ITの力を駆使して企業競争力を高める「デジタルエコノミー時代」の波に乗れなければ、「この先、生き残れない」と叫ばれる。この時代にビジネスの大きな躍進を図る企業が注目しているテクノロジーの1つが「FPGA」だ。なぜFPGAなのか。FPGAは私たちに「どんなメリット」をもたらすのか。そして、なぜ「今後必須のテクノロジー」と叫ばれるのか。本稿では、私たち技術者への理解とともに、私たちが「経営層へ正しく説く」ために必要となる、FPGAがもたらす本当の「鍵」を探った。
もう訪れている「デジタルエコノミー時代」。この波に乗れなければ「この先、企業は生き残れない」などと叫ばれている。このデジタルエコノミーを踏まえ、ビジネスの大きな躍進を図る企業の中で今、「FPGA(Field Programmable Gate Array)」への注目が高まっている。
例えば米調査会社大手のGartnerは、「戦略的テクノロジ・トレンド トップ10(*1)」の1つに「高度なシステムアーキテクチャ」を挙げ、その効率的で高い性能を実現ための技術要素としてFPGAに言及し、「FPGAは特に機械学習機能の活用に適している」と提言した。また国内調査会社 富士キメラ総研が2017年1月に発表した市場予測調査「2017 先端/注目半導体関連市場の現状と将来展望(*2)」によると、FPGAは国内半導体市場の中でも大きな伸びを示しており、2020年には2015年に比べ175.6%増と大幅な市場成長が見込まれている。
なぜ近年、FPGAがこれほどまでに注目を集めているのだろうか。
FPGAはハードウェア回路でありながら、プログラムの書き換えによってソフトウェアのように柔軟に用途を変更でき、もちろんハードウェアならではの高速な処理も可能な特性を持つ半導体だ。CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)、あるいはGPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)やASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定用途向け集積回路)といった従来のハードウェアソリューションと比べ、大きく4つの特長がある。以下の通りだ。
いずれも単に「システムが速くなる」だけに終わらない、さまざまな付加価値を企業にもたらす特性を持っている。その鍵はどこにあるのか、1つずつ特長を確認していこう。
2017年現在、仮想化技術を利用しない企業はほとんどない。2000年代前半には懐疑的に見られていたこの技術が、ほんの10年ほどでなぜこれほどまでに普及したのだろうか。
この理由は、ITコストの削減だけでなく「ITリソースのフレキシブルな利用を可能にした」ことが挙げられる。クラウドサービスを利用してリソースを仮想化すれば、ニーズに応じて必要なときに必要なだけ割り当てれば済む。余力を見込んで過剰で高額な初期投資を行う必要がなければ、アクセスが急増した際にシステムがパンクしてビジネスチャンスを逃す恐れもない。
実はFPGAも、仮想化技術と同じようにITシステムに柔軟性と弾力性をもたらしてくれる。ここが「検討すべき」と提言できる大きな鍵の1つだ。前述したように、FPGAはハードウェアでありながら、導入した後でも、あるときには画像処理に、またあるときにはビッグデータ解析に、といった具合に同一のハードウェアをその時々のニーズに応じて用途を切り替えて活用できる。一度導入したハードウェアリソースを無駄なく使い尽くし、日々変動する顧客のニーズに対応していけるのがポイントだ。ここが「GPUやASICには難しい技であり、FPGAで特に強く訴求したい部分」と日本アルテラ(インテル プログラマブル・ソリューションズ事業本部)でアクセラレーション&データセンター ビジネスデベロップメントマネージャーを務める山崎大輔氏は述べる。
「負荷の掛かるワークロードは時々刻々と変わるので、皆さんは事前の予想が難しい課題を抱えていると思います。FPGAはそれに対応できるのです。FPGAは後からプログラムの書き換えが可能なので、そのときに一番困っている事柄にプールリソースを迅速に割り当てることができます」(山崎氏)
事実、そのようにFPGAを「使い倒している」企業はすでに多く存在する。FPGAをインフラの一部として活用している世界最大規模の例がMicrosoftだ。Microsoft®は、あるときにはWeb検索に、あるときには数理解析のアクセラレーションに、あるときは物理演算エンジンにといったように、多彩な用途でFPGAをフレキシブルに活用しているという。
