大手システムインテグレーター「TIS」に「ITアーキテクトになりたい」と乗り込んだ池澤あやかさん。意表を突く職務経歴書にコワモテ人事も目を白黒?
もしも、ギークタレント池澤あやかさんが実在の有名IT企業に転職するとしたら?――エンジニアなら、誰しも興味がある話題ではないだろうか。
本連載はそんな架空の設定の下、池澤さんにさまざまなIT企業で「エンジニアとして」採用面接を受けてもらう。
第1回「ヤフー編」は、池澤さんの志向と同社のニーズがすれ違い、不採用という結果につながった。奮起した池澤さんは、第2回「ユカイ工学編」で猛烈アピールし、仕事をやり遂げる「腕力」を評価されて採用を勝ち取った。第3回「リクルートスタッフィング編」では、週に3日だけ派遣エンジニアとして働き、タレント業と両立する働き方を模索、第4回「ギークス編」では、Unityの経験は浅いながらも「素直さ」を見込まれて、正社員採用となった。
シリーズ最終回で池澤さんがチャレンジするのは、IT業界のメインストリームの1つともいえるシステムインテグレーター(SIer)だ。
SIerというと、企業の基幹業務システムや、銀行のATM、官公庁の公共システムの開発など、お堅いイメージを持っている方も多いかもしれない。そんなガチガチな世界に池澤さんが活躍できる領域はあるのだろうか?
しかも、今回面接を受けるのは、業界大手TISインテックグループの中核を担う「TIS」だ。グループ58社で約2万人、TIS単体でも約5500人の社員を擁する大企業である。
面接官として登場したのは、同社企画本部人事部シニアエキスパートの中西康博氏と、生産革新本部アプリケーション開発センターソフトウェアエンジニアリング部シニアエキスパートの川島義隆氏。
中西氏は人事担当として、川島氏はITアーキテクトとして、池澤さんの人物面から技術面までをしっかりと見極めようという盤石の布陣だ。
これまでに比べて引き締まった空気の中、例によって一通りのあいさつを終え、話は池澤さんの経歴に移った。
「ご準備いただいたものを拝見してよろしいでしょうか?」(中西氏)
「はい」と履歴書と職務経歴書を差し出す池澤さん。
QRコードを貼り付けた職務経歴書を見て、「なるほど……」という言葉を発したきり、しばし沈黙する中西氏。もしかして、怒ってる? 叱られる? ヤバイぞ池澤さん!
川島氏も「GitHubなどのURLを記載する人はたくさんいますが、QRコードを貼ってくる人は初めてですね……」と、どうリアクションしていいのか分からない様子だ。
そんな重苦しい空気感を、一気にひっくり返したのは池澤さんの一言だった。
「ユーザビリティを考えました。URLを入力する手間が省けると思いまして」(池澤さん)
池澤さんがスマホでQRコードの読み取りを実演すると、面接官たちも感心した表情に。「これはこれで、アリですね」とうなずきあった。お2人の反応を見て一挙に自信を持った池澤さんは、Webサイト制作を幾つも手掛けてきたことや、UI/UXにも造詣があることを、上手にアピールできた。
続いて中西氏のターン。質問が幾つも投げかけられた。
「池澤さんから見たお客さまとは、誰ですか?」
「チームのマネジメントはしたことがありますか?」
質問に対して曖昧に回答すると、より具体的に内容を問う質問が出てくる。
「明確なマネジメントのポジションは経験していませんが、プロジェクトでリーダー的な仕事はしたことがあります」(池澤さん)
「それは、どういう状況だったのですか?」(中西氏)
「メンバーの希望を全部盛り込むと、企画趣旨からズレてしまいそうだったので、ブレないように私がリーダーシップを発揮して軌道修正を行いました」(池澤さん)
「システム開発でも、お客さまの要望を全て取り入れるのが必ずしも最善とは限りません。取り入れるべきものとそうでないものを取捨選択する必要があります。本質を捉えた良い考え方ですね」(中西氏)
わーい! やっと褒められた。ホッとした池澤さんであった。
採用人事が掘り下げて質問するのは、どのような考えがあるのかを話してもらいたいからです。圧迫面接じゃありませんので、安心してください(笑)
次に川島氏から、SE力を測るための課題が出された。
オーディオプレーヤーメーカーS社のクラウド型演奏システムを作ります。S社から出された要求は以下の通りです。
S社にどういう点を確認しますか? 設計上、どういう点に気を付ける必要がありそうでしょうか?
