クラウドやAIを活用して、新しいサービスを開発しようとする企業は多いものの、データ利活用の環境構築や、データ分析のための人材確保に手間取っている企業は少なくない。ビッグデータをうまく活用して、そこから得られた知見をビジネスに活用するポイントについて、企業の取り組み事例とともに日本マイクロソフトに聞いた。
IT活用が一般化し、技術が短いスパンで進歩するに伴い、顧客のニーズも速く変化している昨今、いかにしてビジネスを素早く成長させるかが、今やあらゆる企業の経営課題になっている。そのビジネスを素早く成長させる方法の1つとして、データの収集、蓄積、分析、分析結果を基にした「新たなサービス開発」が考えられる。分析して常に顧客のニーズに合ったサービスを開発することで、顧客満足度が高いサービスを実現でき、それが企業の成長につながるのだ。
モバイル端末の普及やIoT(Internet of Things)技術の登場でさらに多くのデータが企業に集まりつつある。また大量に集まったデータを、高度なレベルで分析するAI(人工知能)や機械学習など、新しい技術が続々登場している。これらの技術を活用して顧客満足度の高いサービス開発を実現している国内企業は少なくない。例えば、本稿で紹介するコマツや東京サマーランド、エイベックスは、率先して取り組んでいる先進企業だ。
顧客満足度の高いサービスの開発で重要となる大量のデータ(ビッグデータ)。うまく収集、蓄積、分析するには、何が必要なのだろうか。数年前まで企業がビッグデータを扱うときは、巨大で高速なストレージを用意し、オンプレミスにビッグデータに最適な仕組みを導入して、大量データを蓄積する環境を構築しなければならなかった。またシステムの開発や運用作業、データの分析には専門スキルが必要なため、そのニーズを満たした人材を採用する必要があった。しかし、そのような要素がビッグデータ活用のハードルを上げていた。さらに何とか大量データを溜める仕組みが完成し、データを分析して知見が得られても、それを新たなサービスに組み込むには高いハードルがあった。
では、企業がこのようなハードルを乗り越えて、新たなサービス開発に取り組むためにビッグデータ、IoT、機械学習などを活用するにはどうすればいいのだろうか。
「クラウドの普及がビッグデータ活用のハードルを下げている」と言うのは、日本マイクロソフト マーケティング&オペレーションズ クラウド&エンタープライズ本部 OSS戦略担当部長の新井真一郎氏だ。
「クラウドとその上で動くクラウドサービスが充実したことで、大量データを扱う仕組みを苦労してオンプレミスに構築して、運用する必要はなくなった。さらに昨今はAIや機械学習などの先端技術も『PaaS』(Platform as a Service)やAPIの形で提供されている。それらを使えば、統計解析やAIなどの特別なスキルを持つ人材がいなくても、高度なデータの解析を簡単に試せる」(新井氏)
またクラウドは、ビッグデータ活用を小さく始められるのも利点だ。いつまでにどれだけデータが増えるかを予測しにくいのがビッグデータだ。何とか難しい将来予測を行い、必要な容量や性能に合わせて大規模なハードウェアを用意するが、それには非常に大きな投資が必要になる。もし予測を誤り、途中で容量や性能が足りなくなれば、さらにコストをかけてリソースの追加やシステムの改変をしなければならなかった。
クラウドであれば、データが成長する規模を詳細に予測する必要はない。まずは当分の間困らない程度の容量から始めて、足りなくなればクラウドの拡張性を使い、容量や性能を増やせばよい。この方法なら無駄なリソースをあらかじめ確保する必要がなく、コストを最適化できる。
Microsoftが提供するクラウド「Microsoft Azure」(以下、Azure)には、ビッグデータを容易に格納できる「Azure SQL Database」をはじめとするデータベースのサービスがそろっている。また音声、画像、動画などの「非構造型データ」の蓄積に最適なデータベースや分析プラットフォームなど、ビッグデータ分析を容易に実現できる豊富なサービスも備えている。
さらにAzureのビッグデータ分析の環境では、他のMicrosoft製品はもちろん、市場で実績のあるオープンソースソフトウェア(OSS)を容易に活用できる。例えば、マネージドサービス「Azure HDInsight」を使えば、「Apache Hadoop」や「Apache Spark」などのビッグデータ分析でよく使われるOSSを簡単に使用できる。