当然、処理の中にはCPUが得意なものもある。何でもできるCPUに全て処理をさせるのではなく、FPGAが得意な処理をオフロードし、CPUはその他の本来の用途に専念させて全体的な効率を高めるという考え方だ。これは「ヘテロジニアスコンピューティング」と呼ばれる。こういった環境を実現すれば、それぞれを有効に活用し、投資効果を全体として最大化できるということになる。
土地にせよ工場設備にせよ「遊休設備」を避けたいのはどの企業も同じ。これはITも同じだ。FPGAはそこを的確に補う実力を持っている。
2つ目のスループットは分かりやすい特長だろう。用途に応じた最適な専用回路をFPGA内に実現することで、これまでCPUで行っていたものとは桁違いに短い時間で処理を実行できるワークロードがある。
例えば、米マサチューセッツ工科大学(MIT)のホワイトヘッド研究所とハーバード大学のHarvard Institute of Chemistry and Cell Biology(ICCB)という2つの遺伝子医学研究所を統合した米ブロード研究所(Broad Institute)では、Pair Hidden Markov Models(Pair-HMM)と呼ばれるアルゴリズムの処理をFPGAにオフロードしたことで、計算の待ち時間を35分の1へと大幅に削減した。
処理速度が向上してある水準を超えると、サービスの「量」だけでなく「質」にも大きな変化をもたらす。例えば、これまで35時間掛かっていたゲノム解析作業が、わずか1時間で終わるようになったケースを考えてみよう。処理に35時間掛かるならば、患者は検査を受けてから結果が出るまでに数日間は待たされ、また、複数回(最低でも2回)病院に足を運ばなければならない。それが1時間に短縮されるとどうなるか。1日の健康診断の中で完結できるようになる。また、より多くの人にその技術を提供できるようにもなる。つまり、これまでとは違う新たなサービスを実現できるということだ。こういった新たな「質」の提供は、企業にとって新たな、そして大きな価値になる。
3つ目の低遅延性についても、スループットと同様のことが言える。
ITシステムの世界では常にボトルネックとの戦いが繰り広げられてきた。ある課題を対処すれば、どこか別の部分の性能が足りなくなる。そのために、CPU、ネットワーク帯域、ストレージのI/Oなどさまざまな分野で遅延を削減する工夫が凝らされてきた。
今、データセンターで大きな課題となりつつあるのが「コアネットワークやデータセンター内の遅延」だ。その解消の鍵はFPGAにある。
例えばMicrosoft®は、FPGAでネットワーク処理をCPUからオフロードすることで、同社のグローバルクラウド基盤「Microsoft® Azure®」における仮想マシン間の遅延を10分の1に改善したという。
低遅延性は、ファクトリーオートメーション(FA)や自動運転といった分野では極めて重要な要件となる。クラウドを介して制御するようなシステムで遅延が発生し、想定時間内にリプライが戻らなければどうなるか。正常な稼働に影響をきたし、場合によっては事故につながる恐れがある。ユーザーは「常に一定の範囲内に遅延が収まるような仕組み」がなければ、安心して使えない。FPGAが「今後必須になる」といわれる理由の1つが、これを的確に解決できることにある。
それでなくとも端末の高性能化やモバイルネットワーク回線の高速化に伴って、ユーザーは「待ち時間」に対してどんどんシビアになっている。数秒でも待たされれば、別のサービスに流れていってしまう恐れがあるし、クラウド上に構築されたAI(Artificial Intelligence:人工知能)と対話するようなサービスでは、返事が少し遅れただけで会話が続かなくなってしまう。VR(Virtual Reality:仮想現実)やAR(Augmented Reality:拡張現実)の用途では、より低遅延での演算と動画等などの重い処理が求められる。人間の待ち時間に対する許容量がどんどん小さくなっている中で、「遅延の少なさ」は重要なポイントになる。具体的には「遅延が一定時間内に収まる」というFPGAの特性を生かすだけでも、他のサービスとの差別化を図る大きな一歩になるだろう。
経営層の決断を強く左右するのは、やはり「コスト」だ。いかにコストを抑えながらビジネスを躍進させていくかが、昔から、もちろんデジタルエコノミー時代においても企業の成功を左右する要素であるのは変わらないだろう。
あらためて、ITシステムのコストはどこから生じるだろうか。ITコストの大きな部分は、サーバ本体やデータセンターなどの初期投資(CAPEX:Capital Expenditure)よりも、「運用コスト(OPEX:Operating Expense)」で占められることは昔から言われてきた。そして、運用コストの中でも大きな割合を占めるのが「電力コスト」だ。
