デジタルトランスフォーメーションのトレンドが本格化し、今、多くの企業にとって「大量データからいかにビジネス価値を引き出すか」「いかにスピーディに価値を形に変えるか」が差別化の一大要件となっている。このためには従来型のITインフラを見直し、デジタル時代に即したインフラへの変革が欠かせない。では具体的に、IT変革のポイントと具体策とは何か?――日本では初開催となったHPEの年間最大のイベント「Discover Forum 2017 東京」にその解を探る。
ヒューレット・パッカード エンタープライズ(HPE)が主催する年間最大のイベント「Discover」は、年に2回、米国とヨーロッパで開催し、1万人規模のユーザーが参加している。2017年4月21日、日本で初開催し、CIOやIT部門責任者、経営層など幅広い層から約800名が参加した。
基調講演には、米HPEのアントニオ・ネリ氏(エンタープライズグループ エグゼクティブ バイスプレジデント&ゼネラルマネージャー)が登壇。「Driving the right outcomes for your business −ビジネス成果の最大化に向けて−」と題して、HPEの戦略と製品展開の狙い、ユーザーの成功事例を紹介した。
ネリ氏はまず、昨今の企業ITをとりまく現状について、「大きく3つの変化が起こっている」と指摘した。1つは、クラウドへのワークロードの移行とソフトウェアデファインドの登場だ。クラウド上に蓄積されたデータを分析し、ビジネスに生かす取り組みが進んだ結果、ITインフラの複雑性が増している。2つ目はIoTやモバイルの進展。あらゆるものがどこからでもインターネットにつながるようになり、制御や管理が課題になってきた。3つ目は、IT消費モデルの変化だ。「個々の製品をそれぞれ購入する」形から、「ソリューションを利用する」形態に変わった。
「HPEでは、企業がこうした変化に対応できるように、3つの戦略を立てて取り組みを進めています。まずはクラウドによって複雑化した環境に対して、『ハイブリッドIT』を推進します。これにより、ITをシンプルに管理できるようにします。2つ目のIoTやモバイルの進展で生じる課題については『インテリジェントエッジ』を推進します。これは複雑な制御や管理を支援するインテリジェントなエッジコンピューティングを指しています。3つ目の戦略は、さまざまなパートナーとエコシステムを構築し、『プロフェッショナルサービス』を提供することです」
この3つの戦略を推進する具体策は4つあるという。それは「イノベーションの加速」「戦略的なパートナーシップ」「戦略的な買収」「ポートフォリオの最適化」だ。
中でも、買収とポートフォリオ最適化という点では、無線ネットワーク機器ベンダーのAruba Networksや、ネットワーク分析ツールベンダーのRasa Networks、ハイパーコンバージドインフラのSimpliVity、HPC(high-performance computing)のSGI、ユーザー/エンティティ挙動分析のniara、フラッシュストレージのNimble Storageなど、積極的な買収によりポートフォリオを拡充、最適化している。
さらに、ネリ氏は「全てがコンピューティング化され、あらゆるものがインターネットにつながることで、データから価値を引き出すことがビジネス上とても重要になってきた」とあらためて主張。特に、日本を含めたAPAC(アジア太平洋地域)は「デジタル化の最前線地域であり、新しいビジネスモデルを創出していくことがより強く求められるようになっている」と説明した。
事実、「データから価値を引き出す」上でHPEが支援した成功事例も数多くあるという。ネリ氏は、APACの代表的な4つの事例として、レガシーアプリケーションをハイブリッドクラウド環境に移行させたニュージーランドのエネルギー企業であるTrustPower、機械学習ソリューションで製造を自動化した日本の自動車部品メーカーのヒロテック、新しいIoTサービスを開発し顧客に提供した日本のクラウドサービス企業の沖縄クロス・ヘッド、モバイルデバイスを使って患者と医師の関係を改善させたオーストラリアのEPWorthを紹介した。
その上で、ネリ氏は、こうした成功事例の背後には「勝利の方程式」があると主張。それは「最適な成果(Right Outcomes) = 最適なエクスペリエンス(Right Experience) + 最適な組み合わせ(Right Mix)」というものだ。
