IoTの可能性が多くの企業に認識されていながら、国内企業では成功事例はまだ少ない。では企業がIoTをビジネスに生かし、デジタルトランスフォーメーションを成し遂げるには、どうすればいいのだろうか。日本アイ・ビー・エム IoT Technical Lead 鈴木徹氏に、IoTの課題と、それを解決するためのアプローチ、そのために求められる環境や事例について話を伺った。
IoT(Internet of Things)は、機器同士が通信する従来のM2M(Machine to Machine)を包含し、さらにクラウドにも接続することで、新しいビジネスを企業にもたらすようになった。インターネットに接続されることなど想像もしなかったような「モノ」が人や環境とつながり、センサーから大量のデータを取得しクラウドに貯蔵。そのデータを解析することで、新しいビジネス価値やサービス、顧客体験が生まれる。
日本アイ・ビー・エム IoT Technical Leadの鈴木徹氏によると、IoTによって、次のようなアイデアが現実のものとして活用できるという。「会議室の椅子がインターネットにつながり、データを発信できるようになったとする。そのデータは、前の会議で誰かが水をこぼし、椅子を濡らしてしまったという小さな情報かもしれない。でも、その通知をリアルタイムに(事務や総務などへ)通知できれば、次の会議が始まる前に代わりの椅子を用意できる」。
IoTにおける大きな課題は、モノから取得できる大量のデータを生かして何を創るのか、そのアイデアを思い付くことだ。そのためには、モノから吐き出されるリアルタイムのデータを見ながら、フェイルファスト(Fail-Fast、どんどん建設的な失敗をする)で思い付く限りのことをどんどん試せる基盤/プラットフォームを持っている必要がある。フェイルファストとは、早い段階からトライ&エラーを繰り返すことで新しいビジネス価値を創出するという考え方だ。
「どんなデータがビジネス価値をもたらすかなんて、実は誰も分からない。だからこそ、6割くらい完成したら、まずは社内やパートナー企業へ積極的に公開して、どんどんフィードバックやインプットをもらう。無理やり時間をかけて完璧なものを作らなくてもいい。従来のITやITプラットフォームは、人間の指示に従って、サービスなどの安定稼働や品質維持、TCO削減という目標を達成するための道具にすぎなかった。しかし、これからのIoT/デジタルイノベーションの時代はROIを考えながら迅速に行動することがカギとなる。スピードを持ってアイデアを形に変え、競争力のあるプロダクトをどんどん出していく時代。それを支えるために、プラットフォームも進化する必要がある。未来のユーザーにとっての価値を最大化することを目指す、建設的な失敗を高評価するための仕組みが求められている」
そんなアジャイルかつスピード感を持った開発を支援する基盤が、2015年12月に発表されたIBM Watson IoT Platformだ。フェイルファストなPOC(Proof Of Concept:概念実証)から、実際に使えるモデルをサービスインした本番環境も支援できるプラットフォームとなっている。
IBM Watson IoT Platformは、MQTTやHTTPSなど標準通信規格を通じて多種多様なモノから大量のデータを収集、時系列によるイベントの管理、アプリの組み立て、リリース管理なども行えるプラットフォームだ。PaaS「IBM Bluemix」に搭載されており、下記機能を有している。
加えてIBM Watson IoT Platformには、その名の通り、IBM Watsonのコグニティブコンピューティングを活用できるAPIが用意されている。
さらに、異なる質問方法でも意図や意味を解釈して回答を探す「自然言語分類」、自然なやりとりを実現する「対話」、機械学習を活用してユーザーの検索を支援する「検索およびランク付け」、さまざまな形式のコンテンツをWatsonで利用可能な形式に変換する、音声を認識してテキストに起こす「音声認識」、テキストから音声を生成する「音声合成」の6つは日本語に対応する。
Watsonを組み合わせたら何ができるのかは「無限の可能性がある」と鈴木氏は付け加える。「だからこそ、アイデアを形にしながら失敗とブラッシュアップを繰り返す必要がある。このサイクルをどれだけ回せるかが、新しいビジネス価値を創出する上でとても大切だ」。次世代のサービスおよびアプリケーション開発を受け止めるIBM Watson IoT Platformは、まさにデジタルイノベーションを起こすための基盤と鈴木氏は断言する。