サーバは常に、性能を高めながらも、いかに消費電力を減らすかという工夫を凝らしてきた。これまでもさまざまなアプローチが試みられてきてはいるが、クラウドサービスの急発展に伴い、サーバ単位の消費電力は大きく増大している。サーバの集約率が上がれば今度はラック当たりの消費電力の上限が、そしてデータセンター全体の電力容量の壁も立ちふさがる。データセンターの喫緊の課題は「電力」。この状況を変えるには根本的なアプローチの見直しが必要とされている。
その解の1つがFPGAにある。高性能だがその分消費電力も多いCPUやGPUでまかなってきた処理を、FPGAにオフロードする。こうすることで、サーバやラック単位の消費電力と同時に、過度な冷却/空調が不要になることから、施設全体の電力も含めて大幅に減らせることになる。
例えば中国のEC大手 JD.comでは、サービス向上に向けた機械学習処理にFPGAを採用することで、従来のGPUコンピューティング環境比で5倍のパフォーマンスを実現したという。サーバ単位で5倍ということは、ラック単位、さらにはデータセンター単位で考えると、とても大きな効果をもたらすことは言うまでもない。またこれまでの性能を5分の1のリソースで得られるということでもある。省スペース化の効果は大きいだろう。このように、コストを削減しつつ収益を高める経営視点でも、FPGAが「鍵」であることは明白だ。
このように、デジタルエコノミー時代を踏まえて変革に取り組む企業にとって、FPGAは強力な武器となる。経営層から「多額の投資と時間をかけて作ってみたものの、成果が出なかったらどうするのか? 本当に結果が出るのか?」と問われる技術者やプロジェクトリーダーは多いだろう。そんなとき、特定用途に特化したASICやGPUによるコンピューティング環境だと、取り返しがつかないかもしれない。技術を信頼しており、自信もある。しかし、変化の激しいビジネス環境に「絶対」はない。でも、FPGAならばデジタルエコノミーの中では当たり前の「トライ&エラー」が容易に行える。
FPGAの活用で成功に導く鍵は、「主導権を握るのは自社自身である」ということだ。今のシステムにどんな問題であり、ビジネスを躍進させる上で何がボトルネックになっているのか。それはゲノム解析か、ネットワーク処理か、それともAIか……それさえ分かれば、あとはFPGAで必要な処理を高速化できる。また、ユーザーや市場のニーズが変われば、FPGAは別の処理にも転用できる。ここは大きい。
デバイスからネットワーク、クラウドやデータセンターに至るまで、データに関わる分野全てをカバーする「データカンパニー」戦略を推進するインテルにとっても、FPGAは重要な要素だ。Internet of Things(IoT)などから大量のビッグデータを収集し、機械学習などで解析して新たな価値を生み出すループを、文字通り加速させる役割を担うことになる。
インテルでは、2015年に買収したアルテラがFPGAビジネスで培ってきた資産をベースに、サーバに差すだけで使えるFPGAボード「インテル® プログラマブル・アクセラレーション・カード(インテル® PAC) インテル® Arria® 10 GX FPGA搭載版」をはじめとする“革新的”なFPGAソリューションの提供をいよいよ開始する。また、その基盤を生かしてフレームワークまでを共通化し、さまざまなIPをまるでスマートフォンアプリのように開発し、同様にアプリストアを使うかのように資産を共用できるようにするエコシステムを構築する。
そうなれば、今回紹介したような先進企業と同じように、あらゆる企業がFPGAを活用し、より低いコストで新たな価値を生み出していける土壌が整う。もう1つの鍵はここだ。FPGAをモジュールのように追加でき、機能をニーズに応じて手軽に取捨選択できるようになる時代が今、到来する。「自社の成長には、何が必要か?」──。こんな経営層からの問いにはこう答えていいだろう。「FPGAだ」と。
Intel、インテル、Intel ロゴ、Intel Inside、Intel Inside ロゴ、Intel. Experience What’s Inside、Intel. Experience What’s Inside ロゴ、Altera、Arria、Cyclone、Enpirion、Intel Atom、Intel Core、MAX、Nios、Quartus、Stratix および Xeon の名称およびロゴは、アメリカ合衆国および / またはその他の国における Intel Corporation またはその子会社の商標です。
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提供:インテル株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年11月30日
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