池澤さんは、しばし悩んだ後に「このクラウドサービスは、課金型ですか、広告型モデルですか?」と質問した。
「そんなこと聞かれたのは初めてです。では、広告型モデルということにしましょう。では次は、リピート機能とランダム再生機能に絞って考えてみましょう。確認したいことはありますか?」(川島氏)
「うーん……。自分のライブラリだけを見るのか、共有している他のユーザーのライブラリも見るのか……とか……?」と、疑問符を付けて自信なさげに質問する池澤さん、あえなく撃沈!
川島氏によると、この課題のポイントは「ランダム機能」なのだそうだ。
ランダム再生といっても、それが意味するものは1種類ではない。単純にバラバラに曲が再生されればいいのか、1度再生された曲はその後再生されないように制御した方がよいのか、確認が必要なのだ。
その内容によって実装方法も異なる。曲を乱数で選び出して再生すれば、同じ曲が繰り返し再生される可能性がある。あらかじめ曲の再生順序をテーブルとして作成しておけば、同じ曲が複数回再生されることはなくなる、などだ。
SEとして要件定義をする際には、曖昧な言葉の定義を明確にし、お客さまの希望を具体的にしなければならない。しかし池澤さんは、システムの機能よりもビジネスモデルの方に注目していたのだ。
(私、失敗しちゃったかも……)と困り果てる池澤さん。しかしそんな彼女の姿を興味深く見守る中西氏が、そこにいた。
SE力を測る課題の答えは1つではありません。むしろ考え方や着目点、根拠を示す説明力も見ています。自らの経験に基づき、こちらも気付かないような質問を期待しています
課題でチカラを出し切れず、意気消沈した池澤さんは、開き直ってお2人にいろいろ質問することにした。
「小さいアプリの開発もあるんですか?」(池澤さん)
「ありますよ」(中西氏)
SIerというと大規模プロジェクトのイメージがあるが、周辺システムの開発や、フィジビリティスタディー的なプロジェクト、1カ月かからないような小規模のプロジェクトもあるそうだ。
業務用アプリケーションの割合が最も多いのは事実だが、独自のJavaフレームワーク「Nablarch」(2016年10月にオープンソース化)を開発したり、AI分野、IoT分野の開発プロジェクトも手掛けたりしているという。
「AIやIoTもやってるんですか!」――お堅い仕事ばかりではないことに驚いた様子の池澤さんは、さらに質問を重ねていく。
「女性のエンジニアは、どれぐらい活躍しているんですか?」
中西氏によると、エンジニアの男女比は「男性3対女性1」とのことだ。
気になる産休、育休制度については、取得実績も多数あり、育休取得後の復職率は90%以上に達しているという。フレックス勤務や時短勤務、在宅勤務なども用意されており、育児と仕事を両立しやすい環境を実現していることが高い復帰率につながっているものと考えられる。
ちなみに「在宅勤務」というキーワードに池澤さんがトキメキを覚えたのは秘密だ。
「大きい会社ならではの良さが、たくさんありますね」――興味の持てるプロジェクトがあり、働きやすさも抜群な環境であることを知り、池澤さんのTISに対するイメージが、ガラリと変わっていった。
「技術発信に関しても比較的自由で、多くのエンジニアが社外のイベントで登壇したり、技術記事を書いたりしています。中でもQiitaのContribution数はSIerの中でもトップクラスです」(川島氏)
“SIer=堅い”“大手=四角四面”と思い込まれている方が多いのですが、仕事の内容は多岐にわたりますし、働き方の多様性は柔軟で制度が整っています。気になることは、面接でいろいろ聞いてください
質問タイムが終わると、2人の面接官は採用の審議に入った。果たして結果は!?
