「シュウヘイ」は煮え切らない男。転職活動で内定をもらっても、グズグズ迷ってチャンスを逃してしまう。そんなシュウヘイを見かねた「転職バー」のバーテンダー「ハルカさん」は、彼に巣鴨限定アイドル「ファンシーメタル」のプロデュースを持ち掛ける。夢に向かってチャレンジする彼女たちを見て、シュウヘイ発奮!……できるかな?
そこそこのITベンダーで働くそこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」は、転職活動絶賛連敗中。ある日、面接対策をバーテンダーの「ハルカさん」に相談しようと「転職バー」を訪れ、巣鴨限定アイドル「ファンシーメタル」のオーディションを目撃する。
ハルカさんから彼女たちのプロデュースを依頼されるシュウヘイ。彼女によれば、これは彼の転職活動の役に立つというが……。
ふーん。じゃあ、あのシュウヘイって兄ちゃん、転職活動中なんだ。
ええ。ITエンジニアとしてもっと自分を高められる仕事をってね。
でも、実際のところは連戦連敗中……のヘタレですのね?
大丈夫なん? そんなヘタレにアタシらのデビューを任せて。
マイちゃんの言う通り、シュウヘイ君はヘタレかもしれないわ。
実はね、先日やっと内定をもらったんだけれど、「転職してもやっていけるのだろうか」って悩んでしまって。「どうしよう、どうしよう」って2週間もやっていたものだから、業を煮やした先方から、内定取り消しされちゃったのよ。それならそれで今の会社で頑張ればいいんだけど、やっぱり転職活動も続けている。
転職が成功する保証なんて、どこにもないのにな。
彼に「ファンシーメタル」のプロデュースを頼んだのはね、保証がなくても、少し向こう見ずでも、夢に挑戦する人――そう、あなたたちを見たら刺激になるかもって思ったからなのよ。
何や。アタシらはダシかいな。
それにしてもハルカ姉、随分あのアンちゃんのこと心配するんやなあ。
ほれてたりして……。
ありえませんわ。ハルカ姉さまのような完璧な女性が、あんなヘニャヘニャな方にほれるなんて……。
ヘニャヘニャ(微笑)。そうねえ。シュウヘイ君は私にとって、男の人っていうよりも、ちょっと気になる生徒ってところかしら。
放っとけない弟みたいな?
……。
あれ? 一瞬、ハルカさんの顔が曇ったような……。
まあ、そんなところかな。そろそろかしらね。シュウヘイ君。
うーん。何だったんだろう今のハルカさんの表情……。
ま、そのうち分かるかな。あっシュウヘイだ。
ハルカさぁん。あっ3人も、もう来ていたんだ。
お前が呼び出したんだろ? いい話があるって。
呼び出しといて遅刻とは、ええ根性しとるな。
みんな、そんな言い方しないで!
シュウヘイ兄さま本当にありがとうございます。出会ったばかりのアタシたちのために、ここまでしてくださって。
いや、そんな大層なことでは……
兄さまってきっと、よほどのお人よしか、暇人のアホなのね。
え……。
仕方ありませんわね。これまで女性にまるで縁がなく、これからも希望の見えないお兄さまが、これだけ至近距離で美少女に接したんだもの、舞い上がってしまったのね。
でも、大丈夫ですわ。世の中には30億人以上の女性がいるんですもの。シュウヘイ兄さまのような煮えきれへん男でも、4人くらいは付き合ってくれるかもしれませんわ。
よ、よにん? な、7億5000万分のイチ!
「宝くじ」より確率低いじゃないか。
マイ。アタシ、前々から思ってたんだけどさ。お前、ホンッッットに性格悪いな。
あら、そんなこと。私はただ、シュウヘイ兄さまに現実を直視して強く生きてほしいだけです。
直視に耐えられん現実だってあるやろ!
あの……一応主人公なんだから、もう少しは立ててやってくれないかな。
でも……シュウヘイ兄さまって、きっと頭の中で妄想ばかりして実際には何も動かない方なんじゃないですか? だから転職でも悪いことを先走って想像して、それで迷っちゃうんでしょ?
それでシュウヘイ君。3人の海外デビュープラン、考えてくれた?
な、ななおく、ごせんまーん……。
しっかりせいや!
う……う……。あ、あ……。
ぐずぐずして話が長くなりそうなんで、こっちで要約しちゃおう。
海外のオーディション情報サイトで、「英国のテレビ番組制作会社が、日本の女性アイドルグループを探している」という情報を見つけた。
そうだろ? シュウヘイ。
う……う……う……。
ああ、もう……。
そこでその会社にファンシーメタルの動画とプロフィールを送ったら、「ぜひ、オーディションに来てほしい」って返事が来た。一次オーディションは来週、東京で。それに通ったら、再来月にイギリスで最終オーディション
……だよな? シュウヘイ!
