてきましたね。
鈴木氏 そうですね。実際、オールフラッシュストレージを導入した企業の多くが、短期間のうちに再びオールフラッシュ製品を購入しているという傾向もあります。このことからも、多くの企業にとってオールフラッシュの導入効果は非常に分かりやすく、また即効性があるといえそうです。
――そうはいっても、やはり大企業が、何らかのデータベースのために利用しているケースがまだ多いのではないでしょうか?
渡辺氏 企業規模という観点では、オールフラッシュというと少し前まで「高価な大企業向け製品」というイメージが強かったのですが、チューニングレスで運用できるという運用メリットが、自社内でIT要員を確保できない中堅企業に高く評価されて、導入が進みつつあります。
鈴木氏 メリットを理解している企業なら、規模や業種を問わず導入が進んでいますね。具体的なユースケースとしては、まずはデスクトップ仮想化(VDI)のストレージ基盤として導入するケースが多く見られます。VDI環境における、ブートストームやアンチウイルス定義ファイルの配布などへの対策のため、オールフラッシュストレージ製品を採用する例が増加しています。これによってメリットを実感した企業が、適用範囲をサーバ仮想化環境全般に広げるケースが増えています。
渡辺氏 EMCのお客さまから聞いた話では、VDI環境にオールフラッシュストレージを導入したところ、PDFファイルを開く時間が1分から数秒にまで短縮されたそうです。一見、些細な数字のようですが、これを全ての従業員の年間の労働時間に換算すると、相当な生産性向上になります。
鈴木氏 安定的な低遅延を実現できるのも、オールフラッシュならではの利点ですね。フラッシュとHDDが混在したハイブリッドストレージの場合、データがフラッシュにある場合とHDDにある場合とで遅延が大幅に違ってきますから。
渡辺氏 ハイブリッドストレージでは、スループットを全体的に向上させるため、フラッシュとHDDの間のデータ配置を最適化する必要がありますが、これも場合によってはストレージ管理者にとって大きな負担になりますね。
鈴木氏 ただし、さまざまなアプリケーションを担う一次ストレージとして運用する場合には、単に速いだけではダメです。レプリケーションやスナップショットをはじめ、これまでの伝統的なエンタープライズストレージ製品がカバーしてきた可用性や信頼性を担保するためのデータ管理機能を、オールフラッシュストレージも同様に備える必要があります。
――IDCによるオールフラッシュ製品市場シェア調査では、海外市場・国内市場ともに直近の四半期ではEMCがトップシェアを占めているそうですが、何が理由なのでしょうか。
鈴木氏 オールフラッシュ市場は当初、新興ベンダーが牽引してきましたが、ベンチャー企業の製品で基幹系システムの一次ストレージをまかなえるか、不安に感じる企業が多かったことも事実です。その点、ストレージベンダーとして長い歴史を持つEMCから製品が出たことで、オールフラッシュストレージの採用に至った企業が多かったように思います。
渡辺氏 XtremIOはオールフラッシュストレージ製品としては後発ですが、その分、他製品にはないさまざまな強みを当初から備えることができました。例えば、オールフラッシュ製品はコントローラーの性能がボトルネックになりがちなのですが、XtremIOはスケールアウト型の設計になっています。装置を追加するだけで、コントローラーの処理負荷を分散でき、リニアに性能を向上できます。
鈴木氏 データ活用の可能性が大きく広がった現在では、将来のワークロードを予見してストレージ基盤を準備することが難しくなってきました。ビジネスにイノベーティブなことが起きれば、データ処理の規模や速度の要求が大きく変わることがありえます。このため、拡張によって性能を維持できることはストレージ基盤として重要な要件だといえます。
渡辺氏 またXtremIOは、データ圧縮と重複排除を常にインラインで処理しますが、これらの機能をオンにしたままでも、安定して高性能を発揮できるよう設計されています。ストレージ製品のコストパフォーマンスは容量単価で比較することが多いですが、圧縮や重複排除を考慮するとHDDよりもフラッシュの方が、単価が安くなることもあります。
鈴木氏 データ圧縮や重複排除を使うと、フラッシュへの書き込み頻度を減らせるため、フラッシュディスクの書き込み耐性の面でも安心感があります。ただし、現在ではフラッシュディスクの容量が大きくなり、書き込み制御の技術も発達したおかげで、書き込み回数制限の問題は安全に回避できるようになっています。
渡辺氏 XtremIOでも、データ圧縮や重複排除のほか、エンタープライズクラスのフラッシュを採用することで、書き込み回数制限の懸念を排除しています。また一般的なオールフラッシュでは、データを書き込んでいくと「ガベージコレクション」と呼ばれる処理が必要になり、性能が徐々に劣化しますが、XtremIOではディスクがまっさらな状態でも、データで埋めた場合であっても、性能にほとんど差はないという検証結果が出ています。もし万が一、購入後3年の間にディスクが磨耗したり性能が急激に劣化したりした場合には、無償で交換するプログラムも用意しています。それだけ、信頼性や性能には自信を持っているということです。
――一般企業におけるオールフラッシュ製品選択に関するアドバイスとしては、どのようなことが言えますか?
鈴木氏 処理性能に関しては、どのベンダーの製品もある程度のレベルが担保されていますが、より詳細な情報が公開されていると安心感が高いといえるでしょう。一方、レプリケーションや複製、スナップショットといったデータ管理機能に関しては、近年の製品はそれもカタログスペック上は全て網羅しているようにうたっていますが、細かく見ていくと動作に制約が設けられていることもあるので、実際に動作検証を行うユーザーさんが多いようですね。
渡辺氏 データ管理機能のなかには、理解されにくいながらも重要なものがあります。例えば、XtremIOにはデータのコピーを簡単に作成できる機能があります。本番システムのデータベースのコピーを、開発や分析、リカバリの目的で作成する場合、XtremIOはコピー元データのポインタを増やすだけで、実際のディスク容量を消費することなくコピーを作成できます。これはかつてどんな製品も成し得なかった、コピーデータ管理の常識を覆すほどの画期的な機能です。
鈴木氏 プライマリストレージに対する投資の最適化という意味では、興味深い機能ですね。これまで多くの日本企業は、ストレージに対して安全性を求めるあまり、過剰な投資を行ってきました。しかし、「機械式ディスクから半導体メモリへ」という大きなパラダイムシフトが起こるに伴い、ストレージ投資に対する考え方も大きな転換点に差し掛かっていると見ています。
渡辺氏 とはいえ、既存ストレージ環境を一足飛びにオールフラッシュに移行することに不安を覚える方も多いかと思います。そうした企業に向け、EMCではアセスメントサービスも提供していますので、ぜひ一度ご相談いただきたいですね。
鈴木氏 これまで企業の業務プロセスのスピードは、業務システムのI/Oボトルネックによって決められていた部分もあったでしょう。しかし、オールフラッシュ導入による処理時間の短縮は大幅なものになります。例えば、ビジネス分析がリアルタイム化された場合、結果に対して即時にアクションを取る体制へと既存業務プロセスを刷新することになるでしょう。このように、オールフラッシュストレージはビジネスの変革を促進する可能性を秘めていますから、企業ではこれを有効に使いこなすことが、今後重要なポイントになると考えています。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2016年4月6日