「残念ながら不採用です」(川島氏)
同社は今回、池澤さんにITアーキテクトとして活躍してもらうつもりで面接を行った。川島氏が面接に同席したのも、そのためだ。しかし課題の結果などから、ITアーキテクトとして採用するのは、今は難しいという結論に至ったという。
しかし、話には続きがあった。それまで終始コワい表情だった中西さんが、ニコリと微笑んで話し出したのだ。
「池澤さんは、システムのアーキテクトというよりも、より上位のビジネスモデルやユーザビリティなどを考えるのが得意なのですね」(中西氏)
中西氏は、「池澤さんはお客さまにビジネス的な視点も含めて提案していくプリセールスエンジニアに適正があるのではないか」と続けた。今回はITアーキテクトとしての面接だったので残念な結果になったが、プリセールスエンジニアならば採用だったかもしれないとのこと。
川島氏も同意見だ。実は川島氏はかつてそうした立場で仕事をしていたそうで、「お客さまへの提案書はパワポで作るよりも、実際に動くアプリを見ていただく方が、説得力が増すので、プロトタイプをささっと作れて企画趣旨も説明できる池澤さんは、向いていると思いますよ」と、池澤さんの可能性を高く評価した。
池澤さんは最後に、TISの社内を見学することにした。
きれいなオフィスに整然と並ぶ机は、さすが大手SIerならではの光景だ。しかし、次に見学した「bit&innovation」は「これがSIer?」と驚くほどの別世界だった。
bit&innovationは、TISが2016年9月に、オープンイノベーションによる新たなビジネス創造の拠点として新設したコワーキングスペースだ。キッチンカウンターやソファが置かれ、リラックスしながらも集中して働けそうな雰囲気だ。
施設内を案内してくださったのは、bit&innovationを管理する、ビジネスクリエーション事業部インキュベーションセンター長の林口文彦氏だ。
同スペースは、「スタートアップ企業やフリーエンジニアなどのイノベーター」と、「大手企業の新規事業、R&D部門などの担当者」、そして「TISインテックグループ関係者」の三者によるオープンイノベーションの場として設立された。
TISは、今でこそ大手SIerとして名が通っているが、実はこれまでさまざまなビジネスを展開してきた経緯がある。良い意味でベンチャー気質のある会社なのだ。ベンチャースピリットは、今もしっかりと社内に根付いており、「オープンイノベーション」「イノベーションのエコシステム」の実現を推進している。
具体的には「ヒト」「モノ」「カネ」というビジネスの3大要素を内外に提供し、アイデアをビジネス化していく。ヒトとはもちろん、TISグループのエンジニアのことで、カネとは2016年に創設された「コーポレートベンチャーキャピタル」、そしてモノに相当するのがワークスペースとしてのbit&innovationだ。
パートナーロボット「unibo(ユニボ)」を、介護や教育などさまざまな領域で活用させて新たなビジネスを生み出すために、「コーポレートベンチャーキャピタル」で出資する「ユニロボット」と協業するなど、さまざまな施策を展開している。
「私も申請して審査が通れば、このスペースを使ってもいいんですか?」(池澤さん)
「池澤さんの審査は、たった今終わりました。いつでも歓迎します!」(林口氏)
さすがベンチャー気質のあるSIer、意志決定も早かった!
SIerって堅苦しい会社ばかりと思っていたけれど、TISはちょっと違うかも。新しい分野をキャッチアップしているし、いろいろな面白いことにもチャレンジしている。大手ならではの制度が整っていて働き方の幅も広いので、女性エンジニアも働きやすいと思います
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:株式会社リクルートスタッフィング
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2017年4月27日