オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境は大きなメリットを享受できる反面、運用負荷が倍になる危険もはらんでいる。「Microsoft Operations Management Suite(OMS)」は、両者の溝を埋め、最適化された運用管理環境を提供することで、情報システム部門に新しい力を与えるツールとして期待されている。本稿では、EQUINIX橋本利一氏に、OMSによるクラウド時代の“カッコいい運用管理”の在り方を伺った。
“クラウドファースト”の考え方が浸透し、IT戦略を推進していく上でクラウド技術をいかに効率的に活用すべきか、どのようにクラウドサービスのメリットを享受するかという点を重視する企業が増えてきている。
もちろん、オンプレミスシステムのメリットを捨て去る必要はない。クラウド技術を適材適所で活用しつつ、自社に最適化したプライベートクラウドを構築できれば、長期間にわたって安定的なIT環境を利用できるだろう。
一方、クラウド化が難しいレガシーシステムを、これからも保有し続けなければならない企業や組織もあるはず。とはいえ、データセンター事業者のコロケーションサービスなどを活用すれば、ファシリティや運用面での負荷を軽減することは可能だ。
こうした技術や形態の違いは“良しあし”ではなく、単に“得手不得手”の問題でしかない。つまり、クラウド技術を中心としつつも、自社の目的やニーズに合わせて組み合わせ、それぞれのメリットを最大化する「ハイブリッドクラウド」こそが、現代の企業・ビジネスにとって最適化されたITといえるはずである。
データセンターサービスやマネージドサービス、ソリューションサービスなどを提供しているEQUINIX(2017年1月1日にビットアイル・エクイニクスから社名変更)でテクニカルマネジャーを務める橋本利一氏(ジャパン・ソリューション・アーキテクト)は、上述のような技術的なハイブリッドに加えて、さらに2つの分類があると説明する。
「1つは、『所有と利用』『共用と専有』『従量課金と定額』というように、異なる“利用形態”を組み合わせるハイブリッドです。もう1つは、データセンター事業者とパブリッククラウドベンダーというように、“サービス提供事業者”の組み合わせによるハイブリッドです。いずれも、自社のニーズや目的に合わせるため、十分に検討すべき項目です。例えば、弊社のデータセンターサービスとMicrosoft Azureとを組み合わせれば、パブリッククラウドへのスケールアウトを意識しながら、オンプレミスシステムの運用サービスを活用できます」(橋本氏)
パブリッククラウドの発展は目覚ましく、企業ITが必要とする機能や性能の多くを提供できるようになった。しかし、ハイブリッドクラウドが現実的な企業ITの解であると考えたとき、重要な課題が浮き彫りになる。特に「運用管理」の面で、経営者の期待と現場の状況に大きなギャップが生まれるのだ。
ハイブリッドクラウドは、端的に言えばオンプレミスシステムとクラウドサービスの2つを同時に利用するIT環境である。つまり、運用管理すべき対象も2つになるということだ。ここで問題となるのは、「運用管理ツールが2つになる」か「1つのツールで2つの環境を運用管理する」か、いずれかの状況になることだ。
それぞれの環境に1つずつ運用ツールがあるというのは、管理者にとって非常に厄介な状況となる。覚えるべき事柄が、単純に2倍になるからだ。多くの企業の運用管理の現場を見てきた橋本氏によると、オンプレミスとクラウドで、それぞれ別の運用管理担当者がついたところもあったという。シームレスな連携で活用してこそ、そのメリットを最大限に受けられるはずのハイブリッド環境を、スキルセットの異なる複数の人員で管理しなければならないというのは、明らかに非効率だ。そもそも、クラウドサービスに不慣れで、既存のスタッフでは管理できないというケースもあるという。
1つのツールで2つの環境を管理できれば負荷は増大しないように見えるが、“ものさし”が2つになるという重大な欠点を持つと橋本氏は指摘する。何らかの指標について、オンプレミスであればアラートが表示されるところが、パブリッククラウドであれば標準的な状態というケースもありうる。結果、この差を埋める“ものさし”を開発しなければならない。
「クラウドを導入したものの、目標のコストダウンが実現できなかったり、逆に運用管理の工数が増えたりした企業もありました。そうした悪例を目の当たりにして、経営者の理解も進まず、現場もさらなるクラウドへのシフトに二の足を踏むという状況に陥ってしまっているのです」(橋本氏)
クラウドのメリットを正しく享受するためには、「同じものさしを用意できるツール」が重要であると橋本氏は説く。単一でありながら、2つの異なる環境を同一の指標で比べることができるツールである。しかし、橋本氏によると、理想的なツールは極めて少ないという。
カスタマイズ性が高く、工夫次第でどんな環境も柔軟に管理できるようになる高性能で高機能なツールは存在する。しかし今度は、そのツールを運用するためのインフラが別途必要になるということも少なくないのだ。また、カスタマイズが煩雑すぎて、ツールに不信感を持つケースもあるという。「ツールのためのツールが必要になり、管理対象に匹敵するようなインフラが必要になる──もはや“運用管理のマトリョーシカ”のような状況ですね」(橋本氏)
運用管理ツールは、簡単すぎても、万能すぎても企業IT、特にハイブリッド環境には適さない。橋本氏は、特に「シンプルさ」が重要だと主張する。企業やIT担当者の思想やルールを、シンプルかつ一意に適用できるツールが最適だと述べる。
橋本氏がオススメする運用管理ツールが「Microsoft Operations Management Suite(OMS)」だ(画面1)。オンプレミスシステムや他のクラウドサービスも統合的に管理できるツールであり、最も理想に近い運用を提供できるという。
