IT活用の在り方がビジネスの成果に直結する現在、ビジネス展開のスピード、柔軟性、コスト効率を担保する上で、パブリッククラウドとオンプレミスを使い分けるハイブリッド環境を導入する企業が急速に増えつつある。だが多くの企業では、期待する効果を得られていないのが現実だ。ではハイブリッド環境のビジネスメリットを引き出す上での必須要件とは何か? クラウドやネットワークを主軸にさまざまなサービスを提供しているソフトバンクに話を聞いた。
およそ全てのビジネスをITが支え、IoTやX-Tech(※)をはじめデジタルトランスフォーメーションも進展する中、「ITサービス/システムをどう効率的に活用・運用するか」が、収益向上やコスト削減の大きなカギを握るようになった。
例えばX-Techのような社外向けサービスなら、市場ニーズの変化を受けたトラフィックの増減にも耐えながら、安定的かつ快適にサービスを提供できなければ機会損失や信頼低下を招いてしまう。社内向けシステムも、いかに効率よく、適切なSLAで運用できるか否かが、業務効率や運用コストを大きく左右する。
(※)X-Tech : 各々の業界に合うように設計された新時代のICTを総称した用語。有名なものに、金融と融合した『Fin Tech』などが挙げられる。
これを受けて、パブリッククラウドが多くの企業に浸透している。クラウドは必要に応じてリソースを簡単・瞬時に拡張/縮小できる。つまりトラフィックが増加したときはITリソースを追加して負荷を分散したり、逆にトラフィックが低下したときは必要のないリソースを減らしてコストを抑えたりと、状況に応じた効率的なサービス/システム運用が可能となるためだ。
ただ周知の通り、全サービス/システムをパブリッククラウドで運用できるわけではない。通信事業者として、クラウドを含めたさまざまなサービスを展開しているソフトバンクでクラウド事業を統括している鈴木勝久氏は、ハイブリッド環境の重要性を次のように話す。
「例えば社外向けサービスなら、『最初はパブリッククラウドでスモールスタートして、人気が出てきたらオンプレミスに移して本格展開する』など、状況に応じたインフラの使い分けがコスト効率のカギを握ります。社内向けシステムも用途や重要度、セキュリティ、コンプライアンスなどの観点から、パブリッククラウドには出せないものもある以上、インフラの使い分けが求められます。すなわち、各システム/サービスの特性や重要度を見極めた上で、オンプレミスとパブリッククラウドを使い分け、それぞれのメリットをいかに引き出せるかが、効果的・効率的なIT活用の鍵になっているといえるでしょう」(鈴木氏)
ではハイブリッド環境を生かす上で何が重要になるのか? 鈴木氏は大きく3つのポイントを挙げる。
1つは前述のように、システムの重要度や特性を見極め、最適なインフラを使い分けること。例えば社外向けサービスのように、柔軟性が求められるSoE(System of Engagement)領域のシステムはクラウドで、ERPのような高度な安全性・安定性が求められるSoR(System of Record)領域のシステムはオンプレミスで、といった考え方だ。ただ鈴木氏は、「これだけを基準に安易に判断するのは避けるべきです」と指摘する。
「SoE/SoRの分類だけではなく、ビジネスにおける重要度、適切なSLA(Service Level Agreement)、またその時々のビジネスニーズなど、複数の基準をもって柔軟に判断することが大切です。例えば、SoRシステムでもパブリッククラウドに移行した方がよい場合もあれば、SoEでもオンプレミスに残した方が効率的という場合もあります。もちろんその後も状況によって最適なインフラは変わります。あくまで自社を取り巻く環境やビジネス目的を基に判断することが大切です」
2つ目はクラウドとオンプレミスの相互移行を可能にするネットワーク作り。クラウドへの一方通行にしてしまうと、状況に応じたインフラの使い分けができないばかりか、特定のクラウドへの依存度が高まり、ビジネス展開の足かせになるリスクが生じるためだ。ここで重要になるのがネットワークである。ソフトバンクでネットワークサービス事業を統括する川原正勝氏は、こう解説する。