う……うん。で、これがその番組のチラシなんだけど。
「Robot Heroes Goo-Ranger」……ロボットヒーロー グーレンジャー?
英国で1年間も続いている人気番組なんだよ。日本の戦隊ヒーローにインスパイアされて作ったので、日本の女の子に出演してほしいらしいよ。
アタシら、悪と戦って倒すのか?
い、いや……倒される方……かな。
なんや、悪役かいな。
3人とも格好いいんだよ。悪の総帥にしてマッドサイエンティストの「ドクター・モリアーティ」が地球征服のために作った3体のメタル・ドロイドなんだ。
ルナちゃんは口から炎をまき散らして、半径3メートルのものを焼き尽くす。レイちゃんは手足から蜘蛛の糸を出して、目の前の敵を2〜3人捕まえる。そんでもってマイちゃんは、自動車に変身して街中を時速60キロで暴走……。
アホか! 何でアタシらが、そんなガキ向けのギャグ番組出なあかんねん。
アタシたち、ロックを歌いたいんですけど。
で、でも。番組で人気が出たら、その勢いでデビューできるかもしれないじゃないか。
そないにウマくいくかいな。あちらは日本と違って「テレビで人気が出たら横滑りで歌も」なんて甘い世界とちゃうねんで、このドアホ!
ひぃぃ……
ちょっと待って。道のりは遠いけど、有名になればあなたたちの目指す場所に少し近づけるかもしれないわよ。
そうだよ。「かわいい顔してハードなロック」を目指すファンシーメタルなら、悪役コスプレも合うかもしれないだろう?
少なくともここでグズグズしているよりはいいんじゃないかな。失敗したってダメ元だし。
うーん。そんなに言うのなら。
このアンちゃんの努力に免じて受けるだけ受けてみようか。
モノは試し……ですわね。
そんなこんなで、「Robot Heroes Goo-Ranger」のオーディションを受けることになった3人。
結果は……まあ、大方の読者の予想通りってことで、数週間後の転職バーにひとっ飛び。
う、受かったよおおお!
ホンマか?
うん。3人とも抜群に可愛くてイメージにピッタリだって。
兄ちゃん、やるじゃん!
これで、めでたし、めでたし……でもないか。ハルカさんがちょっと複雑な表情をしているよ。
あなたたち、本当にそれでいいの?
どういうこと? ハルカ姉。アタシたちが失敗するとでも?
そうよ。きっと失敗するって思った方がいいわ。
ええぇぇぇ!?
す、すみません。ちょっと僕には言ってる意味が……。
じゃあ、質問するわね。
シュウヘイくんは友達にすすめられた会社に転職しました。でもそこはブラックだった。仕事はルーティンばかりで目標を持てないし、同僚や先輩とも仲良くなれない。上司はパワハラ三昧で、残業代も出ない。
そんな会社だったらどうする?
そ、そんなの……すぐに辞めちゃいますよ。
頑張ろうとせずに?
少しは粘るかもしれないけど、続けられないと思います。それに、その友達のことも恨んじゃうかな。
じゃあ、別の質問。もしシュウヘイ君が私と結婚したとしましょう。
し、してくれるんですか!!!!!
たとえ話や、アホ!
ところが、私がとんでもない女だった。毎晩遊び歩いて、家には帰らない。浪費家で酒癖が悪くて、おまけに暴力までふるう……。
そんな女だったらどうする?
そ、そりゃあ、すぐに別れ……いや!
いや?
ぼ、僕は別れましぇん! ハルカさんと幸せになれるように頑張ります!
友達に紹介された会社だったら努力もせずに逃げちゃうのに、私との結婚だったら逃げずに頑張るのはどうして?
だ、だって!
ハルカさんは僕が選んだ人ですから! 誰に勧められたからではなく、自分が一緒にいたいと思った人ですから!