「なぜ、OMSが良いのかといえば、“カッコいい”からです。OMSのダッシュボードは、デフォルト状態でも既にカッコいいですよ。少し設定を変更するだけで、すぐにきれいなグラフを作成することもできますし、さまざまな情報を統合的に管理、監視することができます。こんな運用管理ツールは他にはありませんでした」(橋本氏)
運用管理担当者にとって、ツールはいちばんよく触れ、いちばん目にするもの。システムが正常に稼働しているかどうか、異常がないかどうか、何か新しい情報やアラートがないかどうか、常に目を光らせ、必要な情報をすぐに把握できなければならない。煩雑で使いにくく“カッコ悪い”ツールではなく、カッコいいツールだからこそ、常に触れ、見ていてチェックできる。運用管理担当者のモチベーションを高めるツールというのは、実は非常に重要で貴重だと橋本氏は述べる。
OMSでは「ホーム」画面や「マイダッシュボード」画面をカスタマイズすることで、自分に必要な情報を集約することが可能だ。従来の“高性能な”運用ツールでは、カスタマイズされたダッシュボードの情報を簡単に変えたり、消したりすることはほぼ不可能。OMSでは、トライ&エラーで自身の業務に必要かつ自分好みのダッシュボードを作り上げることができる。
「作るのも消すのも簡単ですから、どうすれば最もよい運用ができるかと、タイルの見せ方や分析の切り口を実験することができます。経営者向けに、分かりやすいカスタムビューを作るのもよいでしょう」(橋本氏)
ここで重要な点は「ものさし」だ。OMSでは各環境を自動的に判別し、最適な情報や警告を提供する機能が実装されている。
例えば、Microsoft Azureでは「Dドライブ」は「Tempドライブ」として扱われるが、一般のオンプレミスシステムでは通常のドライブであり、メインのデータ領域として利用される場合が多い。データベースの保存先として設定された場合、Azure環境ではアラートを表示し、オンプレミス環境では注意しないという区別を、OMSでは自動的に判断してくれるのである。
「この“ものさし”には、マイクロソフトの持つ膨大なナレッジが反映されています。単なる注意だけでなく、その根拠や解決策も示されます。そのため、素早く対策を講じることができるのです。しかもクラウドサービスですから、“ものさし”はどんどん増えていきます。『ソリューションギャラリー』(画面2)を見てみると、Azureとしては実装前の先端技術にも対応しており、ユーザーニーズを優先して開発されていることがよく分かります」(橋本氏)
橋本氏は、Microsoft Azure/OMSで気に入っている機能・ソリューションとして「ワイヤーデータ(Wire Data)」「Azure Site Recovery」「Power BI」の3つを挙げる。
「ワイヤーデータ」は、ネットワーク上のコンピュータからデータを収集し、IPアドレスやポート、プロトコル、送受信されたデータ量などの情報をまとめる機能だ(画面3)。
特に既存のシステムをAzureへ移行するときには、構成管理情報を取得・整理するのが困難だ。OMSの「ワイヤーデータ」を活用すれば、既存のオンプレミスシステムの状況を短期間でまとめることができ、ネットワーク設計や移行計画に役立てることができる。高価なプロトコルアナライザーなど不要で、習得すべきスキルも極めて少なく済むというわけだ。
さらに既存のオンプレミスシステムのクラウド移行では、BCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)対策サービスとしてバックアップ/リカバリー機能を提供する「Azure Site Recovery」を活用できるという(画面4)。わずか数クリックでオンプレミスの仮想マシンをAzureへ移行できる手軽さで、既にいくつかの移行プロジェクトで活用した実績もあるということだ。
「Power BI」はOMSとの親和性が高く、デザイン性にも優れた高度な分析を容易かつ低コストに提供できるツールとして評価が高い(画面5)。OMSが提供する「Log Analytics」機能などと連携することで、OMSで設定したクエリーの結果をPower BIにて分かりやすく視覚化し、さらに詳細なログ分析が行えるようになる(画面6)。またPower BI画面から、リアルタイムにOMSからのクエリー結果を更新することができ、いつでも最新の情報を元にログ分析をすることができる。ポイントは、“ものさし”を自分で作ることができるという点だ。
ビジネス上のものさしは、企業によって大きく異なる。例えば、どのサーバへ投資すべきかという判断に、データ転送量の多いサーバ、あるいはユーザーのログイン回数が多いサーバという指標で判断することがあるだろう。このような判断も、OMSで収集したログやPower BIによる分析の結果で、柔軟にいずれかの情報を指標と定めることも可能になる。
「私の経験では、Active Directoryの稼働状況を、業務環境改善のKPI(重要業績評価指標)として設定した例があります。アプリケーションのログイン状況では、正確な指標にはならないこともあるためです。これは、情報システム部門が、経営課題へのデータを提供できるという好例です。OMSとPower BIによって、攻めのIT、未来志向型のITを提案できる。それをすぐ簡単に安価に実現できるのが、Microsoft Azure/OMSの大きなメリットです」(橋本氏)
OMSが提供する多彩な機能や他ツールとの密接な連携機能を活用し、既存のオンプレミス環境とクラウド環境を効率よく管理できれば、ビジネスの成長に直結する“真のハイブリッドクラウド環境”を手に入れることができるだろう。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年1月18日