「Azureでは、これまで取得したさまざまな技術ノウハウを生かしやすいPaaSを、オープンなテクノロジーで提供しています」(新井氏)
建設機械を提供するコマツは、「スマートコンストラクション」においてAzureでビッグデータ分析環境をうまく構築した。建設業界では労働力不足やオペレーターの高齢化、さらには安全性確保やコストの適切な管理のためにITを活用した効率化を進めている。それを支援するのがスマートコンストラクションであり、建設機械に搭載されたセンサーデータや動画データ、風量計のデータなどを使い、現場作業の効率化のアドバイスを行っている。
このサービスをグローバルに展開するプラットフォームとして、コマツはAzureを選択した。選択理由は、Azureが対応する地域が世界各国に広がっており、各拠点のデータセンター間の通信速度が高速な点だ。またIoTサービス「Azure IoT Hub」を使ってさまざまなデバイスから吸い上げられる情報を、AzureのLinux VM(仮想マシン)上の「DataStax Enterprise」(Apache Cassandra)や、Azure HDInsightに集約。それを各種アプリケーションから利用できる一連の仕組みを、Azureのプラットフォームで一貫して実現できることもメリットとして判断された。
「コマツでは顧客に最適なものを世界中で提供したいと考え、そのサービスを展開するのに最適な環境としてAzureを選んでくれました」(新井氏)
またAIや機械学習などの新しい技術を試すのもクラウドなら簡単だ。今やさまざまなAIや機械学習の機能が、PaaSとして用意されている。そのため、新たなサービスでPaaSを活用しながら開発してPoC(Proof of Concept:概念実証)などで新しい技術を検証。効果があると判断できたものだけを本番に適用するアプローチも容易になった。またPaaSを使えば、検証環境から本番環境へ移行する際の手間もほとんどかからない。
Microsoftは、AI/機械学習技術をすぐに利用できるAIプラットフォームとして「Microsoft Cognitive Service」や「Machine Learning Services」などを提供している。
「Microsoft Cognitive Serviceは、見たり、聞いたり、話したり、理解したりといった人間本来のコミュニケーションを使って、新たな知見を導き出すサービス。Microsoft Cognitive Serviceで得られた知見とともに、ユーザーの行動履歴をはじめとするデータを利活用すれば、その先のユーザーの行動予測やニーズの把握などを実現できる」(新井氏)
Microsoft Cognitive Serviceは、APIを呼び出し数行のコーディングをするだけでサービスに組み込める。そのため得られた知見となる「アルゴリズム」のモデルを、簡単にビジネスプロセスに組み込める。またオープンソース技術にも対応しており、プログラミング言語やプラットフォームを選ばずに利用できるのも大きな特長である。
他にも簡単に会話型AIの機能を開発できる「Azure Bot Service」、AIアルゴリズムをモデル化し、ノンコーディングで簡単に実験が行える「Azure Machine Learning Studio」なども用意されている。
クラウドのサービスが充実し、大量データを安価に蓄積して容易に分析できるようになった。とはいえ、これまでのビッグデータ分析の多くは蓄積したデータに対しバッチ処理的に分析を行い、そこから「過去にどういった傾向があったか」を把握するのにとどまっていた。
「そこで、ビッグデータ分析とAI技術を組み合わせると、これまでの傾向だけではなく未来を予測できるようになる。その知見が、サービス開発、ビジネス拡大に大きく寄与するだろう」(新井氏)
このビッグデータとAIを組み合わせた新しいサービス開発に、全天候型の総合レジャー施設を運営する東京サマーランドは取り組んでいる。
東京サマーランドは、さまざまなマーケティング施策を講じていたが、活動の根幹となる来場者の属性、満足度の把握において、これまでその網羅性に課題があった。また入園チケットの購入経路の多様化が、顧客層の把握を難しくしていた。