なるほど、分かったよ。
ハルカ姉は、自分が望んで決めたことなら、結果がどうなっても頑張りがきくって言いたいんだね。
確かにオーディションの話、アタシらはハルカ姉やシュウヘイ兄ちゃんの勧めに従っただけで、自分たちでは何で受けるのかをちゃんと考えていない。まだ腹をくくっていない。
もし、自分たちがとことん考えて決めたことなら、仮にダメでも……。
「自分たちが望んで決めたことだ」と言えれば、もしオーディションに落ちても頑張れるし、何があってもそこから得るものがあるはずだわ。
シュウヘイくんも「この転職は自分で望んで決めたんだ」って腹をくくっていれば、もし転職先でうまくいかないことがあっても、逃げずに踏ん張れるし、その経験はきっと後の人生でも生かせるわ。
アタシら、英国行きが本当にやりたいことなのか、もうちょっと話し合ってみなきゃいけないのかも。
シュウヘイアンちゃんの話は、本当にアタシらの夢なのか。
「やるって決めたのはアタシたちだ」って胸を張って言えるか……ですわね。
よく考えてみてね。シュウヘイ君の話、まだ少し時間があるみたいだし。
はあい。
とうわけで、3人はひとまず帰っていった。
その後がどうかって? じゃあ、2カ月後に飛んでみようか。ハルカとシュウヘイに3人から手紙が来ているみたいだ。
ハロー! ハルカ姉、シュウヘイ
先週、最終オーディションの結果が来て、アタシらダメだった。でも3人で相談して、英国に残ることにした。もう少し粘って、こっちでデビューを目指そうって。
ハルカ姉が言ってくれた通り、あのまま何も考えず、すすめられるままに英国に来ていたら、きっと「ただオーディションを受けて落ちた」ってだけで、何も得られずに日本に帰ったと思う。シュウヘイを恨みながら、何も成長せずにね。
ホント、2人には感謝してるよ。絶対こっちで一旗揚げて帰るから、待っててくれな。
追伸:このあいだ。マイのスマホ見たら、なんと待ち受けがシュウヘイだったぜ! 本人は「画面のシュウヘイをディスってストレス発散!」なんて言ってるけど、本心はきっと……
じゃあな!
ところで、ハルカさん。先日のケッコンのはな……。
(シュウヘイの言葉をさえぎって)さあ、3人の門出を祝って、カンパイしましょう。
これはグラスホッパー、英語で「バッタ」のことよ。ファンシーメタルがバッタのように元気にジャンプすることを願って。
カンパイ!
カ、カンパーイ……。
つづく
転職が成功するかなんて誰にも分からない。でも、おじけづいて何もしなければ、何も変わらないわ。
そして、決断は必ず自分ですること。「エージェントにすすめられたから」とか「ネットで評判がいいから」という理由ではなく、「自分はどうしたいのか」「自分が本当に望んでいることは何なのか」を考えぬいて、「これだ」と思ったら突き進めばいいわ。
勇気を出して、一歩を踏み出してみて。チャレンジに保証なんかないけれど、自分が望んだ結果なら、その後どんなことが起こっても頑張れるし、成長もできるわよ。
テキスト:細川義洋
イラスト:アサミネ鈴/ad-manga.com
第1回 コアントローの香り……あなた、良からぬことを考えているわね
そこそこのITベンダーで働くそこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」がふらりと入った「転職バー」。美人バーテンダー「ハルカさん」に首筋の匂いをかがれて……シュウヘイ昇天!
第2回 取りあえずビール? それともビール“を”飲みたいの?
転職活動中のエンジニア「シュウヘイ」がやっと獲得した内定に難色を示す美人バーテンダーの「ハルカさん」。「仕事をゆずれ」とすごむ「シタロー」さん――「転職バー」は、今日も波乱のヨ・カ・ン。
第3回 ブランデーがお好きでしょ?――あなたに夢を見せてあげる
転職活動中のエンジニア「シュウヘイ」は、スキルや経験をアピールしてもなかなか内定が取れない。彼に欠けている“あるもの”に気付かせるために「転職バー」のバーテンダー「ハルカさん」が招集したのは、ちょっと(いや、とても)乱暴な彼女、「サディスティック・ミミ」だ!
第4回 コーヒーのカクテルをいかが?――違いの分かる男は、違いを活用できる男よ
そこそこのシステムエンジニア「シュウヘイ」の転職活動は絶賛難航中。面接でヒドいことを言われ、ハルカさんになぐさめてもらおうと「転職バー」に立ち寄った彼の前に現れた、超絶かわいい3人娘「ファンシーメタル」。ガッツリさわるとモエちゃうぞ!
IT企業で働く平凡なエンジニア梧籐 剛、27歳。美人上司と可愛い過ぎる後輩に挟まれて日々開発にいそしむ彼には、誰にも言えない悩みがあった……。
第2回 壁ドンされたって、ドキドキなんかしない……んだから……ね……
ここは都内のとあるIT企業。退職を希望する27歳のエンジニア梧籐 剛は、上司に辞意を伝えたのだが、なぜか今日も山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた……。
第3回 せんぱいにだけ伝えちゃう! わたしの素直な気・持・ち
27歳のエンジニア梧籐 剛は、忙し過ぎる業務に嫌気がさし、思い切って上司に辞意を伝えたが、あいかわらず山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた。早く辞めたいと焦りはつのるが、本人の心にも一抹の迷いが……?
