デジタルトランスフォーメーションの進展に伴い、企業ITには一層のスピードと柔軟性が求められている。これを受けてクラウド利用は企業にとってもはや必須となり、パブリッククラウド市場も依然、活況が続いている。そうした中、最後発として登場してきたOracle Cloud。AWS、Azure、GCPなどベンダー勢力図もある程度固まっている中でリリースしたことには、果たしてどのような狙いや意義があるのだろうか?
昨今、「Oracle Cloud」がにわかに注目を集めている。2017年7月には楽天カードがクレジットカード業務の基幹システムの一部をOracle Cloudに全面刷新。メインフレームからのデータ移行基盤として利用することで、特定処理を行う際の一時的な負荷増大に柔軟に対応できるようになり、急増する楽天カード会員数や取引件数への処理が強化されたという。
これは顧客企業が自社で管理するデータセンター内にOracle Cloud環境を構築・運用するマネージドサービス「Oracle Cloud at Customer」を採用したもので、2016年4月に同サービスが発表されて以降、引き合いが急増しているという。
Oracleは2016年までにSaaS、PaaS、IaaSの各サービスをそろえ、現在は包括的なラインアップを提供している。Oracle Cloud at Customerのように、「セキュリティ上、データを外出しできない」などパブリッククラウド導入の代表的な課題を解決していること、ユーザーが多いOracle Databaseをクラウド上で利用できることなど数々の特長を打ち出し、クラウド市場で着実に競争力を発揮しつつあるようだ。
だが周知の通り、「Amazon Web Services」(AWS)、「Microsoft Azure」(Azure)、「Google Cloud Platform」(GCP)など、群雄割拠がひしめく中での認知度、存在感はまだ高いとは言えない。程度の差はあれ、SaaS、PaaS、IaaSをそろえているのはAWS、Azureなども同じである他、昨今はあらゆるクラウド導入課題に応えている国産クラウド勢の動きも目立つ。
ではAWSをはじめとする先行事業者と具体的に何が違うのか? 最後発であるからにはそれなりの理由があるはずだ。日本オラクル クラウド・テクノロジー事業統括 Cloud Platformビジネス推進本部 本部長 佐藤裕之氏に、ライセンスコストなどの問題も含めてざっくばらんに話を聞いた。
編集部 まずは企業とクラウドを取り巻く状況をどう見ているか教えて下さい。
佐藤氏 日本の企業総数から見れば、まだクラウド利用率は高いとは言えません。しかし、ビジネス展開にスピーディーに追随したい、コストを最適化したいというニーズは年々強まっています。特に、ITの力で価値を生み出すデジタルトランスフォーメーションが進展している今、ITインフラには一層のアジリティとコスト効率が求められています。事実、オンプレミスで運用してきた基幹系システムのクラウド移行を決断された金融系の顧客企業もあるなど、もはや業種を問わず、クラウド活用は避けて通れない選択肢になっていると見ています。
編集部 多くの企業のクラウド活用を阻んでいる理由は何だと思いますか?
佐藤氏 パブリッククラウドについて言えば、クラウド独自の運用ノウハウが求められることが大きいと考えます。既存のITスキルをそのまま生かせず、別のスキルセットが求められます。既存資産を多く抱える大企業にとって、オンプレミスとクラウド、両方のスキルセットを持つ人材を育てるのは大きな負担です。中堅企業にとっては、そもそもクラウド特有のスキルを持った人材を雇用することが難しいという問題もあります。
一方、技術面では、オンプレミスでできていることが、クラウドでは100%実現できるわけではない点が挙げられます。オンプレミスと同じことをクラウド上で実現するには、クラウド上でのシステム設計を再考する必要があります。こうした「オンプレミスとクラウドのアーキテクチャの違い」「運用管理手法の違い」が移行の壁になってきたと見ています。
編集部 Oracle Cloudはその点が考慮されているのですか?