「そこで東京サマーランドでは、カメラ映像とAIを組み合わせたサービスを活用し、精度の高い来場者分析に取り組んでいる」(新井氏)
施設内にネットワークカメラを設置し得られる映像から顔を検知。顔の画像データをAzure Cognitive Serviceでリアルタイムに解析して、年齢、性別、感情データを取得し、そこから来場者の詳細な状況を把握できるようにしたのである。来場者の感情や詳細な属性がリアルタイムに分かれば、その特性に適したマーケティングキャンペーンを効果的に実行することができる。同社はこのようにデータとAIを組み合わせて得た知見を、新しいキャンペーン、顧客満足度の向上、ビジネスのさらなる拡大につなげようとしている。
エンターテインメントとテクノロジーの掛け合わせを積極的に取り組んでいるエイベックスも、Azure Cognitive Serviceを活用している企業だ。これまでライブやイベントの客観的な評価は、定性的な指標によるものだった。Azure Cognitive Serviceの「感情認識API」を使って来場者の反応を数値化することで、定量的な効果測定の難しいエンターテインメントにおいて客観的な評価が可能になり、イベントの質や満足度の向上に向けた取り組みがより容易に行えるように可能になった。
具体的には、ライブ中の来場者の顔を撮影し、それを感情認識APIを使って解析。これにより「来場者がどのタイミングで、どのように反応したか」を、数値化し、把握できるようにしたのだ。その結果を参考にして、エイベックスはライブの曲順や演出を考えたり、イベントの質の向上と来場者の満足度向上につなげる施策を実施したりすることが可能になる。エイベックスでは顧客の感情データの把握する取り組みには汎用性があり、映画館やグッズ販売の店舗などさまざまなシーンで応用できると考えているという。
ビッグデータ分析やAI、機械学習を活用する際には、オープンソースを含めさまざまな要素を組み合わせる必要がある。MicrosoftではそのためにRed HatやClouderaをはじめとするオープンソースを扱うグローバルパートナーと積極的に協業している。
「単にオープンソースがAzureで利用できるだけではなく、パートナーとともにオープンソースそのものの普及や、オープンソースを活用したAIやビッグデータ分析のサービスの展開にも貢献しています」(新井氏)
そうすることで、顧客に選択肢を提供でき、それが結果的に、顧客が懸念するクラウドサービスへのロックインを回避する。またコンテナなどのオープンスタンダードな技術を活用すれば、クラウド同士、あるいはクラウドとオンプレミスの連携なども容易になる。
Microsoftには、AzureプラットフォームだけではなくOffice 365やDynamics 365などのサービスもあれば、Windowsのデバイス、HoloLensのような新しいデバイスもある。
「HoloLensをインタフェースにした新しいサービスを開発し、そこからモノを認識して、得られるデータをAzureのAIプラットフォームで分析し、知見をDynamicsのCRMで活用するといった連携も考えられます」(新井氏)
このように、Azureを使うことで、企業が新たなサービス開発に取り組む際に、課題となるビッグデータやAIや機械学習の活用において、そのハードルが下げられることがお分かりいただけただろうか。
「クラウドでビッグデータの環境を構築してからがスタートです。そこで生まれた新たな知見をしっかり新しいサービス開発に活用しなければなりません。さまざまなノウハウとサービスを持っているMicrosoftとそのパートナーだからこそできる提案をAzureを活用するパートナーのソリューションメニュー『Cloud Everywhere』を通じて今後もしていきます」(新井氏)
日時:2018年5月31日(木) 10:00〜12:00
場所:日本マイクロソフト株式会社 品川本社 31F セミナールームA
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日時:2018年5月31日(木) 13:00〜15:00
場所:日本マイクロソフト株式会社 品川本社 31F セミナールームA
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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年5月8日