「例えばシステムはクラウド上で運用して一部処理だけオンプレミスで行う、普段はオンプレミスで運用してリソースが足りなくなった時だけクラウドにも拡張させる、あるいは状況に応じてオンプレミスにシステムを戻す、といった柔軟なインフラの使い分けが重要です。そうすることで、特定のクラウドに依存するリスクを減らしながら、俊敏かつ効率的なビジネス展開が可能になるのです。このためにはクラウドとオンプレミスをつなぐネットワーク設計の在り方が大きなポイントになります」(川原氏)
3つ目は運用管理コストの削減とセキュリティの担保。ハイブリッド環境では、クラウドとオンプレミスという異なるインフラを、別々の運用プロセスで管理することになりやすい。これが運用管理コスト、セキュリティ管理コストを押し上げる。ソフトバンクでセキュリティサービスを統括する竹綱洋記氏はこう解説する。
「システムをクラウドに全面移行して、クラウド特有の管理手法だけを採用すれば運用管理コストを下げることも可能です。しかし現時点では非現実的であり、ハイブリッド環境としてオンプレミスのメリットも生かす必要があります。そこでポイントになるのが異なる管理体系を1つに統合すること。オンプレミスもパブリッククラウドも、運用管理やセキュリティ管理を一元的に行える仕組みを整えることが非常に重要です」(竹綱氏)
以上のように、クラウド、ネットワーク、セキュリティ、それぞれの観点で見たポイントを踏まえて、ハイブリッド環境の構築・運用を支援するサービスとしてソフトバンクが提供しているのが統合VPNサービス「SmartVPN」だ。
一般に、VPNサービスといった場合、VPN装置を使って企業の拠点間を閉域網で接続するサービスをイメージするが、SmartVPNはそうしたサービスとはコンセプトが大きく異なる。SmartVPNは企業の拠点間をVPNで結ぶだけではなく、企業システムをクラウド事業者のデータセンターに直結し、ハイブリッド環境ならではのメリットを享受できるよう設計した“クラウドレディ”な統合VPNサービスなのだ。
直結できるクラウドサービスとして「Amazon Web Services」「Microsoft Azure」「ホワイトクラウドASPIRE」「ソフトバンク ホワイトクラウド」に対応。インターネットを介さずに、複数のクラウドサービスとダイレクトかつセキュアに接続できる。個別の回線敷設やコロケーション契約は不要だ。
大きな特長は、システムの用途や重要度に応じてアクセス回線を選択できること。具体的には、一定の帯域を確保することで稼働率99.9995%以上という高度な安定性・信頼性を担保したギャランティタイプの「Etherコネクト」、一定の帯域を確保しない分コストを抑えられるベストエフォートタイプの「ファイバーコネクト」、インターネット網を使ってモバイルデバイスからのアクセス回線を提供する「モバイルアクセス」を用意している。
「システム/サービスの重要度やSLAなどに応じてインフラを使い分けても、ネットワークがボトルネックとなり、クラウド上のシステムに求めていたパフォーマンスが得られないという問題があります。その点SmartVPNは、システムの特性に最適な回線を選択することで、そのシステムに期待するパフォーマンスを確実に担保することができるのです」(川原氏)
この他、SmartVPNのネットワークサービスを一元管理できる管理ポータル「SmartVPN Web」も用意する。一般に、本社・拠点で複数の回線を使っていれば、個別に帯域や料金を管理する必要があるが、SmartVPNは各種ネットワークサービスにおける障害状況の把握、国内全拠点の設定変更、契約状況の確認などをシンプルに一元管理できる。この点もハイブリッド環境の運用効率向上に大いに寄与するといえるだろう。
さらに注目されるのが、2017年5月に開始したばかりの新サービス「Ondemand Ether」だ。Ondemand Etherは従来の「ギャランティタイプ」と「ベストエフォートタイプ」に加え、回線スピードを重視した「スピードタイプ」と、コスト効率を重視した「バリュータイプ」の計4タイプを提供するサービスだ。
