最新のITで金融サービスを変革する「Fintech(金融IT)」――。トランザクションが膨大で、処理量が短期間に変動することも多いので、そのための基盤としてクラウドが活用されるケースも増えてきている。このFintechサービスをMicrosoft Azureの上で提供しているのが、国内大手のビットコイン取引所を運営するbitFlyerだ。ブロックチェーン型データベース「miyabi」の提供も2017年内に本格化する予定だ。
最近は、ビットコイン(Bitcoin)に代表される仮想通貨の普及が目覚ましい。かつてはオンラインゲームやインターネット通販での支払いに使われることが多かったが、資金決済法の改正(2017年4月施行)で仮想通貨が正式な支払い手段として認められた結果、現在では小売店などの一般店舗にも利用が拡大。大手家電量販店がビットコイン決済を始めたというニュースは、新聞やテレビでも取り上げられた。
ただし、ビットコインはあくまでも“仮想的な通貨”なので、紙幣や硬貨といった“現物”が存在するわけではない。ビットコインで買い物をするには、事前に円などの現実の通貨をビットコインに両替しておく必要がある。ビットコインから他の通貨に両替することもできるので、外国為替取引(FX取引)のように、時期や相手通貨による交換比率の違いを利用した取引も可能だ。
また、プロセスの全てがITを活用して行われていることも、ビットコインに代表される仮想通貨の特長である。ビットコインの具体的な利用手順は、以下のような流れになる。
(1)インターネット上で運営されている「取引所」でビットコインを購入する
(2)「ウォレット(wallet)」と呼ばれるオンライン口座に入金する
(3)小売店の店員が店舗側端末に商品の金額を入力し、QRコードに変換・表示する
(4)客はスマートフォンにインストールしておいたウォレットアプリでそのQRコードをスキャンし、「支払う」ボタンを押す
bitFlyerは、仮想通貨に関するこのようなプロセスを引き受けている企業である。設立は、2014年1月。加納裕三氏(代表取締役)と小宮山峰史氏(取締役CTO)の二人によるベンチャー企業としてスタートした。現在では8000億円超(2017年5月現在)の月間取引金額を誇る国内大手へと急成長を遂げている。
仮想的な存在ではあるものの、仮想通貨はれっきとした通貨の一形態である。従って、それを処理するための業務システムは、銀行業や証券業の場合と同様、「ハイトランザクション性能」「信頼性」「可用性」を備えたミッションクリティカルなシステムでなければならない。
「二人で始めたばかりのベンチャー企業にとって、ハイトランザクションに耐えられる高額な設備を最初から用意するのは無理でした」と、加納氏。また、小宮山氏も「オンプレミスのサーバを購入するのではなく、パブリッククラウドを活用するというのが前提でした」と振り返る。
では、仮想通貨の取引と決済を処理するバックエンドシステムは、どのパブリッククラウドで稼働させればよいか――。
技術的な検討の上でbitFlyerが選択したのが、Microsoft Azureだった。「オンラインゲームサービスなどとは異なり、ビットコインのような金融サービスの世界ではきっちりとした静的型付けができ、柔軟性と汎用性を持つプログラミング言語が求められます」と、小宮山氏は説明する。
そこで、bitFlyerはプログラミング言語にMicrosoft C#、プラットフォームにMicrosoft.NETを選び、これらで作成・構築されたシステムを最適に稼働させることができるパブリッククラウドとしてAzureに決めたという。
また、事実上の無制限のオートスケーリングができるAzureは、急成長を続ける同社のビジネスを支える基礎としても威力を発揮した。「この1年ほどでトランザクション数が急増し、処理限界との戦いを強いられています」と、小宮山氏。オンプレミスでは、取引量の増減に応じて仮想マシンの数とメモリ容量、ネットワークなどを自動的に調節するようなことはできなかったと評価している。
このようにして構築されたbitFlyerのビットコイン取引所システム「bitFlyer」は、自社専用の業務システムという位置付け。全体としてはもちろん、トランザクションキュー管理などの機能ごとにMicrosoft Azure Marketplaceで販売することもしていない。また、利用者にAzureの姿は全く見えず、Azureの利用料金は全てbitFlyerがITコストとして負担している。
一方で、bitFlyerはビットコイン取引所システムの構築・運用で培われた技術を「秘伝のタレ」(加納氏)として生かしたFintechソリューションの開発・販売にも乗り出している。それが、2016年12月22日に同社が発表した次世代ブロックチェーン型データベース「miyabi」だ。
「ブロックチェーン(Blockchain)」は、デジタル暗号とピアツーピア(P2P)ネットワークに基づく分散型記録管理技術である。中央に単一のデータベースを置かなくても一貫性のあるトランザクション処理をデータ改ざんの恐れなしに実行できることが、従来のオンライントランザクション処理(OLTP)との大きな違いだ。
銀行業や証券業の口座データベースにブロックチェーンを適用すれば、ITコストを大幅に引き下げることが可能。非金融業が金融類似サービスを提供したり、個人間で取引をしたりするための基盤としても期待されている。
ブロックチェーンには、実装方法が異なる複数の製品/サービスがある。bitFlyerが開発したmiyabiの特長は、独自開発の合意形成アルゴリズム「BFK2」と通貨型による検査付き実行機構「理(ことわり)」を備え、正常時平均値で毎秒1500トランザクション(1500TPS)の処理能力を発揮できること(図1)。「TPSでの評価では、世界最速クラスのブロックチェーンです」と、加納氏は胸を張る。
論理的にはさまざまなクラウドサービスやオンプレミス型サーバに対応できるものの、bitFlyerはmiyabiについてもAzure上で稼働させることにしている。
「1500TPSというハイパフォーマンスに耐えることができ、24時間365日の可用性を持ち、絶対に落ちず、ビットコイン取引所で培ってきた技術を応用できるクラウド、となると、Azureが最優先の候補になります」と、小宮山氏。具体的には、Azureの上にデータベースなどのインフラを置いてmiyabiを動作させ、それをユーザーの業務システムがアプリケーション層から利用する仕組みとなる(図2)。
なお、一部企業への早期提供はAzureベースで既に開始されており、2017年内には一般の企業も利用できるようになるとのことだ。
このようにAzureとの関わりが深いbitFlyerは、創業時から日本マイクロソフトとの密接な関係を保ってきた。
「立ち上げ直後の弊社が日本マイクロソフトのスタートアップ企業支援プログラム『Microsoft BizSpark』を利用させていただいたことが、お付き合いの始まりでした」と、加納氏。同社はその後も技術や営業、マーケティングの支援を受けながら、仮想通貨に関する技術とビジネスを発展・拡大させ、ついに独自のブロックチェーン技術に基づくmiyabiを完成させたのである。
現在のところ、miyabiについては、同社が“勝手に”Azureを使っている状態になっている。しかし、「将来的には、『Microsoft Azure Marketplace』のメニューの1つにしたいと考えています」(加納氏)というのがbitFlyerの意向。今後、両社の関係がさらに深まっていくことは確実だ。
ブロックチェーンに代表されるFintechは人工知能(AI)やIoT(Internet of Things)と並ぶホットな領域、というのがIT業界の共通認識。既に、高性能で高品質なサービスをいかに早く提供開始できるかを競うレースは激しくなっている。そのための基礎となるサービスをAzure上で提供するmiyabiは、この分野でのキープレーヤーとなることは間違いないだろう。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年7月29日