佐藤氏 クラウド化が避けられない中で、「“オンプレミスでのシステム構成を生かしたまま”クラウドに移行する、パブリッククラウドと共存する」という手段がこれまで提供されていなかったという思いがあります。それを解決するのがOracle Cloudです。
編集部 ではあらためて、Oracle Cloudの概要を教えてください。
佐藤氏 CRMなどのSaaSは2009年から提供開始し、2014年にはOracle DatabaseやWeblogicなどのPaaSを、2016年にはComputeなどのIaaSをそろえました。こうしてSaaS、PaaS、IaaS全てのラインアップをそろえた2016年、オンプレミスのワークロードをさばいてきたソフトウェアを、そのままパブリッククラウドの「Oracle Cloud Platform」で利用できるようにしました。
また、お客さまのデータセンター内にOracle Cloudを構築・運用する「Oracle Cloud at Customer」(以下、Cloud at Customer)というマネージドサービスによって、データの重要性やセキュリティ面の問題でクラウドを利用できなかった企業にとっても利用しやすいよう配慮しました。特にPaaS、IaaSは、エンタープライズで使われてきたミッションクリティカルなワークロードを安定的に利用できることを前提に、ベアメタル環境も含めた包括的な基盤を提供できる点が特長です。
編集部 ただ「オンプレミスで稼働していたソフトウェアを、“そのまま”パブリッククラウドに」という点では、VMware環境をアプリケーション改修することなくクラウド移行できる「VMware Cloud on AWS」や「IBM Cloud for VMware Solutions」などが注目されています。これらとは何が違うのですか? また自社データセンターでパブリッククラウド環境を構築・運用するサービスとしては「Azure Stack」などもありますよね。
佐藤氏 オンプレミスのワークロードを、“システム構成を変えずにそのまま”クラウドに持っていけるのか、逆にクラウドのワークロードをそのままオンプレミスに戻すことができるのか、その点が他のクラウドサービスとは大きく異なると考えています。というのも、同じワークロードでも、クラウドに移行すると稼働率や可用性が下がるケースは多々あるからです。そのためにシステムを冗長化するなど、クラウド環境独自の設計が必要になる場合があります。そうならないよう、オンプレミスとクラウドを同じアーキテクチャとすることで、構成から可用性、管理性、障害の許容度などまで、基本的に全て同じにできるのがOracle Cloudの大きな特長です。
編集部 では、オンプレミスとクラウドを同じアーキテクチャでそろえていることの、具体的なメリットとは何でしょうか?
佐藤氏 まず移行コストが最小限で済みますし、効率化のメリットを最大限に引き出すことができます。例えばあるお客さまは、オンプレミスで長年運用してきたデータベースをクラウド化する際に、クラウド独自の設計を求められることになりました。オンプレミスでは部門ごとのデータベースをコンソリして大きなデータベースにしていたのですが、そのままではパブリッククラウドに乗らなかった。
そこでデータベースを10個に分割して乗せた。集約して管理しやすくしたものを、また分散させたわけです。これで運用管理の工数が数倍になってしまった。クラウドに載せるために、効率化していた環境を再設計してわざわざ非効率化するといったことはOracle Cloudでは起こり得ません。オンプレミスのExadataとまったく同じものがクラウド上で使えるのですから。
また、Oracle Databaseのクラスタリング機能である「Oracle Real Application Clusters」(Oracle RAC)のようなミッションクリティカルシステムのクラウド移行は、多くの企業で課題になってきたと思います。パブリッククラウドの多くはShared Nothing構成が一般的ですから、Oracle RACのようなShared Everything構成の場合、クラウドへの実装が難しくなり、その分コストも高くなります。そしてオンプレミスシステムの多くはShared Everything構成が基本です。この点でもオンプレミスとクラウドで、構成から可用性、管理性、障害の許容度などまで、基本的に全て同じにできる点は、移行する上で非常にメリットが大きいと思います。
佐藤氏 もう1つの強みは、IoTやX-TechなどのITサービスのように、スピーディーな開発・改善が求められるアプリケーションを構築・運用しやすい点です。スピードと柔軟性が求められるSoE(System of Emgagement)領域のアプリケーションは、必然的にクラウド上で開発・運用する方が合理的ですが、クラウド上だけで完結するわけではなく、サービスの成長に応じて最適なインフラに移行する必要が出てきます。
その際に重要なのは、クラウドとオンプレミスをいかに連携させるかです。そのためのサービスとしてDockerを基盤としたアプリケーション実行環境を提供する「Application Container Cloud Service」や、コーディングせずにWebアプリケーションの作成・ホスティングを迅速に行える「Visual Builder Cloud Service」、センサなどからのデータ収集機能、ゲートウェイ機能、デバイス管理機能などIoTサービスに必要な機能セットを提供する「IoT Cloud Service」など、スピーディーに開発して環境を選ばずリリースするためのサービスや、サービス同士を容易に連携できる「API Platform Cloud Service」などもそろえています。
編集部 つまり、オンプレミスのワークロードをそのままクラウド移行できるという特長と併せて、SoR、SoEの両領域で活用できることが他社にない特長というわけですね?
