VMware Cloud on AWSのインパクトが、日増しに大きくなってきている。企業におけるIT部門と事業部門の橋渡しのきっかけにもなり始めているという。プロダクトマネジメント担当シニア・ディレクターであるナラヤン・バラドワジ氏に、同サービスの現状と今後について聞いた。
VMwareとAmazon Web Services(以下、AWS)が鳴り物入りで共同発表し、2017年10月に米国での提供を開始したVMware Cloud on AWS(以下、VMC on AWS)。2018年中にAWSの東京リージョンで提供開始するという計画も、予定通りに準備が進んでいる。
日本国内での提供開始を待つ間にも、同サービスは相次ぐ機能拡張によって使い勝手が向上し、「クラウドらしさ」もさらに増している。また、欧米企業による大規模な採用が目立つようになっているという。VMC on AWSのプロダクトマネジメント担当シニア・ディレクターであるナラヤン・バラドワジ(Narayan Bharadwaj)氏に、同サービスの現状と今後について聞いた。
VMC on AWSは、AWSのデータセンターにおける物理サーバ上で、顧客がVMware vSphere(以下、vSphere)、VMware vSAN(以下、vSAN)、VMware NSX(以下、NSX)で構成される環境を自社専用として使えるサービス。環境の構築、拡張/縮小、利用に関わるプロセスは、完全に自動化されている。2018年6月の機能強化では、物理サーバ1台から利用できるようになった。このため、試験的な導入もしやすくなっている。
では、VMC on AWSはどのような用途で利用されているのか。バラドワジ氏は最大の用途として、自社データセンターからの移行が浮上していると話す。
「AWSのヘビーユーザーの中には、自社データセンターを撤廃しようとしている企業が多数見受けられます。例えば『2020年までに、全ての自社データセンターをシャットダウンする』など、期限付きの明確な計画を定めています。こうした企業が、コストを抑えながら短期間で移行を済ませられる新たな選択肢として、VMC on AWSが今、大きな注目を浴びています」
重要な既存システムの移行には、多くの労力と時間が費やされる。だが、これらのシステムが既に社内のvSphere環境で稼働しているのであれば、VMC on AWS上に移行した場合にどのようなサービスレベルを期待できるのかを、事前に想定できる。また、移行作業自体も、同じvSphere環境同士であるため容易だ。自社データセンター撤廃の期限が明確に定められている場合、デッドラインに間に合わせやすくなる。移行後の運用も、従来と変わらない。
また、VMC on AWSに移行すれば、従来のオンプレミスでのvSphereよりも、優れた環境を手に入れられると、バラドワジ氏は強調する。
「VMC on AWSでは、Elastic DRSという機能により、ポリシーに基づいて、物理サーバを自動的に増減できます(手動での増減も可能)。これにより、vSphereによる環境の運用を、パブリッククラウドに近い形態に近づけられます」
つまり、各顧客が物理サーバを専有するプライベートクラウド環境でありながらも、機動的かつ効率的な物理リソースの活用が実現する。
また、VMC on AWSでは、仮想マシンの起動/停止から請求まで、全てがAPIで操作できるため、各顧客レベルでの運用自動化を進めることができる。VMC on AWSでは、ネイティブなAWSの豊富なサービスをシームレスに活用できることも大きな特色だが、ネイティブAWSとVMC on AWSにまたがったハイブリッドな自動化も進められる。
バラドワジ氏が当初予想していなかった用途に、ネイティブのAWSからVMC on AWSへの移行があるという。
「マーケティングもキャンペーンをしていませんが、『当社の使い方では、ネイティブのAWSよりもコスト効率と柔軟性に優れている』として、VMC on AWSに移った顧客が出てきています」
「マネージドサービスプロバイダー(MSP)」、つまり、運用代行を行う事業者からの引き合いも急増している。VMwareは2018年3月、パートナー向けのMSPプログラムの提供を開始した。さらに2018年6月には、最小利用単位が物理サーバ1台となった。これらを受けて、早速多数の問い合わせを受けているという。
バラドワジ氏が、今後の広がりを予想するのは、クラウドネイティブアプリケーション向けの用途だ。
VMwareはPivotal、Dell EMCとの提携で、『Pivotal Container Service(PKS)』を提供している。これはvSphere、vSAN、NSXをプラットフォームとして、Kubernetesを即座に導入して使えるパッケージだ。オンプレミス用の製品だが、非常に好評だとバラドワジ氏は話す。そこでVMC on AWSでは、PKSサービスの提供を計画している。
