ソフトウェアオブジェクトストレージのScality RINGは、病院をはじめとしたさまざまな業界に採用が広がってきた。さらに同製品は、マルチクラウドのデータ基盤へと進化しようとしている。ScalityのCEOであるジェローム・ルカット(Jérôme Lecat)氏に、同氏が今、何を目指しているのかを聞いた。
フランスのソフトウェアオブジェクトストレージベンダー、Scalityが日本法人を設立してから4年が経つ。同社の製品を採用する業界は、メディアや通信関連から、病院、航空関連、自動車関連などに広がりを見せているという。一方、製品面ではフラッグシップ製品のScality RINGにおける機能強化を進めつつ、2017年にはマルチクラウドデータ管理ソフトウェアのZenkoをオープンソースソフトウェアとしてリリース。2018年9月には同ソフトウェアの商用版を販売開始する予定だ。さらにScality RINGでは、Zenkoの機能を取り込むことで、マルチクラウド対応が進化しようとしている。
ScalityのCEOであるジェローム・ルカット(Jérôme Lecat)氏に、今何を目指しているのかを聞いた。(聞き手:アイティメディア @ITエグゼクティブエディター、三木泉)
――Scalityは2018年4月に大規模な追加ファンディングを受けたということですが、あなた自身のビジョンはScality設立当初から変化しましたか?
Scalityを創業した2009年当時、第1に、世界が大きく変わろうとしていることを認識していました。「ITは企業が勝ち残っていくための前提になる」と確信していました。
第2に、こうした時代には、コンシューマー向けネットサービスで先行したように、汎用サーバ上にインストールされたソフトウェアによって可用性とコスト効率を実現する、分散システムが基盤になると考えました。
第3に、企業はますます大量のデータを管理し、活用していくことになると信じていました。
これらの確信は、今も全く変わっていません。当時、私たちが認識していたこの変化に特に名前はありませんでしたが、その後「第4次産業革命」と名付けられましたし、コンシューマーネットサービスで生まれた新アーキテクチャは「クラウド」と呼ばれるようになりました。そしてデータの急増は、現実のものとなりました。
唯一予測できなかったのは、単一のパブリッククラウド事業者が、圧倒的な地位を築くようになったことです。このため、私たちは顧客に、複数のクラウドを使っていけるようなアーキテクチャの採用を、強く勧めています。
企業の競争優位性が、ITにおける競争優位性に左右される世界では、単一のサプライヤーへの依存が非常に危険であることは明らかです。そのサプライヤーの優位性に、企業の優位性が限定されてしまうからです。私たちが2015年にZenkoというオープンソースソフトウェアの開発を始めた理由も、ここにあります。
――しかし、日本ではAmazon Web Services(AWS)のおかげで、自社のITを具体的に変革できると考え、これを実行している企業が多数存在します。
チーフデータオフィサー(CDO)を任命し、小規模なチームがデータをAWSに移行し、機械学習/AIを適用するケースは、欧米でもよく見られます。しかしこれは、全社的なITトランフォーメーションとは呼べません。
現時点では、AWSが最も先進的なパブリッククラウドであることは確かです。クラウドネイティブなサービスを開発し、デプロイする基盤として、AWSが非常に優れていることには疑問の余地がありません。しかし、10年後を見通して、どのようなビジネスプロセスを構築して遂行すれば、自社がリーダーであり続けられるかを考えた時、AWSはソリューションの一部ではありますが、その全てではありません。
――あなたは、「マルチクラウド」という言葉をどういう意味で使っていますか? プライベートクラウドおよび複数のパブリッククラウド間で、いつでもデータを動かせるようにしておくのは望ましいでしょうが、実際には(パブリッククラウドからデータを他に移すと)データ転送料が掛かるので、コスト最適化につながらない可能性があると思います。
まず、AWSやその他のパブリッククラウドで、それぞれが得意なアプリケーションをその時々で活用するということです。また、大量のデータを保管する場所として、パブリッククラウドは一般的に安価ではありません。データを管理しやすい、コスト効率の高いツールさえあれば、社内データセンターで保管するほうがはるかに低コストです。
マルチクラウドでデータを一括管理する仕組みをセットアップするには、多少のコストが掛かります。しかし、それを上回る2つの節約効果があります。既に指摘したデータ保管コストの削減ともう1つ、アジリティ(俊敏性)の向上があります。ビジネスの変化に、迅速に追従できるようになるのです。データを将来、いつでも必要な時に必要な場所へ容易に移動できる自由を確保するため、保険のように考えて、マルチクラウドの仕組みを導入するユーザー組織もあります。
コスト削減の観点では、例えば動画の場合、オリジナル動画のアーカイブは社内データセンターに置き、トランスコーディングとその後の動画データの管理はAWSで行うといった方法を採用することで、コストの最適化が図れます。また、一般的にはパブリッククラウド上のアプリケーションで必要なデータはクラウドに置くものの、不要になったら即座にクラウド上から削除することで、ストレージコストを節約できます。
――Scalityの「Scality RING」は、200以上の組織に導入されているそうですね。どのように使われているのかを教えてください。
私たちはScality RINGを「ソフトウェアデファインドオブジェクトストレージ」と呼んできました。「オブジェクトストレージ」に、「扱いにくい」あるいは「性能が低い」というイメージを持つ人がいますが、Scality RINGにそれは当てはまりません。
このため、Scality RINGで、重要なデータを管理している組織は増えています。例えばDell EMCのIsilonやその他のNAS、SANストレージのVNX、バックアップストレージであるData Domainの代わりに導入する例がよく見られます。ただし、Scality RINGの対象となるのは、200TB以上のデータを管理するユースケースです。
――では、具体的にはどのようなユースケース、あるいは業界で伸びているのですか?