IoTデータの見える化、アプリ開発、新しいビジネス価値の提供という3つのステップを、鈴木氏は「IoTキッチン」と呼ぶ。取得できたデータという素材をキッチンに並べて、自由に調理しながら湧き出るアイデアを具体化するという意味だ。
アプリの組み立ては、IBM Bluemixに搭載されたフローエディター「Node-RED」を使うことで、直感的な操作で行うことができる。例として、鈴木氏は湿度や温度、3方向加速度を計測するセンサータグからアップロードされるデータを使って、振動を検知してWatsonの「音声合成」によってアラートを出したり、Twitterに通知を投げたりする仕組みを即座に作って見せた。
IBM Watson IoT Platformで何ができるか模索する取り組みは、既に多くの企業で始まっている。IBMでは現在のところ、企業のデジタルトランスフォーメーションに対応するべく、下記5つの用途に特化したソリューションを提供している。
海外の先行事例として、鈴木氏はSilverhook Powerboatsを挙げた。同社は高速の競技用船舶を設計する会社だ。IBM Watson IoT Platformの分析機能を活用することで、天候含む環境の条件やエンジンの状態など、船舶の操縦に影響を与えるさまざまな要素をリアルタイムに分析し、システムの障害の回避や選手の迅速な判断を支援している。選手のパフォーマンスを最大限に引き上げるだけでなく、深刻な事故の発生率も抑えることにつながっている。
他にも、国内のある製造業者は、機械の振動と加速度データをリアルタイムに見たいと思い立ち、10万円でゲートウェイやセンサーを数個ずつ購入、Node-REDで開発を始めた。開発自体は、ほぼ1人で数週間程度で完了したという。また他社では、3000円のセンサーとスマートフォンを使って1カ月程度で自社の車の走行状況を見る仕組みを作ったとのことだ。
IBM Watson IoT Platformの特徴は、それだけではない。特筆すべきは、業界の壁を超えたエコシステムのプログラムである「IBM Watson IoT Platformパートナーエコシステム」にある。このエコシステムに参加したパートナーは、WatsonをAPIなどで活用したアプリケーション/サービスを開発できる他、IBMの開発者やコンサルタントからのサポート、ユースケースの概念化や開発に向けたIBMアーキテクトによる支援など、IBMの幅広い知見やリソースを活用できる。
特筆すべきは、パートナー同士のコミュニティーだ。コミュニティーでは、Watsonの研究者や技術者、新規ビジネス開発を考える仲間とコラボレーションする機会がある。「これは、力関係にやや差がある一般的なパートナーシップとは異なる。会社や部門、専門性の枠を超えて本当にフラットな関係。真の意味での水平分業だ。むしろ、自前で何もかも用意するのではなく、オープンな協業でなければ、これからは生き残れない」。
自社は何ができるのか、未来の顧客にどんな価値を提供できるのかを考え、他社と競争力を確認し合いながらサービスを開発する。鈴木氏は、「養うべきは、自前による開発力ではなく、目利き力だ」と断言する。IBMのエコシステムパートナーは、そんな次世代のパートナーの在り方を示す。
もっとも、「オープンな関係性を築きながら何かを開発することは練習が必要」と鈴木氏は指摘する。「知見や技術などをクローズドにすることで競合他社との差別化を図ってきた日本企業は特に、フラットな関係性を保ちながらイノベーションを起こすことに慣れていく必要がある」。
日本IBMでは、エコシステムのパートナーと共に「Watson IoT Platform Arcade」というイベントの第1回を2016年7月26日に開催する予定だ。当日はパートナー各社によるライトニングトークや展示を行い、その場でIoTソリューションを体験できる場を提供する計画と鈴木氏は明かす。IoTを生かしたイノベーションへの第一歩を踏み出した企業は多い。パートナーとして、多くの刺激を受けられることは間違いない。
「挑戦しないリスクは、挑戦するリスクよりも大きい。企業は、技術者が試行錯誤できるイノベーション基盤を用意することで、変化に対応し、新しい技術や道具を応用しながら、企業・部門を超えたオープンな協業ができる“チーム”として新しい価値を生み出す。そんなチャレンジを一緒にできればと期待している」
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