特長は大きく2つ。1つは、帯域を部分的に確保しておき、それ以上の帯域をベストエフォートで提供できる「バースト機能」を追加したこと。「スピードタイプ」「バリュータイプ」は、このバースト機能を持ち、それぞれの基本メリットを享受しながら、状況に応じて、急激なトラフィック増大にも対応できる。
だが最大の特徴は、「Ondemand」という名前通り、4タイプの回線/帯域をSmartVPN Webの画面上からいつでも瞬時に変更できることだ。すなわち、システムの重要度やSLAはもちろん、“その時々の状況に応じて”、4タイプの回線を柔軟に使い分けることができるのだ。
例えば、多くの企業にありがちな問題として、Office 365やG Suiteなどの利用が集中し、下りトラフィックが混んでしまう場合がある。そんな時、例えば普段は低帯域に設定しておき、回線コストを抑制しながら、下りトラフィックの混雑時のみ帯域を拡張する、といったことができる。
クラウドへのシステム移行など大量データを転送する際も有効だ。例えばスピードタイプに設定すれば、一時的にアップロードの確保帯域を拡張。クラウドへのシステム移行後はバリュータイプに変更してコストを抑える、といった運用も可能だ。
この点について鈴木氏は、「状況に応じて瞬時にリソースを調達・利用できるのがクラウドのメリット。これまでサーバリソースなどは柔軟・迅速に利用できましたが、ネットワークのアクセス回線は固定されることがほとんどでした。これでは柔軟性というクラウド本来のメリットを完全には享受できません」と解説する。
川原氏も「Ondemand Etherによって、アクセス回線も含めてオンデマンドで選択できるようになりました。すなわち、重要度や特性に応じたシステムの分類、状況に応じたインフラの使い分けといったハイブリッド環境の意義・効用を、初めて真の意味で享受できるようになったのです」と力説する。
一方、竹綱氏が指摘した運用管理効率やセキュリティ管理の課題についても、「全ネットワーク環境を一元管理できるSmartVPN Web」や、「インターネットを介さないVPN接続であること」などを通じてSmartVPNは効用を発揮する。ただ今後は、社外パートナーと協力して、SOC(セキュリティ監視センター)やNOC(ネットワーク監視センター)を統合したサービスを提供することも視野に入れているという。
「近年、ハイブリッド環境の運用管理からセキュリティ管理まで、一貫して任せたいというニーズが非常に増えています。実際、サイバー脅威は日に日に高度化・巧妙化しており、システム担当者だけで全ての脅威に対応することは難しくなっているのが現実です。通信事業者/クラウドサービスプロバイダーとしての強みや、SmartVPNを通じて蓄積したノウハウを生かしたSOC/NOCサービスを提供することで、そうした声に応えていきたいと考えています」(竹綱氏)
冒頭で述べたように、市場ニーズの変化が速い現在、ビジネスとそれを支えるITシステムには一層のスピードと柔軟性が求められている。これを受けて、パブリッククラウド活用はもはや必須となり、ハイブリッド環境に乗り出す企業も急速に増えつつある。だが大方の企業にとって新しい取り組みだけに、さまざまな課題が噴出しているのが現実だ。それどころかコスト面、セキュリティ面などでの検討事項が多く、いまだパブリッククラウド導入に踏み出せていない企業も少なくない。鈴木氏は、こうした状況も受けて次のようにまとめる。
「小さく始めて、少しずつ取り組みを拡大しやすいのがクラウドのいいところ。これからクラウドを利用する企業も、既にハイブリッド環境を導入している企業も、インフラ運用の改善・変革に向けて、まずは一歩踏み出されてはいかがでしょうか。SmartVPNは、パブリッククラウドやハイブリッド環境における、コスト、運用効率、セキュリティ面のさまざまな課題を考え抜いたサービスです。弊社としては、SmartVPNの提供を通じて、クラウドのメリットを各社に最適な形で引き出せるよう、支援していきたいと考えています」
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年6月30日