では、企業は「最適なエクスペリエンス」と「最適な組み合わせ」をどう実現していけばよいのか? それを支援するプロフェッショナルサービスとして「HPE Pointnext」を用意しているという。これは「デジタルトランスフォーメーションを加速させる上で必要なITサービスをワンパッケージで提供するもの」だという。専門分野の異なる2万5000人のITエキスパートで構成し、コンサルティングからテクニカルサポートまで提供する。業界最高レベルのパートナーエコシステムがこうしたサービスの提供を助けるという。
また、オンプレミス環境のサーバやネットワーク、エッジとクラウドを業務に応じて「最適な組み合わせ」で利用できるような製品開発を行っている。中でも「世界初となる『コンポーザブル・インフラストラクチャ』がカギになる」という。
コンポーザブル・インフラストラクチャとは、CPUやストレージ、ネットワークという構成要素を利用目的に応じて自由に組み合わせて柔軟なIT基盤を作るためのコンセプトだ。ハイパーコンバージドインフラの上位的な位置付けの製品とも言える。具体的な製品としては、「HPE Synergy」である。Synergyは、すでに米国ゲノム解析の研究機関などで活用され多くの導入効果を生み出している。
一方、「インテリジェントエッジ」を実現する上では、コアネットワーク領域でのAristaとの協業や、エッジ領域におけるAruba、Niara、Rasaのテクノロジーの組み合わせで対応していくという。さらには将来的なIoTの進展も見据えて「HPE Edgeline」と呼ぶ、エッジコンピューティングの統合運用環境も拡充していく。
最後にネリ氏は、「最適な成果は、最適な組み合わせと最適なエクスペリエンスから生まれるが、大事なことは専門的な知見を持っており、ソリューションとして提供するノウハウ・経験があることだ。弊社はそうした知見・ノウハウを基に、パートナーと共に迅速に価値を提供していく」と力強く宣言した。
続いて行われた事例講演には、SBIリクイディティ・マーケット(SBILM)代表取締役社長の重光達雄氏が登壇。「世界のFXをリードする SBIのハイブリッドIT戦略」と題して、同社がどのようにハイブリッドITを構築していったのかを披露した。
SBILMは、SBIグループで外為事業を統括する企業だ。「外国為替取引を、誰もがいつでもどこでも、自由に行うためのマルチなプラットフォームプロバイダー」として、金融商品取引業者等向けにマーケットインフラの提供を行うと共に、傘下のSBI FXトレードにおいてFX(外国為替証拠金取引)事業を、FXクリアリング信託において信託事業を展開している。
2016年の外為総売買代金は684兆円に達し、同期間の東証1部売買代金の643兆円(日本取引所グループ公表データ)に匹敵する規模だ。SBIグループは、金融サービス事業、アセットマネジメント事業、バイオ関連事業の3つが柱だが、その中でもSBILMはFintech事業の担い手の1社となっているという。
SBILMでは、システムの開発・運用を内製化し、ミッションクリティカルな環境を実現していることが大きな特徴だ。取引のためのクライアントシステム、注文を処理する注文マッチングシステム、ディーラー向けのリスク管理システム、FXに係る資産を安全に信託管理する管理FXクリアリング信託システムなどをオンプレミスで構築し、クラウド上に構築したビッグデータ分析やAIエンジンなどと連携させている。また、国内外金融機関やインターバンクとはAPIベースで接続されている。
「このようなオンプレミスとクラウドのハイブリッドITを実現するためにHPの製品を活用しています。クライアントシステムにはHPE Synergyの導入を決定しています。注文マッチングシステムには『HPE ProLiantサーバ DL980 G7』と『HPE Integrity Superdome X』を、さらにリスク管理システムにはサーバ『HPE ProLiantサーバー DL560 G8』を採用し、さらにクラウド連携には『HPE Apollo 4200 System』を使っています」
こうしたインフラを支えているのがハイブリッド戦略だ。大きく3つの取り組みがある。1つは「事業拡大に合わせたサーバ処理性能の向上」。2008年から現在までに口座数が約13倍、預かり残高が約70倍になる中、サーバ処理能力を50倍近くにまで高めてきた。
2つ目は「クラウドを利用した分析環境の構築」だ。オンプレミスのHPE Apollo 4200 Systemとクラウド環境を組み合わせ、大容量データをオンプレミスで処理することで、トラフィックの削減とサービスレベル向上を図っている。クラウドにはMicrosoft Azureを採用し、AIを使った分析に取り組んでいる。
