ハイブリッドクラウドが本格的に使われ始めた今、「データの移動」が新たな課題として浮上している。その解決策としてネットアップが提唱しているのが「NetApp Data Fabric」というコンセプト。同社のセミナー「NetApp Cloud Champions 2017:クラウドベンダーとネットアップが提言! ビジネス価値創造のための一歩先を行くハイブリッドクラウド活用」では、このコンセプトに基づくクラウド活用法が示された。
アマゾン ウェブ サービス(AWS)、Microsoft Azure、Google Cloud Platform(GCP)といった地球規模のパブリッククラウド(メガクラウド)は、サービスインから10年(AWSの場合)が経過した今も精力的に規模を拡大し続けている。ただし、クラウドが手軽に利用できる状況になったとしても、それだけの理由で全てのエンタープライズコンピューティングをパブリッククラウドに移行できるわけではない。
その最大の要因は、企業や団体には法制度やビジネス上の理由で“外出し”ができないデータがあること。例えば、預貯金口座、個人情報、マイナンバー、営業秘密などのデータだ。
そこで、多くの企業や団体が採用しているのは、重要/機密データを取り扱う基幹系システムや認証系システムをオンプレミス側に置き、パブリッククラウドでは情報系システムなどを利用して、両者をシームレスに連携させるハイブリッドクラウド方式だ。業務の特性や利用したいサービスごとに複数のパブリッククラウドを使い分けると、マルチクラウド方式となる。
ただし、このようなハイブリッドクラウド/マルチクラウド時代になると、データの取り扱いに関する1つの新しい課題が浮上する。
「さまざまなクラウド技術が競い合っていくというのは非常に望ましい状況なのですが、一方で、複数のクラウドサービス間でどうやってデータを移動するか、共有するかが問題になります」と指摘するのは、NetApp Cloud Champions 2017で基調講演のスピーカーを務めたネットアップの神原豊彦氏(システム技術本部コンサルティングSE部 部長)。
クラウド間のデータ移動はネットワーク経由で行うしかなく、ほとんどの場合は移動するデータ容量に応じて費用が発生するため、ローカルのネットワーク経由で自由に移動できるオンプレミスに比べて制約が増えてしまうというのだ。
そうしたクラウドの制約を打ち破るためのコンセプトとしてネットアップが提唱し続けているのが、相互接続されたクラウド環境の中で自由にデータを移動できるようにする「NetApp Data Fabric」になる(図1)。
NetApp Data Fabricの特徴は、データがどのクラウドにあっても参照や更新ができるようにするための論理的な仕組みをアプリケーションに提供しつつ、実際のデータの移動についてはビジネスや運用管理の要請に合わせて柔軟に対応できることだ。「ラジオのチューニングダイヤルを回す感覚で、業務アプリケーションやデータを自由にバランスよく移動させることができます」と神原氏は説明する。
例えば、重要データや機密データを格納したストレージをエクイニクス社データセンターのコロケーション区域に持ち込み、専用線サービスでプライベートクラウドと接続する「NetApp Private Storage(NPS)for AWS」「NetApp Private Storage(NPS)for Microsoft Azure」は、パブリッククラウド上にデータを置くわけではないので、企業や団体のセキュリティ規定をクリアするのは容易であり、オンプレミス側ストレージとの間でデータを自動的に同期することも可能だ(図2)。
また、データをパブリッククラウドに移行できる場合は、オンプレミスでのアクセス方法(NFS、iSCSI、SMB/CIFS)を変えることなく――つまり業務アプリケーションに変更を加えることなく、――クラウドストレージを活用できるようにする「NetApp ONTAP Cloud for AWS」や「NetApp ONTAP Cloud for Microsoft Azure」が有効なソリューションとなる(図3)。NetApp ONTAPには重複排除やデータ圧縮の機能が備わっているので、クラウドストレージの利用料金を最適化するのにも効果的だ。
さらに、「NetApp Cloud Sync Service」を使うと、オンプレミスやプライベートクラウドのネットアップストレージと「Amazon Simple Storage Service(Amazon S3)」の間でデータを高速同期するサービスで、同期後はAWSのS3をデータソースとするサービスを活用することが可能になる(図4)。
NetApp Data Fabricのコンセプトに基づくネットアップのソリューションは、既に世界中の多くの企業や団体で実際の業務に活用されている。海外での事例として神原氏が紹介したのは、イギリスの人材派遣企業Cordant Group、オーストラリアの大手金融機関SUNCORP BANK、米国のJPL(NASAに属する研究所)など。国内では、ICTサービスコーディネーターのJSOLが請負開発後の保守/メンテナンスに活用している。
このような特徴を持つNetApp Data Fabricは、クラウド関連ソリューションを提供している企業からも高い評価と支持を得ている。NetApp Cloud Champions 2017のセッションには、そうしたパートナー企業の中から5社が登壇し、それぞれの製品やサービスとネットアップとの連携状況を紹介した。
アマゾン ウェブ サービス ジャパンは、「NetApp Private Storage for AWS」「NetApp ONTAP Cloud for AWS」の他、バックアップ用の「NetApp AltaVault」と「AWS Snowball」の連携により、大容量データを迅速にクラウドへ移行できることをアピール。
NetApp Private StorageとONTAP Cloudは日本マイクロソフトの「Microsoft Azure」にも対応している。また、NetAppの新たなサービスである「Cloud Control for SaaS」は「Microsoft Office 365」のバックアップやデータ活用に利用できる。さらにAzureを含むどんな場所にONTAPがあってもONTAPに格納されたビッグデータをAzureの機械学習サービス「Azure Machine Learning」に送り込み、結果だけを受け取るといった使い方も可能であることをアピールした。