今、導入が最も急速に広がっているのは、病院関連です。過去18カ月間で、世界中の15の病院組織で採用されました。レントゲン、超音波検査からPET検査まで、肥大化する検査画像データの管理が目的です。
多くの場合、こうしたデータは検査対象者が生存している限り、保存される必要があります。また、データの暗号化やアクセス権管理など、高度なセキュリティが求められます。Scality RINGは、こうした用途にぴったりな機能を備えています。また、このような組織は複数の分院で構成されていることも多く、Scality RINGの自動データ複製/保全機能が役立てられています。
また、動画配信関連でのユースケースは、当初からScality RINGにとって主要な用途でした。現在では当社の売り上げの約20%が、こうした用途で使われています。米HBOや日本のDMM.comをはじめ、世界中のインターネット動画配信システムが、Scality RINGをデータ管理に使っています。
例えばBloomberg Mediaでは、Scality RINGを用い、動画を自社データセンターで管理しています。それが最も経済的だからです。一方、同社はそのデータをパブリッククラウドに送ってトランスコーディングを行い、これをクラウドから世界中に配信しています。これに、当社が開発したマルチクラウドデータ管理ソフトウェアのZenkoを採用しています。これにより、コンテンツ生成からクラウド配信まで、ワークフローを流れるデータを一括管理できます。
また、新たなOTTプレイヤーとして急成長中のMolotovは、インターネットTV生放送とクラウド録画を組み合わせたサービスです。このサービスでは、自社データセンターでScality RINGを動かし、データ管理を行っています。
一方、クラウドサービス事業者や、有線・無線の通信事業者からの需要も、非常に高いです。
OpenStackを始めた一社であるRackspaceも、当社の顧客です。OpenStackにはオブジェクトストレージソフトウェアとしてSwiftがあり、同社は当然ながら、これを使っています。しかし、高い信頼性が求められる用途で、Scality RINGを採用しました。同社はこれで、1200万ドルのコスト節約を実現したと言っています。無償のオープンソースソフトウェアを開発して利用してきた企業によるこうしたコメントは、非常に重い価値があると考えています。
――2018年8月1日に、日本でScality RINGの7.4.1のGA版をリリースしました。新バージョンでこの製品は、どう進化したのでしょうか。
Scality RINGでは、性能、拡張性、信頼性をこれまで実証してきました。私はこれを、大きな誇りとしています。そして7.4.1では、使いやすさを徹底的に重視し、数々の強化を行いました。
まず、最小構成のハードルを下げ、以前は最低6台の物理サーバが必要だったものを、最低3台にしました。これにより、コスト効率よくスモールスタートができるようになりました。また、ソフトウェアのインストール作業は、広範なハードウェアプラットフォームにおいて、1時間以内に終えることができます。
また、運用担当者向けの管理インターフェースを一新しました。Scality RINGでは、当初から豊富な統計データを提供してきました。しかし、そのうち運用上重要なデータはどれなのかが分かりにくいきらいがありました。そこで新管理インターフェースでは、ダッシュボードでScality RINGの稼働状況が把握でき、必要に応じたドリルダウンによって、きめ細かな情報を入手できるようにしました。
一方、ユーザー組織内のエンドユーザーにとっての使い勝手を直接改善するため、新バージョンではS3データブラウザを無償提供しています。これにより、ユーザーはScality RING、Amazon S3、その他S3 APIでアクセス可能な全てのストレージサービスを対象とし、パケットの生成、オブジェクトのアップロード/ダウンロード、属性やメタデータの編集、検索などが行えます。
これに関連して、新バージョンではAWSのIAM(Identity and Access Management)APIと完全互換のアクセス管理機能を実装しました。これにより、従来に比べきめ細かなアクセス権管理が実現し、マルチテナント利用にも対応しやすくなりました。
これも、「マルチクラウド利用を統合管理する仕組みが必要」という、私たちの信念から生まれた機能です。AWSのIAMは、認証モデルとして先進的です。そこで私たちは、これをActive Directoryと統合しました。Microsoft Azureも認証にActive Directoryを使いますから、新機能により、Scality RING、AWS、Azureのストレージアクセスに、単一の認証ポリシーを適用できます。
従ってユーザー組織は。Active Directoryを管理することで、パブリッククラウド利用も自動的に制御できることになります。特に大規模な組織にとって、これは非常に重要な機能です。
――Scality RINGはAmazon S3互換のオブジェクトストレージとして知られてきましたが、今回は利用を含めてクラウドのAPIに統一していこうということですね?