佐藤氏 はい。やはりオンプレミスとクラウドの間にテクノロジーの壁がないことがポイントです。完全にクラウド移行するパターン、移行せずにオンプレミスと連携させるパターンなど、どんなケースにも柔軟に対応できます。そうしたハイブリッド運用を容易かつ効率的に行えるよう、オンプレミス、パブリッククラウド、Cloud at Customerという3つのモデルを、全て同じアーキテクチャでそろえているベンダーはわれわれだけです。
編集部 ただ最近はCloud at Customerのようなマネージドクラウドサービスも注目されていますが、既存システムを“そのまま”クラウドに移行してもコストメリットが出にくいという意見もありますよね。
佐藤氏 確かに10年以上もの間、塩漬けにして使い続けるようなシステムの場合はオンプレミスの方が安いです。しかし既存システムをクラウド移行するのは、既存システムにプラスアルファで新しい価値を付加したいというニーズがあるからです。仮に今は機能追加しなくても、1年後に追加するニーズが生まれるかもしれない。そのときにクラウドなら迅速に対応できます。企業ITに変化対応力が求められているからこそ、われわれはクラウド化を推進しているのです。とはいえ、ニーズによってオンプレミスが適している場合は、もちろんオンプレミスを提案します。
編集部 だからこそ、同じアーキテクチャにしてシームレスにつなげられることが重要だと。
佐藤氏 そうですね。しばらくはハイブリッド構成が続くと思います。ですから、移行する際にはコンサルティングを行ってロードマップを描き、効果の出やすいシステムから移行します。そこでクラウドに向くシステム、オンプレに向くシステムを切り分ける必要があるわけですが、ビジネス課題の抽出から、システムの分類、クラウドへの実装・運用のサポートなどさまざまな支援サービスを用意している点も1つの特長です。既存システムをそのまま移行して管理コストだけがかさむ、といったことがないよう配慮しています。
編集部 一方で、Oracle Databaseを他社のクラウドで利用するとライセンス料が高くなるなど、Oracle Cloudに「ロックインされるのでは」というイメージもあるようですね。
佐藤氏 それはまったくありません。もちろんOracle Cloudに移行してもらいたいですが、ロックインすることは考えていません。そもそもIaaSのビジネスを始めるということは、弊社のソフトウェア以外も対象にしているということです。オープンソースソフトウェアであろうと商用であろうと、稼働させてほしいと思っています。
一方で、各社のクラウドサービスとのID連携や、CASB(Cloud Access Security Broker)などのサービス管理、クラウドのインテグレーションサービスなどでは、むしろ他社と連携するシーンが増えています。100%われわれの中で閉じているのではなく、他社との連携を基により良いサービスを使っていただきたいという考えです。
編集部 ただ、くどいようですが、ライセンスコストが高いというイメージは根強いようです。
佐藤氏 基本的な考え方として、「クラウドによってコストを下げられるようになった」ことを強調したいですね。例えばアプリケーションの開発段階では、Oracle DatabaseをPaaSとして利用することでイニシャルコストを下げることができます。テストでも、単体テストではStandard Packageのインスタンスを使ってSQLが通るかなどをチェックし、ユニットテストになったらHigh Performance Packageのインスタンスを使って効率よく行う、といったことができます。こうした柔軟な課金はライセンスを購入するオンプレミスではできなかったことです。
また、オンプレミスもクラウドも同じアーキテクチャであることは、トータルコストを下げる効果もあります。例えば前述のように、Oracle RACがクラウド上で実現できないとします。そのために別の仕組みで信頼性を担保するなら、その分コストは上がりますよね。だったらOracle Cloud上でOracle RACを使えば、コスト負担は少なくて済みます。
同じように、DWH処理とOLTP処理で別々のサービスを利用するなら、Oracleに一本化すればコスト効果は高まります。Database In-Memoryを使えば1つのデータベースで実現できるわけですから。
編集部 本日はOracle Cloudの特長や他社との違いについて、だいぶ理解できたように思います。Oracle Cloudに対する顧客の反応はどうでしょうか。
佐藤氏 Cloud at Customerに対しては非常によい反応を頂いています。2016年4月から開始して、今年5月に新バージョンを出しましたが、発表以来、引き合いが多く、すでに国内で十数社が導入しています。
背景にあるのは、やはりパブリッククラウドに対する懸念のようです。特に基幹系は、システムの可用性やデータ保護で高いレベルが求められます。データを外部に出したくないというニーズも大きい。自社データセンター内にデータを置きながら、サブスクリプションモデルで利用できることに大きなメリットを感じているようです。
編集部 ちなみにAWSに対しては、今はどうお考えですか? 他社は追いかけるというより協業する戦略をとっているようですが。
佐藤氏 もちろん追いかけていることは追いかけていますよ。ただ、AWSはベーシックなインフラが中心とするなら、われわれはソフトウェアやサービスも含めたクラウドサービスであり、サービスのスコープが広いと考えています。
編集部 Azureはどうでしょうか?
佐藤氏 目指すところは同じかもしれません。ただ、アプローチには違いを感じます。AzureはOffice 365を中心にPaaS、IaaSへとユーザーを広げているイメージがありますが、われわれがターゲットとしているのは、基幹システムを含めた重厚な既存システムのクラウド移行を考えるエンタープライズのユーザーです。
もちろん大企業だけではなく、中堅企業も重要なターゲットです。実はOracle Digitalという新しい営業組織を発足させ、ソーシャル、オンラインデモ、TV会議といったデジタルツールを最大限活用して、クラウド案件の見積もり作成から契約までをスピーディーに行う体制を整えています。これにより、これまで手が届かなったミッドマーケットや地方マーケットも積極的にサポートしていく考えです。
編集部 では最後に、読者に向けて一言メッセージをいただけますか?
佐藤氏 「Oracleは高い」というイメージがあるかもしれません。しかし、クラウドサービスとして、初期コストを押さえながら、エンタープライズクラスの機能を全て試すことができます。SoRシステムについては、既存のアーキテクチャを変えないままクラウド化できますし、SoEシステムについてもIoTやFinTechなどですでに多数の事例があります。新しいサービスもどんどん追加されていきますので、Oracle Cloudの今後にせび注目していただきたいですね。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年9月30日