エクイニクス・ジャパンは、“クラウドにもっとも近い場所”となる同社データセンターからパブリッククラウドに専用線で接続する「Equinix Cloud Exchange」を紹介。
インターネットイニシアティブ(IIJ)は、フルクラウドにはクラウドネイティブとクラウドイネーブルドを兼ね備えた「IIJ GIO P2」、マルチクラウドには「IIJ Omnibus」(顧客専用のクラウドネットワーク)と「wizSafe(ウィズセーフ)」(セキュリティサービス)、「IIJ統合運用管理サービス」を勧めた。
さらに、NTTコミュニケーションズは、“ハイブリッドICT”の管理を最適化するためのソリューションとして、企業向けのクラウドサービス「Enterprise Cloud」と、クラウドおよびデータセンター接続/ネットワーク/LANのそれぞれをソフトウェア定義方式で実現する「SDx+M」を紹介。ネットアップ製品との連携も強調した。
基調講演と並ぶNetApp Cloud Champions 2017のもう1つの注目セッションが、パネルディスカッション「公開討論:富士フイルム柴田氏と@IT三木氏が斬る、一般企業が目指すべき『ハイブリッドクラウド』とは」だ。
モデレーターは、@IT編集部エグゼクティブ・エディターの三木泉とネットアップの高橋正裕氏。登壇したIT企業各社がハイブリッドクラウドの効果的な活用方法を紹介し、富士フイルムICTソリューションズの柴田英樹氏がユーザー企業としての本音を語るという趣向だ。
まず、現在の日本企業では、ハイブリッドクラウドはどのように使われているのか――という三木の問いに対し、「既存の業務システムをクラウドに載せ替え、運用管理のサイロ化から脱しようとしている企業もある」とIIJの立久井正和氏は答えたものの、日本マイクロソフトの高添修氏は「経営層の意識と現場の運用管理者の思いがずれていることがある」ことも事実であると指摘した。
ネットアップの高橋氏は、「弊社はデータを扱う会社として、オンプレミスの構築についても、クラウドへの移行準備についても、弊社のデータ管理に纏わるテクノロジーで多くのお客さまを支援をしてきました」と言う。
富士フイルムICTソリューションズの柴田氏は、「新しい事業を素早く立ち上げることが求められる事業部用インフラには、適材適所でパブリッククラウドを使うことが多いのですが、その場合も、社内のセキュリティガイドラインに基づいて情報システム部が審査し、ガバナンスを利かせています」と述べた。
また、ハイブリッドクラウドをうまく活用するには関連するサービスやツールとの組み合わせが欠かせない、というのがIT企業各社の共通見解でもあった。
IIJの立久井氏は「ネットワーク」「セキュリティ」「運用管理」の3つをハイブリッドクラウド活用の主要テーマとして挙げ、エクイニクス・ジャパンの徳久和幸氏は「帯域コントロールができ、世界のさまざまなクラウドサービスに接続できる中立的なネットワークが重要」だと述べた。
また、ネットアップの高橋氏はハイブリッドクラウドでは分散統合型データ管理が重要になるとしたうえで、「弊社のData FabricソリューションやCloud Sync Serviceなら、オンプレミスとクラウドの間でも、クラウドとクラウドの間でも、データの移動や同期を最適化できます」と強調した。
ただ、現実問題として、ユーザー企業ごとの個別のニーズに全てに応えることは不可能――この点に対し、IIJの立久井氏は「運用管理のサービスは、いわば既製品。必要なアドオン機能は追加していきますが、お客さまにも考え方を変えていただかなければなりません」とユーザー企業側の意識改革の必要性を訴え、NTTコミュニケーションズの林雅之氏は「個別対応を積み上げていく“温泉旅館型”ではなく、目的別メニューの中から選んでいただく“近代ホテル型”のハイブリッドクラウドモデルを目指しています」と答えた。
続けて、三木は、セミナー参加者から事前に寄せられた公開質問の中から「ハイブリッドクラウドのセキュリティについて聞きたい」という声を取り上げた。
この問題提起に、日本マイクロソフトの高添氏は「今、マイクロソフトでは、複数のログを1カ所に集約して分析する『ログアナリティクス』と『データ暗号化』に力を入れています」とアピール。NTTコミュニケーションズの林氏は「インダストリーモデルの大規模IoT(Internet of Things)でクラウドの活用が増えつつある今、VPN(Virtual Private Network:仮想プライベートネットワーク)の利用をお勧めしています」と述べた。
また、クラウドの安全性をユーザー企業に納得してもらうには「情報システム部門だけでなく、法律の専門家からの意見も重要」というのが日本マイクロソフトの考えで、「必要に応じて、マイクロソフトの法務部門がお客さまとの対話に入ることもあります」と高添氏。
一方、ハイブリッドクラウドをビジネスに活用していく側の立場として、富士フイルムICTソリューションズの柴田氏は「目的や用途に応じてクラウドを適材適所で使い分けることがマルチクラウド、というのが弊社の認識です。ビジネスユニット側では、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)をいかに組み合わせるかということよりも、データや情報をいかに効率よく連携できるか、AI(人工知能)やディープラーニングなどの機能を提供するAPIとの連携をいかに高度化していくかということを重視しています」と発言。「複数のクラウド間で機能が重複しないこと」「サービスを自動化し、マネジメントを簡素化すること」を要望事項として挙げた。
ハイブリッドクラウドの活用によって、自社の価値をいかに高めるか――。経営層と情報システム部門に投げ掛けられているこの課題を解決するには、クラウド間でのデータ移動の自由度をNetApp Data Fabricで高めるとともに、ネットワーク/セキュリティ/運用管理を最適化するサービスを併用することが鍵となるだろう。
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提供:ネットアップ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年6月21日