はい。2010年にS3 API互換のインターフェースを初めて実装した当時、ここまで広く使われるAPIになるとは、想像していませんでした。2015年には、S3 API自体が大幅に進化したことを受け、私たちの実装を再開発しました。その頃には、「これこそが将来に向け標準だ」と確信し、私たちが最も技術的に進んだ実装を提供すべきだと考えていました。
この実装は、オープンソースとして公開して以来、300万以上のダウンロードがあり、多数の製品に利用されています。そして当社のマルチクラウドストレージ管理ソフトウェアであるZenkoにも組み込まれています。
Scality RINGは、2018年度中に提供開始予定のバージョン8で、Zenkoの持つマルチクラウド管理機能の多くを統合します。社内外のストレージアクセスをS3 APIおよびAWS IAM APIの活用で統合管理することにより、先ほどから申し上げているマルチクラウドのストレージ活用が、ますます現実的なものとなっていきます。
――ルカットさんにとっての最終的な目標は何ですか?
最終的な目標は、複数のクラウドとその上のデータを容易に活用できる力を、顧客に与えることです。この目標を達成するためには、多くの技術が求められます。
第1に必要な技術要素は、単一の統合的なAPIであらゆるクラウドにアクセスでき、認証についても単一のモデルに統合することです。これについては話したばかりです。
第2に重要なのは、これらのクラウドにまたがってデータを見つけられることです。これを実現するために、クラウドを横断したメタデータの検索を実装しました。
さらにユーザー組織の運用担当者が、データに関するポリシーを作成し、一群のデータの消去、複製、移動などが機動的にできるようにしなければなりません。
次の段階として、こうしたデータ関連ポリシーを洗練し、処理フローの自動化を進めることがテーマとなってきます。例えば、全てのデータをまずオンプレミスのScality RINGに取り込み、そのうち画像に関しては全てAzureに送って自動的なタグ付けを行い、メタデータと共に1コピーをオンプレミス、もう1つのコピーをストレージ単価の低いパブリッククラウドで保管するといったことです。動画であれば、圧縮やトランスコーディングで同様なワークフローが考えられます。
こうして、複数のクラウドの良いところ取りをしたポリシーをシンプルに定義し、実行できるようにすることが、最終的な目標です。ここまではまだ実現していません。しかし、いつか必ず実現します。
――Scalityが日本に進出してから数年が経ちますが、この市場をどう見ていますか? 固有の課題を感じていますか?
課題よりも可能性のほうが、はるかに大きいと感じています。日本でいつも感銘を受けるのは、細部へのこだわりを重んじる文化です。また、日本に来た時の経験から、リーンマネジメント手法をScality社内に取り入れました。
日本の顧客は、他の市場に比べて、製品およびサービスに関する要求レベルが高いと感じています。このことが、私たちが世界でやっていくための基準になります。このため、私たちは、日本の顧客に感謝しています。
日本は、当社の売り上げの約10%を占め、米国、フランスに次いでおそらく第3の市場となっています。既に通信、クラウド、メディア関連では広く採用されています。こうした業界における利用はさらに広がると思います。その一方で、病院や一般企業への展開に力を入れていきたいと考えています。
――日本の一般企業は保守的だと言われていますが、メッセージはありますか?
どんなに保守的な企業でも、生き残りたければ進化を止めることはできません。従ってITに関しても、既存の技術を使い続けるだけでなく、進化させていかなければなりません、では、データ管理にどういった技術を使うべきでしょうか? 実証された技術を持ちながら、さらにイノベーションを続けている企業を採用すべきです。私はScalityが双方を兼ね備えた、最高の企業だと信じています。
Scalityは創立9年目を迎えますが、日本市場では8年前から活動しています。突然日本にやってきて、3年後には去ってしまうようなスタートアップ企業とは違います。国内の顧客リストを見ていただければ、実績についても安心していただけると考えます。
また、Scalityは年々、技術的な進化を加速しており、その革新性はGartnerやIDCのリポートにも示されています。
これからの新しいアプリケーションにおけるデータ活用で考えるべきなのは、「どのパブリッククラウドにデータを置くべきか」ではありません。「自社のビジネスにとって最適なデータ活用の基盤を、どうすれば構築できるか」です。Scalityは単なるストレージの提供ベンダーではありません。今後のビジネスのためのデータ基盤を提供できる、唯一のベンダーだと信じています。
日時:2018年11月22日(木)基調講演メインセッション: 10:00 - 17:30/ネットワーキングレセプション: 17:30 - 19:30
場所:東京ミッドタウン日比谷: BASE-Q 東京都千代田区有楽町1-1-2 東京ミッドタウン日比谷 6F
申込Webサイト:参加申込みはこちら
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提供:スキャリティ・ジャパン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年10月9日
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