「vSphereは、従来型のシステムに加え、クラウドネイティブなアプリケーションのプラットフォームとしても有力な選択肢となることがはっきりしてきました。そこで、VMC on AWSでもKubernetesをサービスの一部として提供するつもりです。PKSではGoogle Cloud Platformのサービスとの連携が特徴の1つとなっていますが、VMC on AWS上のPKSでは、ネイティブのAWSサービスとの連携を実現します」
VMC on AWSは上述の通り、2017年10月に「イニシャルアベイラビリティ」として限定提供を開始。その後2018年3月、一般提供に移行した。2018年6月時点では、イニシャルアベイラビリティから8カ月しか経っていないにもかかわらず、既に4回のまとまった機能強化(VMwareはこれを「マイルストーン」と呼ぶ)が加えられた。つまり、「VMC on AWSでできること」はどんどん増えている。
2018年6月のマイルストーンでも、これまでと同様に大幅な機能強化があった。主要なものは次の通りだ。
ストレッチクラスタは、一般的なパブリッククラウドには見られない特徴的な機能だ。実際にはvSANの機能で、2つのストレージクラスタを同期できる。このため、一方のクラスタに障害が発生したとしても、他方のクラスタにより、ゼロダウンタイム、ゼロデータロスでアプリケーションを稼働し続けられる。2つのアベイラビリティゾーンを使ってこれを運用すれば、アプリケーションレベルでの対策をすることなく、いずれかのアベイラビリティゾーンがダウンしても、他方のアベイラビリティゾーンで仮想マシンが即座に起動する。また、2つのクラスタ間でのvMotionも実行可能だ。
また、vCenter Cloud Gatewayは、オンプレミスのvCenterからVMC on AWS環境も統合的に管理できる機能。これまでは、「Hybrid Linked Mode」として、VMC on AWS側からオンプレミス環境も管理できるようになっていた。だが、これを使うため、社内のActive Directory情報をVMC on AWS側に見せなければならないことに対して懸念を持つ組織がある。こうしたニーズに対応するものだ。
バラドワジ氏は、今後における機能拡張の例として、AWSの各種ストレージサービスとの連携強化を挙げる。例えば、VMC on AWS上の仮想マシンが、直接Amazon S3にアクセスできるようになる。すると、S3を通じてAmazon Glacierも活用できるようになる。このように、ネイティブなAWSのサービスを活用したデータのライフサイクル管理も可能になる。また、Amazon Elastic File System(EFS)との連携も実現する。
さらに、vSANでは、データ暗号化機能を搭載しているが、 AWS Key Management Service(KMS)で管理される暗号鍵を適用できるようになる。オンプレミスからVMC on AWSへのデータ移行では、AWS Snowballが利用できるようになる。
「IT予算で考えると、多くの企業ではIT部門の握るVMware関連の予算とクラウド用の予算、そして各事業部門の予算があります。VMC on AWSは、こうした異なる予算の間に横たわる溝を埋める働きをしています」(バラドワジ氏)
VMwareとAWSはVMC on AWSを通じ、それぞれの顧客を紹介し合い、各ユーザー企業においてさまざまな予算を持つ人たちを引き合わせる活動を進めているという。
AWSは事業部門の予算で広く利用されてきた。一方VMwareは、IT部門のVMware用予算で使われてきた。だが今、多くの企業は、IT部門が事業部門と連携し、全社的なクラウドへの動きを推進しなければならない段階に入ろうとしている。とはいえ、IT部門と事業部門の間に深い溝がある企業は、米国でも多いとバラドワジ氏は話す。
「そこで、AWSとVMwareは、IT部門と事業部門の間のコミュニケーションを深める支援をしています。両者は異なる文化を持っていますが、相互のすり合わせが必要な時代になってきました。双方は互いに対する理解を深め、協力していかなければなりません」
ユーザー組織は、全社的な整合性を確保しながら機動性を最大限に発揮する、自社にとって最適なクラウド利用の姿を具体的に描き、実行に移さなければならない。それもできる限り早く。
プライベートクラウドにおけるリーダーであるVMwareと、パブリッククラウドのリーダーであるAWSの間に生まれた子のような存在であるVMC on AWSは、こうした具体的な全社クラウド戦略策定のための、重要なきっかけとなっているのだという。
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提供:ヴイエムウェア株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年8月29日