第44回 未来を見通す力がないなら、「必要とされる自分」になればいいマイナビ転職×@IT自分戦略研究所 「キャリアアップ 転職体験談」

「転職には興味があるが、自分のスキルの生かし方が分からない」「自分にはどんなキャリアチェンジの可能性があるのだろうか?」――読者の悩みに応えるべく、さまざまな業種・職種への転職を成功させたITエンジニアたちにインタビューを行った。あなたのキャリアプランニングに、ぜひ役立ててほしい。

» 2016年11月01日 10時00分 公開
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 「クービック」が提供するサービスは、ひと言で言えば「予約システム」だ。ちょっとした空き時間に、さっと予約できる仕組みがあれば、サービス提供者の稼働率も上がる。

 特にマッサージやネイル、美容院といったサロン当日予約サービス「Popcorn(ポップコーン)」はクービックの人気サービスだ。ユーザーはスマホアプリから簡単に予約でき、サロンには、予約が入るとあえてメールではなく「電話」で知らせてくれるなどの点が好評となっている。

 そのPopcornを支えているエンジニアの1人が、2015年7月にクービックに入社した伊藤康太郎さんだ。サービスの機能開発、インフラ管理、さらには社内ITの運用管理も担当している。

 伊藤さんの前職はあの「DeNA(ディー・エヌ・エー)」だ。その伊藤さんはなぜ、大手企業からスタートアップに転職を行ったのか。「ニーズの発見は下手。自分はセンスが微妙」と自己評価する伊藤さんだが、そこには彼なりの「読み」があった。


【転職者プロフィール】
伊藤康太郎さん(35歳)

クービック エンジニア(2015年7月入社)

【転職前】
Webサイト構築企業での進行ディレクター職をへて、ディー・エヌ・エー入社。社内転職でエンジニアになり、開発、エンジニアグループのマネジャー、新卒採用育成、新規プロジェクト立ち上げなどに携わる
 ↓
【転職後】
クラウド予約システム「Coubic(クービック)」サロン直前予約アプリ「Popcorn(ポップコーン)」の機能開発、インフラ、社内ITを担当

過去の苦労と努力、そこから得られたもの

 伊藤さんは現在35歳。この業界ではいわゆる「限界」とも評価されている年齢だ。子どものころはパソコンオタクではなく、スポーツ好きな少年だったという伊藤さんは、大学で工学を学んだという。「プログラミングや工学基礎、果てはMBA入門も含め広く学べる場所でした」と伊藤さんは述べる。実はこの時の“浅いつながり”が、後に彼の運命を変えていくことになる。

 新卒で就職したのは、Webサイトを設計、運営する企業だった。そこで伊藤さんはWeb制作ディレクターとして、プロジェクトの進行管理を行うことになる。順当にスキルを積み重ねていたが、これらの仕事をこなすにつれ、1つの疑問が出てくる。

 「制作の進行だけでは、自分のスキルの幅が広がらないと考えるようになりました。システムの内部も分かるべきで、次第に『実際に自分で作ってみないと』と感じて。だから、エンジニアになりたいと思うようになりました」

 将来を考えたら、コードが書ける人間になるべきだ――と考えたが、その時代はエンジニア市場も経験重視だったため、伊藤さんは「そのままでは採用はされないだろう」と考える。そこで、まずはビジネス職として会社の中に入り、その後社内で「転職」することを考える。その企業こそが「ディー・エヌ・エー」だった。

最終的には「何とかなるだろう」と考える

 ディー・エヌ・エーでは転職直後、タイアップ広告コンテンツの設計などの業務に就いた。システムと営業の間に入り、仕様の調整やスケジュールの管理を行う業務は、どちらの立場も分かる必要がある。その業務を通じて下地を作った上で、社内ではエンジニア志望であることを猛烈にアピールしたという。

 「期末面談の自由コメントに40ptでデカデカと『エンジニアになりたいです』と記載して、上司との面談で猛アピールしました」と伊藤さんは振り返る。

 その試みは大成功したようだ。上司とも話し合いの場を持ち、伊藤さんはチャンスをつかむことになる。

 入社して1年半後、2009年10月にビジネス職から「エンジニア職」に社内転職する。ディー・エヌ・エーが提供するサービス「Mobage」のゲームカタログや会員登録などの主要機能を担当し、事業部横断のプロジェクトマネジメントにも携わることになる。「入社してしまえば、横移動は何とかなるだろうと考えていました。けっこうな賭けでしたが、結果的にうまくいきましたね」と振り返る。

ジェネラリストである理由は“かけ算のスキル”

 その後も伊藤さんの挑戦は続く。2013年に役職がつき、30人超のエンジニアグループのマネジャーとして従事し、さらに新卒採用/育成にも携わるようになったという。そして伊藤さんいわく「唐突に」新しい話が降りてきた。ディー・エヌ・エーが行う新業務のメディア制作プロジェクトに立ち上げから参加し、そのシステム設計を行う新しい業務にアサインされたのだ。

 そこではいかに効率良く運用を回すかがポイントとなり、伊藤さんはわずか半年で複数のメディアを、比較的少人数のエンジニアで運営するための基盤を作り上げた。ここでは設計から進行管理、組織作りまで幅広く手掛けることになる。

 伊藤さんは「ジェネラリスト志向が強い」と自己評価する。

 「大学入試でも、全科目満遍なく点を取りたがる人間でした。バランスよく全部やるというのが自分の特徴であり、長所であり、短所なのだと思います。だから、どれも中途半端で、どれかで一流になれているかというとそうでもないんです。けれども、“このスキルとこのスキル、その組み合わせで両方持ってる人がいない”というタイプのスキル付けをしていけば、他にはないタイプになれるのではないかと思うんです」

 ディー・エヌ・エーの新プロジェクトでは「やれることの幅が増えた」と伊藤さんは感じたという。しかし、そこでふと疑問も浮かんできた――このままでいいのだろうか?