3つ目は、HPE Synergyの導入による構築・運用コストの大幅な削減だ。従来は專門エンジニアがサーバ1台当たり2日で構築していたところ、Synergyは1台30秒で経験が浅いシステム担当部員でも作業が可能だという。また、仮想化が不要で、迅速にシステムを配備・変更できるため、パフォーマンスとリソースの有効活用を徹底できるという。
最後に重光氏は、「事業拡大スピードの最大化とコスト最適化のためには、最新機器の導入が最も適しています。これからもAIなどの最新技術を積極的に活用して、世界規模にまで事業を展開していきます」とまとめた。
続く事例講演には、東京急行電鉄 取締役 常務執行役員 CIOの市来利之氏(生活創造本部担当 生活創造本部長 兼 生活サービス事業部長)が登壇。「10年先を見据えた『文系企業』の基幹系情報ネットワークとIT戦略」と題して、東急電鉄が現在取り組んでいるIT施策を紹介した。
東急電鉄は1922年に創立し、交通、不動産、生活サービス、ホテル・リゾートの各事業を展開する企業だ。売上高は1兆914億円に達するが、交通事業の売上は18%(2006億円)に過ぎず、最も比率が高いのが生活サービスの54%(6441億円)、次に不動産の17%(1990億円)、ホテル・リゾートの9%(1039億円)と続く。
「このように泥臭い営業関係の事業が中心を占めるなど、根っからの文系企業で、理系の分野では歴史的に苦戦してきた経緯もあります。2022年に100周年を迎えますが、長期ビジョンとして、東急沿線が『選ばれる沿線』であり続けることを掲げています。具体的には渋谷再開発などを進めています」
IT戦略については「文系企業なりにがんばってきた」という。従来のIT課題は事業ごとに独立したITシステムがあり効率が悪かったこと。そこでIT戦略を見直し、IT子会社「東急テックソリューションズ」にIT業務を集約。ITガバナンスの強化と人材・知見の強化を図ってきた。
こうした地盤固めを進めた上で、具体的なIT活用に取り組んでいった。1つは「東急線アプリ」だ。アプリを使うと、列車の現在位置の把握や、実際の駅間の所要時間の把握、監視カメラの映像(匿名化処理済み)から混雑状況を把握できる。列車の運行状況をスマートフォンでリアルタイムに確認可能とすることで、「お客さま自身がスムーズな乗り方を実践できるように」したという。
2つ目は「インテリジェントホームの取り組み」だ。IoTを活用したスマートホームサービスで、外出先からカギの施錠確認やエアコン、照明のオン・オフができる。また、子どもの帰宅確認や高齢者の見守りサービスも可能。APIを提供することで、民泊や内覧予約、シェア会議室などへの活用といったこともできるという。
こうした新しい取り組みを支えている重要なIT基盤がネットワークだ。同社の基幹系情報ネットワークは、線路沿いに敷設した自営の光ファイバー網を中心にネットワークを構成しているが、長期間の利用により課題が出てきていた。また、今後のさらなるITの取り組みを支えるには懸念もあったという。
特に大きな課題は、古い機器の維持・管理が難しくなってきたこと。ネットワーク構成の問題で、部分障害が起こったときに全体に波及するリスクもあった。また、設定が複雑なため、障害対応に高度なスキルが必要なことも課題だった。これらを受けて、基幹系情報ネットワークの更新を計画。そこで活用したのがHPEのネットワーク機器とソリューションだった。
「ネットワーク更新の狙いはビジネスを止めないこと、将来的なトラフィック増に対応すること、コストを削減すること。つまり、高可用性、拡張性、低コストを目標にしました。これに対するHPEの提案は、ネットワーク機器の冗長化と通信経路の多重化、迂回経路を新設するというもの。高可用性を図りながら、拡張性を確保することで、保守性が高まり、コストも削減できるという案でした」
プロジェクトは2016年4月にスタートし、2017年4月現在、データセンターや本社の機器設置工事の切り替えまで完了。2018年3月までに、全駅/駅隣接事務所の機器設置工事と切り替えを終える予定だ。
市来氏は、「ベンダーが変わることで現場に不安もありましたが、問題はほとんど発生せず、順調に推移しています」と現状を報告。最後に「止まらないネットワークは、東急電鉄のビジネスを支える重要なIT基盤です。HPEとともに、これからの新しいビジネスを作っていきたいと思います」と述べ、講演を締めくくった。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年6月24日