第4回 ハートに火を付けて! 燃えさかる案件の中心で辞意を叫ぶ
思い切って上司に辞意を伝えた27歳のエンジニア梧籐 剛。しかし状況は変わらず、今日も山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた。早く会社を辞めたいと焦りはつのるが、後輩の椎子に「まずはキャリア設計が必要だ」と言われ……。
第5回 「false」を返すと「null」で上書きする、そんな上司と働いています
一日も早く辞めたい27歳のエンジニア梧籐 剛。「ぼくのやりたいことはこれだったんだ!」と気付いたものの、後輩の椎子に、まだまだキャリア設計が甘いと指摘され……。
第6回 右手に椎子、左手にリナ。僕、ほんとはしあわせなんじゃ……
ついに転職先を探し始めた27歳のエンジニア梧籐 剛。「僕、ようやく進むべき方向がつかめてきました」ところが社長にバレて……?
相変わらず辞められずに激務をこなす27歳のエンジニア梧籐 剛だったが、今日のアンドロイドのバグは……草?不可避wwwww?
可愛過ぎる後輩 椎子のサポートで、27歳のエンジニア梧籐 剛の転職に関する知識はだいぶ増えたのだが、肝心の転職活動がなかなか進まず、焦りはつのるばかり……。
業務(アンドロイド開発、ただし人型の)が小康状態に入り穏やかな日々を送っていた梧籐たちに社長から告げられたのは、まだ仕様があやふやなところが山ほどあるアンドロイドの緊急リリース命令だった。
第10回 アンドロイド(人型の)開発から、アンドロイド(人型の)による開発へ!
梧籐はあいかわらず山ほどの業務(アンドロイド開発、ただし人型の)を全力でこなしていた。しかし、ここへきて案件に異変が……?
山ほどの業務に追われ続ける梧籐。しかし、新しく部下(ただし人型アンドロイド)ができて順風満帆!?
第12回 そのしぐさが心変わりのサインだなんて、ボク知らなかったよ……
アンドロイド駆動開発プロジェクトのマネジャーである梧藤、流行に乗り遅れまいと夏風邪をひいて会社を休んでいたら、何やら異変が……。
第13回 False! True!! ヨヨイのヨイ! 開発合宿でプレイ☆ボール
リナが投げて椎子が打つ!同業他社チームとの交流試合に、アンドロイド開発チーム(物理)のマネジャー梧籐 剛はどう仕掛けるか?!
第14回 「せんぱい! ヤメてください」――椎子の決意にボクのドキドキが止まらない!
アンドロイド(物理)3体と共に取り組んでいたIoT開発がいよいよテスト工程まで進んできた。このプロジェクトが終わったら、何をしようかな……そうだ、た・い・し・ょ・く???!
「退職したい」「退職したい」と言い続けて、早2年半。どうやら本当に退職する日が来たようです。でも、その前に、この暴走屋形船を何とかしなくちゃ!
野望を胸に秘めて転職を志す、とあるエンジニア(28歳)がいる。今日は一番の本命企業、X社の面接だ。準備万端、張り切って面接会場に向かうが……。
本命のX社の面接に落ちた彼が今回向かったのは、第2志望のY社。今度こそ、面接を突破することができるのか……。
2回連続で面接に落ちた彼だが、わずかな望みを失わず、今日も雨の中を面接会場に向かう。しかしそんな彼を、またしても試練が待ち受けていた……。
特別企画 きのこる先生×ドS美人面接官 2015年は“モテ”エンジニアに絶対なる!
Web企業の人事担当「きのこる先生」と、「ドS美人面接官」が、密会という名の単なる飲み会で、この先生き残るエンジニアについて徹底議論を交わす……
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提供:株式会社マイナビ
アイティメディア営業企画/制作:@IT自分戦略研究所 編集部/掲載内容有効期限:2017年12月31日
AI、ロボットが浸透していく世の中で、必要とされる人材とは? 磨くべき力とは?
経歴・スキルを1分で登録! 匿名だから安心。今すぐ転職しなくてもOK。「待つだけ」なのでとりあえず登録しておく?
…という人は要注意。仕事を探す前に「××」を確認しないと同じ状態の繰り返しに。
「とにもかくにも上司が合わない!」という人、結構いるみたいです。みんなどう対処してるの?
「職場環境や社風が合わなくて後悔」「ついていけない……」とならないための、「転職の失敗」を防ぐポイントを伝授!