偶然に乗ってみよう――決断の決め手は「ボラティリティの大きさ」

 はた目から見ると「大満足」であるような伊藤さんの状況だが、自身はそのころを振り返ってこう述べる――「大満足かもしれません。しかし、自分で言うのもおかしいけれど、ディー・エヌ・エーの環境は、居心地が良過ぎたんです。仕事も苦労なくこなせ、給与も高かった。楽しかった。でも心の奥底でずっと、『居心地の良い場所で、先が見える仕事をやり続けるのが正しいのか』という思いがくすぶっていました。このままでは、何も変化がないのではないか、と」。

 そんなとき、クービックの倉岡社長から電話があったという。実は倉岡社長は、大学時代の同級生だ。学生時代はそこまで深い交流はなかったとのことだが、「緩やかなつながり(※)」がここで表出する。その電話がきっかけでクービックに遊びに行き、「これも縁か」と転職を決意したという。

※緩やかなつながり=弱い紐帯の強み(The Strength of Weak Ties)。価値ある情報や転機のきっかけは、知り合いの知り合いなどの、社会的つながりが弱い人々(弱い紐帯)からもたらされる可能性が高いという説

 「将来、何が起きるか分からない。3年先も分からない。“行ってみるか”と考えたら、あとの思いは全部、上書きされてしまった」

 いま振り返ると、「上書き」のひと言の裏にはいろいろな思いがあったかもしれない、と伊藤さんは語る。

 「スタートアップに関しては、自分の中で矛盾した気持ちがあったと思います。『辞めたくない、辞めるつもりはない』という考えと、『スタートアップで何かしたい』、という思いの葛藤があって、その矛盾をずっとウジウジしてたとも言えます。ディー・エヌ・エーも多くのスタートアップ企業を買収していて、仲間としてスタートアップ経験者が集まってくるのを見て、『なぜ自分はそちら側ではなかったのだ』と思っていました。だから、クービックの話を断ったら、もう二度と決断できないのではないか、とも思ったのです」

 給与面に関しては、「手取りでいうと大きく下がらないものの、額面は下がりました」という。この点に関しては、家族の理解があったとともに、「ボラティリティ(※)の大きさ」がポイントになった。「クービックが提供するサービスは、ニーズもあるし、まだまだスケールするはずです。どこまで成功するかは分からないけれど、未来が信じられると感じました」。

※ボラリティ=価格変動の度合い

「そのとき」を待つ楽しみ――予測できないことだらけの世の中だから

 現在は、スタートアップならではの「多岐にわたる業務」――言い換えれば、何でも屋的――に携わる伊藤さん。将来はクービックのような「起業」に目を向けているのかと聞くと、「自分は向いていない」と評価する。

 転職を“勢い”で決めたことに関しては「石橋をたたいて……つまり、成長性を調べたり事業内容を精査しだりというようなことはあまりしませんでした。社長の人柄は知っていたので、それを重視し『ま、いっか』で。自分で自分が、大胆なのか慎重なのかよく分かりません」と楽しそうに笑う。「慎重さは欠いていたかもしれません。でも新しい場所で経験を積めれば問題ないと考えました。」と振り返る。

 その考え方の裏には、「将来は全く分からない」という考えがあるようだ。

 「現時点で10年後の技術動向を正確に予測するのは難しい。ならば、どう転んでもいいようにスキルを身に付けようと。なかなかいない人材になるために、“かけ算のスキル付け”は意識しています」

 伊藤さんが考える、なかなかいない「かけ算のスキルを持つ人材」の一例は、「エンジニアリングに詳しいミドルマネジメント」だ。

 「前職で採用をやっていた経験があるので分かるですが、自分でコードが書けて、かつ組織作りもできる人は本当に少ないです。少なくとも転職市場にはなかなか出てこない印象があります。裏を返せば、一芸に秀でていなくとも、スキルを掛け合わせることで希少性・存在価値をつくれるのかなと思っています」

 先が読めることは慎重に、そもそも予測できないことは「エイヤ」で考える。この2つは決して矛盾した考え方ではない。多くの人が転職の理由を「偶然」や「運」と答えるが、その裏には多くの思いが隠れている。

 「先が読めない」と繰り返す伊藤さんだが、予測できない未来に関してはこう答える――「私が携わったサービスがヒットして、スタートアップして次のステージにジャンプアップする、“そのとき”が来るのが楽しみです。いろいろなことをしつつ、そのときを待つ。そのとき、これまでの経験が生きるはずだと信じています」。

 そしてこうも答える――「これまで負けた賭けはありません。クービックでも、今まさに賭けているところ、成否の判断はまだ出ていないから」。

代表取締役社長 倉岡寛さんに聞く、伊藤さんの評価ポイント

 弊社の事業はエンジニアによるプロダクト作りだけでなく、ビジネスオペレーションも非常に重要です。

 伊藤さんはエンジニアという職種を超えて、チームワークを円滑に業務を進めることができる、チームにとって欠かせない存在になっています。また、技術力を発揮するだけでなく、エンジニアリング以外の会社作りという点でも積極的に関わってくれるため非常に頼もしいです。


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提供:株式会社マイナビ
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2016年11月30日

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